インタビュー

「モバイルプロジェクト・アワード2014」受賞者に聞く

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スマホ特化で気軽さ追求、急成長のフリマアプリ「メルカリ」

 「メルカリ」は今、急成長しているフリマ(フリーマーケット)アプリだ。サービス開始から約1年で、500万ダウンロードを突破。流通総額も数十億円になり、1日の出品数は10万件以上になった。メルカリは、ユーザー同士で物を売買するためのプラットフォーム。フリマというゆえんもそこにある。

メルカリ 取締役 富島寛氏

 特徴的なのが、スマートフォンに特化した点。目指したのは、「パソコンなどをあまり使わない、スマートフォンをメインで触っているような普通の人が使える」(取締役 富島寛氏)ことだ。そのために、サービス開始当初は、あえてデザインにも親しみやすさを取り入れた。

「最初から意識していたことですが、いわゆるアーリーアダプターに人気になるようなものは避けようとしていました。最初から普通の人に使ってもらいたいと思っていたんです。一部の人たちが、高そうだったり、オシャレだったりする物を売ってる場にはしたくありませんでした。今はiPhone向けはデザインも変えてしまいましたが、最初は『分かりやすい』と『オシャレにしない』を意識したデザインにしています。初心者でもわかりやすいように丁寧な説明をしたり、ガイドページへのリンクを張っています。パッと見で言うとクールじゃないかもしれません(笑)。もちろん、作り手としてはかっこいいアプリにしたいという気持ちはありましたが、使いやすさを意識した結果そのようにしました」

いわゆるクールな印象とは異なるが、これも安心感を与えることを狙ったもの。説明も丁寧にした
出品ボタンをあえて大きくして右下に配置するなど、分かりやすさを貫いている

 たとえば、メルカリを起動すると右下に大きな「出品ボタン」が出るのも、こうした考えに基づいている。富島氏も「だれが見ても分かるし。これを押せばいいというのが重要」と語る。また、「物を売ったり買ったりするサービスを運営する上では、アプリの中だけを見ていてはダメ。なぜならそれは実生活の行動に結びついているから」というように、サポートにも力を入れた。

「ソーシャルゲームだったら、トラブルがあっても画面の中だけですし、ユーザー同士がケンカをしていてもログを見れば大体のことは分かります。ただ、物を売り買いするとなると、実際に送られてきたら壊れていた、偽物だったということもあります。中には、思っていたものと届いたものが違うとというケースもあります。規模が大きくなればそういったことが起こる件数が増えていきますし、そこにどう対応していくのは重要です。お客さまの不安を解消する必要があるし、自分がお客さまの立場でも早めにサポートしてほしい。マーケットプレイスなので、ユーザー同士で勝手にやってくれという考え方もありますが、それだけだとマーケットプレイスは成り立ちません。安心感を僕らが保証する、ある意味でのコミュニティサービスだと思っています」

App StoreやGoogle Playでの評価が高いのも、こうした安心感が評価されたからこそ

 アプリをリリースした当初は「あまり考えていなかった」といい、サポートも自分でやるなど少人数で行っていたが、「昨年の9月~10月頃に、人が足りずに遅延する状態になってしまった」という。こうした状況を受け、「強固なサポート体制を作らないとダメ」と思うに至った。今では、メルカリのメンバーの半分以上が、カスタマーサポートを担当しているという。

 ただし、安心感を与えるためにあえて野暮ったさを残したデザインについては、iPhone版ですでに採用をやめている。Android版はそのままだが、こちらについても「近いうちにリニューアルする」という。その理由は、米国展開。メルカリは現在、米国でテストを行っておりサービスの開始を控えている(※9/12に正式ローンチされた)。その際に、「米国ではこのデザインだと受け入れられない」という結論になった。アプリを別々にすることも考えたが、「それそれで大変」と日米の統一に踏み切ったという。

iOS 7のガイドラインに合わせて、スタイリッシュなデザインを取り入れたiPhone版のメルカリ。Androidも、最新のテイストにあわせていくという

 思い切って変更できたのは、サービスが軌道に乗ってきたから。また、「テレビCMもやり、ユーザーもいっぱいいるちゃんとしたサービスだと思ってもらえる安心感を感じてもらえるサービスになれた」からこそ。逆に言えば、「一番気をつけなければいけないのが、最初」ということだ。

