インタビュー

MVNOサービス事業者に聞く

MVNOサービス事業者に聞く

楽天ブランドでLTEサービスを安価に提供するフュージョン

 楽天グループのフュージョン・コミュニケーションズは、昨年10月より、「楽天ブロードバンドLTE」というブランドでMVNOサービスを展開している。NTTドコモのネットワークを借りており、LTEの高速通信にも対応している。最安プランだと、月額980円で毎月200MBまでの高速通信が付くという安価な料金設定が特徴だ。

 今回はこの楽天ブロードバンドLTEについて、フュージョン・コミュニケーションズの事業推進部 副部長兼ネットビジネスグループ マネージャーの嵐城治郎氏と同グループ リーダーの有村茂隆氏にお話を伺った。

フュージョン・コミュニケーションズの有村氏

――まずサービス概要の説明をお願いします。

有村氏
 楽天ブロードバンドLTEは3種類の料金プランで提供しています。まず「980円 エントリープラン」、こちらはユーザーに最も受け入れられている料金プランです。続いて中間層向けに「1,860円 ライトプラン」を5月に追加しました。最後に、ヘビーユーザー向けに「2,980円 アクティブプラン」を用意しています。

 まずエントリープランは、1000円以内でLTEの高速通信が可能ですので、2台目の端末や機種変更して余ったスマートフォンでメールや掲示板などを利用される方をターゲットにしています。LTEの入門、という位置づけです。

 ライトプランは、タブレットなどで多くの情報を扱いたい方に最適なプランで、アクティブプランは、プライベートだけでなく、仕事でもアクティブに使いたい方におすすめのプランです。

 リリース当初は、アクティブプランはモバイルWi-FiルーターやPlayStation Vitaなど、通信量が多い利用を想定し、ライトプランは2台目端末を想定していましたが、タブレットなどパソコンに近い画面の端末が増えてくるに従い、エントリープランとアクティブプランの中間の高速通信容量が最適なユーザー層がいるのでは、とライトプランを追加しました。

――フュージョン・コミュニケーションズというと、法人向けサービスのイメージもあります。このLTEのMVNOサービスは個人ユーザーだけがターゲットなのでしょうか。

有村氏
 フュージョン・コミュニケーションズはホスティングやISP、クラウドなどを法人向けに提供しています。一方、楽天ブロードバンドブランドで提供しているLTEサービスは個人向け、楽天会員向けに展開しています。しかし、この頃、法人からのLTEサービスの引き合いも多く、法人対応の検討も行っています。

――法人向けにも楽天ブランドで提供されるのでしょうか?

有村氏
 法人向けが開始された場合は、楽天ブロードバンドLTEメニューの一つとなる可能性がありますが、今までの法人向けブランドと融合させる方向性もあると思います。

――3つのプランの中ではどちらのプランが人気なのでしょうか。

有村氏
 やはりエントリープランが人気ですね。月額料金に手頃感があります。普通の携帯キャリアの料金メニューでは、2年契約が自動更新されるなどの縛りがありますが、こちらは初期費用さえお支払いいただくと、月1000円以下で利用できますので、お試しでも気軽に使えます。今は200MBの高速通信を提供していますが、使用頻度が少ない方にはこれで十分という評価もいただいています。

――自宅や職場ではWi-Fiを使って、端末単体ではテキスト中心で、テザリングなどもしないならば、月200MBで十分なところがありますよね。

有村氏
 はい、まさにこの部分と手ごろな料金が数多くのユーザーからご好評をいただいている要因であると考えています。また、テザリングを制限なく使いたいユーザー向けには、弊社も「楽天ブロードバンド WiMAX」を提供していますので、そちらの方が割安かと思います。

 従来は使用容量とは関係なく、一律の利用料金が多かったですが、たいして利用していないのに料金をしっかりと払わされている“負担感が大きいユーザー”になってないか、と。携帯電話事業者としては、そういったお客さんは嬉しいと思うのですが、「あなたの支払いが、実質的にはたくさん使っている人の分のデータ通信料も負担している」というのは、今後の市場を開拓する上で、出していきたいメッセージですね。

