インタビュー

LGとKDDIが共同開発した新端末「isai」

LGとKDDIが共同開発した新端末「isai」

相互理解につながった一大プロジェクト

LGが「isai Press Conference 2013」を開催

 LGエレクトロニクスは11月5日、KDDIと共同開発したAndroidスマートフォン「isai」の詳細を解説する「isai Press Conference 2013」を韓国で開催。「isai」の特長やKDDIの狙い、LGとしては初めて取り組む本格的なコラボレーションモデルにかける意気込みなどを語った。また、説明会には「isai」の筐体デザインを手がけたデザイナー小牟田啓博氏も出席し、isaiに込めた思いを打ち明けた。

今まで体験したことのない領域まで踏み込んだ端末

LG Electonics Japan 金希哲氏

 初めに登壇したLG Electonics Japanの金希哲氏は、KDDIとの「isai」の共同開発に至った背景について、「KDDIさん内部と、市場での反応がすごくよかった」ことから、2013年冬モデルの共同開発の提案をKDDIから受けたと説明。これまでLGでは、グローバルモデルに防水や赤外線通信といった機能の追加、デザインの調整などを施した、日本向けカスタマイズモデルの開発を行ってきたことはあるが、外観から中身のソフトウェア、UIに至るまで「深く突っ込んで」取り組んだ、特定の国の事業者に向けたオリジナルモデルの開発は初めてだったという。

 企画当初、LGの韓国本社では「isai(異才)」の意味を理解してもらえなかったという裏事情を明かしながらも、「先進的なサービスを提供しているKDDI、グローバルにおける技術力・生産力・商品企画力のあるLG、この両者の力を合わせて日本のユーザーが驚くような新しい商品を提供しよう」という目標を掲げ、開発をスタート。驚き、意外性、特別感という3つのキーワードを軸に、「LGとKDDIが新たな取り組みを日本市場に伝える象徴として開発したブランド」であり、「LGが今まで体験したことのない領域まで踏み込んだ」端末であると語った。

 「isai」の大きな特長の1つは、筐体やソフトウェアも含め、“水”をイメージしたというデザイン。5インチを超える大きなディスプレイを備えるが、狭額縁にして持ちやすさを重視し幅約72mmを実現。上下左右の側面は金属素材を用いた“メタルフレーム”とし、高級感を演出した。KDDIからリリースされるモデルは通常3色までのところ、「isai」のみ異例ともいえる4色展開で、メインカラーのBlueのほか、Aqua、White、Blackを取り揃えている。

 その他、色再現性が高く、広視野角高輝度の5.2インチ フルHD IPS液晶、「マルチポイントAF」で高速なフォーカスが可能になったカメラ機能、ダブルタップで画面が点灯する「ノックオン」機能や、1つのスマートフォンを2人別々の設定で使える「ゲストモード」機能など、Optimus Gシリーズにも一部搭載していたLGオリジナルの機能についてもアピールした。当然ながら、防水、おサイフケータイ、赤外線通信機能も備える。

 ソフトウェア面では、新たに開発した専用ホームアプリ「isaiスクリーン」が最大の特長となる。常にユーザーが目にするホームアプリは「ある意味メーカーの顔」であり、その規模の大きさから開発するかどうかは「LGの中では大きな決断だった」という。この「isaiスクリーン」のテーマは“今起きていることをいつでも手の中で見せてあげる”というもの。5画面分あるスクリーンのうち中央を除く左右4画面それぞれに、「ニュース/トレンド/SNS/動画」の各情報を1画面ごとに大きく表示する。

 「ニュース」ではCNN、ハフィントンポスト、auヘッドラインなどの最新ニュースを取得し表示。「トレンド」では、auスマートパス会員限定のクーポンのほか、アプリ、エンタメといったカテゴリーの中からおすすめの情報を表示する。また、「SNS」ではユーザーが設定したFacebook、Twitter、mixiの各アカウントのフィードやタイムラインを閲覧でき、最後の「動画」ではビデオパスとYouTubeの新着動画コンテンツの概要を画像付きでチェックできるようになっている。左右フリックで各情報のスクリーンにアクセスでき、上下フリックでその情報を時系列順に閲覧していけるという快適な操作性で、「指で動かした瞬間から今の世の中の動きが自然に入ってくる仕組み」を実現したという。

相反する要素をバランスさせてデザイン

LG Electronics MCデザイン研究所PRMデザインチーム 朴洪圭氏

 次に登壇したLG Electronicsのデザイン担当 朴洪圭氏は、「世の中の“いい物”と呼ばれる中で共通項を見つけるとすると“バランス”だと思う」と切り出し、「isai」においては“Soft(手に持った時に気持ちのいい感触)”と“Durable(落としても壊れにくい耐久性)”という相反する要素をいかにバランスさせて実現するかが重要だったと語った。

 その両方について今回の「isai」では、水と、冷蔵庫のようなメタルの頑丈さを同氏はイメージ。日本市場の生の声を知るため、日本のユーザーに対してさまざまなリサーチを行い、採用するカラーと材質を決定した。ボディカラーについては無数に試作し、モックアップは5個以上制作したという。

