インタビュー

AQUOSとDTS Soundの“イイ関係”

AQUOSとDTS Soundの“イイ関係”

音だけではないチューニングとこだわり

 昨年の2013年冬モデルから、シャープ製端末の「音」を支えているのがDTS社の「DTS Sound」である。DTS社は、カリフォルニア州に本社を置くデジタル音声コーデックの会社で、1993年にユニバーサル映画スタジオと、スーティブン・スピルバーグ監督の間で設立された。サラウンドのオーディオ技術を劇場で映画用に提供しており、1993年に公開された映画「ジュラシック・パーク」が特に有名だ。その後サラウンド技術を家庭でも楽しめるよう家庭用AVシステムもサポートしているが、現在では家庭内で体験できるサラウンド感を、そのままスマートフォンなどの携帯端末で外に持ち出せるよう開発を行っている。

 音質に大きなこだわりを持つ人以外で、あまりこのサウンドに注目する人はいないかもしれない。しかし、DTS Soundがシャープ製端末の最大の特徴である電池持ちに影響しているとしたらどうだろうか。音楽の連続再生100時間が達成されているその裏側では、シャープとDTSの間で、消費電力を抑えながら音質を高める地道な努力が繰り広げられていたのだ。

 今回はdts Japan株式会社のシニア・ディレクターである黒川 剣氏、フィールド・アプリケーション・エンジニア 工学博士の津村茂彦氏、シャープ 通信システム事業本部 グローバルソフト開発センター 第一ソフト開発部 主事の住田義明氏、第二ソフト開発部 主事の文元英治氏、第一回路開発部 PFグループ 主事の升味伸之氏、青森裕一郎氏にお集まりいただき、DTS Soundを選択した理由や、開発の裏側についてお話を伺った。

上段左からDTS黒川氏、津村、シャープの文元氏、住田氏。下段左からシャープの青森氏、升味氏

DTS Soundを採用した理由

――まず素朴な疑問ですが、ユーザーからは音に関してどのような要望が届くのでしょうか。

シャープの住田氏

住田氏
 もうちょっと迫力のある音を出したいとか、着信音をもっと大きくできないのなど、どちらかというと、あまりよくなかったところを直してくださいっていうのが多いですね。大きな音にして欲しいという要求は一番多いかもしれません。スマートフォンというあのサイズに搭載できるスピーカーは限界がありますから、必然的にそういった要望が増えたのかもしれません。そういった声を取り入れて、できる限り次のモデルのチューニングに生かしています。

――ハードウェアの限界をカバーするのがチューニングというわけですね。音って何となく聞いてしまってますが、もしかしてスピーカーから出しているときと、ヘッドホンで聴いているときでは、チューニングも違うってことでしょうか。

DTSの津村氏

津村氏
 違います。ヘッドホンはユニットが2つあって、2つの音がステレオで聞けるんですが、本体スピーカーは1つしかない。1つしかないもので、あたかも2つ以上あるように、音の立体感やクリアさを表現しなくてはいけません。そこをソフトウェア的に我々(DTS)がユーザーのみなさんに訴求できるようにチューニングさせていただきました。

――シャープの端末では、卓上ホルダに穴を空けて前面から聞こえやすくしたモデルもありますが、もしかしてあの卓上ホルダも専用のチューニングをされたということでしょうか?

シャープの文元氏

文元氏
 はい。もちろんです。音的に特性が変わってきますので、やっぱりそれに合わせたチューニングをするようにしていますね。繋いだものに従って、内部で特性に合わせた切り替えが自動的にできるようになっているんです。

――なるほど。見えない部分で細かい調整が行われてるんですね。そのチューニングの部分にDTSの技術が関わっているということですが、DTSは去年の冬から採用されています。なぜDTSにされたんでしょうか。

住田氏
 消費電力、それから音響効果。これらのバランスを考えまして、今回はDTSさんにお願いすることになりました。弊社の端末の一番のセールスポイントは電池持ちです。ですので、この部分は譲れないと。ですが、音楽再生やエンターテインメント部分を含め、ユーザーに使っていただく部分に関しては妥協したくないということがありました。EDGESTという狭額縁の世界観を作り上げながら、「でも音がショボイじゃん?」といわれるとやっぱり悔しいですから、そこは妥協したくありませんでした。そこで、どちらも取り入れることができる構成を考えたところ、DTSさんが非常にマッチしていたんです。DTSさんといえば、その音響効果や実績に関しては言わずもがなですし。開発にあたってはかなりご苦労をおかけしましたが、その分いいものができたんじゃないかと思っています。

