インタビュー

京セラの逆輸入スマホ「DIGNO T 302KC」

京セラの逆輸入スマホ「DIGNO T 302KC」

iPhone祭の中でランキングに食い込んだ謎に迫る

 Y!mobileから9月11日に発売された京セラ製のAndroidスマートフォン「DIGNO T 302KC」。10月17日掲載の「ケータイ売れ筋ランキング(10月6日~10月12日)」ではiPhoneシリーズがランキング上位を埋め尽くす中、Android端末では唯一トップ10入りしている。

DIGNO T 302KC(上)とHydro ICON

DIGNO Tが生まれた背景

 DIGNO Tの魅力の一つは、防水・防塵・耐衝撃、スマートソニックレシーバーといった性能面での実用性を追求しながら、一括4万円程度という販売価格を実現しているところだ。最終的な売り値を決めるのはY!mobileということになるが、こうしたバランスを実現できる背景には、DIGNO Tの生い立ちが関係している。

 米国の携帯電話会社のSprintの子会社でプリペイド事業を行うBoost Mobileでは、6月から「Hydro ICON」の名称でDIGNO Tと同じ外観をしたスマートフォンを販売している。

Hydro ICON(左)とDIGNO T 302KC

 京セラ 通信機器事業本部 通信機器営業統括部 マーケティング部 第2商品企画部商品企画1課PM1係 係責任者の茨木敦子氏は、Boost Mobile側での販売の状況について、「調査会社のデータになるが、Boost Mobileさんでは7~8月のトップセールスというような情報もある。ユーザーからの声としては、防水や耐衝撃といったところがまずウケており、ディスプレイがきれいだとか、LTEでサクサク動くだとかいったところを評価いただいているようだ」と語る。T-mobile、Metro PCSからも同じ外観で「Hydro LIFE」という名称でカメラやネットワークなど、仕様が若干異なるモデルが8月からも販売されている。

茨木敦子氏

 茨木氏は、「Boost MobileさんはSprintグループの中のプリペイドブランドとなるため、価格コンシャスな方がお買い上げになる商品が多いということで、なるべくお買い求めやすい価格を実現しつつ、かなりの機能を盛り込んだ。店頭価格が149ドルということで、ミッドレンジの商品に位置付けられている」と説明する。

 実使用にあたって大事な機能を損なうことなく、こうした価格意識をベースに設計・開発された端末だけに、日本でも価格競争力を発揮できるというわけだ。

 京セラ 通信機器関連事業本部 国内第2マーケティング部の川居伸男氏は、「元々北米向けに開発していたところに、ちょうどイー・アクセスさんとウィルコムさんが合併することになり、Y!mobileさんのユーザーにもマッチするのではないかということで、DIGNO Tを提供させていただくことになった」と振り返る。

 ソフトバンクは、Sprintと端末を共同調達するという施策を発表し、シャープ製の「AQUOS CRYSTAL」がその第1弾として明らかにされたが、今後は傘下のY!mobileもその枠組みの中に取り込まれていくのかもしれない。

絶妙のバランス感

 筆者もDIGNO Tを数週間使用しているが、絶妙なバランス感で作られていることが伝わってくる。スペックで見れば、チップセットはSnapdragon 400シリーズのMSM8926(1.2GHz、クアッドコア)、メモリは1.5GB、カメラは800万画素、バッテリーは2000mAhと、決してハイエンドとは言えないが、使っていて大きな不満が無い。サイズ感もそうだが、どことなくiPhone的でいて、実は防水・耐衝撃性能を備える。

川居伸男氏

 川居氏は「他キャリアから出ているモデルで使用されているSnapdragon 800シリーズと比較すると、400シリーズのチップセットは価格的にはリーズナブルになる」と語る。高性能のチップを積めば、その周辺の部品も高価なものを搭載することになり、全体的にコストを押し上げることになるという。

 同氏曰く、「ヘビーユーザーからするとスペック的に物足りない部分もあるかもしれないが、非常にキビキビ動くモデル。ターゲットとして、30代からの男性、女性の方でフィーチャーフォンとの2台持ちをされるユーザーの方も視野に入れている。そういう意味でも、電池容量は2000mAhだが、このチップセットは低消費電力で長時間使えるので、スタンダードな機種としていろんな方にオススメできる」という。

 このあたりの“まとまり感”については、北米版のHydro ICONも同様の評価のようで、「初代Hydroでは防水がユーザーの最大の評価ポイントになっていたが、今回はミッドレンジのスマートフォンとして機能がまとまっていて、しかもLTE対応ということで、一人前のスマートフォンとして評価いただいている」(茨木氏)という。

Y!らしさは追求できるのか?

中央が初期設定のホーム画面(標準モード)。左がYahoo!仕様の「JoyHome」。右が初心者向けの「エントリーモード」

 Y!mobileのベストセラーモデルとなったDIGNO Tだが、Y!mobileのY!、つまりYahoo!らしさはどうだろう。正直なところ、今回のモデルについては、さまざまなYahoo!関連のアプリがプリセットされてはいるものの、さほどYahoo!っぽい感じはしない。

 というのも、AndroidというプラットフォームそのものがYahoo!のライバルとも言えるGoogleのコントロール下にあり、初期設定の状態で表示される検索窓は当然Googleということになる。ユーザーの目に見えるところ、見えないところで、制約が発生しているわけだ。

 そんな中、Y!mobileらしい取り組みとしてDIGNO Tに搭載されたのがYahoo! JAPANが開発した「Funner」というスポーツ支援アプリだ。ランニング、ウォーキング、サイクリングのログを残しておけるというもので、移動した距離やルート、消費カロリーなどを確認できる。「Runtastic」のような専用アプリと比べると、かなり簡易的な作りで、これからスポーツを始めようと考えているようなライトなユーザー向けといった印象だ。

 現状では、Funnerで記録したデータをパソコンからYahoo!にアクセスして確認するといったような連携機能は無く、単に端末内にデータが蓄積されていくのみ。イマイチ目指すところが見えないアプリではあるが、ライフログのような形での発展を考えているのかもしれない。

スポーツ支援アプリ「Funner」で走行終了後に表示される画面

 さらに言えば、Y!mobileの端末でありながら、Y!mobileのネットワークは一切使わず、ソフトバンクとWireless City Planningのネットワークを使用する形になっており、ややこしい。仮に通信障害が発生した場合のユーザー告知のあり方や責任の所在などを考えると、こんなトリッキーな端末が今後も増えていってよいものなのか、疑問に感じるところもある。

 とはいえ、端末自体は非常によくできており、開発陣の狙い通りにキビキビ動く。そろそろスマートフォンをと考えている旧ウィルコムのPHSユーザーは、移行キャンペーンや「スマホお試しプログラム」のような施策も行われているので、それらをうまく活用してほしい。

湯野 康隆