インタビュー

シャープ、ソフトバンク・ウィルコム向け端末インタビュー

シャープ、ソフトバンク・ウィルコム向け端末インタビュー

個性派揃いの4機種で夏商戦に挑む

 シャープが2013年夏モデルとしてソフトバンクおよびウィルコム向けに発表したのは、フラッグシップの「AQUOS PHONE Xx 206SH」、コンパクトな「AQUOS PHONE ss 205SH」、シニア向けの「シンプルスマホ 204SH」、そしてウィルコム向けのデュアル端末「AQUOS PHONE es WX04SH」の4機種。

 ソフトバンク向けの3機種は6月までに発売されているため、すでにその性能や使い勝手を体験している読者も多いだろう。しかし、そのうち2機種は同じAQUOS PHONEブランドということで、違いがわかりにくいところもあるかもしれない。ここで改めて各機種にどのような違いがあり、どういった狙いで企画されたのか、開発担当者に話を伺った。

 また、9月にはウィルコム向けのWX04SHの発売も控えている。シャープとしては初めてリリースするPHSと3Gのデュアル方式対応端末であり、そのうえPHSデータ通信にも対応しているという意欲的な製品だ。こちらについても開発における苦労など、担当者に伺った。

通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 商品企画部 澤近 京一郎氏
通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 商品企画部 清水 寛幸氏
通信システム事業本部 パーソナル通信第二事業部 商品企画部 篠木 正剛氏
情報通信営業本部 通信システム統轄営業部 通信システム第一営業部 梅 宏之氏

――この2013年の夏商戦では、ソフトバンク、ウィルコム向けにバリエーション豊かな商品を展開していますね。

澤近氏
 弊社では、これまでも毎商戦、すべてのユーザー層に端末を届けたいという思いで、さまざまなユーザーにマッチした端末をラインナップしてきました。今回の夏商戦向けモデルにつきましては、それを一歩進めた形で取り揃えています。

 従来ですと、ハイエンドの端末とミッド&ローの端末という大きく2つのカテゴリーに分けて商品化を進めてきましたが、この夏商戦では、さらに弊社とソフトバンク様との新しい挑戦ということで、「シンプルスマホ 204SH」をラインナップに加えています。

 各機種はそれぞれに特徴的な機能をもっています。「AQUOS PHONE Xx 206SH」ではフルセグを初めて搭載し、「AQUOS PHONE ss 205SH」については持ちやすいコンパクトさを打ち出しています。また、「シンプルスマホ 204SH」はシニアの方やスマートフォン初心者の方でも違和感なく簡単に使い始められる、というところを目指して開発しました。

 ウィルコム様向けのPHSと3Gのデュアル方式対応端末「AQUOS PHONE es WX04SH」も9月に発売予定ですので、これら4種類の端末を幅広いターゲットのユーザーに提供していきたいと考えています。

シニアにとっての使いやすさに徹底的にこだわった「シンプルスマホ 204SH」

「シンプルスマホ 204SH」

――それではまず、シニア向けという「シンプルスマホ 204SH」について改めて詳しく教えていただけますでしょうか。

清水氏
 「シンプルスマホ 204SH」は、シャープ初のシニア向けスマートフォンとして、ソフトバンク様と一緒に開発してまいりました。スマートフォンが広がっていく中で、当然シニアの方々もスマートフォンへの興味が増してきています。ただ、今のスマートフォンでは使いにくい、文字が小さい、といった不満があることもわかってきました。弊社ではソフトバンク様向けにシニア向けのフィーチャーフォン「かんたんケータイ」を提供してきた実績もありますので、そのノウハウを活かして開発したものになります。

――具体的にはどういったコンセプトで開発されましたか。

清水氏
 まずシニアと一口に言ってもいろいろな方がいらっしゃいますので、シニアの中でもどういった方に届けたいのか、というところにだいぶ時間を割いて検討を進めてきました。選択肢としては、携帯電話と同じような使い勝手にするという方向性と、やはりスマートフォンなのだからスマートフォンならではの新しい“価値”を届けるという方向性の2つがありました。実際にシニアの方にヒアリングするなど調査を進めた結果、誰にとっても使いやすくしつつ、スマートフォンとしての“価値”を届けよう、というコンセプトのもと作っていくことになりました。

