インタビュー

豪華審査員が次代のクリエイターを発掘「SPAJAM 2014」

豪華審査員が次代のクリエイターを発掘「SPAJAM 2014」

ハッカソンイベント主催者インタビュー

 モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)が主催する、「スマートフォンアプリジャム(SPAJAM)2014」が7月に開催される。スマートフォンアプリのネクストクリエイターを対象とした競技会で、企画部門とハッカソン部門の参加者を4月24日から募っている。書類選考や地方予選を実施し、本選では温泉つきの宿泊施設で2泊3日のハッカソンを実施するという。これまでMCFが実施してきた「東京国際スマートフォンアプリアワード」にはなかった、新たな取り組みだ。

 審査委員には、日本Androidの会・名誉会長の丸山不二夫氏、デジタルハリウッド大学大学院教授の三淵敬自氏、ガンホー・オンライン・エンターテイメントCEOの森下一喜氏、ドワンゴモバイル代表取締役社長の川影幸久氏ら12名が名を連ねる。実行委員もふくめ豪華メンバーが揃う「SPAJAM 2014」だが、商品も豪華で、最優秀賞にはシリコンバレーツアーを進呈するのだとか。

左からMCF専務理事/岸原孝昌氏、ガンホー・オンライン・エンターテイメント取締役オンライン本部上席本部長/越智政人氏、ドワンゴモバイル取締役/川下勝也氏

 主催メンバーである、MCF専務理事の岸原孝昌氏、ガンホー・オンライン・エンターテイメント取締役オンライン本部上席本部長の越智政人氏、ドワンゴモバイル取締役の川下勝也氏の3名に、今回のイベントについてお話を伺った。

作って終わりではない、次に繋がるイノベーションを

――まずは、「SPAJAM」開催のねらいを教えていただけますか。

岸原氏
これまで「東京国際スマートフォンアプリアワード」として2回ほど実施してきました。スマートフォンのコンテンツビジネスを盛り上げようということで、企業スポンサーがテーマを出して行う、ビジネスに向けた取り組みでした。

 今回からは、新たなフェーズとしてハッカソン形式を採用することでイノベーションを展開できるものにしようと内容を協議しました。ゲームであっても先進的なソリューションであったり、ゲームに限らず、たとえばウェアラブル機器を使った、我々が想像もできないサービスなど、より幅広く展開していきたいという狙いがあります。

 現在、日本全国でハッカソンが行われていて地方自治体も力を入れているようです。ハッカソンは、当日集まって作って、言ってしまえば“自慢して終わり”みたいに、一時的に盛り上げて終わってしまうケースが多いように思います。「SPAJAM」では、チームビルドのときや、本戦JAMでの審査員との交流、企画部門とハッカソン部門で集まるパーティ、優勝したらシリコンバレーツアーがあり、あちらで活躍するプログラマーとの交流などを用意します。最後までいくと、ミートアップできる場を4つ設けていることになります。それによって新たなイノベーションが生まれ、その場で終わりではなく“次に繋がる”ハッカソンにしていきたいと考えています。

MCF専務理事 岸原孝昌氏

 それから、他のハッカソンと違うところは、審査員が超豪華という点ですかね。見ていただけるとわかると思いますが、審査員に名を連ねているメンバーは、この業界で実績のある人たちです。審査員も制作の課程を見ていくので、参加者は交流できますし、とても刺激になると思います。

――ハッカソン部門では、5人以内のチーム参加でしたね?

岸原氏
 はい、そこもポイントのひとつです。プログラマーは、誰かと一緒にやりたいというよりは、好きなことをやりたいという人が少なくないと思いますが、今回はデザイン性も審査基準に含まれるので、普段は声をかけられないデザイナーの女の子を誘う、といったきっかけになるのではないかと。「一緒に出てくれない? 温泉行けるよ」って言って(笑)。1人足りないから会社のサーバーチームから1人を巻き込むとか、そういったチームビルドによって、新たな何かが生まれることも期待できます。

――現状、この業界では開発者が取り合いになっている印象があります。企業としても、優秀な若手を発掘したいという狙いがあるのでしょうか?

越智氏
 タイトルに“ネクストクリエイター”と入れています。はじめは年齢制限を入れようといった話があったのですが、それは外すことになりました。プロとして腕に自信のある方はもちろん、学生さんなどにも広く参加してもらいたいからです。若手発掘がMCFのミッションでもあるので。

――企業でも参加できるんですね。そうするとビジネスの経験も反映されてくるのでしょうか?