――そもそもの疑問として、音楽を聞いているときは画面が消えていることも多いですし、そんなに電池食わないんじゃないかと思ってました。

住田氏
 かなり違いますね。再生モードによっては消費する電流が全然違ってきますので、連続再生時間も変わってきてしまうんですよ。音響に関するエフェクトも搭載していますが、そこもそれなりにパワーを必要としてしまう部分なんです。実はDTSさんにご協力いただきまして、そこも抑えていけるようになりました。我々のこの事業部って、もともとオーディオ関係の事業をやってたんですね。その頃にずっとオーディオを担当していた技術者って結構いるんですよ。そういう技術者などにも意見を求めながら、音響のブラッシュアップをしている感じですね。

――調整できるイコライザーが5本から4本に減ったような気がするんですが、これもDTSさんの仕様なんでしょうか。

津村氏
 そうです。そこも消費電力に絡んでくるところなんです。5本と4本じゃちょっと違う。5本、6本、7本、8本、9本とあれば、よりいい音が作りやすくなるんですけど、4本でやりくりしているというところが、難しかったところです。

――最初に省電力化を実現するために、ここは削らなきゃいけないよね、という部分からスタートしているということでしょうか。

津村氏
 そうですね。そこはシャープさんの要件を踏まえて、消費電力とかパフォーマンスを含めて4本がベストな数字だということになって、最初にこちらから提案しています。

 消費電力をかけて、ソフトウェアパワーを存分にかければいくらでも音はよくなるんですけれども、今回シャープさんの依頼として消費電力が一番大事で、それに見合った音声パフォーマンスを、というご要望をいただきました。最初からハードウェアが決まっていることや、消費電力に制限がありましたから、消費電力の要求を満たしつつ、いい音というところが今回一番苦労したところでもあり、一番いいところでもありますね。

シャープが目指した音とDTSのこだわり

――理想とする音があってのチューニングだと思うのですが、シャープが求める音というのは、あえて言葉にするとどのようなものになるのでしょうか。

シャープの升味氏

升味氏
 言葉にするのは難しいですが、やはり驚いてもらいたいですよね。高音がクリアであるとか、低音がよく響くですとか、迫力など含めて、携帯端末でこんないい音が楽しめるのかっていう驚きですね。

シャープの青森氏

青森氏
 音って、10人が聞いたら10人とも感覚が違うところがあると思うんですよ。目で見てハッキリ分かるような部分とはちょっと違って、それぞれが違った音の聴き方、同じものでもちょっとずつ違ったような聴き方っていうのがありますし、年齢的な聞こえ方の違いもあります。それが誰が聞いても、綺麗に聞こえつつ、さらに私はこのエフェクトがいいとか、私はこういう音で聞きたいっていう、ユーザーさんにそれぞれフィットしたような形のものが提供できたらいいかなと思いますね。

――確かに味覚と同じで、聞こえ方は人によって異なりますね。

文元氏
 今、ミュージックでは、ロックとかポップスといったプリセット設定を8個用意していますが、それぞれこだわりを持って作った音なので、自分にあったものをまず選んでもらったらよいかなと思います。そこからは、自由に切り替えて楽しんでもらえたらよいかなと思っています。

 で、あとは音楽に関していうと、やはり長時間再生のこだわりがありまして。長時間再生してても疲れないような音作りにも配慮しています。長時間ずっと聞いているとだんだん耳が痛くなってきくることが結構あると思うんですけど、長時間聞いても疲れないようにしつつ、それぞれエフェクト効果が分かるようなバランス作りを心かげています。

――DTS側の音に対するこだわりがあったら教えてください。

DTSの黒川氏

黒川氏
 先ほどヘッドホンとスピーカーの例がありましたが、それぞれ音質も違いますし、対応できる帯域が全く違う。端末本体のスピーカーでは低音が出しにくいなどの制約のある中で、我々の技術で、出しにくい音を再現、または引き出すのが我々の特徴かなと思っております。

