インタビュー

キーパーソンインタビュー

倍速化、900MHz帯は来春――ソフトバンク宮川氏が語るエリア品質

 新しい「iPhone」が2機種発表された。もっとも注目を浴びるのは、ついにiPhoneの取り扱いをスタートするNTTドコモだ。そしてKDDIは、エリア品質で優位性をアピールする。これらの動きに対して、ソフトバンクモバイルは、代表取締役社長の孫正義氏のTwitterが9月に入って以降更新されず説明会も行われないなど、後手に回っている印象すら受ける。

ソフトバンクモバイルCTOの宮川氏

 しかし、これは「どっしり構えていたから」と、ソフトバンクモバイルCTOの宮川潤一氏は説明する。グループ会社のAgoopが収集する、他社を含めたパケット通信接続率のデータからauの800MHz帯LTEサービスの状況を確認しており、ソフトバンクの接続率とauのそれとは、大きな差がついていない、と判断していたのだという。

 一方、新型iPhoneが発表される1週間以上前の9月2日、KDDI代表取締役社長の田中孝司氏は「LTEのエリア競争は、KDDIがダントツで勝てるのではないか」と宣言した。その自信を裏打ちするのは、KDDIが進めた800MHz帯の基地局数(エリアの広さ)と全国エリアでの下り75Mbps対応、そして800MHz帯が混むと2.1GHz帯など他の帯域へ切り替える技術を導入したことだ。

 どっしり構え、iPhone新機種の発売後の調査結果を待つつもりだったという宮川氏も、こうした主張を受けて、あらためてソフトバンクのスタンスを説明する方針に転換。今回、本誌ではインタビュー取材を行った。

ソフトバンク版iPhone、LTEは9月に倍速化完了

 まずは宮川氏が誇る、ソフトバンクモバイルのLTEエリアについて紹介しよう。ポイントは周波数帯と周波数幅だ。

 iPhone 5cとiPhone 5s、そして従来版のiPhone 5に対して、ソフトバンクは2.1GHz帯(10MHz幅)でサービスを提供してきた。今年3月からは傘下におさめたイー・モバイルの1.7GHz帯も利用できるようになり、「ダブルLTE」としてアピール。ただ、これまではどちらのネットワークも5MHz幅で、スループット(通信速度)という面では他社に劣る場面もあった。

 しかしソフトバンクでは、3G向けに使っていた電波を徐々にLTE用に切り替え、2.1GHz帯と1.7GHz帯の両方を5MHz幅 → 10MHz幅へ倍増。たとえば、この取り組みが早い段階で実施された大阪市内は、今年3月の段階で「iPhone 5」のスループットが6Mbps程度だったが、ダブルLTE、そして倍速化によって、15Mbps前後に伸びてきた。こうした傾向は名古屋、東京(池袋・新宿)でも同様とのこと。首都圏の工事終了は9月19日で、iPhone新機種発売日の20日には倍速化が完了する。全国では今年度中に実施される予定。この倍速化の恩恵を受けるのは、新機種だけではなく、旧来のiPhone 5も含まれる、という点は、ソフトバンクならではのメリットと言える。

ダブルLTE導入後、大阪でのスループットの変化
これは名古屋
池袋でのデータ
新宿でのデータ

「KDDI田中社長が言うほどの違いはない」

 パケット通信の接続率についても、ソフトバンクのiPhone 5、auの800MHz帯LTE対応Androidスマートフォン(10億件のうち4億件)、auのiPhone 5(800MHz帯非対応)を比較すると、3月以降、ソフトバンクのほうが常に接続率で上回っている。この傾向は、iPhone 5s/5c発売後も劇的に変わらない、と宮川氏は述べる。

 「我々がノンビリしていた理由がこれ(接続率のデータ)。各キャリアの接続率を確認できる。au版iPhoneの新機種がどうなるかわからないが、LTE対応のAndroidに近いだろうと思っている」

 その宮川氏の主張を支えるパケット接続率(全国平均)は、9月8日時点で、ソフトバンクのiPhone 5が98.2%、auのAndroidスマートフォン(800MHz帯対応)が96.7%、auのiPhone 5が96.5%とされている。この数値の違いはどういう意味を持つのか。宮川氏は山手線周辺の基地局で10カ所程度、接続率が改善すればキャッチアップできる程度の差しかない、と解説する。

