インタビュー

スマートフォンアプリ開発のツボ

「ツイキャス」開発者に聞く、ライブ配信アプリの意外な実態

 スマートフォン1台で気軽にライブ配信を開始できるアプリ「ツイキャス」。先日、ユーザー数が400万人を突破したと発表された。しかも、女性が半数以上を占め、若い女性や学生の間で広がりを見せているという。

 「ツイキャス」を開発したモイ 代表取締役の赤松洋介氏、事業企画の丸吉宏和氏の2名に、「ツイキャス」開発にまつわる話や、意外な実態を伺った。

「ツイキャス」を開発したモイ 代表取締役の赤松洋介氏

友達同士で気楽な会話がしたい

――まず、サービスを開始してから今までの流れを解説していただけますか?

赤松氏
 2010年の2月に開始したサービスです。その年の1月から作り始めて、1カ月程度の開発でリリースしました。当時、iPhoneからのライブ配信に関するAppleの規約が緩和されたばかりで、Ustreamの配信アプリが登場していたので、面白そうだと思い、iPhoneから配信するニーズがあるのでは、と始めたのがきっかけです。当時、iPhone単体でライブ配信ができるのは、Ustreamとうちだけだったのではないでしょうか。

 サービス開始当初は、ライブ配信へのニーズはそれほど多くなかったので、どこまで伸びるか分かりませんでしたが、初月にユーザー登録数で2万5000人が集まり、全くプロモーションをしていない中では、順調に拡大できたのかなと思いました。

 最初の年(2010年)で会員が25万人にまで増え、2011年には75万人になりました。東日本大震災などもありましたが、そうした中でもユーザーが増えAndroid版への要望も高まってきたことから、Android版を新たに開発して提供しました。3年目の2012年には175万人、現在(2013年11月末)は400万人を突破しました。

――400万人のユーザーはどういう構成なのでしょうか。

赤松氏
 最近は、24歳以下が半数、女性が6割近くを占めますね。若い女性、学生を中心に広がっているのが最近の傾向です。

――女性が「配信したい」というモチベーションはどこからくるのでしょうか。

赤松氏
 これが、よく分からないんですが(笑)、というのも、ガジェットオタクが作った配信サービスですから、開発した当時は全くそういったことは考えていませんでした。1年前の2012年11月ぐらいから急に、配信しているユーザーに可愛い女の子が増えてきたという印象で、女子高生、女子大生の間でコミュニケーションの一環として広がってきたという感じです。

 Twitterが(若い女性にも)広がったので、その流れに乗って、もう少しフォロワーさんと気楽な会話がしたい、ということから徐々に広がったようですね。「ツイキャス」ならボタンひとつで配信を始められますし。

丸吉氏
 (若いユーザーの)コミュニケーションは、小さいころはメールでしたが、件名をその都度考えるとかが煩わしいと感じることも多かったと思います。そうした中に「LINE」など、件名などを考えずに気軽にコミュニケーションがとれるサービスが出てきました。「ツイキャス」はもっと簡単で、配信開始のボタンを押したら、あとは送られてくるコメントを読み上げるだけでコミュニケーションがとれます。友達同士で気軽におしゃべりするために使っている人も多いですね。

――Ustreamなどと比較しがちですが、目指している方向は?

赤松氏
 Ustreamなどほかのサービスでは、いざ配信しようとすると設定項目が多かったり、実際に配信してみると音が途切れて視聴者からクレームがきたりしますよね。画質にクレームがきたから、今度はカメラにこだわって綺麗に配信しようとすると、もう気楽には配信できません。

 「ツイキャス」では配信する際の設定を徹底的に排除して、コミュニケーションを中心に据えています。画質はあまり良くありませんが、そこは「『ツイキャス』だから、諦めて」という関係です。女性の顔が綺麗に映ればいい、ぐらいの割り切りでやっています。

 コミュニケーションが中心なので、一番気にしているのは遅延です。30秒とか1分とかズレるサービスもありますが、それだと全く会話が成立せずコミュニケーションにはなりませんから、開発当初からとにかく遅延を無くそうと頑張りました。

――最近では、タレントやアーティストなど有名人が「ツイキャス」を使って配信することも増えているようですが、これは御社から仕掛けたプロモーションの一環ですか?

赤松氏
 全く、そういったことはしていないんですよ。ロンドンブーツの淳さんだけは、1度本人にお会いする機会があって、それから使ってくれているのですが、基本的にみなさん独自に使い始めたようです。

自浄作用で変なコメントは浮いてしまうように

――配信するユーザーに女性が多いということですが、例えばいやがらせなどへの対策はありますか?

