インタビュー

「AQUOS PHONE SERIE SHL23」開発者インタビュー

「AQUOS PHONE SERIE SHL23」開発者インタビュー

フルセグ対応でも余裕のスタミナを実現

 バッテリー持ち3日間で話題になったAQUOS PHONE SERIE SHL22の登場から4カ月。auの2013秋冬モデルとして11月15日に「AQUOS PHONE SERIE SHL23」が発売された。SHL23はフルHD液晶にフルセグを搭載しながら、SHL22と同等の電池持ちを実現しているのが大きな特長となっているが、操作性の向上や乗換ユーザーへの配慮など、使いやすさの追求の手はゆるめていない。

 SHL22から進化した点やSHL23を開発するにあたってこだわった点などについて、通信システム事業本部 グローバル商品企画センター 第三商品企画部 部長 後藤正典氏と、同事業本部 グローバル商品企画センター 第三商品企画部 伏見聡氏に伺った。

AQUOS PHONE SERIE SHL23

シャープを支持するリアルな層を意識した製品作り

後藤正典氏

――SHL23の開発背景を教えてください。

後藤氏
 前回の夏モデルのSHL22では、徹底的に電池持ちにこだわって電池持ちNo.1を目指そうという目標を掲げ、IGZOと大容量バッテリーを搭載して、電池持ち3日間を達成しました。そのため、フルHDやフルセグといったスマートフォンの進化のトレンドはあえて追わずにいたんですね。ですので、今回の製品では、トレンドに対応しながらも、夏モデルを開発した過程で得られたさまざまな省電力のノウハウを反映して、同じ電池寿命を実現しようというコンセプトで作りました。

 ちなみに、今回の製品は、「長く使える訳がある、感動続くSERIE。」というコピーをつけさせていただいています。バッテリーを気にせず長時間使えますが、長い期間使っていただいても飽きない製品ですよ、という意味があります。

――これまでのスマートフォンの開発というと、20~30代男性中心というイメージがありますが、今回のターゲットユーザー層は主には30~40代の男女とのことで、ちょっと珍しいという印象を持ちました。

後藤氏
 実績ベースのお話になりますが、実は我々の製品をご愛用いただくお客様の年齢層としては、30~40代の方が非常に多いんです。AQUOS PHONEのブランドもあると思うんですが、フィーチャーフォンでSHブランドをご利用いただいていた方の乗換ですとか、シャープを支持してくださる方がそういう年代の方なので、リアルなお客様を意識していますね。

伏見聡氏

――改めてSHL23の特長を教えてください。

伏見氏
 やはり一番の特長はバッテリーですね。前回のSHL22は、おかげさまで長時間使える電池持ちというところが評価されました。SHL22と比較すると、液晶は同じIGZOですが、解像度がHDからフルHDに進化しました。液晶サイズは4.8インチと前回とほぼ同等ですが、バッテリーサイズは3000mAhとなっています。数字だけ見るとHDからフルHDになって、バッテリーは3080mAhから3000mAhにやや減ってるけど大丈夫なの? と思われるかもしれませんが、スペック的には電池の持ち時間はむしろ長くなっております。待受時間など、カタログ数値として出てくる部分については、全部上回っているんです。

――バッテリー容量がやや減っているのに持つようになったというのは、何がポイントなんでしょうか。

伏見氏
 一番大きいのは、CPUが変わり省電力化されたことに起因していますが、それ以外でも、前回から継続して、お客様に見えない部分で徹底した省電力化の取り組みを行っています。

――それでいて、さりげなく充電時間は短くなっていますね。

伏見氏
 プラットフォームが変わり、ACアダプタから供給される電力の利用効率の向上を図ることができ、充電時間が短縮できています。

――SHL22と比較すると、機能強化されつつも結構薄くなったという印象があります。これは電池の影響ですか。

後藤氏
 前回は電池そのものが結構大きかったんです。今回は少し小型化しています。さらに、液晶とカメラモジュールの位置を少しずらして、重ならない配置にできたことで薄くできました。

磨りガラスのデザインで差別化

――デザインでこだわった部分はどこでしょうか。

伏見氏
 結構長い間ご利用いただくものですので、ガラスの耐久性にも気を配っていかなければなりません。そこで従来のものよりも、より傷がつきにくく、ねじれや衝撃に強い「Corning Gorilla Glass 3」という強いガラスを採用しました。このガラスに磨りガラス的な加工を施して、ロゴやボリュームキーを浮き上がらせる処理をしています。磨りガラスのブラスト処理に加えて、裏面に金属蒸着をしていることで、良い質感が出せていると思います。

――AQUOS PHONEのロゴのある部分は、別パーツに見えますが、実は画面全体が1枚のガラスなんですね。なぜ強化ガラスにこのような処理を施したのですか?