 そこから仕様や形状などを詰めていくんですけれども、その形状1つとっても、本当にこれが一番いいのか、という視点で念入りに検討しています。たとえば端末の厚みについていえば、スマートフォンは今、薄型化に力を注いでいますが、スマートフォンに対するシニアの方の不満が“滑って落としやすい”ところにもありましたので、あえてほどよい厚みをもたせました。サイドの中央付近がやや膨らんでいるようなラウンドフォルムにすることで、手で包み込むことができ、滑って落としにくいデザインにしています。

 それと、端末の下部にある3つのハードウェアキーのさらに下の先端部分、この“アゴ”を少し反らして“返し”のようにしています。これもボタンを押す時に端末を落とさないように、という工夫です。ハードウェアキーの凸量、キーサイズ、キー表面のアイコンサイズも、1つ1つ詰めていきました。

 5月発売で実際のお客様の反応も届いていまして、1番は文字が大きく、画面が見やすい点を評価いただいています。3つのハードウェアキーが使いやすいところや、通常のスマートフォンとは異なる「かんたん押し感タッチ」についても高い評価をいただいています。それと、画面の一部をズームインできる「かんたんズーム」機能についても見やすいということで好評です。

――ホーム画面も特徴的なインターフェースになっていますね。

清水氏
 ホーム画面には「シンプルラインホーム」を採用して、とにかく見やすく、使いたいアプリを探しやすく、というコンセプトで作っています。画面の1番上では現在の時刻と天気を表示し、その下に6つの大きいボタンを並べています。シニアの方がどういった機能が上の方にきてほしいと思うか調べた上で、使用頻度の高い機能を6つ配置しました。

 さらにその下にはニュースと天気予報、乗り換え案内がありまして、これもシニアの方の使用頻度が高いサービスになります。その他のアプリはカテゴリーに分けて、わかりやすいタイトルを付けて整理しています。そして、画面の最下段にある短縮ダイヤル“楽ともリンクボタン”。以前の「かんたん携帯」でも用意していた機能ですが、4人まで登録してすぐに連絡をとることができます。電話やメールなど、あらゆる画面で文字を大きく見やすく、レイアウトやグラフィックを1つ1つ見直して作っているのもポイントです。

――ハードウェアキーも3つ設けられています。

清水氏
 電話・ホーム・メールの各ハードウェアキーにつきましても、弊社内やソフトバンク様との間で相当議論を重ねて、この3種類でいいのか、そもそもボタンは3つがいいのか、1つがいいのか、というところから徹底的に議論して決めました。結果的にはユーザー調査から3つがいいという評価をいただいて決まったわけなのですが、じゃあ具体的にどういうボタンがいいのだろうと考えた時に、たとえば中央はホームキーではなく終話キーにしたほうがいいんじゃないか、というような話も出ました。

 しかし、先ほど申し上げたスマートフォンならではの価値を提供したいというところから、中央はホームキーであるべきで、左右には一番よく使うであろう電話とメールのキーですぐにアクセスできるようにすることになりました。

――従来のシニア向けのフィーチャーフォンだと、1、2、3の数字が書かれた短縮ダイヤル用のハードウェアキーがあるパターンが多かったわけですが、今回は機能の異なる3種類のボタンになりました。具体的にはどういう考えでボタンの役割を決めたのでしょうか。

清水氏
 短縮ダイヤルをハードウェアキーにする話も持ち上がったのですが、スマートフォンとしての価値を提供したかったところから、スマートフォンにとって象徴的な存在であるホームキーは必要だよね、と。それに、操作がわからなくなったときの緊急回避ボタンという意味でも、操作のわかりやすさにつながるだろうと考えました。電話とメールは一番良く使う機能であると調査でも出ていました。