赤松氏
 まず、未成年のユーザーの利用に対しては、注意喚起を行うページを設けていますし、同じ配信を見ている視聴者・ファンが通報し、排除できるような自浄作用も醸成しています。

丸吉氏
 「ツイキャス」は、見ているユーザーも女性のほうが多く、女性からの(健全な)コメントが多いですね。そうした中で、(プライベートな情報を聞き出すといった)変なコメントは浮いてしまいますし、変なコメントするような人に旨味がない、という意味では、自浄作用は機能しているのかなと。

赤松氏
 視聴者は通報機能を簡単に利用できますし、報告結果は私達が目視でも確認しています。女性が安心して使えるのは、女性が集まるポイントですから、実はかなり力を入れています。

――サービス名称にもなっているように、Twitterとの連携が基本になっていますが、他のサービスとの連携や独自のプラットフォームなどは考えていますか?

赤松氏
 今後はやっていこうと検討はしています。サービス開始当初、一番懸念していたのは、配信を開始しても、誰も見に来てくれない状況です。独自アカウント(プラットフォーム)で始めたら、絶対にこういう状況が起こるだろうと。なので、最初はTwitterとの連携を必須にしたのです。今後は、いろんなプラットフォームや、独自アカウントも含めて、提供を検討していくところです。

 Twitterって、普通はアカウントを1つや2つ使う程度だと思いますが、若い人はTwitter上で多くのアカウントを持っている人も多く、中には10個以上のアカウントを持っている人もいます。また、最近は「@xxxcas」といったようなツイキャス専用のアカウントを作っている人も増えていますね。Twitterを使っていても、普段の自分とは違うクラスター(特定の集団)を作りたいという傾向があるのかなと。Twitterと連携していますが、実際にはTwitter上でツイキャス用に作ったサブアカウントと連携しているわけです。

――コミュニケーションが中心にあるということですが、「1対多」が当初から想定していた形なのでしょうか? 「多対多」「1対1」などのバリエーションもあると思いますが。

赤松氏
 もともとの動機は、ライブ配信を通じて、普段会えない人とコミュニケーションがとれるといいと思っていたので、基本的には「1対多」で考えていました。

 実は、「多対多」のようなニーズも少し出始めているので、検討はしているところです。ただ、基本は「1対多」です。ネット上で存在できる場所、アイデンティティを作ってあげるというのがここ(ツイキャス)なので。

「ツイキャス」アプリ

1回30分の配信を視聴者が延長できる「コンティニューコイン」

――マネタイズ、収入の仕組みなどはどういう形ですか?

 今、ツッコまれると一番弱いところなのですが(笑)、Webサイト版での広告と、アプリ内課金です。仮想アイテムをいくつか販売しており、ポイントで購入します。ポイントは無料で毎日もらえる分があるので、実際に課金するのはどうしても、というケースです。

 一番人気なのは「コンティニューコイン」です。「ツイキャス」の配信は30分が経過すると自動的に終わるのですが、視聴者がコインを投入し、合計5枚が集まると、自動的に配信を30分延長できるようになります。

丸吉氏
 1コインは50ポイントで購入できます。1日100ポイントを全ユーザーに付与しているので、軽く楽しむ分には、課金しなくても大丈夫です。もっと応援したい、もっと長い時間配信してほしいという場合は課金するという形です。ただ、想定以上に課金されているイメージで、少数が高額な課金をするのではなく、1回でも課金をしたことのある人が、想定よりも多いですね。

赤松氏
 いい配信を長く続けてもらうためのはどうしたらいいのか考えた結果、視聴者が決めればいいのは? という形になりました。

――さらにそこから、配信者にメリットがあるような仕組みは用意されていますか?

赤松氏
 日本人は生活費が高いので難しいですが、海外のユーザーなら、配信の人気が出てこれだけで食べていけるような人が出てくれればいいなとは思います。

 配信者が視聴者からもらうコインですが、もらう側にとっては、それが買ったコインなのか、無料で付与されたポイントで交換したコインなのか、分かりません。自分の配信に「お金を払ってもらう」というのは気が引けますが、ツイキャスのコインなら、無料のポイントで交換したコインがほとんどで、一部に有料で買われたコインが混じっている、という形になり、コミュニケーションする上ではちょうどよいバランスになっているのかなと思います。

丸吉氏
 いい意味での期待値の低さ、というのでしょうか。高画質がウリのサービスではありませんし、しっかりと準備して、クオリティの高いものを配信しなければいけないという空気もありません。メイク中とか、話し相手がいない時にツイキャスにつないでみるとか、ユルい空気があるので、そこは大切にしていきたいですね。

 有名なモデルの方でも、ファンとコミュニケーションを取りたいという目的で使っている場合もありますが、普通に話をしたい、暇つぶしをしたいというスタンスで使っている方もいて、日常のありのままを配信して、それを受け入れてくれるファンの人がいて、配信してみてすごく良かったと声をもらうこともあります。

「ツイキャス」がきっかけでモデルデビュー

――日本では若い女性が今のユーザーの中心ということですが、意外な使われ方、驚いた使われ方とかありますか?

