インタビュー

総務省が進める「競争政策見直し」とは何か

ソフトバンクが危惧するのは「NTT独占回帰」

 2020年代、日本のICTを世界トップクラスにする。そのためには何が必要か――そんな視点で議論がはじまったのが、総務省での有識者会合「2020-ICT基盤政策特別部会」だ。

 同会合では、これから通信事業者の意見を聞き取り、論点を整理して議論を重ね、夏に中間整理、9月に報告書案がまとめられ、11月に正式な報告書、そして大臣への答申という流れが想定されている。どういった論点が出てくるかはこれからだが、2月上旬には一部で「ドコモとNTT東西のセット割を解禁検討か」といった報道もあった。

 ひとまず本誌では、モバイル分野における大手3キャリアへ取材。これまでにNTTドコモ、そしてKDDIの主張を紹介してきたが、今回はソフトバンクの社長室長である嶋聡氏、同室企画渉外グループの川崎剛氏、ソフトバンクモバイル渉外本部渉外企画部部長の吉野充信氏に話を聞いた。

ドコモ、KDDIの主張

 本誌では14日にドコモ、18日にKDDIの主張を紹介する記事を掲載した。

ドコモの主張

  • 事前規制の撤廃
  • MVNOへの接続義務を撤廃して卸に一本化する

KDDIの主張

  • 競争環境を促進するための仕組みが重要
  • 通信業界はインフラ設備で競争
  • 事前規制の撤廃は認められない
  • 規制行為ガイドラインの明確化はあり得る

 市場環境が大きく変化してきたことを受けてフリーハンドを求めるドコモ、そして今後も競争を促進するためには大きな存在であるNTTグループには規制をかけつつ、一定の条件見直しの姿勢を見せるKDDI、という形だ。

「NTTへの独占回帰に繋がる動き、認められない」

 取材に応じたソフトバンクの嶋氏は、1996年〜2005年まで衆議院議員(新進党〜民主党)を務め、その後、同社の社長室長に転身して孫正義社長をサポートしてきた。国会議員として、NTTの再編に立ち会ってきたと語る同氏は、先行して報道された「ドコモのセット割」をもとに、NTTグループの一体化に繋がる動きであり、NTTの独占回帰になりかねないと語気を強める。

ソフトバンクの嶋氏

「(ドコモが求める)規制緩和は、言葉だけ見れば良いことのように思う人がいるかもしれない。しかしNTTグループは、かつて通信市場を独占し、それでは市場が発展しないということで規制をかけて、競争を促進してきた。今もNTTグループはFTTH(家庭向け光ファイバー)市場で7割のシェアを持ち、NTTドコモも携帯電話市場で45%のシェアを占める。2位が追い上げたといってもまだ10%も差があり、ようやく背中が見えてきたかな、という段階。海外、特に先進国では旧国営企業がシェア1位のままということはない」

 嶋氏はこのように語り、仮に民間企業がNTT側を抜いたという事態にまで至ったのであればともかく、旧国営企業が多少落ち込んだからと言って、その企業が復活するようルールを変える、というのはおかしいと指摘する。

日英米の比較

 渉外企画部部長の吉野氏は、NTTグループの筆頭株主は今も政府(財務大臣が37.94%を保有)であり、売上ベースでみても他社を依然としてリードする状況と説明。ドコモの年間の端末販売数(約2400万台、2012年度)は、KDDI(1400万台やソフトバンク(1300万台)を大きく上回り、販路の力も強大なままとして、「規制の撤廃は、NTTグループが(資本的な繋がりを断って)バラバラにした後ならまだ検討できる。しかし固定側のシェアは、今も異常に高い(FTTHでNTTが7割)状況。携帯電話の状況だけ見て規制の話はできない」と述べる。

販売力の差も指摘

「セット割の話題、NTTはクレバーだ」

 総務省での議論はスタートしたばかりだが、一部報道がそれに先んじて出たことから、嶋氏は「今回はNTTが先に仕掛けてきたような形。これまではソフトバンクのような立場から問題提起するところが、今回は珍しい。極めて不思議に思っている」とコメント。報道がなされた背景のどこかに、NTT側の意図があるとの推測で、政治にも携わった同氏らしい見方だ。

禁止行為の撤廃はNTTグループ独占になる、と危惧を示す

 また同氏は、規制撤廃を求めるドコモの主張も「クレバーだ」と評する。これは、ドコモが規制のためパートナーになる企業との協力の形に不都合がある、という主張を踏まえたもの。ドコモでは、たとえばMVNOに回線を提供する場合、規制のため、一部のMVNOだけを特別な条件にできず、結果的にどのMVNOにも全て同じ条件で提供せざるを得ないとしている。この背景には「多くのシェアを持つ企業は不当な優遇をしていけない」という規制があり、ドコモではこの規制の撤廃を求めている。