澤近氏
 数字を入れた短縮ダイヤル用のハードウェアキーにする、というのは、たしかに思いつきやすいところではあるのですが、本当にそれが正しい作りなのか、というところから我々は疑って、ユーザーにとって何がベストなのか、ソフトバンク様と協力しながら調査しました。結果的には、スマートフォンの場合は今回のようなボタンの並びになることがユーザーの利便性が高くなる、ということに気付いたんです。

――独自の「かんたん押し感タッチ」も特徴的な機能ですね。

清水氏
 「かんたん押し感タッチ」は、ちょっと画面に触っただけではタッチしたとは認識されず、少し押し込むように触れることで反応するようになっています。画面に青い丸が表示され、振動があるまで長めにタッチしていればタッチが確定するという仕組みです。

 普通のスマートフォンが使いづらい理由として、ちょっと触っただけで確定してしまう、という声が多くありました。本当に押せているのかどうかわかりにくいといった意見も多くありましたので、本物のボタンのように押し込むようにしてタッチすることと、青い丸の表示と振動できちんと押したことに気づけるようにしたことによって、わかりやすいという評価をいただいています。

 また、「かんたんズーム」という機能もありまして、通常は拡大できないような画面上の文字なども拡大して確認できます。ズーム表示している中身をタッチすることもできますので、見にくいところもスムーズに操作していくことができます。こういったさまざまな機能で、見やすいこと、使いやすいこと、実際に使ってみて誰でも自然に操作できるということで、ご好評いただいています。

――タッチ処理の部分は特別なハードウェアなどを使っていたりしますか? 今後別の機種に同じ仕組みを取り入れる予定はあるでしょうか。

清水氏
 ハードウェアは特殊なものは使っていません。すべてソフトウェアで、押す時間、タッチ面積、静電容量の変化などを見てチューニングし、処理しています。この開発には手間がかかっていまして、ぐっと押し込んで実際にタッチが確定するまでの時間、押し感の強さといったところを最後の最後まで調整して、テストユーザーにヒアリングして、の繰り返しで、最適なところを探しました。

澤近氏
 このタッチ処理はシンプルスマホ向けに新規で考えたものです。もちろん今後ニーズがあれば、たとえばハイエンド端末向けにカスタマイズして搭載することも考えられると思います。ただ、そもそもこの機能を搭載した目的は、通常のスマートフォンだとタッチ操作がわかりにくいのを、しっかり押せていると実感できるようにするところにありました。それをまずはシンプルスマホで実現しようということで専用に開発したものなんです。

――Google Play Storeに非対応でユーザーが自由にアプリをインストールできませんが、このようにした理由は?

清水氏
 対応するか否かはかなり議論したんですけれども、結局Google Play Store非対応にした理由の1つは、セキュリティの問題でした。ターゲットユーザーはどちらかというとITリテラシーは高くないでしょうし、スマートフォンはなんとなくセキュリティが不安、といった声も多く聞かれます。

 それに対してシンプルスマホでは、最初から使えるアプリがたくさん入っていて、それ以外はないんです、ということで、逆に安全性をアピールできます。あらかじめ用意しているアプリはちゃんと使えるものだけを提供したいという思いもあって、端末の中だけでしっかり完結させているつもりです。

――それでもせっかくのスマートフォンなんだから、ということで、今後の拡張性も期待したいところです。将来的な方向性としてはどのようにお考えですか。

澤近氏
 まずは今回第1弾としてシンプルスマホをリリースさせていただいて、ユーザーからの声はソフトバンク様とも共有させていただきながら、次どうしていくかを考えていきます。ただ単にGoogle Play Storeのアプリをプリインストールするかとか、そういうレベルではなくて、さらにユーザーニーズに合ったアプリを搭載したり、ユーザーの使い方に合った機能を入れるなど、そういった方向性で答えを出したいですね。

 最近のユーザーは本当に覚えるのが早くて、ご要望もたくさんいただけるはずなので、そのあたりをいち早くキャッチアップしていきたいなとは思っています。

――LINEのような有名なアプリは、シニアの方からも使ってみたいという要望が上がってきそうに思います。

清水氏
 今回はプリインストールでは用意できなかったんですけれども、そういったお声は多くいただいています。実際にアプリをプリインストールするとなると、端末リリース後のアプリのアップデートをどうするかという点をクリアにしなければいけませんので、単純にポンと載せるというわけにはいかないのが悩ましいところですね。