「CtoCのサービスは、鶏と卵問題があるので、立ち上がらずコケてしまうことことが多い。そこをいかに乗り越えて、自動的に回り始める規模まで持っていけるかというところが怖かった」

 先に挙げた、大きく配置した出品ボタンもこの“最初が重要”という考えに基づいて生まれたもの。出品をしやすくすることで、初期のまだ流通しているアイテムが少ない段階でも、出品を促す効果を期待していたというわけだ。同様の理由で、アプリ起動時には新着のアイテムが表示されるようにしたという。

「アプリをちょっとした空き時にちょくちょく立ち上げても、情報が前と同じだと意味がないですよね。最初は商品の数が少ないので、次に見たときに内容が変わっているように、新着順にして何回見ても楽しいというようにしました」

 「楽しさを出す」と述べていた富島氏だが、開発にあたってはこの部分を強く意識したという。「フリマのように、行ってみていいものがあればOK。変わっていたものを売っていたり、バーっと見て『こんなのがある』と探すのがいいと思っている」といい、法人は今も受け入れていない。あくまでユーザー同士のフリマにこだわった。

 モバイルに特化しているゆえに、売買の成立時間が驚くほど短いこともあるという。

「メルカリを最初に使って驚くのは、売れるのが速いことです。過去最高だと、2秒で売れたこともありました(笑)。それは極端ですが、当日中や1時間以内に売れる人も相当数います。時間がかかるというのは現代的ではないですからね。オークションだと、期間を1週間ぐらいに設定するのが普通ですが、その時間感覚は今っぽくありません。ネットはどんどん時間が短くなっていて、YouTubeで5分ぐらいの動画を見たり、Twitterやまとめサイトを見たりするのもそうです。全部を追うのは面倒なので、まとめたものだけを見る。時間対効果が高いんですね。メルカリはそういった観点でも便利になってると思います」

 こうした仕掛けが受け、メルカリは1年で急成長を遂げた。ユーザー同士が物を売り買いするという点ではライバルもいたが、「既存のサイトやアプリは女子向けなど、特定のオシャレな人に特化したものが多かった」といい、特定の方向づけをせずに対象となるユーザーを広げて差別化した。「CtoCは密集度も必要なので、対象を絞ると立ち上げやすいが、全員がなんでも売れる場所を作らないと最終的にはものすごく便利なサービスにはならない」という思いがあったからだ。

「女子向け、男子向け、なんとか向けという形であると、結局自分なら服を売るのはここ、スマートフォンを売るのはここと使い分けてしまいます。たとえば主婦なら、子どものものを売り買いしたいし、旦那のものや自分のもの売り買いしたい。それをするには、1つでなんでも売り買いできる大きな場所が必要です。まわりを見渡してみると、それをやろうとしているところはなかったですね」

 一方で、こうした状況にはまだ満足していないようだ。富島氏は「本当にこれを買いたい人がいるのかなという物でも売れるようになるにはたくさんのユーザーがいてマッチングされることが必要。それにはどんどん規模を大きくしなければいけない。(商品も)まだまだ少ない」と語る。「最低でも今の10倍ぐらいはいないといけない」と目標は大きい。サービス自体にも、進化の余地があるという。

「将来的にはですが、配送サービスまで持って、家まで全部取りに来てくれればいいと思っています。今は、どんな配送方法があるのかを言葉で説明するしかないですからね。もちろん、300円の物を売って、キレイに梱包して、コメントを書いてということが好きな人もいっぱいいますが、それが面倒だなと感じる人もいます。最終的には、これでアップしたらそれで完結、発送は取りに来た人に渡すだけとかもできるようになると嬉しいですね」

 急成長しているメルカリだが、富島氏が言うように、規模ではまだオークションサイト最大手の「ヤフオク!」には及んでいない。スマートフォンでの売買をより簡単にする、次の一手にも期待したいところだ。

石野 純也