全国でのパケット接続率。auと比較したところ
全てのスマートフォンで比較したところ

 ではどうしてそうした差が生まれるのか。これに対して「auさんの基地局は、同じ場所から800MHz帯と2.1GHz帯の電波を発射し、同心円セルエッジ(1つの基地局で作るサービスエリアの端)での干渉が同じように発生するのではないか。一方、ソフトバンクとイー・モバイルの2つの周波数帯は、もともと違う会社で基地局の立地が異なるため、いろいろな方向から電波を発射しているためだろう」と分析する。

 auは、800MHz帯以外にも、2.1GHz帯(Androidは1.5GHz帯も対応)でエリアを展開しており、800MHz帯が混雑すると2.1GHz帯へ誘導する、といった技術を導入済。これに関しても宮川氏は「ソフトバンクでは、ロードバランスという形で、ネットワーク側から端末へ指示し、ユーザーのトラフィックを分散する方法」と述べる。ダブルLTE、そして適度に分散して配置されたセルといった取り組みから「プラチナがなくても戦えると判断していた」と胸を張る。

プラチナバンドとLTE

 800MHz帯で広いエリアを構築したauが優位、とする見方は、ただKDDI側の主張を鵜呑みしているから成り立っているものではない。携帯電話向けの電波のなかでも、一般的に700〜900MHz帯という周波数帯は、他の帯域と比べて、建物を回り込みやすく、電波が届きやすくなるとされる。

 この説明は、かつてのソフトバンク自身が幾度も行ってきたもので、実際に、7月に本誌が行ったソフトバンクへの取材の場面でも900MHz帯でサービスエリアを整備した街では、屋外の基地局から隣のビルへ電波が届き、屋上や窓から浸透した電波が地下まで届いた事例も紹介された。つまり、auの主張は、ある意味、ソフトバンク自身が補強していることになる。

 ここまでの宮川氏の説明では、800MHz帯でエリアを展開しているauと、2.1GHz帯と1.7GHz帯で展開するソフトバンクの間に差はない、ということだが、これは“プラチナバンド”とも呼ばれる800MHz帯の優位性と矛盾しないか、という問いに、宮川氏は「確かにプラチナバンドで回り込めるというのが、auの(主張の)よりどころの1つだと思う。しかし、LTEの波(電波)はそんな簡単ではないという事情がある」と述べる。これは、800MHz帯は確かに優位と言える周波数帯であるものの、たとえば地方でW-CDMA方式でカバーするソフトバンクと、LTE化してプラチナバンドで展開するauを比べると、接続率ではさほど大きな違いがでない、のだという。もし大きな差がでるのであれば、auのAndroidの接続率はもっと向上しているはずだ、と宮川氏は指摘する。

「LTEでトラフィックが増加した」

 ここまでの主張は、ソフトバンクモバイルのネットワークもダブルLTE、倍速化などで強みを発揮しているというもので、相対的にKDDIの田中社長が主張するほど、auは優位ではない、というものだ。ただ、今後、数カ月もそうした状況が続くわけではない、と宮川氏は述べる。

 1つは、新しい周波数を用意しても、電波をユーザー同士で分け合うため、混雑するエリアではユーザーが増えるほど、ユーザー1人あたりのスループットは落ちてしまうということ。もう1つは、新型iPhoneがどれほど通信量を増やすか予測しきれないことだ。

 前者については、ソフトバンクに限らず、携帯電話事業者は常に向き合わなければならない課題だ。モバイルでの通信は爆発的に増加しており、各社は、繋がりにくいエリアを見つけては小型の基地局を設置するなどの対策を施すなど、日々、対策を打っている。だから、今日、A社が新宿の一角で繋がりやすくても、明日は梅田の地下街の一部で繋がりにくくなる、ということが起こりえる。繋がりにくくなる要因は、イベントの開催、新しい建物・施設の建設などさまざまだ。

 もう1つ、後者について、宮川氏はiPhone 4sからiPhone 5への劇的な変化を例に挙げる。LTE対応機種として登場したiPhone 5では、発売後、1.5倍、トラフィックが上昇。これはLTEで高速化したことで、ユーザーの通信量が増えたためと推測されている。

理論値は出さない

 端末の増加、そしてトラフィックの増加を見据えて、通信事業者は設備投資して、エリアの品質改善に取り組む、それはソフトバンクだけではなく各社同じだろう、と宮川氏は語る。

