インタビュー

MVNOサービス事業者に聞く

MVNOサービス事業者に聞く

「OCNモバイルエントリー d LTE 980」で格安スマホ実現

「OCNモバイルエントリー d LTE 980」のパッケージ

 ITリテラシーの高い層を中心に注目が集まっているのが、「MVNO(仮想移動体通信事業者)」である。インターネットに接続するための通信回線は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといったキャリアと、端末込みで契約しなくてはいけないと思いがちだ。しかし、実はMVNOが販売する通信プラン(SIMカード)を購入し、対応するスマートフォンやタブレット、SIMフリー端末に挿せば、外出時にも通信可能なサブ端末として安く活用できる。とりわけ注目度が高いのが、低価格の利用料で格安スマホを実現するサービスだ。

 たとえば、現在フィーチャーフォンを使っていて手放しがたいが、スマートフォンへの興味もあり、“乗り換え”に悩んでいるなら、このMVNOが役に立つ。利用中のフィーチャーフォンの契約はそのままに、スマートフォンが使えるようになるため、通話はフィーチャーフォンで行いながら、アプリや機能が活用できるわけである。普段はメールや通話がメインで、さほど利用頻度が高くないと予想されるなら、活用しない手はないだろう。

 このMVNO市場に低価格帯のサービスが増えて、活気を見せ始めている。今回はその中で、日時制限を持ち、月額980円という「OCNモバイルエントリー d LTE 980」の魅力やメリット、今後について、NTTコミュニケーションズのネットワークサービス部 販売推進部門 担当課長 岡本健太郎氏、担当課長 齋藤樹氏、担当課長 新村道哉氏にお話を伺った。

「OCNモバイルエントリー d LTE 980」登場の背景と特徴

岡本健太郎氏

――すでにいくつかサービスを提供されている中で、今回のSIMカードのみという形は非常に安くてシンプルです。どういう背景から生まれたのでしょうか。

岡本氏
 環境の変化ですね。いろんな条件がそろった結果です。今までは3000円前後の中価格帯のサービスを提供していたんですが、価格に対して非常に不満がある、もっと安く使いたいというお客様のニーズがものすごく出てきてたんですね。そういう声とともに、お客様の手元に、SIMフリーの端末がどんどん増えていくような、そういう機会が増えてきました。加えて、他社さんでは低速・低価格という状況だったんですが、弊社で高速で出したらインパクトもあるんじゃないの、という話をしてたんですが、それも出せそうだということになりました。ある一定の市場を見込めているし、我々ができる強みもありそうだし、なおかつ、今までとは違う販売チャネルも開拓できそうだというタイミングも重なったのでトライした、というのが経緯になります。

――「OCNモバイルエントリー d LTE 980」とはどんなサービスか、もう少し教えてください。

齋藤氏
 簡単にいえば、NTTドコモやSIMフリーのスマートフォンやタブレットにさせば、月々980円で使えるようになるというSIMカードが購入できるサービスです。NTTドコモのXiエリアと、FOMAエリアに対応しているので、NTTドコモの端末なら、SIMロックをはずさなくてもそのまま使えますし、高速LTE通信が可能です。

――“使える”というのは、音声通話以外のことができるようになる、ということですよね。機種変更や解約で使わなくなった端末を、もう一度外で活用したいときにいいですね。具体的にはどのようにするのでしょう。

齋藤氏
 その通りです。現在、ネット上で販売してまして、Amazonや楽天市場、NTTコムストア、NTT-X Storeでもお求めいただけます。パッケージがお手元に届いたら、Webページの案内に従って、ご自身で利用申込手続きや、接続先の設定などをしていただきます。設定が終了すればすぐご利用いただけます。

齋藤樹氏

――スマートフォンでWi-Fi以外のデータ通信を行うというと、どうしてもショップなどに足を運んで、カウンター越しに端末を購入して手続きして……というイメージがあるのですが、すでに対応端末があれば、自分で設定できてしまうというわけですか。このサービスのメリットはなんでしょうか。

齋藤氏
 とにかく通信料が安く抑えられることと、端末と回線を切り離して、お客様が自由に組み合わせられること、契約期間に縛りがないことですね。今買っていただいている方も、30~40代くらいの男性が多いんですが、音声通話はフィーチャーフォンで行いながら、データ通信はスマートフォンやタブレットと、2台持ちされる方によくご利用いただいてるようです。フィーチャーフォンは電池のもちがいいですから、分けて使えば安心ですし、月額980円なので、懐にも優しいというわけです。自分のライフスタイルや通信量など、必要なものを把握している、自分で設定して使おうというお客様に支持されています。

――よく海外に出かける業界関係者は、SIMフリー端末を買って、現地の自動販売機でSIMカードを買って使う、というスタイルが当たり前のようですが、日本ではまだSIMカードだけ買って使うという習慣はなかなかないですよね。