 今、コンテンツはどこからでも降ってきますよね。ものすごく圧縮されていることもありますし、途切れていることもあります。クオリティがもうバラバラなわけです。その中で最適な状態に改善できればいいなと思っています。ただ、音の処理をどこまでチューニングするか、調整するかというのは気をつけています。世の中にはいろんな種類の音があります。ゲーム、映画、テレビ、ラジオ、音楽もあります。それぞれ作り方が違うんですよね。ゲームの場合、ご存じの通りもともと音の迫力を出す目的で作られているので、すでにエフェクトがかかってる音源が多いです。その上にさらにエフェクトをかけてしまうと逆効果になってしまうこともあるんですね。そういう点にも注意してチューニングしています。

 でも、一番の課題はバランスですね。シャープさんが端末にどういう音を求めているのか。ユーザーさんにどういう刺激を与えられるのか。どのような新しい楽しみ方を提供できるのかというところで、そこを我々の技術を通じて実現できたらと思って作業しています。

苦労した点

――実際のチューニングや苦労された話を伺いたいのですが、チューニング作業は広島で行われているのですか?

黒川氏
 はい。こちらのラボでさせていただいてます。

――チューニングの仕方なんですが、波形をみてチューニングするのか、それとも最終的には技術者が聞いてチューニングしていくのか、どちらでしょうか。

津村氏
 両方です。まず最初には波形を見て、このプリセットのときはこういう波形のものがいいですよねっていう、ある意味我々が思った波形を数値的に作り出しています。

 しかし、先ほどもありましたように、シャープさんの主観的なこだわりもありますからね。波形を作ったあとは、升味さんと青森さんに「この音はいかがですか」と聞いてもらって、こうしたほうがいいんじゃないですかとフィードバックいただく。それをまた我々が調整して戻し、再びレビューしていただいて、という作業を何回も繰りしています。ちなみにこれは1つのモードに関する作業なんですが、これが個々のモードに対して繰り返し行われます。

DTSの黒川氏、津村氏

升味氏
 チューニングは基本的にはDTSさんにお任せはしてるんですけども、ただ、完全にDTSさん任せにはしていなくて。やっぱり我々の意見も交えながら、一緒にいい物を作り上げていくっていうイメージでやっています。

 先ほどもおっしゃられたんですけど、もちろん電気的に周波数特性を見て、波形がおかしくなっていないかとかチェックはしてますが、最終的には聴感が大事だと思っています。我々のほうもやっぱりいろんな曲をかき集めて、とにかく聞きまくります。で、それも独りよがりにはってはいけないので、いろんな人の意見を交えながらいい音を作り上げています。

――プリセットの数の多さと、地道なやりとり、そこが一番苦労されたところでもありそうですね。

津村氏
 そうですね。プリセットの数がすごくたくさんある。しかも、プリセットから選んで音の違いが分かり、かつ消費電力を抑えていうところが一番苦労するところですね。で、しかも狙った音しなければならない。そういう部分は苦労しましたね。

――今回の夏モデルでは、3キャリアでDTS Soundをサポートされてます。シャープはそれぞれの端末の形状や使用されている素材も違ったりしますが、そういうときも端末毎に調整を行うんでしょうか?

津村氏
 はい、端末ごとに調整します。

――たとえばスピーカーとヘッドホン用でも2通りですが、1モデルに対してチューニングが必要なプリセットのパターン数は相当な数になるのではないでしょうか。今回全キャリアでDTS Sound対応ということはと考えると……。

住田氏
 そうですね。ユーザーさんが自由に選択できるものが8種類。イヤホンとヘッドホンに関しては、各社違いはありませんので、そこは同じものを使うことはできるんですが、本体スピーカーに関してはそれぞれ筐体が違うので、響き方に違いがでてきますね。8種類×機種数、他に音と映像といった違いもあるので、なんだかんだで64はありますか。かなりご苦労かけたところなんですけれども(苦笑)。

黒川氏
 実はプリセットの中にさまざまな音を処理するモジュールブロックがあります。チューニングってまさにそこなんですよ。さまざまなプロセスのブロックがありまして。そのブロックごとに調整を行いますので、実際には56ではなくて、もっと多いんですよ。はい(笑)。

――Android端末はOSの変化が早いですが、その点で影響を受けることはありますか。

津村氏
 チップやOSが変わると音響まわりもかなり大きな影響を受けますね。そのあたり、発表されてからでないと分からないですし、自分たちでコントロールできないところは非常にもどかしく、また開発陣が苦労するところではあります。