 ディスプレイはコップになみなみと入った水の表面張力を想起させ、端末側面のメタルフレームの金属感と調和させた。端末背面は微妙にラウンドさせて柔らかな見栄えとし、グリップ感を追求。横から見た時は高級感と強さが感じられるように、さらにブラックのボディカラーではビジネス寄りの雰囲気を醸し出すようにデザインした。側面がメタルフレームになっていることから、「アンテナの特性を取るのに苦労した」とも話したが、単にアンテナを詰め込むのではなく、その制約に合わせられるよう工夫し、デザイン性を損なわないように仕上げたとのこと。

 なお、端末背面にはカメラとライト、赤外線ポートなどがレイアウトされているが、これらが存在感を主張しすぎないように赤外線ポートとライトを一体化させ「滑り込ませるように」デザインしたことで、背面においても水のイメージが貫かれている。ボディカラーはすでに述べたように4色展開で、画面タッチで水面が動くライブ壁紙を用意し、アイコンやウィジェットも“水”をテーマにデザインするなど、中身の細かい部分まで一貫性をもって開発していることを訴えた。

「男性向けでも女性向けでもない、ニュートラルな」端末

朴氏(左)とデザインについて語るKom&Co.Designの小牟田啓博氏(右)

 以降はプレスツアー参加者からの質問に答える形で「isai」のデザインや端末の企画・開発について解説する、座談会形式で説明が行われた。

 この中で朴氏は、デザイナーである小牟田氏に初めて会った時の印象について「風邪をひいてマスクしていたこともあり、怖い人だと思った」と打ち明け、一方の小牟田氏は「一番難しいUIを含めたデザインの経験が、LGさんは少ないと思われる」状況で、当初は互いに不安を抱きながらのスタートだったことを認めた。

 しかし、「スムーズではない」(小牟田氏)ながらも開発を進め、「isai」を完成させたことで、小牟田氏はLGを「きわめて真面目で、スマートで、クレバー」と評価。対して朴氏は、「LGだけではわからなかった日本ユーザーのニーズが、デザインの側面ではわかった気がする」と答え、結果的には両社にとってメリットの多いコラボレーションになったようだ。

 朴氏によれば、日本のユーザーは個性を大事にし、人とは異なるものを望むが、あまりにも異質なものは受け入れない性質があるのだという。そのため、ホームアプリで突飛なことをするのではなく、「カラーやディティールにこだわる方が受け入れられやすいのではないか」と判断。LGでは初めての試みであるメタルフレームの採用や、赤外線とカメラライトを一体化する流麗なデザインを突き詰めていった。

 また、小牟田氏は、モチーフに“水”を選んだデザインの方向性を、「水を嫌いな人はたぶん世の中にいない。普遍的で必要不可欠な水にフォーカスした。水がもつ心地よさをテーマに、男性向けでも女性向けでもない、ニュートラルなもの」を目指したと説明。4色のカラーバリエーションで暖色系がない点についても、「“Blue”がすごくきている」というマーケティング上の理由を考慮したのはもちろんだが、青系のカラーは「商品サイクルの中でトレンドであり続ける」と述べ、暖色系を用意しなかったのはある意味必然の流れだったことを明かした。

 端末構造とデザインの両立で難しかったのは、小牟田氏によれば、数々テクノロジーを端末に詰め込みつつ、5.2インチという一般的には大きめの端末を「isai」のイメージする優しいテイスト、あるいは女性にも手に取ってほしいという目的を実現する形に落とし込まなければならなかったこと。さらにLGに対しては、防水の必要性を理解してもらうのにも苦労したとのこと。防水を実現する場合のデザインや設計に与えるインパクトは大きく、そこまで手間をかけたところで「本当に商品力があるのか」という議論になりがちだった。防水非対応の場合の日本市場におけるハンディキャップを訴え、納得してもらうのに時間がかかったようだ。

 共同開発ということで両社の間でさまざまに議論を戦わせながら製品化にこぎ着けたわけだが、結果的には「日本メーカーではない違う文化ということもあってすごく楽しかったし、(これからもコラボレーションを)続けたい」と小牟田氏。朴氏は「過ぎてみれば面白かったような気がします」と微妙なニュアンスで答え会場の笑いを誘ったが、最後に日本語で「楽しかった」とフォローすることを忘れなかった。

「isaiスクリーン」で“モバイルザッピング”を実現

左からLG Electronics MC研究所 A室 第3チーム 李相鉉氏、LG Electronics MC研究所 D3室 第4チーム 金炯燮氏、LG Electronics MC研究所 D3室 第4チームの金楠起氏、KDDI 商品統括本部の山口昌志氏

 続けて、「isai」の大きな特長である「isaiスクリーン」の詳細を、LG Electronics MC研究所の李相鉉氏、金炯燮氏、金楠起氏、そしてKDDI 商品統括本部 山口昌志氏の4人が解説した。