齋藤氏
 そうなんですよね。端末を買うときにすでに挿さっている状態で購入しますしね。これから、家庭でスマートフォンがどんどん余ってくる時代になると思うんです。たとえば、家庭でお父さんが機種変更したとき、余った端末には、この「OCNモバイルエントリー d LTE 980」のSIMカードを挿して、お母さんやお子さんが持つ、といった使い方も可能です。そうすれば、使い慣れたフィーチャーフォンを手放す必要はありませんし。

――費用としては本当に毎月980円固定なんでしょうか。

齋藤氏
 パッケージの購入価格(3150円)が初期費用みたいなもので、これしか使わない方は、本当に税込980円です。細かい話をするとユニバーサル料金が3円あるので、983円なんですが。しかも、初月は無料で、最初の10日間は無料になりますので、ネットで見ると、20日過ぎてからやると、最大40日くらい無料に、みたいな書き込みが結構ありますね(笑)。

――使っているうちに「ちょっと通話もできたらいいのに」というケースもありそうです。最近はLINEが流行ってますが、友達以外にもかけたい、という場合はどうしたらいいのでしょうか。

齋藤氏
 それはスマートフォン向けIP電話アプリ「050plus」を入れていただけば、月額基本料315円で、誰にでも音声通話もでできるようになります。通話料金は通話先や時間に応じて変わりますが、「050plus」同士は無料ですし、総じてお得な料金体系になっています。

――ということは、983円+318円(※ユニバーサルサービス料を含む)がスマートフォンを維持するための費用ということですか?

齋藤氏
 その通りです。通常ですと、音声通話料とデータ通信料の両方を払ってると思うんですが、今ご利用のプランと比較していただくと、総額としてはだいぶ安くなると思います。

――SIMカードの形状として用意されているものは?

齋藤氏
 標準サイズ、micro、nanoの3種類用意しています。

――最も人気なのはどれですか。

岡本氏
 microSIM:標準:nanoが、6:3:1くらいの割合でしょうか。端末の普及度合いに比例していると思います。

日時制限で他社と差別化、分かる層を狙ってネット販売

――最近は同様のMVNOサービスも多く、同じNTTドコモのネットワークを使っていれば、品質的には横並びになりやすく、競争も激しいと思います。その中で、御社のサービスはどのような点で差別化されてるのでしょうか。

齋藤氏
 差別化というと、まさに日ごとにリセットするところが一番大きな差別化ポイントですね。現在、1日あたりのデータ通信量の上限を30MBに設定していて、それを超えると通信速度が200kbpsに制限されます。一見、少ないように感じるかもしれませんが、毎日リセットされるところがポイントなんです。自分もそうだったんですが、最初の数日はとても高速だったのに、ある瞬間から制限されると、残りの日々がストレスになってしまうんですね。弊社のサービスは、午前0時まで待てばリセットされて、また高速でご利用いただけるようになる。これはかなり安心感につながると思うんです。

岡本氏
 実はもう一点、先ほどの「050plus」もそうですが、パーソナルクラウドサービス「マイポケット」のストレージ機能だったり、コンテンツなど、OCNの今までの資産というのも、お客様の選択次第では生かせてくると思っています。この980円のサービスも、ご利用いただければ、OCNのメールアドレスが1つ使えます。帯域制限のノウハウと、サービスのラインナップ化というところで、差別化できるポイントだと思っています。

――30MBを使い切ったあとの帯域制限ですが、以前100kbpsだったところを200kbpsに上げています。それはなぜでしょうか。

齋藤氏
 お客様の声もありましたし、競合を含めてみたときに、タイミングよく上げていけば、サービスとしても成り立つのは分かりましたので。いろいろ調べたところ、radikoなどを結構聞かれる方が多いようなんです。そのとき100kbpsでは安定しないという声をレビューや掲示板でかなり拝見しまして、我々もすぐ試してみました。そこで、やはり難しいということになり、200kbpsなら途切れず楽しめますし、Web閲覧も快適なのでアップしました。そうすることで、我々のメリットにもなるし、お客様のメリットにもなりますから。

――Amazonで販売を開始されたのはなぜでしょうか。

齋藤氏
 すでに他社さんもAmazonで販売されていたこともありますが、使える端末も同じAmazonの中で探せるといった条件がそろっていたことが大きいです。自分で選択して設定できる方は、それだけで足りてしまいますから。今後の展開としては、もう少し裾野を広げ、一般の方でも手が届くようにするために、端末をセットにするといった工夫は必要になってくるのかな、という気はしていますが、まずは高いリテラシーを持った方にご利用いただいて、それを広めていただきたいという願いもあります。

岡本氏
 これまでのサービスは、どんな方でもご理解いただけるような、非常に優しい、手厚い売り方をしていたんですが、今回は、自分で情報選択ができる方を起点に考えているので、ある意味割り切りで提供しています。いろんな手続きをお客様ご自身にやっていただくことでコストも抑えられますし、何より選択肢が広がります。これは両者にとってメリットを生み出すプロセスにもなると考えています。

