インタビュー

スマホ広告最前線

スマホ広告最前線

アドネットワークでスマホは収益化できるか?

 有料課金か、広告か。――パソコンのネットの世界と同様、モバイルでもコンテンツを収益化するのは一筋縄ではいかない。フィーチャーフォン全盛時代のように、携帯電話事業者のエコシステムの中だけで収益化を図るかつての成功モデルは、今や過去の物語といっても決して言い過ぎではないだろう。スマートフォンが普及フェーズを迎え、コンテンツを提供する事業者はさまざまな方法で生き残りをかけた道を模索している。

 急拡大したスマートフォン市場を背景に、スマートフォン向けの広告市場も勢力を拡げている。サイバーエージェントの子会社CyberZとシード・プランニングの調査では、2012年のスマートフォン向け広告の市場規模を国内だけで856億円と推計している。前年比で実に343.8%と急成長しているという。

 iPhoneやAndroid端末によって、世界と日本の壁はこれまでよりも低く感じられるようになった。海外メーカーの参入や、国内メーカーの海外展開といった面だけではなく、アプリケーションサービスを提供するコンテンツ提供事業者もそうだ。その収益化手段の1つとして、期待されるものの1つがスマートフォン向けアドネットワークと言えるかもしれない。

 アドネットワークは、複数の広告配信先媒体や、広告枠をまとめて広告配信のネットワークを築いているものだ。スマートフォンでは、ユーザーが複数のアプリケーションを渡り歩く。1つのメディアだけでプロモーションを図るのは難しいとも言われる。こうした現状において、複数のメディアへアプローチできるアドネットワークが有効とする向きがある。

 その一方で、スマートフォンで収益化するのは難しい、スマートフォン広告は儲からない、といった声が聞かれるのも国内の現状だろう。今回、スマートフォン時代に台頭してきたアドネットワーク事業者であるInMobi(インモビ)を取材する機会を得た。

Naveen Tewari氏(右)と小尾一介氏(左)

 世界165カ国、5億7,800万人にリーチするというインモビは、グーグル擁するモバイルアドネットワーク事業者、AdMobのライバルとも言えるグローバルプレイヤーだ。国内では、食べログや価格.comのほか、Impress WatchやITmedia、日経BP、GIZMODOなどメディア各社も提携メディアに名を連ねる。創設者でインモビのCEOであるNaveen Tewari氏と、元グーグルの戦略事業開発本部長で日本法人代表取締役の小尾一介氏に、スマートフォン向けアドネットワークの動向を聞いた。

モバイルアドの台頭、スマートフォンの普及

――世界のモバイルアドネットワークの状況を教えてください。

Naveen Tewari氏
 まず、一般的な広告のバリューチェーンの全体像を思い浮かべてください。たとえば、100ドルのお金があって、それが広告主から配信先に流れていきます。アドネットワークはその真ん中にあるものです。

 パソコン向けのアドネットワークの規模が縮小していく中で、モバイルの世界では状況が異なっていました。モバイルでは開発会社が非常に細分化されており、各社がそれぞれにグローバル展開しています。世界のトップ250の開発会社のうち、1、2社を除きすでにグローバルに展開している状況です。

 メジャーなオンラインの配信会社がモバイルへ移行する中で徐々に力を失っていきました。反対に、小さな配信会社が大きくなっていきました。細分化された市場では、アドネットワークの強さが増してきている状況にあります。

 その背景には、端末が細分化されていることも影響しています。スマートフォンやタブレットなどの端末も変化しています。アドネットワークは、高度なレベルで細分化された状況下において、非効率性を解決するためのものでもあります。

――スマートフォンの普及によって、ユーザーの広告への接触機会はどう変わったのでしょうか。

Naveen Tewari氏
 エンドユーザーがケータイやモバイルで過ごせばすごくほど、広告に触れる時間も増えます。とくにスマートフォン時代は、次々にアプリケーションを移動します。利用している時間やどんなアプリを使っているか、ユーザーがどう反応しているかは我々にとっては重要なシグナルです。それによりユーザーがどういったユーザーなのかを判断して、広告を配信しているわけですから。

 たとえば英国の事例では、タブレットユーザーは18時~22時にかけて、もっともモバイルコマースの中の広告を見ます。また、実際の商品購入もその時間帯に行いがちだとわかっています。

インモビの強み

――ターゲットを絞って適切な広告を出す、という面ではどのアドネットワークも同じではないでしょうか。インモビの強みはどこにあるのでしょう?