伏見氏
 現在のスマートフォンは、サイズや形が似通っているため、店頭で並べられると似たり寄ったりに見えてしまうんですよね。そこに一歩踏み込んで、店頭に並んだとき正面から差別化できる特長になるように、という狙いがありました。素材や形など、デザインの差別化というのは、各メーカーさんが苦労されているところだと思いますが、なかなか難しいんですよね。どこもガラスを使われていますし。だったらそこをあえてやってみようということで、穴開けとか周辺をカットを含め、一気に加工しています。完成した状態ではなかなか分からない部分だとは思いますが、ここはかなり苦労した点でもあります。蒸着することで、角度によって色が変わったり、面白い効果も出ていますし、このためにも「Corning Gorilla Glass 3」が必要でした。

――前回夏モデルには採用されていた「パネルレシーバー」(ダイレクトウェーブレシーバー)がなくなっていますが、それはこのガラスや処理と関係があるのでしょうか。

後藤氏
 そうですね。実はそこが大きくて。このガラスパネルを使うことで、飛散防止フィルムの貼り方を変えたりとか、今までとは違う設計をしているんです。そのため、パネルレシーバーの調整が非常に難しくて、なかなか特性が出しにくくなりました。最終的にはデザインの差別化を図りたかったため、レシーバーは通常のモデルを採用することになりました。

――色展開は、白、黒、青の3色が定番化してきた印象です。

後藤氏
 30~40代ですと、どうしても男性ユーザーが多いのは事実なんですね。ですので、バリエーションとしては男性を意識しつつ、ニュートラルな白を加え、気持ち男性にウェイトを置きながら、バリエーションを設定させていただいております。

フルセグに対応、「グリップマジック」でさらなる省電力化

――機能的な部分をお伺いします。今回はフルセグに対応していますが、他社と差別化している点があったら教えてください。

伏見氏
 SHL23のフルセグの大きなメリットは、録画に対応している点だと思います。本体にアンテナがついていますので、SHL23単体で、どこでもIGZOの高精細な液晶でフルセグをお楽しみいただけます。その際、本体のメモリでもmicroSDカードでも録画していただけるようになっている点が他社との違いだと思います。基本的に本体だけで完結できるんですが、屋内で受信環境が悪くなってしまった場合のために、テレビのアンテナをmicroUSBに変換して、本体に直接つなげるケーブルも別途用意しております。

――卓上ホルダも用意されていますが、こちらにはアンテナはついていないのでしょうか。

伏見氏
 はい。卓上ホルダにはアンテナはなく、充電しながら見られますよ、というイメージですね。卓上ホルダにアンテナをつけるとなると、本体との接点を増やさなくてはいけませんし、デザインにも影響がでてまいります。それよりも、むしろ本体のみで完結したいことも多いだろうと思いまして。

 ただ、卓上ホルダでフルセグを視聴するメリットもあります。今までですと、本体のスピーカーは背面についていますので、音が後ろに抜けてしまっていたんですが、今回はダクト構造を採用することで、本体背面のスピーカーから、卓上ホルダの穴を通じて、音が前に抜けるようになっています。これにより、本体で聞くより迫力が増して聞き応えのある音を楽しんでいただけます。

――音については、今回からDTS Soundに変わっていますが、なぜ変更されたのでしょうか。

後藤氏
 音楽を長時間再生をしたかったというのが大きいですね。ヘッドホンで聴く場合と、内蔵スピーカーでならす場合と、当然チューニングは違うんですが、卓上ホルダに置いたときのチューニングも別にしていまして。卓上ホルダに乗せたときに、それを感知して、人の声が聞き取りやすいチューニングに出力を自動的に切り替えるというようなこともやっています。

