インタビュー

5000人規模の「Ingress」バトルがいよいよ開催

Niantic Labsハンケ氏に聞く、これまでとこれからのIngress

 「遊ぶと痩せる」「台風の中でも遊ぶ人がいる」「大陸を横断し国境を越えてアートを描くこともある」――さまざまな話題で、今、最も注目されるゲームの1つとなった「Ingress」。つい先日には文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞を受賞。さまざまなメディアでも取り上げられ、日々、“エージェント”となるプレイヤーが増え続けている。

Niantic Labsのジョン・ハンケ氏(左)と川島優志氏(右)

 そのIngressでは、ときおり公式イベントを実施。10月からは「Darsana(ダルサナ)」と呼ばれるイベントが開催されてきたが、その「Darsana」最後のイベントがスペインのバルセロナ、米サウスカロライナ州のチャールストン、そして日本の東京で、明日13日に実施される。

 5000人以上が参加する可能性がある東京でのイベントに先駆け、Ingressを開発、運営するグーグル社内のスタートアップ、Niantic Labs(ナイアンテックラボ)を率いるジョン・ハンケ氏が来日。ケータイ Watch唯一のエージェントで先日レベル15に到達したばかりの筆者(エージェント暦1年、緑陣営)によるインタビューにこころよく応じてくれた。これまでの取り組みの一部、そしてストーリーなどエージェントが気になる情報はもちろん、Ingressの運営体制についてなど、Ingressには興味がない方にとっても気になるであろう“グーグルの中の様子”が垣間見えるエピソードも披露してくれた。

5000人規模は過去最大

――今回のイベントは世界3カ所で開催されるそうですが、その中でも東京を訪れることにした理由は?

ハンケ氏
 日本は、Ingressを楽しんでいる人が多くいて、iOS版の登場で勢いがある、ということで今回、東京をDarsanaの開催地としました。人口が集中し、ポータルの数や歩きやすさなども考えると、日本は非常に良い場所、ということもあります。

 他にもプライマリー(主戦場)になる都市があるなかで、私が東京を訪れたのはまず「個人的に日本が好きで、東京が好きだから」(笑)。そして、日本っていくつも“レイヤー”がありますよね。歴史的な場所もあれば、小さく隠れて潜んでいるような神社、さまざまな公園がある。そういう場所で、数多くのエージェントがプレイするということで、これは見逃せませんよね。

――東京は大変負荷が高い、という話ですが、明日は大丈夫ですか?

ハンケ氏
 Yes……(といって机をコンコンと叩く)。このためもあって、バックエンドのサーバーも増強しました。できることはやった、という状況です。

――携帯電話会社ともやり取りされたのですか?

川島氏(Niantic Labs所属の川島優志氏)
 はい、やり取りして、各社はご存知です(川島氏のソーシャルメディアへの投稿によれば、会場周辺の警察署にもイベントのことは知らせてあるとのこと)。

日本は“いくつものレイヤーがある”

――正式版になる前を含め、Ingressが提供されてきた2年間で、日本での遊ばれ方、日本のエージェントについて、特徴的な傾向などを感じることはありますか?

ハンケ氏
 ソーシャル、コミュニティでの動きが強いというのが日本のエージェントの方々の特徴かなと思います。日本全体でも数多くのコミュニティができています。それからとてもクリエイティブです。ビジュアル的なものをたくさんの取り組みがあります。ジュエリーやTシャツなどのほか、(Ingressを題材にした同人誌を手にして)こういうコミックブックもありますよね。こういうところは(他のエリアと)違うかなと。

Ingressを題材にした同人誌を手にするハンケ氏。日本のクリエイティビティを楽しんでいるようだ

 (川島氏を指して)マサさんも、日本の各地で作られたさまざまなアイテムを紹介するコーナーを用意するということで、それも楽しみにしています。

――Ingressのアプリを完全に日本語化する計画はありますか?

ハンケ氏
 ローカライズについては、第1段階は終えて、クライアントの一部の要素(初めて遊び始めるときのチュートリアル)を日本語化しています。今は次の第2段階で、ユーザーインターフェイスの一部の日本語化を進めています。そして第3段階で完全に日本語化されます。

――2015年中に完成する見通しですか?