Naveen Tewari氏
 我々の強みはテクノロジーです。先日、MITの2013年の革新的な企業TOP50に選ばれました。インモビは世界において、もっとも大きな開発陣を抱えているアドネットワークの会社です。500人の開発陣がモバイル広告の技術開発を行っており、技術力を高めるためにこの18カ月の間で4つの買収も行いました。

 我々はテクノロジーを、ターゲティング、トラッキング、クリエイティブの3つの柱に分けています。ユーザーの行動や状況に基づいたターゲティング技術があり、どこにそのユーザーがいて、どの位置で電話を持っているのかもわかります。位置情報に基づいた広告も配信可能で、世界でもっとも多くのターゲティング技術を持っています。

 また、トラッキング技術とそれを最適化する技術も持っていて、広告主に関連するユーザーの反応が追跡できます。それはつまり、もっともハマるユーザーにもっとも適切な広告が打てるということになります。これらの技術は全て内製で開発したものです。

 クリエイティブプラットフォームは、広告主に魅力的な広告をシンプルな形で提供するものです。我々の得意なリッチ広告メディアが提供できます。そして、これらの柱を一括して提供している企業は我々以外にはいません。我々の顧客企業から見た場合、インモビは広告主と広告関連の全てのサービスをワンストップショッピングで提供できる会社と言えるでしょう。

2015年、アジア太平洋の広告市場は世界の50%に

――ユーザーの行動によって、何を求めているかを理解するという話ですが、行動から予想される欲求は万国共通のものなのでしょうか?

Naveen Tewari氏
 それは違います。文化や国や言語、性別によっても異なる部分だと思います。想像して欲しいのですが、世界中に小さなポケットがたくさん存在し、その1つ1つのポケットの中身を理解できるのです。

 ですから、市場よっては動画の広告がより反応が得られるところもあれば、テキスト広告の方がより反応が得られるところもあります。また、ゲーム性のある広告がよい場合もありますし、Eコマースの方がいい場合もあります。各国、各地域でさまざまな色があります。

 インモビは現在、世界で25拠点を持っています。各市場において、消費者や広告主のニーズが異なるからです。1つのサービスが全ての地域に合うと考えているプレイヤーではありません。国毎の違いを非常に尊重して事業展開しています。

――では、世界の中で注力している市場はどこでしょうか。

Naveen Tewari氏
 重点をおいている市場は9つ、日本、韓国、中国、オーストラリア、インド、フランス、ドイツ、英国、米国です。アジア太平洋地域が多いのには理由があります。

 それは、2015年までにアジア太平洋地域は、世界の広告市場の45%~50%を占めると見ているからです。中国やインドは人口が多く、日本と韓国はモバイルの利用が非常に活発と言えます。これらを合わせて、非常に期待しているところです。

国内展開、グーグルとの違い

――日本市場でのポジション、日本の印象を聞かせてください。

Naveen Tewari氏
 インモビは日本において強いポジションにあると思います。その背景には、ソフトバンクから投資を受けていることもあります。ここ数日間、日本の市場を見ていると、我々の持っている技術が日本市場においてもベストなものだと思っています。

小尾一介氏
 日本のインモビのスタンスはとてもシンプルです。スマートフォンにフォーカスした、バックに巨大な技術開発リソースを持っているプレイヤーです。こういうモバイルアドの会社は少なくとも日本にはないと思います。グローバルには、もう1つグーグルがいますよね。

 もう1つの強みは、我々がグローバル企業であるということです。グローバルで我々が持っている広告スペースも取り扱えるわけです。日本は、ガラパゴス時代があって、携帯電話事業差のエコシステムがGoogle PlayやApp Storeに変わったという認識があるかと思います。

 しかし、海外のプレイヤーは、日本であろうが韓国であろうが、アメリカであろうが、あらゆるところでアプリケーションを配布し、自分たちのビジネスを拡大していこうとしています。これをサポートできるのは、我々のようなグローバル企業です。