――続いて、カメラ周りでの進化点を教えてください。

伏見氏
 夏モデルの約1310万画素から、今回約1630万画素になり、より綺麗な高解像な写真を撮っていただけるようになりました。さらに、撮りたい写真を簡単に撮れるための仕組み、思いのままの写真を撮っていただけるような機能の取り組みも行っております。夏モデルからF値1.9の明るいレンズを搭載していまして、暗いシーンにも強くなりましたが、今回新しく新画像処理機能の「NightCatch」を搭載したことで、薄暗いシーンでもディテールの分かる写真が撮れるようになりました。

 また、「多焦点撮影」といって、近景から遠景まで全体にピントがあった写真が撮れる機能も用意しています。F値1.9のレンズでは、近くにピントをあわせると背景をいいニュアンスでボカせるようになったのですが、「多焦点撮影」をオンにしていただくと、近くも遠くも両方にピントを合わせて、全体をしっかり撮れます。旅行にでかけたとき、人も景色も両方綺麗に撮りたいというときに威力を発揮してくれると思います。

 そのほかに、タッチフォーカスの速度を向上しています。従来のSHL21のときと比べると、約1/2の約0.5秒に高速化していますし、16倍のデジタルズームでも綺麗な画質になる「美ズーム」も用意しています。

――「多焦点撮影」とは、絞って被写界深度を深くするというのとは違うんですね?

伏見氏
 近くと遠くと何枚かピントを合わせた写真を撮って、うまく合成しています。

――今回搭載された機能の中で「グリップマジック」はユニークだなと思いました。画面がオフのとき、端末を握るだけで画面がオンになるということですが、前回は画面をフリックすると電源が入る「SweepON」という機能を搭載されていたかと思います。さらに「グリップマジック」を搭載されたのはなぜでしょうか。

後藤氏
 スマートフォンは電源キーを触る機会が一番多いんですが、画面が大きくなって、電源ボタンに指が届かないというシーンが多くなってきました。そこで、その解決策として考えたのが、画面をフリックすればオンになるという「SweepON」です。

 ただ、タッチパネルで待ち受けるというやり方は、その分だけ消費電力に負担をかけます。それをもっと簡易な方法で解決できないか、と考えたわけです。もっと直感的にやる方法はないか? だったら持ったときに電源がつけばいいんじゃないか、という発想です。そこで端末の下左右の両側面に静電センサーを配置して、持つだけで端末がセンサー作動して電源がつくようにしました。

――「SweepON」と比べて消費電力的には結構変わるものなんですか?

伏見氏
 はい、変わります。ですから、待受の消費電力という意味では、今回の「グリップマジック」を使ったほうが消費電力は低くなっています。単独の「SweepON」もできますが、「グリップマジック」が反応中でないと、SweepONが効かないという設定もできます。

――なるほど。「グリップマジック」は電源オンの他にも、持つだけで時計を表示したり、着信音の消音機能もあるとのことですが、これらは機能的には併用できるのですよね。

伏見氏
 そうです。設定に、全体として使うか使わないかという設定があるのですが、そのほかに持ったときの画面として、時計かロック画面かそれとも何もしないか、着信/アラーム音を最小+バイブ駆動させる機能を使うか使わないか、画面回転抑止機能を利用するかしないかという設定が可能です。時計表示などは、フィーチャーフォンのときのサブディスプレイ的な役割を担えます。

――最近はカバーの装着が当たり前になってきていますが、カバーをしたらどうなるのでしょう。

伏見氏
 カバー装着時の設定というのも用意しています。単純に感度の調整なのですが、1mmくらいの厚さのカバーを装着しても使えるようになっています。すべてのカバーが使えるというわけではないのですが、いくつか検証させていただいていまして、特にKDDIさんでは、au +1 collectionで販売されるカバーがありますので、そちらに関しては検証しています。

使いやすさへの配慮

SHL22(左)とSHL23(右)

――アプリの履歴画面のUIが、縦から横へ大きく変わっていますね。これはどういう意図からでしょうか。

伏見氏
 「クイックランチャー」ですね。夏モデルまでは縦に表示されていたので、片手で持っているときに上のアプリに指が届かないケースもあったかと思います。今回は、「履歴」と「お気に入り」「ミニアプリ」の導線を下にまとめました。横スクロールになっていますので、片手で操作しやすいものになっています。