住田氏
 毎回変わってしまうってところがやっぱりありますね。そこは追従していくしかないというのがなかなか難しい点ではあります。

――かなり地道なやりとりがあったと思いますが、一緒にお仕事されていかがでしたか。

津村氏
 ハードウェア的な限界と、それに対する我々の技術の限界、そこのトレードオフを見極めていただけてるので、非常にやりやすいですね。そこを分かっていただくっていうのは、私が普段苦労しているところなんですけれども、シャープさんは非常によく分かっていらっしゃる。ハードウェアが決まってしまったらと限界点もきっちり決まってしまうので、その中で理想にできるだけ近づけるように、そこに向けて一緒に努力させていただいてます。

黒川氏
 基本的にチューニングって言葉をよく使いますが、個人的にはチューニングというよりは、“カスタマイズ”している感覚があります。ベースは同じなのですが、我々のサポートで、シャープさんの要望に従ってカスタマイズしている、色をつけているという感じで。お互いどの色を濃くするか、薄くするかといったことをさせていただいて、最終的にAQUOSの音はこれですよね、というものができあがる。

 我々は音について長年研究してますが、これが良いか悪いかというのは、最終的にはいえないんですよね。シャープさんの端末でこういう色を出したいとか、こういう音を出したい、というのは、最終的にはもちろんシャープさんの判断なわけです。私も何度か同席させていただいたことがあるんですが、シャープさんは熱心で、すごくこだわってるんですね。それが誇りだと思うんですよ。DTSとしては、すごくありがたいです。我々もそういうチャレンジが好きですから。

DTS Soundの効果が体感できるもの

――チューニングの効果が一番分かる使い方やシーンがあったら教えてください。

文元氏
 やはり弊社のミュージックアプリと、ビデオプレーヤーアプリ、あとはワンセグ、フルセグアプリでDTSのサウンドエフェクトを体験していただけます。動画に関しては、映画を見るとき、サウンドエフェクトの「映画」を選んでいただいたら、映画館にいるような体験ができますし、スポーツも競技場にるような臨場感を体験していただけます。音楽に関しても、サウンドエフェクトを切り替えていただくことで、同じ曲でも違ったサウンドを何度でも楽しむことができます。

――着信音はいかがでしょうか。たとえばMP3ファイルを着信音として設定しても、着信音として聞こえやすくなるとか。

住田氏
 実はそれはすでにエフェクトでやっている技術だったりします。こちらもDTSさんの技術で聞こえやすくなるよう、音は少し大きめになるようにチューニングさせていただいてます。

――音に関する設定ってあまりなじみがないので、いきなり渡されてもどういう設定にしたらいいか迷いそうですが、最近のカメラのように、シャッターを押すだけで綺麗に撮れる、みたいな設定の工夫はあるのでしょうか。

文元氏
 どれを選んでも、こだわりをもって音作りをしていますので、まずは自由に選択して使ってみて、お好みの音を見つけていただければと思います。

――最近スマートフォンをテレビに繋いで楽しもうという流れもあるかと思うのですが、そのときはどうなるのでしょうか。

住田氏
 そういう場合はテレビ側の出力の影響を受けてしまうので、残念ながら端末側の設定は反映されないですね。

――スマートフォンで音を楽しむという点では、ゲームも欠かせないコンテンツだと思いますが、先ほどのお話ですとエフェクトが重なってしまう可能性があるとか。これは作り手にゆだねられる部分が大きいと思うのですが、たとえばアプリを作る上でこうするとDTSの効果が得やすいといったポイントはあるのでしょうか。

津村氏
 一番いいのは、やはりマルチチャンネルで音を作ってくださいということですね。もともとステレオしかない音源から、マルチチャンネルで、ホームシアターのような音のつつまれ感っていうのを再現するっていうのはできるんですけども、やっぱりある程度のところまでしかいかないんです。最初からマルチチャンネル、5.1ch、いわゆるホームシアターと同じ音で作られているのであれば、ヘッドホンで聴いたときにDTSのチューニングで豊かな音を楽しんでもらえると思います。最初の音作りのところで、ちゃんとマルチチャンネルで後ろの音も作ってくださいというのが我々の望んでいるところです。

――ちなみに、英語とか日本語とか言語によるチューニングの違いみたいなものってあるんですか?

