インタビュー

総務省が進める「競争政策見直し」とは何か

ドコモに聞く、今後の課題

 2月26日、総務省で「2020-ICT基盤政策特別部会」という有識者による会合が開催された。「2020年代に向けて、通信・ネット関連の業界の在り方を見直して、世界トップレベルの環境を作ろう」という目標を掲げて、これから議論していこう――という会合だ。

 2020年代と言えば、今から6年以上先の話。競争政策はときおり見直されるものだが、今回設置される特別部会自体は、2013年6月に政府から発表された「日本再興戦略」をきっかけにしたもの。そうした経緯から、そして2020年に東京オリンピックが開催されることを奇貨として、もっと便利に、今までにないサービスを実現するためにはどうすればいいのか。今年11月に答申が出るという今回の特別部会での議論は、これから私たちが利用できるサービスの内容に大きく関わるものになりそうだ。

 特別部会では、競争にまつわる制度や仕組みを見直して、これからの発展に繋げることが目標とされているが議論はこれから。今回はNTTドコモに取材し、その主張を紹介したい。

「事前規制」による禁止行為

 特別部会に先立つ、2月上旬、一部で「(NTT東西の固定回線とセットで契約する)ドコモのセット割、解禁検討へ」といった報道がなされた。そうした割引を望むユーザーも少なくないだろうが、今回、ドコモの主張を取材したところ、「セット割」は主題ではないようだ。

 NTTドコモは、今回の競争政策の見直しを通じて、事前規制の撤廃を求めていく考え。この事前規制とは、通信事業者を対象にした法律「電気通信事業法」の第30条第3項のことだ。第30条は、一定のシェアを超える通信会社が“やってはいけないこと(禁止行為)”を定めている。具体的には、NTT東日本/西日本、そしてNTTドコモが規制の対象だ。

 第3項に記された禁止行為は以下の通り。

  • 他社設備との接続で知り得た他社の情報を(営業活動など)目的外に使ったり、提供すること。
  • 特定の電気通信事業者を不当に優先的な扱いをして利益を与えたり、逆に不当に不利な扱いをして不利益を与えないこと。
  • 販売代理店やメーカー、コンテンツプロバイダーなどに対して、不当に干渉したり、縛りをかけたりすること。
シェアが高い事業者には禁止行為規制がある(総務省資料より)

「他社との提携もスピーディにできない」

 この禁止行為の規定が、ドコモが採る戦略的行動の決断・実施を萎縮させ、モバイルという変化の激しい業界にあって大きな足かせになっている、とドコモ企画調整室長の脇本祐史氏は語る。

「各社がLTEを採用し、iPhoneを取り扱うようになって、差別化が難しくなっている中、規制が競争力に直結するようになってきた。(事前規制は)足かせになっていて、非常に萎縮しやすい」

 たとえば2つ目の「特定の事業者を不当に〜」という部分の規制は、「ドコモとNTT東西のセット割」が実現できない理由の1つとされる。この規定は“A社だけをひいきにするな”という内容で、もしNTT東西とドコモが、お互いのサービスを組み合わせた割引を提供した場合、NTTグループ外の他社のサービスとのセット割も提供しなければならなくなる。そもそも割引を提供する意味がなくなり、「ドコモと東西のセット割」が実現しない。競合他社にとっても、NTTグループのシェアを考えるとそう簡単に認められるものでもないだろう。

MVNOのサービス内容に差が出ない一因

 第30条第3項の2つ目は、ドコモとビジネスしようとするMVNO(電気通信事業者にあたる)に対して、イコールフッティング(平等な立場)を用意するものだが、こうなると、一定のビジネス条件で合意したMVNOも、そういった合意のないMVNOも同じ環境にせざるを得ない。もしドコモがパートナーに選んだ一部企業だけ特別にドコモのネットワーク設備の奥深くまでアクセスできるようにすると、これまでにないサービスを提供できるかもしれないが、規制のため、その条件は他社にも当てはめなければならない。全ての企業が顧客情報の漏洩対策を施した環境を用意し、悪意ある第三者からの攻撃に備えられるような、信用できるところであればよいが、そうもいかず、結果、MVNOと組む際にはある程度、提供できる条件を絞ることになる。

 どのMVNOに対しても同じ条件で提供しなければならず、その条件も柔軟性に欠ける。つまり個々のMVNOが抱く独自の要望に応じられない――だからこそ、現状のMVNOのサービス内容に大きな差が生まれないのではないか、と脇本氏は説く。

 イコールフッティングと接続義務があることで、MVNOへの提供条件が画一化する、と主張するドコモでは、今回の見直しで、MVNOに対する回線の提供は、相互接続ではなく卸への一本化も求めるという。