 また、細かいところなんですが、通知パネルを開くとき、今までは上から下にフリックしなくてはいけませんでしたが、それも画面が大きくなると不便になってくると思いまして。履歴ボタンを長押ししたら開くようにしました。

――確かに下側で操作できるのは便利です。「ミニアプリ」とは何ができるものでしょうか。

伏見氏
 開いていただくと、内蔵動画、ネット動画、アルバム、マップなどがありますが、別のアプリを使いながら、それらを同時に重ねて見られるという機能があります。動画を見ながらメールを書くといった使い方ですね。弊社からミニアプリとして提供するもの以外に、ウィジェットに対応したアプリなら、あらかじめこの「ミニアプリ」タブの中に登録しておけば、ミニアプリとしてミニウィンドウ内に表示して使えます。

――ミニアプリとして使うと便利なものは、もっとご紹介いただけると嬉しい方もいそうです。

後藤氏
 そういうものもSH SHOWで紹介していけたらいいなと思います。

――先ほど、30~40代男女がターゲットとおっしゃいましたが、このほかにもその層を意識した仕様などの取り組みなどはされていますか。

伏見氏
 その層向けというわけではありませんが、今まで他のスマートフォンとかケータイを使っていたお客さんが、より乗り換えやすいような機能はご用意しております。端末を買い換えるときに一番心配なのは、それまで使っていた端末からちゃんとデータを引き継げるかどうかという点だと思うんですね。そこで、「データ引き継ぎ」というアプリを搭載しました。これは従来のmicroSDカードを使ったバックアップ以外にも、Bluetoothで電話帳を引き継ぐという仕組みを入れていて、他社製のスマートフォンや、そもそもmicroSDカードのない端末をご利用だった方も、電話帳データを引き継げるというものです。

――具体的には何が引き継げるのでしょうか。

伏見氏
 フィーチャーフォンからの乗り換えでしたら、microSDカードで電話帳、ブックマーク、スケジュールを引き継げます。シャープ製のフィーチャーフォンでは、SH009、SH010、SH011以外ならユーザー辞書も引き継げます。スマートフォンの場合は、メーカーに関わらず、Bluetoothで電話帳データを引き継げます。microSDカードをご利用の場合は、シャープ製端末に限りますが、電話帳、ブックマーク、メモ帳、スケジュール、ユーザー辞書がすべて引き継げます。気になるのがメールのバックアップだと思うんですが、メールのバックアップについては、Eメールアプリの仕組みを利用していただくことになります。

――Bluetoothをサポートしたというのは便利ですね。

伏見氏
 引き継ぎ元の機種によっては、取り込めないデータも出てくるとは思いますが、Bluetoothを使った引き継ぎはこれまでになかったと思います。

役割を終えつつある「エコ技」

――「エコ技」も少し変わりましたね、前は「標準」「技あり」「お助け」だったのが、丸いオン・オフボタンだけのシンプルなUIになっていました。エコ技について、今回はあまり大きく扱われてない気もします。

後藤氏
 そうですね。「エコ技」は、本当にAndroidの電池が持たなかったときの我々の工夫だったんですが、現在では通常の状態で3日間は持つようになってきましたし、役目としては終えてきた感じはしますね。まったく不要になったかというとそうでもないと思いますが、アプリごとの省電力化や、見えない部分の性能の底上げができてきたので、以前のように、機能を制限してまで細かく調整していくよりは、使い方を単純化していけばいいのではないか、と思いました。

――確かに「技あり」「お助け」に頼らなくても電池が持つ、という方がいいですしね。

後藤氏
 はい。今では、弊社製の端末をお使いの多くのお客様が、それで済んでいると思います。

――そのほかに進化した部分はありますか。

伏見氏
 Feel UXで、アイコンが5列表示できるようになったり、ロック画面、ウェルカムシートの見せ方が全画面になって、より壁紙を楽しんでいただきやすくなっています。

――最後にひとことお願いいたします。

伏見氏
 今回も、バッテリーやフルセグ、使いやすさの向上などさまざまな部分で工夫を凝らしましたが、特に「グリップマジック」は、最後まで調整して苦労した部分でもあります。「グリップマジック」は初めてのことですし、機能そのものにいろんな可能性が秘められていると思いますので、これからも挑戦はしていきたいと思います。まずは店頭で“握って”みていただきたいです。

――本日はどうもありがとうございました。

すずまり