澤近氏
 プリインストールアプリのアップデートをどうするかといった点を含め、シンプルスマホが現在のような形を続ける限り、我々は製品をケアしていかなければいけません。それをどれくらいのアプリまで広げて対処できるのかが今後の課題だと認識しています。社内はソフトバンク様とも協議していきながら答えを見つけていこうと思っています。

コンパクトでも機能に妥協はない「AQUOS PHONE ss 205SH」

「AQUOS PHONE ss 205SH」

――では次に「AQUOS PHONE ss 205SH」のコンセプト、特徴などを教えてください。

篠木氏
 昨今のスマートフォンのトレンドは、大画面化です。そうやって画面が大きく、端末も大きくなってきたために、やはり片手で操作するのが難しいとか、持ち運びする際にかさばるなど、使い勝手が損なわれるというユーザーの声が上がってきています。

 それを踏まえて、「AQUOS PHONE ss 205SH」につきましては、持ちやすさ、使いやすさにこだわり、なおかつ必要な機能を確実に載せていこうというコンセプトで商品化を進めました。そういったコンパクトで使いやすい端末がほしい女性や男性ユーザーを確実に取り込むために商品開発を進めてきました。

 また、フィーチャーフォンからの移行ユーザーを取り込むのも狙いでした。フィーチャーフォンを使っているのは30~40代の女性が多いというのが調査から見えていましたので、そのユーザー層に響くような機能、仕上げも必要になるんじゃないかと考えました。

 したがって、機能面につきましては、日本仕様とも言える防水、ワンセグ、赤外線を備えています。フィーチャーフォンにあった機能は確実に搭載していかなければいけませんし、カメラなどの基本機能にもこだわっていきたい。ということで、コンパクトでありながら必要機能にもこだわり使いやすい形に仕上げました。

――6月21日に発売されすでに1カ月経ちましたが、評判はいかがですか。

篠木氏
 実際の販売状況を見ますと、使いやすさ、コンパクトさ、に加えて防水などの国内仕様を重視して購入されているお客様が多くいらっしゃいます。1310万画素のカメラに注目しているという声もありましたので、我々としては狙っていたユーザーを結構獲得できているのではないかなと考えています。

――機能面では特にどのあたりがポイントとして挙げられるでしょうか。

篠木氏
 ポイントは大きく5つ挙げられます。1つめはカメラでして、今回の205SHはミドルゾーンの商品ではあるんですけれども、フィーチャーフォン時代よりカメラと液晶はシャープの特長としているところがありますから、カメラについてはこだわりたいと思いました。あえて1310万画素という高画素のカメラを搭載し、絵作りにもこだわりました。

 また、すっきりしたデザインのカメラUIでシーン設定やモバイルライトのオン・オフをアイコンタッチから切り替えられる、シンプルかつ使いやすい「シンプルカメラUI」を今夏モデルから搭載しています。

 2つめは端末本体の前面にある「クイック起動キー」です。ボタンがないとスマートフォンが使いづらいというユーザーからの声があり、それに応えるために搭載しています。押すだけでディスプレイがオンになりますので、電源ボタンが押しにくい状態でも困ることがありませんし、長押しと単押しのそれぞれの操作にお気に入りのアプリ起動を割り当てることもできますので、カスタマイズして使い勝手を高めることもできます。

 30~40代の女性ユーザーの場合、小さいお子さんがいらっしゃる方も多いと思いますので、「チャイルドロック」機能をより使いやすくしました。たとえばアニメなど子供向けアプリを起動した状態でチャイルドロック状態にして端末を渡せば、子供が画面をタッチなどしても誤操作することがありません。クイック起動キーからこのチャイルドロックの設定ができるのは、当社モデルでは205SHだけが搭載している機能になります。