 また、AmazonのKindleは接続できるサーバーが限定され、Webブラウジングができないようになっている、という事例も、前述の条文へ違反することを恐れ、自主規制した結果のようだ。脇本氏は「一般的に法人向けサービスは相対契約で提供することになるが、たとえばユーザーがインターネットへアクセスできるようにする特定のサービスは、単なるサービスではなく他人の通信を媒介する“電気通信事業者”と見なされる可能性がある。そのサービスを提供する事業者だけ特別扱いすることが難しくなって、機能を制限しなければならなくなる」と語る。

総務省の資料でもMVNOは今後、成長が期待されるサービスとされている

 ディズニーブランドの携帯電話を扱う際も、MVNOとは言わず、ドコモのラインアップの1つとしてきたが、これも「ドコモショップで特定のブランドのMVNOだけ扱うと、ドコモが関与していない他のブランドのMVNOも扱う必要が出てくる」(脇本氏)として、ドコモが考えたためのようだ。

異業種、スタートアップの子会社化も……

 第30条第3項の3つ目である、不当な干渉・縛りに関する事項は、至極当然のことのように思える規制内容だが、この規制へ違反を避けるため、ドコモでは異業種の企業を子会社化することが多いのだという。脇本氏は、ドコモには多くの特許があり、たとえばスタートアップ企業と提携したり、出資を少額にとどめて、その特許を利用しやすくするなど、協力体制を構築した場合、その企業がドコモの競合と手を結ぶことになっても、「第30条3項3号」に抵触する可能性があるため止める手段がないと指摘。そこで、たとえば経営権をドコモが握る程度まで出資せざるを得ないのだと説明する。

グローバルプレーヤーが競争相手

 第30条で記されている“事前規制”は、一定のシェアを持つ、力のある事業者を対象としたものだ。ドコモと直接競合する企業にとっても、あるいはドコモと取引する企業にとっても、その力がある程度縛られていたほうが競争しやすく、ビジネスを成り立たせやすくなるのではないか、ひいては多くのプレーヤーが参加しやすい市場が形成され、その切磋琢磨がもたらすあれこれがユーザーにとっての利益になる――というのが、基本的な市場の在り方であり、実際にそう感じる方は少なくないだろう。

モバイル分野には携帯キャリアだけではなく、OS、コンテンツプロバイダ、OTTなどさまざまなプレーヤーが存在する

 こうした状況のもと、規制があることでドコモの脇本氏は「規制への抵触を恐れてスピーディに動けない」と指摘する。iモードケータイが主流の時代であればドコモは強大な存在で、一定の規制は当然のものだったが、他社のシェアが伸長したこと、国内ユーザーの多くが携帯電話を手にしてスマートフォンの普及も現在、一服感のある状況に突入したこと、さらにグーグルやアップル、Facebook、Amazon、LINEといった企業がOSや端末、その上でのサービスにおいて主役に躍り出てきたことにより、ドコモの市場支配力がなくなったことが、規制撤廃を求めるまでに至った要素なのだという。

 FacebookやLINEといった企業は、インターネット上でサービスを提供する事業者を指す「OTT」(Over The Top)に分類される。グーグルやアップル、AmazonもまたOTTの一員だが、さらにスマートフォンやタブレットまで提供する“垂直統合モデル”であり、多くの強みを持つ企業でもある。

OTTには規制をかけられない

 ドコモが指摘するOTTの進出、たとえばアップルのように、端末とサービスをセットで提供する企業の市場支配力はどうだろうか。店頭での販売状況は、各社同じような什器が用意され、料金プランもあまり大きな差はない。iPhoneだけを対象にした割引キャンペーンが実施されることも少なくない。各種調査データでも、日本ではiPhoneの人気は高く、販売ランキングの上位を占める。はたから見ると、通信キャリアよりもアップルのほうが強い存在に思える状況で、なおかつ、NECやパナソニックといった国内メーカーがスマートフォン市場から撤退したことでさらにアップルの支配力は増したようにも思える。だが、このアップルに対して、電気通信事業法第30条の規制はかけられない。もちろんグーグルやFacebook、Amazon、LINEといった企業にも、第30条による規制はかけられていない。

 海外企業が主役になるケースが増えると、国民の共有財産である電波による富が、日本から流出しているのではないか、との考え方もできる。たとえば端末だけでも、CIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)が定期的に報告する通信機器の輸入統計を見ると、2013年通期での輸入額は前年より43.4%増加し、1兆6116億円に達した。そのほとんどはアジアからの輸入、それも中国からの輸入が大半を占める。ちなみに日本からの携帯電話の輸出は、2013年、67億円だった。前年比175%と大幅な伸びを示してはいるが、輸入の規模とは桁が違う。こうした状況から、月ごとの貿易収支を伝える報道では、赤字を招く要因としてスマートフォンが挙げられる機会も増えてきている。CIAJの統計では、国内メーカーが海外で生産した分も含まれるため、一概に全てが海外メーカーのスマートフォンと言うことはできないが、販売ランキングやOS別シェアなどから、海外メーカーが相当の割合を占めていることは推測できる。CIAJからは、国内での携帯電話の生産額が大幅に落ち込んでいることも報告されている。こうした数値からも、近年のモバイル業界が、かつての状況とは大きく様変わりしたことは裏付けられる。