楽天ブロードバンドLTEのパッケージ

――現状のサービスの中で、どのような端末で利用されるユーザーが多いのでしょうか。

有村氏
 そうですね。ちょっと前までは余ったスマートフォンでの利用が多かったのですが、今はNexus 7(回線契約なしSIMフリーのモバイル通信対応版が量販店などで販売されている)やASUSのタブレットなどでしょうか。ネット上のクチコミサイトでも人気があるので、「来てるかな」と思っています。

――気軽に使い始められることがユーザーに理解してもらえれば良いですね。

有村氏
 最近はいろいろな雑誌やWeb媒体で、MVNOの格安SIMが紹介されていて、市民権を得てきているかな、と考えています。

――それでも、たとえばAPN(アクセスポイント)の手動設定は普通のユーザーにはハードルが高いかな、と思う面もあります。

有村氏
 そもそも一般の方の中では、スマートフォンにSIMカードというものが挿さっていることを認識している人が少ないのが現状です。そういった方々のために、弊社ではWebサイトに写真入りで説明をご用意しています。

 ユーザーに対する情報提供は引き続き、進めていきます。ただ、市場の拡大と認知度の向上は、Nexus 7などのタブレットの普及により加速していますが、まだ時間がかかるかな、とも考えています。弊社がサービスをリリースしてから、新規参入もいくつかあり、プレイヤーはどんどん増えています。また、去年の10月時点では、(高速通信容量)月200MBというものに対し、携帯キャリアなどが提供するサービスの利用上限と比較して小さいことから、「桁が間違ってないか?」というご意見もありましたが、今となっては一般的な数字だと認識されています。この短期間に、MVNOというサービスへの認知度は向上しました。しかし、まだひと山、ふた山と越えないと、とも思っています。

――他社ではSIMフリー端末と一緒にMVNOサービスを販売しているところもあります。御社は現在、SIM販売のみですが、端末販売については?

有村氏
 現在はSIMだけですが、今後は考えていかないといけません。親会社の楽天市場で中古端末を販売されている店舗様とシナジーがあるのではないか、と考えています。店舗様側で中古のスマートフォンやタブレットをご購入いただき、こちらでSIMを用意するという形で連携できれば、と。

 端末販売と組み合わせることで、端末代金の支払い充当のために最低利用期間と結びついた縛りが発生する可能性があります。今のメインターゲットであるガジェット好きの人は縛りを嫌う傾向があるので、そこは調整しないと難しいとは考えています。

――現状は3つのプランですが、今後はもっとプランが増えるのでしょうか。それとも別の方向に進化するのでしょうか。

有村氏
 アイデアベースですが、フュージョン・コミュニケーションズが提供しているスマートフォン向けの050IP電話サービス「IP-Phone SMART」と連携できるサービスできればと思っています。たとえば、通信速度を抑えIP電話の通話が可能な256kbpsくらいで使い放題なものとかは面白いかな、と思っています。

――もっと料金を下げていくという方向性は?

有村氏
 そうですね。月額料金を下げて追加容量をお支払いただく、というのも考えられますが、まだそこまで至っていません。最低利用期間が設定されていないこともあり、ユーザーの囲い込みが難しいところもあります。ユーザーのニーズに最適なさらなる安価・低容量の利用も考えないといけないと思います。

――980円をベースに、いろいろなオプションを、という方向性ですか?

有村氏
 そうですね。980円なのにたくさん容量追加している人もいます。そういう方向けに、容量追加のボリュームディスカウントもいいのかも知れません。

――ちなみに容量追加の手続きはどのようにやるのでしょうか。

有村氏
 会員ページからお申し込みが可能です。月額料金にプラスしてチャージされる形式です。

――海外のプリペイドサービスでは、SMSをうまく活用しています。そこはもっと簡単になって欲しいところですね。

有村氏
 技術的なものを含め、使いやすくしたいと考えています。

フュージョン・コミュニケーションズの嵐城氏

嵐城氏
 海外はプリペイドが普及していて、活用の仕組みも柔軟で、たくさんのプランが提供されています。そういったものを参考にして、サービスを作っていきたいです。

――そういえばNano-SIMカードは提供されているのでしょうか。

嵐城氏
 現在は通常のSIMとMicro-SIM(Mini-SIM)の2種類です。Nano-SIMは今後はやりたいと考えています。

有村氏
 Nano-SIM端末は、現状ではiPhone 5とiPadくらいですが、意外と需要はあるようです。

――ちなみに通常のSIMとMicro-SIMのどちらが多いのでしょうか。

嵐城氏
 10月のサービス開始時点では半々くらいでしたが、今はMicro-SIMが増えています。

――1つの回線契約・通信容量を複数のSIMでシェアする、というサービスも、他社では提供されているものがあります。そういったものはどうでしょうか。

有村氏
 今後は考えないといけないですね。しかし、980円のエントリープランだと共有するには容量が足りないかな、と。考えないといけないとは思っていますが、今のところ予定はございません。