ガンホー・オンライン・エンターテイメント取締役オンライン本部上席本部長 越智政人氏

越智氏
 書類選考がありますが、若手からベテランまでバランスよく、本選に出てほしいと考えています。当然チームごとに個性が出てくると思います。最大5人のメンバーですので、プランナー、プログラマー、デザイナーで構成されると思うのですが、若いチームやベテランチームなど、そこから生まれる企画も変わってくると思います。

――いろんなアプリが出ていますが、最近はものすごく斬新なものってそんなに出ていないですよね? 当然、技術や知見はある方々ですが。今回のハッカソンでは、どういったテーマを想定しているのでしょうか?

越智氏
 おもしろい切り口になるテーマを実行委員で検討中です。テーマは前夜祭で発表しますが、ピンポイントではなく幅広く、いろいろな角度から発想できるようなテーマ設定にしたいと考えています。

―― 一方、企画部門では書類での企画提出になるのですね?こちらはどのようなテーマなのでしょうか?

ドワンゴモバイル取締役 川下勝也氏

川下氏
 企画部門では「2020年のアプリ」をテーマに企画を募集します。日本では、2020年にむけてオリンピックをはじめとする国際色豊かなイベントがいろいろと予定されています。そんな中で、外国人など旅行者に向けたものなのか、スポーツに関わるものなのか、ゲームなのか……。「5年後にあったらいいな」と思えるようなものをイメージできるかがポイントになります。

岸原氏
 実現性は置いておいて、「こんなの欲しい」、「だれか作ってくれないかな」と想像できるビジョナリストが必要ですよね。スティーブ・ジョブズじゃないですが、夢を描ける人がいることで、新しいものが生まれてくると思いますので。

越智氏
 これから決めていきますが、自由に発想していただきたいので、レギュレーションはあまり厳しくしないつもりです。

――本選に進むため、書類選考で選ばれるポイントを教えてください

越智氏
 当然実力も鑑みますが、可能性やチームの雰囲気を見て決めます。アピールの面白さで目立つことや、意気込みは重要です。

――そこだけは上手な方も中にはいるのでは(笑)。

越智氏
 そうですね(笑)。それなりの実力で、それなりのモノにしていただきたいので誰でもいいということではなく、きちんと判断します。ただ、2泊3日で温泉地ということもあり“お祭り色”が強いところもありますから、あんまり堅くは考えずにやっていきたいですね。

――ハッカソンといえば、どのように進めるかがポイントにもなりますよね。時間が限られている中ですので。

川下氏
 結果はもちろんですが、制作課程も評価しながら審査していきます。まぁ自由にやってくださいという感じです。

温泉だから「SPAJAM」、盛り上げていきたい

――今回のイベントを実施するにあたって、業界内での反響はどうでしたか?

岸原氏
 一番よく言われるのが“SPA”という名前のとおり、「本当に温泉でやるんですね」ということです。はじめは、“SP”としていたのですが川下さんに「“SPA”にすればいいんじゃない?」といわれ、「ここ温泉ある?」と訊くと「ここ温泉です」と言うので(笑)。

川下氏
 これが盛り上がれば、日本にはたくさん温泉があるので、これからもいろんな温泉地で開催できたらいいなと思います。熱海大会とか、野沢大会とか。

――いろいろな場所で開催されているハッカソンをまとめて組織化することも考えられるのでしょうか?

川下氏
 今回は、郡山や福岡で地方予選を実施しますが、開催できる場所はたくさんあるでしょうし、今後はハッカソンとしての“甲子園”のような存在になれればいいと思います。

――海外からの参加も受け入れていけば、日本のチームにも刺激になりそうですね。

岸原氏
 特に制限を設けていないので、海外チームが応募してくるケースもあると思います。それから、優勝チームがシリコンバレーに行くので、日本のチームがむこうのプログラマーとも交流してもらうことになります。今後の展開として世界大会のようなものに、広がっていくきっかけになればいいなと思います。

――業界内でも盛り上がりそうな雰囲気がありますね。

川下氏
 ドワンゴモバイル社内でも、けっこう食いつきよくて、普段はおとなしいエンジニアたちも興味を持ってくれているようです。これまでは個人で参加してきた技術者もいますが、今回はチームで出られるので「出ようよ」という雰囲気になってきています。

――社内で通らなかった企画など、たくさんあるのでしょうか……?