丸吉氏
 海外では、デモ活動の配信に使われる場合はありますね。回線の帯域が細かったり、ライブ配信できるサービスやFacebookなどが遮断されたりする場合でも、「ツイキャス」は使えるという場合が多いようです。画質は悪くても同時に2万人が接続する規模になったこともあります。

赤松氏
 海外だと、化粧している最中に配信とか、無いですからね(笑)。

丸吉氏
 たまに海外でも、好きなグループについて延々と語り合っている人はいますね(笑)。ほかには、知事の方針演説を配信するといった使われ方もありました。

――誰に向けて配信するのかという部分は、最初はなかなか難しそうですが、ユーザーを見ていて傾向などはありますか?

赤松氏
 多くの人は、最初は20人といったフォロワーで始めることが多く、相互に配信しあったり、Skypeでつないでおしゃべりしている様子を配信したりするケースが多いですね。

 やっぱり皆さん、フォロワーは増えて欲しいようで、「ツイキャス」はTwitterのフォロワー向けに告知しますが、誰でも見られるので、1回配信すると、Twitterのフォロワーが何人か増える、そういった部分も楽しんでいるようです。

丸吉氏
 例えば、フォロワーが200人ぐらいしかいない女子高生のユーザーがいたのですが、「ツイキャス」を配信しているうちに、本人のキャラやメイクキャス(メイク中のツイキャス)が人気になって、フォロワーが2万人を超えるというケースもありました。その後、モデル事務所から声がかかってモデルとしてデビューしました。そういうケースも「ツイキャス」で登場していますね。

――スポーツなど、イベントでも活用できそうですが……。

赤松氏
 南米では草サッカーの試合が「ツイキャス」で中継されることもありますが、スタジアムはガラガラなのに2000人以上が視聴していたこともありましたね。ただ、動きの激しいスポーツは映像的にブロックノイズなどがひどく、なかなか難しい部分もあります。

丸吉氏
 なにかのイベントを中継する際にも、配信する人が、見ている人とちゃんとコミュニケーションできるかどうかが、「ツイキャス」においては人気になるかどうかのポイントですね。ただ映像を見たいというだけでなく、実況でもなんでもいいんですが、しっかりとコミュニケーションをとってほしいと「ツイキャス」のユーザーは思っていると思います。

赤松氏
 神聖かまってちゃん(バンド)が「ツイキャス」を使って、ライブを始める前にビールを飲んでいるところから配信していました(笑)。ライブで歌って、盛り上がって、途中でパソコン見ながらコメント読んで、終わって楽屋に戻ってくるまで配信していましたね。ファンサービスとして、すごく面白いと思いました。

海外を含め、3年でユーザー数3000万人以上が目標

――海外向けはこれから力を入れていくのでしょうか?

赤松氏
 今は日本で伸びているので、日本に力を入れていますが、言語の壁があるサービスでもないので、海外は広げていきたいと思っています。来年は、海外にかなりフィーカスして動いていこうと考えています。せっかくブラジルでもたくさんのユーザーがいるので、仕掛けていきたいですね。

 長い計画でいうと、東京オリンピックもありますし、海外に進出してまた戻ってくるといったような感じになるといいと思っています。

 まずは今後3年間で3000〜3500万人のユーザー数を目標にしていますので、それには日本だけでは足りないので、海外もやっていこうと、いろいろ考えているところです。

――プライバシーなどへの配慮も気になるところです。

赤松氏
 そうですね。個人情報は出さないようにお願いしています。最近増えているのは、“マスク文化”というんでしょうか、マスクを被って配信するという、いわば“自己モザイク”ですね。ほとんどは途中で取っちゃうんですけど(笑)、工夫して配信されていますね。

丸吉氏
 特に未成年は保護していかなければいけないので、Webサイトに注意事項をまとめていますし、プライバシー保護の機能をシンプルに使えるようにしたり、パスワードで閲覧を制限する鍵付き配信などの機能も提供しています。自浄作用も大きいので、根気よく続けていくのが大切かなと思っています。

電車の中でコーディング、遅延を減らし、音声は「死守」

――少し技術寄りの話題になりますが、当初はiPhone版が提供され、後にAndroid版が登場しました。どちらがアプリを作りやすかったですか?

