インタビュー

モンストで再起したミクシィ、森田社長が語る“2つの誓い”

「スタッフに肩身のせまい思いはさせない」

 2014年6月、株式会社ミクシィの新代表に就任した森田仁基氏。業績悪化が続いた同社において“事業再生フェーズ”と位置づけた2013年度を見事黒字に転換させたのが、前任の朝倉祐介氏だ。たった1年でミッションを果たした朝倉氏から、バトンタッチを受けたかたちとなったが、同社では代表交代の理由を「事業再生フェーズ」から「再成長フェーズ」に入ったため、としている。

株式会社ミクシィ代表取締役社長 森田仁基氏

 ミクシィは6月17日、東証マザースの時価総額で、サイバーエージェントを抜いて首位になったことで話題となった。スマホ向けアクションRPG「モンスターストライク」の大ヒットによる急成長が理由だ。これについて森田氏は、「時価総額なんて僕らが決められることではない。急成長したとは思っていないし、ひとつひとつの事業を今まで通りコツコツやってきて、たまたま数字として結果が出ただけ」と話す。意外にも冷静なようだが……。

 「まぁでも、モンストのヒットはめちゃくちゃうれしいですけどね!」(森田氏)

 森田氏はこう続けた。「何よりスタッフたちが、周りから“よかったね”って言われるようになったことがうれしい。やっぱり苦しい時期が続いて、これまで、なんとなく肩身のせまい思いをしてきたスタッフも多いと思うので」と笑顔を見せる。森田氏は社長就任前、エグゼクティブプロデューサーという立場で「モンスト」をヒットに導いた立役者である。

モンスト成功の影に「サンシャイン牧場」?

モンスターストライク

 スマホ向けアクションRPG「モンスターストライク」は、先日発表された「モバイルプロジェクト・アワード2014」で最優秀賞にも選ばれた。モンストは昨年10月のリリースから約8カ月でユーザー数900万人を突破、まもなく1000万ユーザーに届こうとしている。ちなみに、ミクシイが公表する人数はダウンロード数ではなくあくまでもユーザー数。登録後に同一ユーザーが再ダウンロード・再登録を繰り返すいわゆる“リセマラ”をカウントしても意味がないという考えから、実利用者数のみを公表している。

 モンストは、フィールド上に配置されたモンスターを引っ張ることで発射して、敵を倒して進んでいくスマホならではのアクションと、モンスターを育成する要素を併せ持つRPG。さらに最大4人で協力して敵を倒す“マルチプレイ”が特徴。スマホを持ち寄って複数名でプレイすることで、レアモンスターの獲得率が上がったり、1人分のスタミナで全員がプレイ可能になるなど、効率よくゲームを進められるメリットがある。

 森田氏は「プロデューサーの木村と新しいユーザー体験ができるゲームを作ろうという話から始まり、2013年2月にプロジェクトを立ち上げた」と話す。実際にゲームを作るのはプロデューサーの木村弘毅氏、企画に加え、人員の配置や広告の投入時期などをハンドリングする役目を森田氏が担った。「SNSの会社なので、リアルな人と人とのつながりを大事にしたいし、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションで生まれる熱量の高さは、mixiを通じて感じていたこと。サンシャイン牧場もそのひとつ。一方で、GREEさんやDeNAさんが手がけるいわゆるソーシャルゲームは、バーチャル上でゲーム好きの人たちが集まってプレイするところでの“マネタイズ力”の凄さもよく分かっていました。その両方をうまく取り入れられないかと」。

 サンシャイン牧場で得られたコミュニケーションから生まれる熱量の高さはひとつの成功例として、今に生きているようだ。2008年にミクシィに入社した森田氏は、「mixiアプリ」の立ち上げを木村氏とともに担当。サイバーエージェントとミクシィの合併会社グレンジの経営を担い、ゲーム事業を推進してきた。「サン牧の開発会社はRekooさんで、その窓口を担当したのが木村です。当時は、グレンジのすぐ隣のオフィスでCygamesさんがすごい勢いでゲームを作っていて刺激になった。そういう経験があったことは大きかった」と当時を振り返る。

 「ガンホーさんやLINEさんがスマホゲームの市場を作り、裾野が広がったことも、モンストのヒットに充分影響している。いいタイミングで出せた」という。ユーザーが離脱しやすいスマホゲーム市場については「常に新しいギミックや、楽しみ方を提供していくことで飽きさせないようにしていく。たとえばガンホーさんのパズドラは、短命と言われているこの市場で、3年経った今でも多くの人たちに受け入れられているし、それはゲーム内での新企画や、リアルなイベントを通じて、常に新しいユーザー体験を提供しているから」と話す。

