インタビュー

「だれとでも定額パス」担当者インタビュー

他社のスマホでも「だれ定」、開発秘話を聞く

 「通信業界のLCC」を標榜するウィルコムらしい商品として、7月31日に、「だれとでも定額パス」が発売された。他社のAndroidスマートフォンからPHS経由で通話できる、というカードサイズの“PHSアダプター”だ。ウィルコムの企画担当者である阿部祐一氏と筒井竜志氏に、開発の舞台裏を聞いた。

「面白いけど実現できるの?」、苦労したハード開発

だれとでも定額パス

 「だれとでも定額パス」は、Bluetooth 2.1+EDRでスマートフォンと繋がるPHSアダプター。連続待受時間は約250時間、連続通話時間は約3.5時間で、大きさは約54×85.6×5.5mmというカードサイズだ。

 ウィルコムの商品企画部長からの指示で開発にあたった阿部氏と筒井氏は「アイデアは面白い。しかし実現できるのか」と最初に感じたという。

 筒井氏によれば、課題の1つはBluetoothだった。今回は、オリジナルのプロファイル「PVP」(PHS Voice Profile)を使ってスマートフォンと「だれとでも定額パス」を繋ぎ、通話できるようにしている。オリジナルのプロファイルになったのは、PHSとAndroidの連携を実現するため。つまりBluetooth標準のプロファイルは3G、GSMの規定しかなく、PHSに非対応だった。そのため、たとえば通話用アプリでPHSの電界強度(アンテナの本数)など基本的な情報すら最初は得られない状況だった。単純な「もしもしハイハイ」だけであれば標準のプロファイルでも利用できないことはなかったが、通話全体の使い勝手を考えると、オリジナルのプロファイルを用意する必要があったのだ。

そのままでは電池が持たない

ウィルコムの阿部氏(左)と筒井氏(右)

 開発当初は「だれとでも定額パス」試作機のバッテリーは1日ももたなかった。しかも音声品質は数分話すとハングアップして途中で切れることもあった。

 そうした面も、メーカーとともに検証を重ね、稼働時間を長くしていった。ちなみにBluetooth 4.0への対応も検討したとのことだが、低消費電力のBluetooth Low Energyという規格は伝送速度が遅く、音声通話には利用できなかった。実用性を踏まえて、Bluetooth 2.1+EDRが採用採用された。

 このほか、家族で1台の「だれとでも定額パス」を使う、といったアイデアも当初はあったが、だれでも接続できることになりかねないため採用は見送り、1台のスマートフォンとだけ繋がる形に落ち着いた。

カバータイプは?

 カード型となった「だれとでも定額パス」だが、開発中はスマートフォン用カバーの案もあった。ただしこれは、厚みを増してしまうことから断念。カバー型であれば、スマートフォンから電力を得られるなど、「だれとでも定額パス」の稼働時間を長くできるメリットなどもあり得たが、本来のコンセプトからはずれると判断し、カバータイプはあきらめたのだという。

 ちなみに、ディスプレイやマイク、スピーカーなどを搭載しない「だれとでも定額パス」は、バッテリーが小型化できるのであれば、カードよりもさらに小型化が可能で、かつてのW-SIM(PHSモジュール)程度になるのではないか、と筒井氏は語っていた。

工夫した通話アプリ

 阿部氏によれば、ハードウェアだけではなく、Androidスマートフォン向けの通話アプリも工夫した部分という。

 このアプリは、標準の通話アプリの代わりにも使えるもの。数字が並ぶダイヤル画面のほか、電話帳などの機能も備える。電話帳データは端末内に保存されているデータをそのまま表示できる。たとえばNTTドコモのAndroidスマートフォンの場合、docomo IDに紐付けられたアドレス帳と、Googleアカウントに紐づくアドレス帳を同居できるが、「だれとでも定額パス」の通話アプリは両方表示できる。

 左下には「PHS」「3G」の切り替えボタンがある。タップして「PHS」にすると「だれとでも定額パス」経由での通話、「3G」にするとドコモのスマートフォンならドコモ回線での通話ということになる。「だれとでも定額パス」ユーザーは携帯電話の電話番号とPHSの電話番号を使い分けることになるが、この通話アプリでは、手軽に操作できるようワンタップで切り替えるようにした。

 なお、技術的にはパソコン用通話アプリを用意すれば、パソコンに繋いだマイクとスピーカーで「だれとでも定額パス」経由での通話も可能、とのことだが、スマートフォンのほうが電話として使い勝手がシンプルに馴染む、ということで、PC版の提供は予定されていないようだ。

iOS対応は?

 対応機種はAndroidに限られる「だれとでも定額パス」だが、iOSには非対応だ。開発サイドとしてはサポートしたい、とのことだが、iPhoneの場合、マイクとスピーカーを制御できないのだという。

 LINEなどのアプリからは、IP電話としてiPhoneのスピーカーとマイクは活用できる。ただ「だれとでも定額パス」の仕組みであるBluetooth経由では、そうしたデバイスを制御できず、対応が見送られた。Wi-Fi経由では可能、とのことだが、Wi-Fi経由では、電力消費が激しく、実用的ではないため見送った。

 このように、技術的にさまざまな検討を重ねられた上で、カード型の“PHSアダプター”として登場した「だれとでも定額パス」は、通話機能だけPHSを利用できるようにする、という斬新な商品、サービスだ。LTE対応のスマートフォンを利用する場合、同一キャリア間通話は定額になるケースがある一方、無料通話がなくなり、通話料がかさむ可能性もある。通話が多いユーザーにとっては、3Gよりも音質のよいPHSで、なおかつ通話定額が利用できるサービスとして、検討に値するユニークな存在だろう。

(関口 聖)