 3つめは「かんたんズーム」です。204SHで同機能の反響が高いということもあり、205SHのユーザーにも響くのではないかと考えて搭載しました。

 4つめのポイントは、バッテリー容量になります。このようなコンパクトな筐体になってくるとバッテリー容量を増やすのには限界があり、同様のサイズ感の他製品では2000mAhを下回ることが多いのですが、205SHは2080mAhのバッテリーを搭載しており、当社の省エネ技術との組み合わせで長時間使用を実現しています。

 最後の5つめは、放射線測定機能になります。「PANTONE 5 107SH」に続いてですので、放射線センサー搭載モデル2号機ということになります。強化ポイントとしましては、精度は同レベルで測定時間を1/2に短縮させたところです。107SHでは実際に放射線センサーを使われているユーザーの方から「測定に時間がかかる」という声をかなりいただいていましたので、新しいチップを搭載して、測定時間の短縮に取り組みました。

――放射線測定機能のニーズは実際のところどれくらいあるのですか?

篠木氏
 お子さんをお持ちの女性が放射線量を一番気にされるというのが調査でも明らかになっています。そういった層が買われる端末に載せるのが最適だろうとのことで、205SHに搭載することにしたんですね。107SHでも東北地方のユーザーさんで、自分が生活している範囲でどれくらいの放射線量があるのか気にして購入される方もいて、草の根レベルで知りたいという人は確実にいらっしゃいます。

 継続的に使っているかどうか、となると、時間とともに使用頻度は若干落ちてくるところはありますが、まず身の回りの値をとりあえず調べるという意味ではかなりのユーザーに使われていることはわかっています。

――205SHにはフロントキーが用意されています。このフロントキーを設けた理由は?

澤近氏
 画面が大きくなってくると片手では指が届かないのをどうするか、というのが課題になってきます。スマートフォンを使うためにはまずディスプレイをオンにする必要があり、それには電源キーを操作するしかないという機種が多い。端末のデザインを優先するあまり、どうしても電源キーが端末の上部などに配置されてしまいがちですから、それを補完するものとして、簡単にディスプレイをオンできることに特化して、端末の前面にハードウェアキーを搭載するという方法がニーズとして上がってきました。

 これを単なるディスプレイのオンやオフだけではなく、たとえば放射線計測機能や各種アプリをキー操作で起動できるようにしたりとか、使い勝手をさらに向上させる工夫を盛り込んでいます。

――充電用のUSBポートは、最近他社製品でも多く採用されつつあるキャップレス防水になっていますね。

澤近氏
 充電する際にキャップの開け閉めが面倒という声は以前からずっといただいていまして、なんとかしたいという思いがありました。しかし、品質面でクリアすべき課題が多くあり、今回そこをなんとかクリアして提供できることになりました。ユーザーの中には面倒だからキャップをちぎってしまうという方もいらっしゃるようで、そうすると防水性能を保てませんから……。キャップなしで防水を実現するのは、弊社の大きな課題の1つとして検討を続けておりました。

――ちなみに「AQUOS PHONE ss」の「ss」は何を意味しているのですか?

篠木氏
 商品化開発を進めていく中で、「ジャストフィット・スマートフォン」というワードがあったんですけれども、この意味は、“自分の生活スタイルの中で、自分にぴったりで、欠かすことのできない、常に身につけていたいと思うスマートフォン”というものでした。この考えをさらに発展させて、スマートフォンはいつも自分の生活をサポートしてくれるものだというところから、「Support your Smart life」というコンセプトワードを考え、ここからSupportとSmartの頭文字を取って名付けたものになります。

澤近氏
 “スモール”、“コンパクト”というような意味も込めていて、見た目と中身とが合致するようなネーミングにしています。

音の出し方にも工夫を施したフルセグ対応「AQUOS PHONE Xx 206SH」

「AQUOS PHONE Xx 206SH」

――次に、フラッグシップ機である「AQUOS PHONE Xx 206SH」について詳しく教えていただけますか。

澤近氏
 画面の美しさ、大きさ、カメラの性能などなど、「AQUOS PHONE Xx 206SH」の特長はたくさんありますが、すでにご存じの部分が多いと思います。今回は今まであまり詳しくご紹介できていなかったポイントをお話しさせていただきたいと思います。

