インタビュー

エレコムのLTE対応SIM、「SkyLinkMobile」の狙いを聞く

エレコムのLTE対応SIM、「SkyLinkMobile」の狙いを聞く

PC周辺機器メーカーだからこそできる、M2M/IoTに向けた展開

 9月1日にエレコムが提供を開始した「SkyLinkMobile」は、上限300kbpsで月額780円でデータ通信し放題になるプランや、1日あたり70MBまで高速通信が可能な980円からのプランが用意され、SIM付きやVoIP付きといったバリエーションもあり、コストパフォーマンスに優れたSIMサービスだ。

 しかしながら、エレコムといえばPC周辺機器メーカーとしてよく知られている企業であり、MVNO事業者として捉えるのは少し違和感がある、と思う人もいるかもしれない。格安SIMの競争が激化する中、なぜ今MVNO事業を立ち上げたのか、商品開発部の立石氏と酒井氏に、エレコムの狙いについて伺った。

SkyLinkMobile

モバイルネットワークで周辺機器をつなげていく

株式会社エレコム 商品開発部 立石毅氏

――さっそくですが、なぜエレコムがMVNO事業を始めることになったのか、教えていただけますか。

立石氏
 我々には、今までやってきた周辺機器事業があります。“モノと人をつなげる”ということで進めてきたのですが、その考えを次のステップに広げるためには、いろんなものをネットワークにつないで、いろんなところでユーザーによる活用シーンを広げていくための活動が必要です。それには、ネットワークインフラを持った方がいいだろう、と考えました。

 他社も含めて広がっている“格安スマホ”ですが、我々はそこだけに焦点当てているわけではなく、周辺機器をつないで多くの人に使ってもらうというのを広げていく観点と、“人と人をつなげる”観点で捉えています。IP電話による音声通話サービスも提供しているのも、人と人をつなげる観点の1つになるわけです。

株式会社エレコム 商品開発部 酒井隆博氏

酒井氏
 我々は“ヒューマンインターフェイスを作る会社”を標榜しています。人と人をつなぐという意味では、MVNOはまさにヒューマンインターフェイスを作る事業です。ただ単にSIMを売るのではなく、周辺機器やその他のサービスなどに広がりを持った事業展開をしていきたいと思っています。

立石氏
 同じ課にはアプリ開発のチームもあります。セキュリティソフトもあります。それらも組み合わせてより便利に、安心して使ってもらえるように、というのがMVNO事業に参入する理由です。

――周辺機器をつなげる、ということですが、具体的にはどういった形で展開していくのですか?

立石氏
 たとえばネットワークカメラをモバイルネットワークにつなぐ、というのを考えています。今のところ、当社の製品は有線LANと無線LANでつながって、データカードもUSB接続できるようになっています。

 これにSIMを搭載してモバイルネットワークにつながれば、赤外線リモコンの機能もあるので、外出先からカメラを通じてエアコンの電源を操作したり、ということもできますよね。

 ネットワークカメラだと、ある程度月間の通信量が読めますから、こういった製品に向けた専用のデータ通信プランを提供することも考えています。今年度中にはSIM対応のネットワークカメラを発売する計画で、他の製品との連携は売れているものから検討していこうと思っています。

すでに同社が販売している監視などに使うネットワークカメラ
この製品にUSBドングルに載せる形でSIMを搭載し、モバイルネットワークにつなげることを考えているという

フリープラン、VoIP付きプランを選ぶ傾向に

――データ通信のみ、SMS付き、SMSとVoIP付きの計9プランがありますが、現状どのようなユーザー分布になっていますか。

立石氏
 SMS付きのプランを選ぶユーザーが6割ほどを占めています。VoIP付きプランの申し込みは4割ほどです。思ったよりちゃんと電話で使いたいというお客様がいるんだな、というのが実感ですね。また、我々として中心になると踏んでいたのが1日70MBの「デイリー」プランだったのですが、ふたを開けてみると300kbpsの「フリー」プランが半数を超えてきています。意外に使い放題の需要が多いというのが見えてきたところです。

