インタビュー

スマホ時代は「サクサク感」を重視

ドコモのエリア品質担当者に聞く

 かつて携帯電話各社はエリアの広さを競い合っていた。ユーザーも携帯電話の画面に出てくるアンテナの数を気にしていた。その競争のおかげで、エリアは拡充し、屋内で利用できる場所も相当広がってきた。その後、携帯電話は音声通話よりもデータ通信の利用が増加する流れとなり、さらにスマートフォン時代の到来で、通信量が爆発的に増加した。

 ユーザーは「アンテナは立っているけど通信できない」という場面に遭遇する頻度が増えてくる。つまり「エリアの広さ」だけでは、快適に利用できるか、判断しづらい状況になってきている。

 実際に携帯各社ではどのような取り組みで“エリア品質”の維持・向上を図っているのだろうか。本誌では8月2日、ソフトバンクモバイルの「接続率」を紹介するインタビュー記事を掲載したが、今回はNTTドコモ 無線アクセスネットワーク部のエリア品質部門の担当者である牧山隆宏氏、佐々木和紀氏に話を聞いた。

エリア品質は“3つの要素”

 今回、取材に応じていただいた牧山氏と佐々木氏は、先述した通り、ドコモの「エリア品質部門」に所属する。ドコモのサービスエリアの弱点を見つけて、改善していく活動を行っているわけだが、そもそも「エリア品質」とは何だろうか。

牧山氏

 この疑問に対して牧山氏は、端的に「繋がりやすさ」「途切れにくさ」「サクサク感」という3つを挙げる。

 エリアが広がれば繋がりやすくなる。基地局を増やしつつ、周囲の基地局との干渉などを抑えて、通話しても途切れずに安定した品質で会話できる。ユーザーが増え、スマートフォンでのデータ通信量が増えても、LTEらしい高速通信を味わえるようにする――日頃のメンテナンス、チューニングの積み重ねで、ストレスを感じないよう活動していくことが、牧山氏と佐々木氏のミッションだ。

 たとえば新しいビルが建設されれば、そのビルの陰に入ることになる場所では、建設前と比べて電波が届きにくくなる。ドコモでは、そうしたビルの建設計画もチェックしており、建設が終了するころにあわせてエリアのメンテナンスを実施。既存基地局を調整したり、あるいは新しい基地局を設置したりして、使いづらいエリアの減少に絶えず取り組む。既存設備のチューニングは、スタッフが現地に赴き、調査用の装備を使ってパラメーターを把握して調整することになる。このとき、電波の強さ、干渉の度合い、周囲の基地局の配置状況などを確認する。

 そうしたエリア品質の維持・向上は、当然ながら、毎日行われている。トラフィックの状況から接続率、スループットの平均などをチェックしているほか、たとえば基地局設備、リピーター(電波を再送する装置)などが故障すれば、アラートで通知される。異常がある、あるいはエリア品質が悪化しているような場所があれば、スタッフが訪れて現地の電波状況を確認し、調整を行う。場所によって状況は異なるため、対処方法はケースバイケースとなる。

スマホ時代は「サクサク感」が重要

佐々木氏

 繁華街の駅前など、人が多く集まる場所は、スマートフォンの普及以前から人があまりに多く集まるため、利用しづらいエリアだった。たとえば渋谷、新宿といった場所だ。

 そうした場所のエリア品質を向上させるための、ドコモ側の作業自体は、スマートフォン時代だからといって、がらりと変化したわけではない。ただし、「繋がりやすさ」「途切れにくさ」「サクサク感」の3つのなかでは「サクサク感」が最も重要になってきた、と佐々木氏は語る。

 同社内では、エリアの改善度合いを数値で示し、指標として活用しているのとことだが、現段階では公表はしていないとのこと。また通信量のオフロード(分散)手段の1つであるWi-Fiアクセスポイントについては、最近、エリア品質担当部門が主導する形になってきたとのことで、今後さらなる活用が期待される。

エリアの状況、地図でマッピング

 エリア品質が悪化している場合、ドコモではユーザーから寄せられる声のほか、ネットワークから得た通信状況で場所を把握している。また年に数度、ピンポイントで選んだ場所でスタッフが実際に測定する。

 ユーザーから寄せられた声もデータベース化しており、地図上に並べて視覚的に把握しやすくするシステムも構築済だ。ネットワークから得られた通信状況、そしてユーザーからの声を地図上で重ね合わせてみると、干渉の高い場所、電波の弱いところが一目で分かるとのこと。地形なども踏まえたエリアの監視を行っているが、電波の環境(電波伝搬)は、周辺の環境が変わらなければ急に変化することはあまりない、とのこと。たとえばユーザーからの声は、新しくビルが建った場合など、一カ所に集中して寄せられることがあるという。

 またユーザーからの声は自宅や職場など、長時間留まる場所に集中する可能性がある。しかしスマートフォンの普及で移動中に動画を観る、といった使い方も広がっており、最近では「駅や駅間の品質はピカピカにしなければいけない」(牧山氏)という考え方が強くなってきた。先述した「サクサク感」とともに、ドコモのエリア品質向上で大きく変化した部分と言えそうだ。

ソフトバンクのうたう「接続率」には……

 エリア品質については、競合であるソフトバンクモバイルが「接続率」という指標を用いて、他社より繋がりやすい、とアピールしている。

 他社の取り組みとあって、ドコモでは加藤薫社長が「接続率は(その手法、定義、中身など)がよくわからない」とコメントしている。今回、インタビューに応じた佐々木氏も「その取り組みが良い、あるいは悪いというわけではない」と評価を避けつつも、たとえばソフトバンクグループのAgoop社がアプリを使って通信状況を得ていることについて、積極的に否定するつもりはない、とする。そしてそのメリットとして自社だけではなく、他社のデータが得られることがあるのだろう、と指摘した。またドコモでも携帯電話の実機を使って、現場でのリサーチを行う際、競合他社のデータは取得することがあるという。

 ただ、牧山氏は他社のデータを得ることはあっても、第一に優先するのは自社のエリア品質改善だと語る。他社の状況を把握することの意義は否定しないまでも、自社ネットワークから得たデータを元にドコモのエリア品質を改善することが重要であり、ドコモユーザーの満足度を高めることを目標に掲げる。

 佐々木氏は「(スマホ時代で重要視するようになった)サクサク感をはじめ、エリア品質で重要と見なす部分は、当社も他社も同じように捉えているのではないか。ただ、(広告や記者会見で)どこを強調するか、という違いでしかないのでは」と述べていた。

(関口 聖)