 まずカメラ機能なのですが、F値1.9の非常に明るいレンズのカメラで、そのままきれいに撮影できるだけでなく、実はズームしてもきれいに撮れるんです。カメラは、遠くのものをいかにしっかり、きれいに撮れるかというのもポイントになると思いますので。

 通常はデジタルズームになるわけですが、その場合、倍率が上がるほどに画像が粗くなります。そこを弊社は独自の「美ズーム」機能によって改善しました。一定以上の倍率までズームして実際に撮影すると、きれいに補正された画像として出力されるようになっています。これを従来機種と比べると、美しさが全然違うことがわかると思います。この“美ズーム”という機能は、弊社が手掛けている端末の中でも、現在はこの206SHにしか搭載されていません。

――フルセグ搭載は最もインパクトの大きい特長かと思います。

澤近氏
 フルセグは従来から搭載したいと思っていたんですね。といいますのは、画面サイズがどんどん大きくなって、5インチという映像コンテンツを十分に楽しめる画面サイズになっているにもかかわらず、ワンセグは映像が粗い。このサイズでは十分にテレビ映像を楽しめないこともあり、フルセグをなんとか搭載できないかと検討していて、その土壌がようやくここへ来て整いました。

 大画面・高精細な液晶と、長時間駆動させるためのバッテリー、フルセグを再生するための高性能なプロセッサー、そして新しいコンテンツ保護方式の確立と、これらが揃って初めてこのサイズの端末にフルセグを搭載できるという状況になったわけです。

 前モデルの203SHからの進化をどう見せるかというのも1つのテーマでした。ちょっと画面サイズを大きくした程度ではユーザーは振り向いてくれない。つまり、具体的な価値に落とし込む必要があると思っていまして、それがこの大画面液晶を活かすフルセグだったと思っています。最高のものを提供したいという思いで、頑張ってフルセグを搭載できました。ギリギリの日程でしたね。

 また、録画に対応しているところも大きなポイントです。地デジの電波の問題もありますので、本当に見たい番組は自宅など電波の良いところであらかじめ録画していただくと、通勤電車の中、旅行先などでも、きれいな映像をお楽しみいただけます。

――液晶はなぜIGZOではなくS-CG Siliconを選択したのですか?

澤近氏
 フルセグを十分に楽しんでいただくという観点では、5インチクラスの大画面フルHD液晶は絶対に必要だと思いました。そのことから5インチのS-CG Siliconを選択しました。とにかくユーザーに最高のものを、と考えた時に、やはり大画面・高精細、フルセグは欠かせない要素と考えた結果になります。

卓上ホルダーにはサウンドをよく聞こえるようにするダクトが設けられている

――他には何か特長的な機能などはありますか。

澤近氏
 注目してほしいのが卓上ホルダーです。この卓上ホルダーには、端末のスピーカーからの音を正面に大きく聞こえるようにするためのダクトを設けています。ホルダーに端末を置くと、ちょうど端末背面のスピーカー部分がホルダーに空いた穴に合うようになっています。この穴がホルダーの前面下部にあるダクトに通じているわけです。しかもこのダクトは単純にストレートにつながっているのではなく、内部で蛇行させるような構造にしていて、これにより高音域のシャカシャカ音を抑えて心地よく聴けるようになっています。

 映像を楽しんでいただくために画面を大きくし、解像度を高くし、きれいな映像を出せるようにはなったのですが、それに音がついてこないのはよくない。映像と音の両方に満足していただいてこそ、動画作品も十分に楽しめることにつながります。今回こういった構造にしたことで、しっかり映像を真正面からテレビのように鑑賞できるようになったのではないかと考えています。

――205SHと比べると、フロントキーが206SHにはありませんね。

澤近氏
 206SHはフロントキーの代わりに、画面を上から下へなぞるとディスプレイが点灯する「スイープオン」機能を備えています。実際にユーザーからは電源キーに指が届きにくいという声をずっといただいていました。ユーザーが誤操作することなく、直感的に行える方法を考えた際に、端末を使いたい時には必ず画面に触るだろう、ということで、今回の206SHでは画面をなぞる方法をとらせていただきました。

 逆に、ディスプレイをオフにする時は、ポケットに端末を入れる時の動作に近い流れで、指を動かさずに自然に行えるよう“端末を2回振る”動作でできるようにしました。

――「スイープオン」で何か特別に苦労されたところ、工夫されたところはありますか?