ハンケ氏
 Yes! あわせて書籍の日本語化も進めています。既にコミックは日本語化してGoogle Playを通じて提供しています。Ingressの小説の日本語化も進めています。

国ごとのストーリーに

ハンケ氏
 ストーリーを日本の中で拡げていくことを考えています。エキゾチックマター(ゲーム中に登場する、謎の物質)は歴史とも深く繋がりがあります。日本は歴史が深い国で、いろんな組織や人を巻き込んでいく形です。アイデアとしては、世界中で同じストーリーを各国で翻訳するというよりは、各地の歴史をもとにした関連キャラクターや要素をIngressに反映していければ、と考えています。そういう意味では、日本に関連する要素もどんどん入れていきます。

――ローソンとのコラボが発表されたとき、あわせて開示されたゲーム世界を示す資料の中に“司少佐”“アキラ”といったキャラクターの名前が含まれていましたね。これが地域ごとの要素、ということですか。

ハンケ氏
 それが始まり、と言うことですね。

――11月の講演で川島氏が『1年半後か2年後か、時期はわからないが、ストーリーにちゃんと終わりがくる』と述べていました。国ごとのストーリーになっていっても、1つのエンディングに向かっていく、のでしょうか。

ハンケ氏
 「エンディングがある」というのは、ドラマチックに、急に終わる、というのではなく、あくまでもお話には結論があるよ、ということです。いわば、1つの章が終わるという考え方で、その後、新たなチャプターが始まる。ゲームが急に終わるわけではありません。

 その流れのなかで、今、存在するキャラクターがいなくなることはあるでしょうし、疑問になっていることが明らかになっていく可能性があります。

アイテム課金はない

――Ingressは無料ゲームで、スポンサーから協力を得て運営している、とのことですが、収益化に関して、どう考えているのですか? アイテム課金や広告モデルは考えてないのですか?

ハンケ氏
 基本的にアイテム課金は考えていません。Ingressの中で、スポンサーに関するロケーションも入ってくるでしょうし、アイテムもスポンサーにあわせて提供されることがあるかもしれません。しかし、エージェントにとっては、あくまで無償でプレイできる環境を提供し続けます。

――そうしたコラボを実施するとき、ユーザーの反応をどこまで考慮していますか?

ハンケ氏
 スポンサーの存在は、最初のローンチの段階から想定していましたし、Ingressがどう運営され、資金を獲得しているか、ユーザーに対してオープンにしていくことは重要だと考えていました。まずはジャンバ・ジュース(Jamba Juice)やZipcar(カーシェアリング)、ドラッグストアチェーンのデュアンリード(Duane Reade)が最初のスポンサーになってくれました。

 そうしたスポンサーの存在も、ゲームのストーリーの一部にきちんと組み込んでいます。ローソンとのコラボもそうですね。

Ingressのストーリーを作るのは

Darsanaの日本語訳ルールの資料にはストーリーに関わる記述もある

――確かにローソンとのコラボが明らかになったときには戸惑いの声ばかりでしたが、ストーリーとの関連が明らかになると、感心する人も少なからずいたようです。そこで気になるのが、いかにストーリーを作り上げていくのか、というところです。

ハンケ氏
 社内で、Ingressの物語作成を担当しているのは、4人です。私もこの部分は深く関与しています。ストーリーを伝える動画も制作していますが、これは社内外のスタッフが関わっています。

 ストーリー関連では、場合によって社外の人と協力することもあります。著名な米国の作家であるトム・グレアニアス(Thomas Greanias)氏にIngressの書籍(The Alignment: Ingress)を書いていただきましたし、これからも外部の著者さんと協力していくことはあるでしょう。

 ストーリー担当の4人のうち、1人はもともとアニメやゲーム、映画、テレビでライターとしての経験を持っています。2人は最近、映画関連の学校を卒業しました。もう1人がライターでもあり、ディレクターでもある。そういうチーム構成です。

――そうしたスタッフを選定されるとき、最も重要視した要素は?