川下氏
 そうそう(笑)、あるかもしれないですね。企業内でも「見返してやるー」という気持ちで盛り上がってくれるのもいいですね。

――チーム構成は、複数の企業で構成してもいいんですよね? 場合によってはライバル企業でチームを組むこともあるのでしょうか?

越智氏

岸原氏
 複数企業でのチームももちろん歓迎です。友だち同士でもいいですし。

越智氏
 あと、会社命令で「優勝してこい」というケースもあると思います。企業の看板背負って出るというのは、プレッシャーもあるでしょうけど盛り上がると思います。まさにベンチャー企業などは、そういった場で名を上げるチャンスでもありますので、活用してもらいたいですね。

岸原氏
 (ガンホーCEOで審査委員長の)森下さんが「俺が出る」って言い出して、越智さんが羽交い締めにして止めたっていう話もありましたね(笑)。

越智氏
 はい。「審査委員長だから」と説得しました(笑)。

ヘッドハンティングや資金調達のチャンスも?

――MCFとしてというよりも、みなさん業界の経営者として、おもしろい人がいれば出資したいとかそういった展開も考えていますか? あくまでも主催者としてニュートラルにお考えですか?

川下氏
 ええ。立場上はニュートラルですが、下心はあると思いますよ(笑)。

岸原氏
 イベントとして盛り上げていくことが前提なので、いきなり「君に出資しましょう」とかはやめていただきたいですが(笑)。いまはキャリア各社もベンチャー育成に取り組んでいますし、イベントが終わったあとに、「うちにこない?」といったやりとりは、当然いっぱいあると思います。

川下氏
 そうそうたる実行委員メンバーと審査員が揃っているので、チャンスはいっぱいありますね。

――こっそり人事部を派遣させたりも?

越智氏
 さすがにそれはあからさますぎますね(笑)

岸原氏
 いろんなチャンスをつかむきっかけには十分なります。隠れた才能を発掘することが目的です。才能はあるけれどアピールが苦手な人も多いと思います。たとえば1人ではたいしたことないけれど、チームを組むともの凄いモノを作るという人材もいたり。当初、チーム制はハードル高いのではないか? という意見も出たのですが、補完し合えるメリットも大きいので、1+1が10になる、といったことも期待できます。

――ドラマチックな展開があるとおもしろいですね。開発者ではないケータイ Watchの読者の方々にも、今回のイベントの意義を感じてもらいたいと思います。一般読者が楽しめるような機会はなにかありますか?

川下氏

川下氏
 ええ。前夜祭と表彰式はニコニコ生放送で公開しますし、制作の過程もニコニコチームが取材してドキュメンタリーのような特集番組を作るので、おもしろいものになるのではないかと。

岸原氏
 “仕込み”はないようにしますが(笑)“途中で仲違いして、最後はこうなった”とか。2泊3日なので、なんか起きないかなと期待しています。

越智氏
 本選開催中のトークセッションなども、ニコニコ生放送を通じてお届けしますので、イベント自体をおもしろがって見てもらえるものにしたいと思います。実際に制作した作品を触れるところまでは想定していませんが、イベント後に完全に作りきって、世に出ていくことはあるかもしれないです。

岸原氏
 今回は、完成度を競うよりは、2泊3日でどこまで作れるのかを見ます。最初のコンセプト設定と、プロトタイプまででもいいですし。グラフィックまで作り込み完成させて、すぐに商品化というところまでは想定していませんが、長い目で見てそうなれば喜ばしいことです。

――最後に、読者に向けてひとことお願いします。

岸原氏

岸原氏
 “ハッカソン”というとプログラマーじゃないから関係ない、参加できないと思われがちですが、企画力やビジョンがある人は、知り合いのプログラマーやデザイナーに声かけて、ぜひチームで参加してください。これを口実に、女の子に声かけて温泉で口説いてもいいですよ。費用はこちらがもちますので(笑)。

川下氏
 ひとりで参加することに積極的になれない人にはいいチャンスだと思います。また日頃、業務に追われているエンジニアの方も多いとは思いますが、(企業の上司のみなさんは)参加する勇気を称えて、温かく送り出していただきたいと思います。

越智氏
 実績のある人だけではなく、これからステップアップしたいという想いがあれば、いいきっかけにしてもらいたいです。「これを機に一旗あげていこう!」という、野心を持った人の参加を待っています。

――楽しみにしています。本日はありがとうございました。

川崎 絵美