 だが、ソフトバンクからすると、この規制がなくなると、NTTグループとドコモの付き合い方も変化し、NTTグループの一体性が高まることになる。「規制のために柔軟な活動ができない」としつつ、表裏一体でNTTグループの競争力アップにも繋がる主張――ということで、クレバー(賢い)と評しているようだ。

ガイドラインの明確化も

 規制によってMVNOへの柔軟な対応ができない、そしてNTTグループとのセット割ができないということであれば、たとえばNTTグループとの協力に関する規制はそのままで、MVNO側とドコモの交渉についての規制を緩める、といった考え方はあるのか。KDDIへの取材では、担当者は「ガイドラインの明確化」に言及していたが、吉野氏も同様の考えを述べる。

 「ひとまず十把一絡げにしてはいけない。冷静に議論したほうがいい。ガイドラインの明確化という考え方については検討してもいいのではないか」(吉野氏)

 このあたりはKDDIと同様の考え方と言ってもよさそうだ。

イー・モバイル、ウィルコムとの関係は?

 ドコモでは、ソフトバンクグループを念頭にした主張も行っている。これは、ソフトバンク、イー・モバイル、ウィルコムをまとめれば、周波数も多く割り当てられ、売上も大きくなってきた、ということから出てきたもの。

 これに対して嶋氏は「みんな民間から出てきた企業」と語り、NTTグループと同質で語れないとする。

 吉野氏は、ユーザーからすると、3社のブランドは別々のものと認識されており、同じように扱われているわけではないと語る。ソフトバンクグループのLCC(ローコストキャリア)という路線を採り、統合も間近なイー・モバイルとウィルコムだが、ソフトバンクの提供するサービスや端末と競合して、ユーザーを取り合っている部分もあり、ユーザーにとっても複数の選択肢があるという状況のほうが望ましいと説く。

ユーザーの利用料をトラフィックベースで見ると低廉化が進んでいると主張

光の道は……

 民主党政権時代の2010年、総務省で掲げられた「光の道」という構想は、2015年までにブロードバンド利用率を100%にする、というものだった。その目標を達成するための手段として、ソフトバンクも当時、メタル回線(ADSLに利用)を光回線に切り替えることを提唱していた。それから4年を経て、ソフトバンクでは「FTTHの普及率は2012年度で48%」として、当時の構想がまったく達成できていないと指摘するが、それ以上の主張は、今回の取材では説明されず、今後の議論の論点の1つ、とするに留まっている。

 3社への取材を通じて、電気通信事業法第30条第3項を巡って意見がぶつかる一方で、それ以外の論点はあまり挙げられていない。ただ、嶋氏は、今回の議論を通じてどういった目標を掲げるのかという質問に対して「2020年に向けて、日本のIT社会が素晴らしいと思えるようにすることだろうが、そのためには、今まで成功してきた“民間が成長する”という政策を採ったほうがいい。たとえば固定網については、今回の議論で2020年までに構造分離(NTT内の設備を分離)すると決めるのがいいのではないか」と語り、論点の1つになり得るとの見方を示す。ただ、取材では主にNTTグループの独占回帰を危惧する、という論を強調しており、その他の“落としどころ”については、まだ明らかにしない、あるいは強く主張しないような印象だ。

4月から議論が本格化

 ここまで3キャリアの主張を紹介してきた。ソフトバンクからは、グーグルやアップル、FacebookといったWebサービス、あるいは端末とサービスをセットで提供する、いわゆるOTTに関する主張はほぼなかった。また米Sprint買収と、今後のT-Mobile買収に向けた取り組みによる影響、たとえば基地局や端末を日米で調達することでのスケールメリットなどは触れられていない。

今回、ソフトバンクの主張は焦点を絞った形

 本誌では今後、さらにイー・モバイルに対する取材も実施する。ソフトバンク傘下となり、ウィルコムとの統合を控えた今、一キャリアとして今回の競争政策の見直しをどう捉えているのか。

 さて、今後は、総務省で各事業者へのヒアリングが行われる見込みだ。たとえばNTT東西がどういった視点で議論を提起するのか興味深いポイントになる。

 また、3月に入って、MVNOが参加する団体から、3キャリアおよび総務省に対する提言も発表されている。莫大な設備投資が必要な携帯電話サービスでは、競争促進のため新規参入を募り、かつてイー・モバイルが参入したが、2014年の今、ブロードバンドサービスを含めて、ドコモ・KDDI・ソフトバンクの3グループへ収斂された。こうした状況下で、全国各地に基地局を設置する新たな事業者の参入を促すよりも、より多くの、そしてより多彩なMVNOによるサービスを促進することは、今後の競争促進に繋がるとの見方もある。

 こうしたさまざまな要素を踏まえつつ、より便利に、もっと手頃な価格で、そして多くのサービスが存在して、ユーザーにとって選択肢が豊富と言える状況になるような結論に行き着くことを期待したい。

(関口 聖)