 “他がやっていない新しいこと”としてホームアプリの開発を決定するのに最も時間をかけたことから、通常よりも3~4週間ほど短いタイトなスケジュールとなった今回の端末開発。限られた時間の中、1回あたり平均5時間にも及ぶ電話会議でKDDIと意見を戦わせながら「isaiスクリーン」を形にし、「LGの開発スピードとKDDIのディティールにまでこだわったシナリオ作りが組み合わさってできあがった」(李氏)。

 「iida」のようにホーム画面を標準状態から大きく変更してしまうものはユーザーの混乱を招くことがある、と金楠起氏。したがって「isaiスクリーン」では、大きく変化させながらもバランスを取り、幅広いユーザー層に使ってもらえるUIにできるかどうかがキモだったという。左右フリックでスクリーンを移動しながら各種情報を閲覧していく点を、テレビのチャンネル切り替えになぞらえて“モバイルザッピング”と定義づけ、「ユーザーは電車、友達、エレベーターを待つわずかな時間にもスマートフォンを見ていることが多い。そういうちょっとした時間に何か意味のある経験を与えられるかがisaiのテーマ」(金楠起氏)だと語った。

 KDDIの山口氏は、KDDI側から仕様を提示することで「我々のエゴになってしまう」のを恐れ、あくまでも「お客様に喜んでもらえる商品」を作るべく、共同開発という体制で進めることにしたと述べた。新しい端末を作る際、これまではKDDIから仕様を提示するか、あるいはメーカーから提示された仕様に意見を出して開発していくパターンのいずれかだった。そのため、今回のような“共同開発”の場合に「どうやったらいいのか、すごく悩んだ」(山口氏)という。

 キャリア間で似たスペックの端末を取り扱うことが多くなっていることから、「KDDIの特徴をきちんと出した、他社と差別化されたモデル」にフォーカスした結果、「isaiスクリーン」という解答を導き出した。山口氏は、この共同開発を通じ「グローバルと手を組むことの難しさ」を知っただけでなく、「開発ペースが速い中で物を作っていくプロセスが勉強になったし刺激にもなった」と満足げな表情で話した。

 最後に、共同開発のパートナーとしてお互いを選んだ理由について、KDDI側は、「“使いこなせる”というKDDIのスマートリレーションズ構想に合致する端末をLGなら実現できると判断した」ためと説明。一方、LG Electronics モバイルコミュニケーション 日本マーケティング 常務の裵炯基氏は、「LGには、日本のお客さんに直接アピールする力が定着していないのが現実。KDDIのお客さんとのパイプラインの太さ、それにLGの商品力が合えばいい端末ができるのではないかと考えた」とのことで、「isai」が互いの必要としている要素をうまく補完し合える良好な関係性から生まれたモデルであることをアピールした。

カンファレンス会場では4色の「isai」を展示
パッケージも初めて公開された

au端末が対応する「Cashbee」を一足早く体験

 韓国で開催された今回の「isai Press Conference 2013」の期間中、韓国ですでにスタートしている電子マネーサービス「Cashbee」を体験する機会が得られた。すでに別記事でお伝えしているように、「Cashbee」は韓国で約500万人のユーザーが利用しているプリペイド型の電子マネーサービス。クレジットカードから電子マネーをチャージでき、店舗での商品購入時にかざすだけで支払いが完了する。2014年3月からは日本のauのNFC搭載端末も対応予定だ。

 韓国内で「Cashbee」を利用できる場所は、ロッテグループの店舗のほか、コンビニエンスストアのセブン-イレブン、ミニストップ、GS25、CUなど計7万店舗。今回はツアーの合間に通りかかった首都ソウル周辺にあるGS25とCUの2箇所で、LGのOptimus Gにチャージされた「Cashbee」を利用してみた。

「GS25」の店舗
「GS25」で利用してみたところ

 ソウルの中心部ということもあり、コンビニエンスストアを見かける頻度は日本と同様かなり多い。対応店舗であれば、代金支払時にレジカウンターにある据え置き型端末にスマートフォンをかざすだけでOK。日本での支払い手順と全く同じだ。韓国語を話せなくても、端末でかざすそぶりを見せればスムーズに対応してもらえる。バスなどで使える交通系電子マネーは日本より早くに導入されていたこともあり、電子マネーで支払うスタイルは一般に広く浸透しているようだ。

こちらは「CU」の店舗内
据え置き型端末の形状は「GS25」とは異なる
「Cashbee」のアプリ画面

 レートや物価の関係で、韓国の通貨であるウォンを現金で持ち歩く場合は紙幣がかさばることがある。そのため、日本よりも電子マネーの利便性は高く感じられそうだ。ただし、今回利用したどの店舗でも、確認した限りでは据え置き型端末に「Cashbee」のロゴマークなどが記載されていなかった。対応していない店舗でも似たような端末が設置されていることがあるので、実際に利用できるかどうかは店員にあらかじめ確認するのが確実だろう。

日沼諭史