――050番号のIP電話も提供されていますが、音声通話についてはどうお考えでしょうか。

有村氏
 音声通話となると、1台目端末としての利用になると思いますが、そこはまだハードルが高いと考えています。まず、電話番号が050になってしまいます。品質の問題もあります。この2つが乗り越えられれば、1台目端末に当社のSIMを使ってもらう、というのもあると思います。

――普通の回線交換の音声通話は?

嵐城氏
 音声付きもいつかは、と考えています。

――050番号のIP電話をバンドルしたり、あるいは固定ブロードバンド回線まで含めたパッケージを提供される予定は?

有村氏
 ゆくゆくは考えています。今回LTEのサービスで、意外と楽天会員以外の方も利用されているということがわかりました。今までの楽天ブロードバンドでは、とりわけ固定回線は楽天会員の方を中心におすすめしてきました。しかし、LTEサービスはいろいろな広告の効果もあり、ガジェット好きの方に選んでいただけています。固定回線ももちろん同時に使ってもらいたいので、両方セットで割引とかを考えたいです。もちろん、IP-Phone SMARTとの組み合わせも考えたいと思っています。

――これから狙っていくゾーンは?

有村氏
 そうですね。やはり今後は1台目端末として使用していただく、というところですね。中古の端末で気軽に使ってもらうとき、通信方法(SIM)は楽天ブロードバンド、050の電話番号はFusion IP-Phone SMARTと、当社のサービスに一本化するというのもあるのではないでしょうか。今までは電話番号やメールアドレスが変わると一大事でしたが、LINEのようなサービスが出てきたことで、そうではない人も多くなっています。制限は多いですが、1台目としての裾野は広がるのでは、と思っています。

――プリペイドのように、お金をチャージして使っていくようにはならないのでしょうか。楽天市場のポイントとの連携もできそうですが。

有村氏
 楽天スーパーポイントで利用料金の支払いも、とは考えています。楽天市場で買い物をしてもらうと、通信料金に割り当てられる、とか。いろいろな垣根もありますし、技術的に難しいですが、アイディアとしては面白いと考えています。

――例えば、AmazonのKindleのように、コンテンツをダウンロード購入するとき、コンテンツ料金と通信料金を一緒にするというやり方もありますよね。

有村氏
 楽天グループは楽天VIDEOなどがあるので、協業ができれば、というところです。

嵐城氏
 我々としては「やりたい」という意思はあります。楽天には電子書籍リーダーのKoboもありますので是非検討したいです。

――他社のMVNOでも、月1000円以下のプランが多くなってきました。その中で御社ならではのアピールポイントは?

有村氏
 楽天スーパーポイントとのシナジーでしょうか。今は2980円のアクティブプランだと、月に100ポイントが付与されます。LTE自体は各社同じNTTドコモのネットワークなので、特色を出していくのは難しいですね。

 通信容量やいろいろな追加機能などは今後も展開したいと考えています。サービス開始から半年が経ち、いろいろ検討していかなければならない段階です。

嵐城氏
 あるとしたら、先述のIP-Phone SMARTとのコラボでしょうか。同じ会社でもブランドは違いますが。ちょうど先日、iPhone向けのアプリ「SMARTalk」をリリースしましたし、このあたりを強化しつつ、露出を増やしてアピールしたいと考えています。

嵐城氏
 月額料金1000円以下という手軽なサービスなので、多くの人に使ってもらいたいと思っています。もっと裾野を広げ、とにかく手軽に使ってもらいたい、というのがそもそものコンセプトですから。

――販売ルートとして、オンライン以外の方向性は?

有村氏
 店頭での販売については、考えないといけないと思っています。たとえば中古スマートフォンの販売店で一緒に扱ってもらうとかあれば面白いですね。

――本日はお忙しい中、ありがとうございました。

白根 雅彦