 ミクシィでは、今年度グローバルをテーマに掲げているそうだ。モンストは台湾を皮切りに各国に提供していく予定。構想については「まだ考え中です。限られたリソースの中で戦略性をもって展開していく」としている。

モンスターストライク台湾版は、5月より提供を開始した

SNS「mixi」を今後どうするか

 モンストのヒットに沸くミクシィだが、もちろん忘れてはならないのが、SNS・mixiの存在である。2004年からスタートしたmixiは今年10周年を迎えた。“マイミク”、“日記”、“足あと”という親しみやすいインターフェイスを特徴とし、これまでネット上のコミュニケーションに親しみのなかった多くの人に、新たな体験を与えたサービスだ。そういった意味では、ひとつの大きな役割を果たしたようにも思われる。その後FacebookやLINEといった新たなサービスにシェアを奪われ、ユーザーの離脱が進んでいる現状もある。だが、それらにはない強みがあるという。

 「mixiの“コミュニティ”は他のSNSにはない財産。もともとは、フェイス・トゥ・フェイスではない趣味で繋がるコミュニティが、ユーザー同士でオフ会が行われたり、リアルソーシャルにも発展しているのがおもしろい現象」という。今後は、このような強みを生かしたサービス展開を予定しているという。具体的な明言はなかったが、「楽しみにしていてください」と森田氏は言う。

 現在ミクシィの収益は、モンストに代表されるゲーム事業が約5割、mixiに代表されるメディア事業が約2割、このほか昨年から取り組むフォトブックサービス「ノハナ」や、街コンイベント、結婚支援事業といった新規事業を含む「ライフイベント事業」が約2割という構造だ。不安定なゲーム・メディアに対してライフイベント事業は堅調だという。これらをコミュニティと連携させた新サービスなどは、今後の展開として充分考えられる。

売上高(四半期推移)株式会社ミクシィの2013年度通期決算資料により

社長と人事部長を兼任、森田氏が誓った2つのこと

 ところで森田氏は、もともと経営者を目指していたのかといえば、「いや、ぜんぜん。偶然です」という。そんな森田氏だが、2月に社長に就任することが決まった際に、スタッフ全員に2つのことを約束したのだという。ひとつは“常に新しい価値を生み続け、そのチャレンジをしていく”ということ。もうひとつは、“ひとりひとりが誇りを持って仕事をしていく”ということ。「この2つはブレずにやっていこうと誓いました。今はモンストがヒットしているけれどそればかりではなく、新たなヒットの種を常に植え続けていく。そのための社内の仕組み作りや、予算の付け方など、トップとして行動で示したい」と語る。

 人事部長も兼任しているという森田氏だが、その取り組みとして“ミクシィキャリアチャレンジ”という社内公募制度がある。社内で人員を公募し、応募者は所属部署には知られない形で面談を行う、社内マッチングの制度だ。また新企画は常に募集し、企画チームと役員全員が共に合宿を行い、事業化に向けたブラッシュアップに務めるというもの。「スタッフ全員が、やる気があれば打席に立てる環境を作っていく」としている。ベンチャー気質を大事にしてきたミクシィらしい取り組みだ。

「モンハンめっちゃやりました!(笑)」

 ヒット作を手がけてきた森田氏は、これまでどのような作品に影響を受けたのだろう?「好きなゲームいっぱいありますよ。特にモンハンは大好き。とにかくめっちゃやりました。あとは、友だち同士で集まって演奏する、大合奏!バンドブラザースですかね。子供の頃は、ファミスタとか。友だちの家にみんなで集まって遊んでいました」。

 プライベートでも、ゴルフやカラオケなど、人と集まって楽しむことが好きだという。「お互いにスマホいじっているのに違うことやっているのをもったいないと感じることがある。(スマホやネットがあれば)世界中と繋がることで遠くを考えがちだけれど、スマホは身近な人とのコミュニケーションを楽しめるいいデバイスだと思う」(森田氏)。

 このような思想が、ミクシィのファイス・トゥ・フェイスにこだわるサービスや、ヒット作・モンストに生きているのだろう。三代目社長・森田氏の今後の舵取りに注目が集まる。

(川崎 絵美)