津村氏
 言語というよりは市場ごとに好きな音というのは違いますよ。インドとか、東南アジアモデルのチューニングと、北米と日本とヨーロッパと全然チューニングが違うんです。たとえばインドですと、大きな音が好まれます。

黒川氏
 インドの映画の場合、ミュージカルとかダンスのシーンが多くありませんか? 明るくカルチャーを描かれていますので、賑やかな、ハッピーな音が好みなのではないでしょうか。かなりパワーアップした、明るい音が好まれていると思います。

――それは知りませんでした。日本人の特性は?

黒川氏
 あるリサーチで読んだ話によれば、育った環境によって感じる音が変わってくるようですね。一般的な話ですが、例えば日本とアメリカ人で何が違うかというと、日本人の場合は低音のほうがすごく敏感なんですよね。アメリカ人は逆。なぜかというと、子供の頃の日本人の多くは畳の上で寝かされて育ち、アメリカ人はベッドの上に寝かされるからですね。低音は床のほうが響きやすいんです。だから、耳が育つときに低音に敏感になる。アメリカ人は低音が届きにくい。新鮮に感じるのはその逆の帯域なので、日本人は高音域の多い音楽を好む傾向がある。逆に、今アメリカ市場ではヒップホップが非常に売れるんですが、ドンドンドンドンという低音が刺激的だからですね。もちろんリズム的なものなどいろいろありますが、そういう要素もあると。日本のライフスタイルも変わってきてるので、徐々にそうなってきてるんですけれども。

左からシャープの青森氏、升味氏、文元氏、住田氏

今後の進化の可能性

――シャープとして、今後力を入れていく予定のあるものがあったら教えてください。

住田氏
 さらに消費電力を追及していくことは考えたいところですし、そういうこともやりつつ、もっと楽しみを与えられるような、何か新しい技術っていうのは取り入れていきたいとは思っています。例えばノイズキャンセリングなど、お客さまの声を聞きながらいろんなシーンを想定した対応ができたらと考えています。

――DTSとして、今後ユーザーが楽しめそうな、期待できそうな技術について、何かあればご紹介ください。

黒川氏
 これまでは我々の技術を通じて、コンテンツとユーザーの期待・好みにできるだけ近づくというのが目的でした。次のステップは、1人1人の耳の特性に合わせたチューニングを実現する考えの上で、開発もプロモーションを開始しているところです。

 スマートフォンで音楽を楽しむとき、ヘッドホンやイヤホンを使うことが多いですよね。ヘッドホン市場も伸びています。ただしこの分野の製品は種類が数えきれないほど多いんですよね。ここで問題なのは、いくら端末のほうでいい音を作ったとしても、最終的にはヘッドホンなどの善し悪しに左右されてしまうことです。でも高いヘッドホンを買ったとしても、なんだか自分に合わないなと感じる場合があるわけです。それはヘッドホンの特性と、アルゴリズムが出してる音がマッチングしてないだからです。

 そこで、ヘッドホンの特性をパラメーター化して、そのパラメーターをアルゴリズムに適用して、ヘッドホンにマッチングさせる。その際、1人1人の耳の特性もパラメータ化してアルゴリズムに適用すれば、端末、ヘッドホン、ユーザーの3つをマッチさせられる。低い音が聞こえにくいとか、周波数の高い音が年齢的に聞こえにくいとか、人の耳は千差万別ですからね。とにかくユーザーは、“自分のものにしたい”という考えをお持ちですから、音を調整したがりますし、イヤホンやヘッドホンにこだわるのです。DTSでは、次のステップとして、新技術の「DTS HEADPHONE:X」で実現したいと考えています。

――それは聴力検査的な感じで、自分の耳の特性を伝えるわけでしょうか。

津村氏
 ピーと聞こえなくなるところまでダイヤル回して下さいとか。そういうやつですね。

――なるほど。それは面白いですね。極端な話、100円ショップのイヤホンでもそれなりによく聞こえるような世界を目指しているわけですね。

黒川
 そうです。我々にはノウハウがありますが、最終的にいい音かどうかを判断するのはユーザーさん自身なので、ユーザーさんのインプットが必要なんですね。

――つまり「あなたにとってのいい音とはなんですか?」てことですね。

黒川氏
 その通りです。そこに、さらに部屋、環境、空間などを測定してパラメーター化した臨場感をプラスすることで、本当なリアル感を再現できるのではないかと考えています。それは我々の次の課題となるでしょう。

――それがAQUOSで実現できたら喜ぶユーザーは多そうです。本日はどうもありがとうございました。

すずまり