――格安SIMの使い方がよくわかっている人が買っている、ということになるんでしょうか。

立石氏
 まだデータは細かく見られていないのですが、年齢層で言えば30代、40代、50代のユーザーが3割ずついらっしゃるので、「わかっている人が買っている」のとはちょっと違うのかな、と思います。70代、80代のユーザーもいらっしゃって、その方たちもフリープランなので、“電話が使えるスマホ”であればOKで、データ通信をヘビーに使いたいわけじゃないのかなと感じます。もしくは料金的なメリットに惹かれているのかもしれません。

 ただ、他社サービスで我々よりリーズナブルな価格を打ち出しているところもあるので、我々のサービスを選んでくれた理由が何なのかは分かりにくいんです。けれども、カスタマーサポートから伝わってくる話に聞く限り、「安心感」があるのではないかという印象があります。周辺機器を店舗で扱っているという我々のブランドメリットが現れているのかなと実感するところです。

――そういう意味では、ユーザーは周辺機器と同じように、何かあったときに確実なサポートを期待されているのでしょうか。

立石氏
 そうかもしれません。サポート体制は、他の製品と同じように自社のサポートセンターで電話で受けていて、メールでも受け付けているという状況です。

酒井氏
 今回のSIMサービスについては、専任の担当者をつけています。他の製品と違って通信のサービスですから、専門的な知識も必要になりますし、お客様をしっかりサポートできる体制を整えています。

――比較的リーズナブルな料金、300kbpsで使い放題という点が特徴になるかと思いますが、実際の通信帯域についてはいかがですか。

立石氏
 我々としては“詰め込みすぎることはしない”ようにと考えています。ベストエフォートですから、実際の速度は時間帯、場所によって違うものの、フリープランの上限300kbpsは意外と安定して出ているという感触をもっています。

――その高速なLTE通信ですが、デイリープランの1日当たり70MBという制限は、どのようにして決定したのでしょう。

立石氏
 我々の調査で一般的なユーザーの1カ月間のデータ通信量が1.5~2GBになるという結果が出ていました。そこで、当初はその範囲のギリギリとなる1日当たり50MBを想定していたのですが、実際にサービスインする直前に少し上げた方がいいんじゃないの、ということになって、同じ料金で実現できる目処がついたので1日当たり70MBにしました。1カ月で他社に追いつかれちゃったんですが(笑)。

音声よりM2M、IoTへフォーカス

――端末のセット販売で採用している機種は、どういった基準で選定されたのでしょうか。

立石氏
 「priori FT132A」を選んだのは、入門者向けに適したお手頃な価格というのがまずあって、あとはVoIP付きのプランもありますので、IP電話の品質がしっかり取れるものにしました。端末自体の音声評価を行った上で、モバイルネットワーク越しにIP電話で通話した時の回線品質についても、我々の中で一定の基準値を設けて、その閾値に収まりつつ十分な品質が得られると判断してチョイスした機種になります。

 今もいろいろな端末を確認しています。今どきの端末の中でリーズナブルなものということで、お客様に使ってもらえそうなものを評価しているところです。

――夏以降、Huawei、ASUSが立て続けにSIMフリー端末を発表しています。エレコムとしてあえて端末を別途用意して、SIMとセット販売しているのはなぜなのでしょうか。

立石氏
 単純にSIMだけを販売するより、端末をセットにした方がお客様にとって分かりやすいのかな、という判断をしていました。でも、MVNOにおけるSIMサービスのうち、セット販売の占める割合が平均20%という中で、我々のユーザーにおける比率はそれよりやや下回っている状況です。今後はそこをもっと引き上げていかないと、MVNO事業が広がらないかなという気がしています。