澤近氏
 この「スイープオン」で懸念点として挙げられるのは、1つは誤操作と、もう1つは消費電力への影響です。この機能では、タッチパネルを一定間隔でウェイクアップしながら指でなぞっているかどうかを見て、なぞっていればディスプレイをオンにする処理になっているんですが、この周期“センシング間隔”を短くしていくと消費電力が増えて、反応は良くなるけれども誤操作も増えるという傾向になります。

 この両方を抑えるために、まずセンシング間隔をあまり短くしないようにしました。もう1つはなぞる距離を調整して、ある一定の距離をなぞればオンにする、という形にしました。片手で持った時に親指を動かせる範囲の距離感でオンにできるよう工夫して、少しでも誤操作を抑えると同時に消費電力も抑えられるよう実装しています。この機能については今後の機種も搭載したいので、継続してチューニングし、進化させていきたいと考えています。

――3機種でAndroid OSのバージョンがバラバラですが、バージョンが異なることによる苦労はありませんでしたか。

澤近氏
 OSのバージョンに違いがあるとやはり苦労します。もともと204SHはAndroid 4.0ベースでGoogle Play Store非対応ですし、独自に作り込んでいくところもあったので、そこは従来のプラットフォームの資産を活かせばいいのでOSバージョンという意味では問題はありませんでした。

 一方、205SHのAndroid 4.1と206SHのAndroid 4.2の違いは、社内では大変な調整が必要でした。しかし、ハイエンド端末についてはやはり最新のOSを搭載しないとそもそもお客様に買っていただけません。206SHは発売が少し遅かったこともあり、最新OSにキャッチアップできました。それよりも少し早く発売した205SHは、Android 4.1ベースで安定した動作をしっかり心がけて、従来の資産を活かしながら、使い勝手に特化させた取り組みをするということで、開発としては完全に分けてやっていましたね。

PHSデータ通信にも対応するデュアル対応「AQUOS PHONE es WX04SH」

「AQUOS PHONE es WX04SH」

――最後はウィルコム向けの「AQUOS PHONE es WX04SH」です。デュアル対応とのことですが、見た目は205SHによく似ていますね。

清水氏
 「AQUOS PHONE es WX04SH」はウィルコム様向けとしては初のAndroidスマートフォンで、PHSと3Gのデュアル対応を果たした端末です。外観などには205SHと共通の部分が多くあります。

 こうなった経緯ですが、ウィルコム様とお話ししてデュアル端末を提供させていただくこととなった時に、ターゲットユーザーについての検討を重ねまして、結論としては、今までPHSやフィーチャーフォンを使っていて、初めてスマートフォンを買う方に向けたものにしようとなりました。その際、最先端・高機能・高性能ではなく、取り回しやすい、扱いやすい端末にしていく方針に決めたのですが、そうすると、205SHと共通化できるところがとても多いことがわかったわけです。

――やはり最大のポイントはデュアル方式かと思いますが、使うにあたって難しいところはないでしょうか。

清水氏
 一番の特徴はPHSと3Gの両方の回線を使えるデュアル方式であるところです。が、お客様にはデュアルであることをできるだけ意識しないで普通に使っていただけるよう開発しています。今回のターゲットユーザーの方を考えた時に、デュアルであることを理解しているのを前提にした仕様だと混乱するだろうと。

 それを踏まえ、ダイヤル画面にはPHSと3Gの切り替えボタンを配置していまして、今PHSを選択しているのか3Gを選択しているのかがひと目で気付き、どちらの回線で電話がかかるのかわかるようにしています。この切り替えの状態はダイヤル画面限定になっていまして、一度他の画面に遷移してダイヤル画面に戻ってくると、あらかじめ設定しているモードに戻るようになっています。これは設定で優先したい回線を選べます。