――海外に行くと、空港の自動販売機でSIMカードを買えたりしますが、実際に自販機販売というのはお考えでしょうか。

岡本氏
 我々が当初サービスを始めたときは、SIMカードを利用されてる方は2.5%から3%くらいの方だったんですね。そういう状況もあるので、いきなり自動販売機を置いても、みなさん気づかないのではないか、という懸念があります。ですので、最初は先ほどのAmazonの例のように、ECモールで販売して、分かっている方が購入しやすい環境を作りたいなと思いました。その方々が、インフルエンサーとなって、いろんな人に、こんな便利なサービスがあるよ、ということでどんどん伝えていただいて、それが拡散していくことで、市場自体もより広がりを持てたらうれしいですね。そんなわけで、まずはリテラシーの高い方を囲いに走りたいと思っているのが今ですね。

――御社はプロバイダサービスをされていますが、既存のOCN会員以外の利用も増えているのでしょうか。

齋藤氏
 それは確実に増えていますね。当然OCN会員の方にもお勧めはするんですけれども、先ほどいったような今回Amazonを起点として、ECチャネルで新たな販売の仕方というのをやり始めたというのが大きいと思います。

今後の課題

新村道哉氏

――現在は自分で選択・設定できる層を狙っているとのことでしたが、それ以外には訴求されないのでしょうか。

新村氏
 今は高リテラシー層を狙うことで、広げていただくというのは狙うべきところだと思うのですが、実は今売っているセグメントを見ていると、9割が男性で、30~40代が7割5分くらいを占める状態で、20代が思ったほど買ってくれていないんです。安いんだからむしろ20代にピッタリじゃない、買えばいいじゃん! って僕なんかは普通に思うんですが(笑)、そういうところへの訴求もやっていかなくちゃいけないと感じています。流行のSNSを楽しむんだったら、これで十分なんだよ、といった分かりやすい訴求もこの先必要になりますので、早めに手を打っていきたいですね。

――980円で十分安いというお話がありましたが、もっと低い価格は考えていらっしゃいますか。

齋藤氏
 すべての可能性はあると思います。あとは、価格と、使い方、サービスの折り合いがつくかですね。たとえば100kbpsで500円とか100円でいいのかといったら、価格としては導入で使ってみるのはいいかもしれないんですが、実際に使ってみて、自分がやりたいと思っていたことができない、使えないとなると、「MVNOってこんなもんか」と思われてしまいます。そうすると、次のステップに進まない気がするんですね。その折り合いがどこでとれるかというところだと思いますね。

――最初はなんでも使える状態で入ってもらって、あとから自分の利用パターンが分かったときに、プラン変更みたいなことはできると喜ばれそうな気がします。

齋藤氏
 プラン変更がいいのか、容量追加などのオプションがいいのか、その辺の自由度ができるように、今後は展開していきたいと考えています。

――転送量としては、1日30MBまでは高速で通信できますが、今ブーストしたいなど、使いたいときに高速通信できるとか、使いたいときに必要な日数だけ高速で使いたいといったニーズについてはいかがでしょうか。朝起きて、最初はメールチェックするくらいでスピードいらないけど、通勤時間にちょっと動画を見たいので、そこだけ速いのが欲しいとか、旅行期間中は地図やコンテンツへのアクセスが増えるので、増量したいといった使い方ですが。

齋藤氏
 時間帯の制御よりは、この日もう少し使いたいと思ったときに容量を追加できるとか、100円払うと上がるとか、そちらのほうが、難易度としては実現性は高いかもしれないですね。

岡本氏
 実際に、お客様の意見としては出てきていますね。追加オプションのようなメニューは早期に提供できればと考えています。

――最後に読者に向けて一言お願い致します。

齋藤氏
 価格帯もお安いですし、人手をかけて売るよりは、やはり今はECチャネルで売っていくというのが今のポイントなのかなと。ちゃんとこの価格帯を維持し、会員さんが増えたらトラフィックが詰まって使えないや、という声があがらないように、サービスを維持していかなければいけないと思っています。それはこれからの使命だと思っていますし、そういうところは将来を含めてしっかりやっていこうと考えています。

 とはいえ、お客様の声でサービスが良くなっていくと思うので、チャレンジできることはどんどんやっていきたいです。できることとできないことは確かにあるんですが、お寄せいただければ積極的に検討します。読者の方もまだまだ使ってない方はたくさんいらっしゃると思うので、まずは試してみていただきたいです。

新村氏
 ぜひ使っていただいて、使用感や要望などをつぶやいていただければと思います。私たちはみなさんのつぶやきを見ていますので(笑)。

――本日はどうもありがとうございました。

すずまり