――今はセットで買った場合、端末とSIMが個別に届くわけですが、購入したらSIMが挿入済みでAPN設定も完了済み、みたいな運用は難しいのでしょうか。

立石氏
 やり方はいろいろ考えています。まだお話しできないんですが、体制と仕組みを準備しながら、と思っています。

――IP電話の品質が取れるもの、というお話がありましたが、他社のIP電話サービスがいくつかある中で、VoIP付きプランのIP電話「SkyLinkPhone」を利用するメリットはどんなところにあるのでしょうか。

立石氏
 サービス自体は他社のIP電話と大きく変わらないと思うのですが、独自でTwofishという暗号化を行っているので、音声通話そのものがセキュアになっています。一般的なSIPよりしっかりした暗号化がされていて傍受されにくいのです。それと、最大でも20kbps程度の通信速度で通話できるので、デイリープランなどで通信量上限に達した後、100kbpsに制限された状態でも通話を保持しやすいのが特徴と言えます。

――SIMサービスの中には音声通話機能付きのものも増えてきています。音声通話機能付きSIMについてどのようにお考えですか。

立石氏
 音声通話機能付きのプランが用意しているところでも、今はMNPするのに数日かかることがある、という不便さがあります。そこが改善されるのが現実味を帯びてきたら考えたいですね。ただ、我々の主軸が(電話としての)スマートフォンではない、というところもあるので、データ通信を中心に展開していきたいところです。

 M2MやIoTなど、そういったところをメインで目指しているところはMVNOとしては少ないと思いますし、我々のキャラクターとしてもそういう方向性なので。

SIMロック解除の影響は2016年から?

――プリペイド型のプランはシンプルで使い勝手がいい場合もあると思うのですが、提供する予定は?

立石氏
 一時期、海外のインバウンドのお客様向けに販売してはいましたが、大手に対抗できるものを出せるかどうか、今は検討しているところです。SMSでチャージするとか、iTunesカードのような仕組みでチャージするとか、そういった仕組みを作れる環境になると、2020年の東京オリンピックに向けて爆発的にヒットするんじゃないかと思っています。

 とはいえ、Apple SIMが発表されて、他にはeSIMの動きもありますし、そのあたりを含めて考えると、今のSIMの形がそのまま存在しているかどうかはわかりません。その動きは加速しそうなので、5年後にはSIMがなくなっている可能性もゼロじゃないのかなと思います。

――総務省から2015年5月よりSIMロック解除義務付けを行うとの通達がありました。御社にとってこれは追い風になりそうですか。

立石氏
 近々で追い風になるかというと難しいだろうと思っていますが、解除義務化の1年後は追い風になるだろうね、と話しています。次の端末買い替えサイクルが来た時にSIMロック解除された端末が中古市場に出回るとするなら、一世代前のものをリーズナブルに使うというところで盛り上がってくるはずです。

 今はMVNOがドコモのネットワークを利用しているところばかりで、端末が絞られています。しかしSIMロックの解除が義務付けられて1年後となると、全キャリアのLTE端末を使えることになる。逆にそこまでは追い風にならないのではないかなと考えています。

――PC周辺では何か考えていらっしゃいますか?

立石氏
 最近はChromebookが気になっています。ネットワークにつながっていなければそもそも使えないとなると、そこに我々のSIMが装着されるのか、というところも含めて興味がありますね。あと、複数のデバイスがある時にデバイスごとに機器認証するのはメリットが少ないので、USBドングルの形でモバイルネットワークを使えるようにするのは面白いかな、という気がしています。

――ウェアラブルについては?

立石氏
 バッテリーの持ち、値段、大きさがマッチすれば、ですね。我々はメーカーという立ち位置なので、その立ち位置でMVNOをやるのは、キャリアがメーカーから端末を仕入れて販売することより、もう少し面白いことができるのかな、と思っています。

――今のところオンライン販売のみですが、端末のセットを扱っていると店頭販売も視野に入れたいのではないでしょうか。

立石氏
 販路を広げていきたいとは考えています。ただ、新たな販路で展開するのは、契約手続きをどのようにすればよいのかが悩みどころですね。

――本日はありがとうございました。

日沼諭史