赤松氏
 エンジニアとしては、iPhoneアプリを作るのは楽しいですね。Androidアプリを作るのは、けっこう苦労しますね。まず、iPhoneアプリは、パターンが綺麗にできていて、どんな風に作ってもUIが綺麗に作れるんですね。Androidは画面の遷移、次の画面の表示の仕方から決めないといけない。いい意味でカスタマイズできる。腕が試されるのがAndroidですね。iPhoneは誰が作ってもこういうUIになるので。

 Androidは機種依存にけっこう悩まされ、ソースコードの中にも「if XXX」(XXXは機種名など)とか大量に入っているので、開発は辛いですね。

――開発している上での工夫、醍醐味などは?

赤松氏
 たくさんの人に使ってもらえるのは嬉しいですね。

 サーバー側は、ストリームを独自に組んでいるので、かなり工夫しています。配信画質や、どんなビットレートでも配信できるようにするのは重要で、電車の中でもコーディング(プログラムの作成)をしていました。電車に乗って、通信が切れるログを見ながら「ここまでなら耐える」という調整を延々と繰り返していましたね。当初はそういう形で作っていました。都内は上り帯域で制限される場合もあり、それでもなんとか配信できるようチューニングしました。

 そうすると今度は、移動しながら配信するケースが増えてきて、基地局のハンドオーバーの問題が出てきました。5秒ぐらいデータ通信が途絶える中で、パケットのキューはある程度までなら繋いでくれるということもあり、いかに途切れないようにするかという。キャリアによってはハンドオーバー時のパケットのロスも多いので、どう配信が途切れないようにするか、延々とチューニングしながら開発しました。

 海外に行った際も、あちこちで配信テストをしました。サーバーは日本にあるのですが、サーバー内ではレイテンシー(遅延)がどれくらいあるのか計測してパラメーターを決めているので、そうした点のチューニングもしました。

――「ツイキャス」のサービス開始時点では、まだ3Gが主流だったと思いますが、LTEが普及して、変わったことはありますか?

赤松氏
 実は、まったく無いですね。LTEになっても、(瞬間的な)バーストはすごくスピードは出ますが、こういうストリーム系は安定性が一番重要なので、安定性という意味ではあまり変わらないですね。LTEでも通信速度がグッと落ちる時は落ちますし。

――あるフィーチャーフォン向けの動画配信サービスの関係者からは、映像もいいが、まず音声を途切れさせないのが重要、という話を聞いたことがあります。そうした、映像よりも音声、といった工夫はされていますか?

赤松氏
 おっしゃるとおりですね。繋がりの優先順位では言えば、音声は最後まで死守します。映像のフレーム数が落ちても音声は確保するという形です。優先順位は、音声、コメント、映像の順番ですね。

 海外のユーザーはパソコンで見る場合も多いのですが、通信回線が遅い環境でフレームが落ちても、音声だけは繋がるようにしています。

「ユーザーを開発者が知っていることが、良いサービスを提供できるポイント」

――今後、「ツイキャス」以外のサービスや製品は出てきますか?

赤松氏
 考えることはありますが、まずは「ツイキャス」一本でいこうと。現在は社員が10人ぐらい、開発は4人ぐらいですから。この春までは3人でしたし、その頃は開発しているのは私一人でした。今、ほかに手を出している場合じゃないと。

――開発部隊は社内だけですか?

赤松氏
 社内だけですね。デザインだけ一部、外部の人に依頼しています。基本的には内製にしたいと思っていて、ユーザーを開発者が知っていることが、良いサービスを提供できるポイントだと思っています。ユーザー像を知らいない人間が作るというのは、私はどうにも納得できないんですよ。

丸吉氏
 赤松が開発しリリースしてから3年目ですが、人気が出てきたのはこの1年ぐらいです。会社の壁にも「忍耐」という言葉を掲げてあるのですが(笑)、一人ひとりのユーザーに楽しんでもらえるようサービスを作ってきました。ユーザー数は増えていますが、すべてのユーザーが満足するところまで到達していません。一人ひとりのユーザーが楽しんでもらえるような部分にフォーカスして開発していきたいですね。

――本日はどうもありがとうございました。

モイの社内に置かれたラジコンの棚。社員のおもちゃのように見えるが、よく見るとなにやら基板が取り付けられているものも……
実はネット経由で遠隔操作できるように赤松氏が改造したラジコン。これらのプログラムで必要になった低遅延の技術が、「ツイキャス」に応用されているという

(太田 亮三)