 基本的には「だれとでも定額」が使えるPHSで電話し、データは3Gで高速に通信する、といったような使い方を、できるだけユーザーが意識せず自然に使っていただける、という仕様を目指して作っています。

――その他のハードウェアは205SHにかなり近いように見えます。

清水氏
 205SHの優れた部分を引き継いで、片手で使いやすいコンパクト形状とし、カラーは6色から選べるようになっています。CPUのスペックも205SHと同じ1.5GHzのデュアルコアで、クイック起動キーで簡単に画面をオン・オフしたり、アプリを起動できる機能、さらにスイープオン・シェイクオフも搭載しています。

 今までPHSやフィーチャーフォンを使っていた方の乗り換えも想定していますので、赤外線、ワンセグ、おサイフケータイ、防水にもしっかり対応しました。バッテリーも205SHと同じ2080mAhを搭載し、シャープ独自の省電力機能である「エコ技」も組み合わせることでバッテリーが長持ちする、といった点を特長としています。

 ただ、205SHの筐体が都合よくあったからそのまま使えばいい、という安易な考えではなくて、どういった方にお届けしたいか考えたときに、205SHの資産がうまいこと使えるね、となって開発を進めてきたんです。

澤近氏
 これだけ持ち感がよくて使い勝手がいい製品で、せっかくいい形ができあがっているのを、あえて使わない手はないかな、と。我々としてはその時その時でベストのものを作っていますので、同じようなもので二番煎じの製品ではなく、あえて同じものを出したほうがユーザー側にもメリットがあるんじゃないかなと考えました。205SHのカバーケースや保護シートなどのアクセサリーがそのまま使えますし。

――反対に205SHとはどこが違うのでしょうか。

清水氏
 まず放射線測定機能がありません。カメラが490万画素となっていて、スペック的にはダウンということになるんですが、全体としてのバランスを考慮してこのようになっています。205SHと全く共通ということはなくて、モデムチップも異なりますから、中の基板もだいぶ違っていますし、アンテナも変わっています。

――バッテリーのもちは205SHと変わりますか?

清水氏
 まだ計測中ではありますが、デュアルで待ち受けるので消費電力がアップする反面、4Gを非対応にしていますので、トータルでは205SH同等程度と予測しています。

――4G対応にしなかったのはどういった理由からでしょうか。

清水氏
 “商品性”というところが一番の理由なんですけれども、今回ターゲットとして想定しているスマートフォンを初めて使うユーザーが4Gを現段階で必要としているのか、疑問がありました。4Gにすると消費電力もその分増えますので、バッテリー持ちとのバランスを考え、3Gとのデュアルにしたという経緯があります。

――PHSデータ通信でのテザリングにも対応されています。これにはどういう狙いが?

清水氏
 PHSデータ通信に初めて対応しましたから、今までやっていなかったところをやっていこうと考えました。3Gデータ通信では月あたり一定容量以上は速度が128kbpsに落ちますから、そうなっても「64QAM」という高速なPHSデータ通信方式に対応しているPHSデータ通信を使うことによって、比較的高速な最大400kbpsという速度で通信できるわけです。せっかくそういう高速なPHSデータ通信ができるのだから、テザリングにも対応しようと考えました。

梅氏
 スマートフォンでのPHSデータ通信というのは今回初めてのパターンですので、今もまさに開発しているところですけれども(笑)、かなり苦労するポイントとなっていますね。

――今回はソフトバンク、ウィルコムの2社向けにさまざまなタイプの端末を提供されたわけですが、今後はイー・モバイル向け、スプリント向けと、新しい端末を出していくことになりそうでしょうか。

澤近氏
 そうなればいいですよね。もちろんこの後の展開はソフトバンク様と相談しながら弊社内でも検討していきたいですけれども、まずは夏商戦、この4機種で戦っていきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。

日沼諭史