 こうした状況が定着すると、通信キャリア、とくに携帯電話会社はいわゆる“土管化”が進む可能性が高まる。キャリアのお仕着せで独自サービスが用意されても、ユーザーのニーズにマッチしないこともあり、特にITリテラシーの高いユーザー層からは敬遠される傾向にある。だが、土管化が進むと他社との差別化が難しくなり、価格競争だけしかできないのであれば、通信会社は利益を得ることが難しくなる。そうなれば、全国津々浦々に張り巡らされた通信設備をメンテナンスする費用、あるいは今後登場するであろう次世代技術を開発する費用、はたまた他社が開発した技術を調達する費用をどうまかなうかが課題になる。実際にコンテンツなどで収益性を高められず、安価な通話サービスで一定の人気を得るも、先端的な技術の開発を進めようとして頓挫したウィルコムという例もある。

 こうした点は、ドコモ側も指摘しており、日本そのものの競争力を維持、成長させるためにも、規制の撤廃を求める、という説明だ。

「KDDI、ソフトバンクの競争力は増している」

 規制のかけられていないauは、固定網とスマートフォンをセットにする割引「auスマートバリュー」が好調で、3M戦略に基づき、次々と新基軸を打ち出している。ソフトバンクモバイルは、ウィルコムやイー・アクセス(イー・モバイル)を傘下に収め、さらには米スプリントまで買収。端末やネットワーク設備などで多大なスケールメリットを得られる可能性が増してきた。ドコモは“スマートライフ”を掲げてサービス面での拡充を図っており、三者三様の戦略が見て取れる。

携帯電話だけでのシェア(総務省資料より)
PHSとBWAを含むシェア(総務省資料より)

 国内市場でのシェアを見ると、ドコモのシェアは2003年3月末に55.9%だったが、2013年9月末に44.3%、PHSのウィルコムと、高速ブロードバンド(BWA)のUQコミュニケーションズや、Wireless City Planning(WCP)を考慮に入れると40.9%になった。ドコモからすると「他社が強力になり、グローバルな事業者が主役になって、本当にドコモだけに禁止行為規制をかけなけれなならないほど、今も市場支配力があるの?」と問いかけたい状態のようだ。

各社に割り当てられた周波数(総務省資料より)

 たとえば各社が保有する周波数(700MHz帯など未使用分含む)は、ドコモが160MHz幅(東名阪のみ、他地域は120MHz幅)で、auとUQはあわせて160MHz幅、ソフトバンクグループ(ウィルコムやイー・モバイル、Wireless City Planning含む)は201.2MHz幅あり、脇本氏はソフトバンクが最も周波数を持っている、と指摘する。ソフトバンクとイー・モバイルは互いにローミングしあって、ほぼ一体化している状態。先述した事前規制、そして電波の割当は会社単位でグループ単位ではないが、ドコモは「グループごとにすべき」とも語る。シェアを見ると、携帯電話だけでも、ソフトバンクモバイル単体では、市場シェアが24.5%、収益シェアが23.4%だが、イー・モバイルを含めると市場シェアは27.6%、収益シェアは25.3%になる(収益シェアは各社決算資料より推計)。

禁止行為の対象にあてはまるのは一定の条件を満たした事業者

 第30条の事前規制は、「一定期間、継続して市場シェアが40%以上、なおかつ特段の事情がない場合」あるいは「一定期間、市場シェアが25%〜40%で、シェア1位で市場支配力が強い企業」あるいは「シェアは2位以下でも1位との差が小さく市場支配力があると見られる」場合、対象になる。KDDI、ソフトバンクともに、今の段階では規制対象ではない。だが、ソフトバンクの場合はグループで考えると、今すぐではないだろうが、今後、事前規制の対象に追加される可能性が見えてくる。

 これに対して脇本氏は「もし他社がこのまま成長を続けたとき、ドコモと同じような規制をかけられてもいいのか」と述べ、現在のモバイル業界のような技術革新が著しい分野では、規制そのものを撤廃すれば、競争の活力が損なわれないのではないかと説く。

他社の考えは……

 さて、ここまでは、ドコモの主張を紹介してきた。彼らは現在の状況からすると、「規制の撤廃」を求めているが、確かにアップルやグーグル、LINEの存在感を考えると、現状の法規制は時代の変化に追いついていないようにも思える。

 かつての巨大企業は今や他社に押され、OTTプレーヤーに主役の座を奪われた……だが、そのドコモの後ろには、いまだFTTH市場で7割のシェアを持ち、日本を代表する企業グループであるNTTグループがある。

 競合他社からすれば、その存在感はまだまだ強大だろう。次回はKDDIに対して取材した結果を紹介しよう。

(関口 聖)