 グーグルはモバイル広告のAdMobを買収しましたが、彼らにとってモバイルはOne of them(複数あるうちの1つ)です。元々はパソコン向けの検索からスタートして、アドネットワークであるAdSenseを作りましたから。

 日本の開発会社にはアプリを米国やアジア圏で売って拡大していこうと呼びかけています。その面で我々は最良のパートナーになれると思います。もちろん逆に、日本市場に参入したい海外の事業者にとってもそうでしょう。これは、フィーチャーフォンの時代には明らかにない動きだと思います。

――日本のアプリ開発会社は実際どの程度海外に出たがっているのでしょうか。そういう声は聞こえてくるものの、それほど大きな動きが見られないようにも思えます。

小尾一介氏
 Google PlayやApp Storeでは、開発者が積極的に動かなくともアプリがダウンロード可能な状態にありますよね。とくにアジア圏では、日本のキャラクターは人気ですから、めざとい海外ユーザーはすでにダウンロードしています。それをもっと拡大していこうと呼びかけています。純粋な日本の開発会社さんは、海外進出する上での経験が多くないため、それを我々と一緒にということです。

 インモビはスマートフォンのリッチメディア広告のリーダーです。リッチメディア広告は今後拡大が予想され、とくに日本の顧客のうち、アプリ開発会社よりもブランド広告主にとって非常によい形のものになると思います。

広告の収益化

――少しを目先を変えて質問します。日本市場は韓国市場と同様に、ユーザーの利用度が高い習熟したユーザー層という話でした。逆にそういった市場でスマートフォンを活用するユーザーは、広告を嫌う傾向にはありませんか?

Naveen Tewari氏
 ユーザー側が広告を嫌うのは、広告が自分の世界に侵入してくる感覚があるからだと思います。でも、そういった広告以外のものは受け入れがちです。第三者の事業者と調査してわかった結果でもあるのですが、パソコンなどと比較すると、スマートフォン上の広告は受け入れ安いというのもわかってきました。

――それはどうしてですか?

Naveen Tewari氏
 2つの局面があります。

 1つには、ユーザーがこれまでパソコン上でたくさんの広告を見てきているので、ある程度訓練されている状況にあります。もう1つは、スクリーンサイズの問題です。スマートフォン向けの広告は画面の上か下にきっちりとはまっていて、画面の大きさが限られているため、広告を出す側も的確な場所に広告を出す傾向にあります。パソコンのように画面上のあちこちに広告があるということはありません。

――パソコン向けの広告は、画面上にたくさん広告を設置可能で、そこに広告を配置することで、我々もなんとか広告収入で媒体を運営できています。その一方、スマートフォン向けの広告は、広告スペースが少なく、収入になりにくいのではないか? という懸念があるのも正直なところです。

 まず、広告スペースが狭いから収入にならないという認識は違います。こういう風に考えてみてください。パソコンのフルスクリーン上に占める広告スペースと、スマートフォンの画面に占める広告スペースの割合を比較すると、実はスマートフォンの方が大きいのです。

 次に、パソコン上に何か記事を書いたとします。パソコンでは1つのページで完結しまが、スマートフォンでは5ページにわたる記事になるかもしれません。そうすると、1つ1つのページに異なった広告を載せることができるわけで、ユーザー側から見て5つの広告とインタラクションがとれるため、広告収入もより大きくなると考えられます。

モバイル広告の単価

――それでは広告単価についてうかがいます。グーグルの決算ではモバイル広告は想像していたよりも儲からないといった意見もあったようです。今後の単価の動向についてどう見ていますか。

Naveen Tewari氏
 まず、グーグル決算ではパソコンの検索よりもモバイル広告の金額が低いと言っていました。金額は、モバイル広告に対するユーザー側の知識の蓄積によって変わっていきます。モバイル広告の金額はどんどん上がっていくでしょう。

 グーグルが今後苦労するのは、ユーザーが非常に早いペースでパソコンからスマートフォンに移行していることです。グーグルはこれから、下降傾向しかありません。スマートフォン向け広告の金額は上がっていくので、我々としては単価は全く心配していません。

――ありがとうございました。

津田 啓夢