 そうした増加傾向にあわせて徐々に周波数、基地局を増やし、スループットや接続率が落ちないよう維持、向上できることが望ましいのだという。そうした背景や、米国のSprint買収もあってか、「(速度に関する表記は)米国流にあわせて、ソフトバンクも方針を切り替えてきている」(宮川氏)のだという。つまり通信速度の理論値をアピールするよりも、実際のスループットで見せる、というものだ。

 他社、たとえばNTTドコモは1.7GHz帯を使って、この10月にも東名阪で下り最大150Mbpsのサービスを提供する方針だ。またauも2.1GHz帯を使って、ごく一部のエリアながら下り最大150Mbpsのサービスを開始した。これら競合他社の動きに対してソフトバンクのサービスは、今回、倍速化したとはいえ、それでも75Mbpsと見劣りする。理論値よりも実スループットを……という主張は、こうした競合との関係も影響していると観られるが、確かにユーザーにとっては体感に近い数値のほうがありがたい面もあるだろう。

 ちなみに接続率の算出については、7月の段階で月間9億件もの接続成功/失敗データを集めているだったAgoopのアプリも、現在は月間10億件に到達。7月の取材時には明らかにされていなかったが、Agoopが提供するアプリのAndroid版は、電界強度などのデータも取得している。これはAndroidの環境がかなりオープンでハードウェアの情報を取得しやすいためだという。

Agoopのデータは月間10億件に
とにかくネットワークを倒さない(止めない)ことが重要、と宮川氏は語っていた

2014年4月、900MHz帯、10MHz幅でサービス開始

 約1年前、ソフトバンクモバイルは、“プラチナバンド”と銘打って、900MHz帯で3Gサービスの提供を開始した。同社には15MHz幅×2という帯域が割り当てられたが、そのうち最初から利用できたのは5MHz幅だけ。残りの10MHz幅は、業務用無線やRFIDなどで利用されており、使える状況ではない。それらの“引っ越し”を終えてソフトバンクが残り10MHz幅を利用できるのは2014年7月になる――というのがこれまでの見通しだった。

 しかし今回、宮川氏は、来年4月にも900MHz帯の残り10MHz幅でLTEサービスを開始する方針を明らかにした。これにより、2.1GHz帯、1.7GHz帯というダブルに加えて、900MHz帯が加わって、トリプルLTEへ進化する、という目論見だ。

来春、900MHz帯のLTEサービスを開始

 現在は、県単位で巻き取り(既存の900MHz帯利用サービスを他の帯域へ引っ越しさせること)が終われば、その場所でソフトバンク側の電波を発射できるようになるとのことで、これまでに全国の6割で巻き取りが完了している。4月1日に全国一斉に10MHz幅でのサービスが開始される予定だが、引っ越しがうまくいかない事業者が残る可能性はあることから、場合によっては、一部でサービスインできない可能性はあるとのこと。宮川氏は「(今900MHz帯を使っているのは)バス会社、ガス会社の無線。仮に引っ越しに遅れが生じても、我々としては何かクレームを付けることはない。準備ができ次第、ということになる」とする。ただし基本的に900MHz帯の既存利用事業者からは3月31日までに引っ越すことで合意を得ているという。

 トリプルLTE、それもプラチナバンドでのサービスということ、それもiPhone 5s/5cの発売から半年ほど経過して、トラフィックがそれなりに伸びていると想定される時期に、新しい電波が加わることは、ソフトバンクにとって追い風と言える形だ。来年4月時点でのエリアについて、具体的な表現は避けた宮川氏だが、ヒントとして「900MHz帯で3Gサービスを提供している基地局は既に2万7000局。来年3月末には3万2000局になる。そこにLTE用の設備(カード)を導入してONにすれば、LTEの電波は発射できる」と説明した。

 一方、都市部から離れたルーラルエリアでのエリアカバーは依然として課題が残る。これは宮川氏も率直に認める。この点については「確かにドコモの電波しかない場所もある。いつかは(エリア化を)やりたいと思っているが、やるには体力がない。今のリソースから与えられた限界値までやっているが、(そうした場所をサービスエリアにできるのは)半分、“お国の会社”(NTTグループのことと思われる)だけだろう。そういう場所でローミングしてくれれば……」と語っていた。

(関口 聖)