ハンケ氏
 最も重要なのは、ミッションに対する情熱を持っているかどうかです。我々のミッションは、世界を探検しよう、ということです。新しい場所に行く、新しいことを学ぶといったことが好きだという人で、具体的な趣味としてハイキングやサイクリング、あるいは旅行することや旅行記を書くことが好きといった人のほうがぴったり合うかなと思います。そしてエンジニアリングもそうですし、ライティング、ビジュアルアーツのスキルなど、どこか長けている人も必要です。

 マサさん(川島優志氏)のように1人でいくつものことができる人がいると、よりいいですね(笑)。

「新たな関係を求めていた」

――Ingressで人々を外に、というコンセプトは石巻のインタビューでお伺いしました。一方、「Ingressをプレイしていると、報復せずにいられない気持ちになる。戦争が起きる理由がわかる」といったコメント(※関連記事)が出てきたり、鬱病にも効くのでは、といった指摘もあります。あるいは壮大な社会実験とも評されていますが、そうした反応は、Ingressを最初に設計した際から想定していたものでしたか?

ハンケ氏
 ここまでのソーシャルなインタラクション(社会的な相互作用)になるとは、想定していませんでした。もちろんゲーム内にいくつか仕掛けはしていました。たとえばポータルを最も高いレベルにするには、8人の高レベルのエージェントの力が必要、という点ですとか、ポータルとポータルをリンクするには、リンク先の鍵が必要、といったものです。人と人の繋がりを促すことは想定して設計していましたが、それがどこまでになるかは、想定していませんでした。

 現状を見ると、人々は、新たな関係作りに餓えていた、と思います。ここ最近は、さまざまなガジェットを手にして遊ぶ人のほうが多かった。そうした機器を使って、新しい関係を作れるIngressは、ぴったりはまったのではないか。

 本当にいろいろと面白いことがIngressから生まれてきている、人々の生活をポジティブに変化させていると思います。1つはよく歩くようになって痩せた、引きこもりがちの生活だったのが外に出るようになって人々と交流するようになって生活が変わったですとか。あるいはイラクやアフガニスタンに従軍し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しんでいたところ、Ingressを通じて健康を取り戻すことができたという話もあります。健康以外でも、ソーシャルな面でも、うまく使っていただいて成功を収める人々も出てきているのではないかと思います。

“メダル”の難しさ

――先日、ローンチから2周年を記念したキャンペーンが実施されました。AP(経験値)が倍になったり、レベルアップに必要な条件を満たせる「Innovater(イノベーター)」メダルが付与されたりしました。

ハンケ氏
 2周年を祝って、もっと楽しんでもらおうということです。Innovaterメダルを用意してレベルアップしやすくすることで、楽しくなるのではないかと。

――Innovaterメダルはレベルによって得られる効果が異なっていました。高いレベルの人は、高い効果を得られると。レベルアップの楽しみがなくなったと捉える人もいたのではないかと思います。

ハンケ氏
 そういう風に、自力で高いレベルに行きたい、という気持ちになっていただくのは嬉しいです。同時に、たとえばSeerメダルを取れないという声も多かったのも事実です(バトルの対象として取り合うポータルは、ユーザーからの申請をもとにゲーム中に登場する。ポータルになった数を実績として評価するのがSeerメダル)。ポータルの申請もあまりに多く、処理に時間がかかる、という問題があり、その結果、レベルが上がりにくくなっていたところがあります。

 また、Guardianメダル(※1つのポータルを維持し続ければ獲得できるメダル。最長で150日)に関して、他のエージェントが長期間、保持しているポータルを破壊して、Guardianメダルの獲得の邪魔をするという、我々の想定外だった動きも出てきました。そういったこともあって、Innovaterメダルを用意し、ある程度レベルアップしやすいようにしました。

 来年には、挑戦が好きなプレイヤーに向けて、新たなチャレンジを用意していきます。

【追記 2014/12/17】

――GuardianメダルやSeerメダルの基準は変更されないのですか?

ハンケ氏
 Guardianは変更する考えはありません。Seerは12月15日の週に発表しますが、仕様を変えます。いったんSeer用のカウントをストップし、積み上がっている申請を処理していきます。ポータル申請も一時停止します。来年には、ユーザーピアレビューの仕組みを入れていきます。

――それはポータル候補の投稿があれば、周囲のエージェントがチェックし、ポータルとして承認、あるいは拒否されるということですか?

ハンケ氏
 ええ、そのような流れです。

【ここまで追記 2014/12/17】

――ちなみにレベルキャップはどうなるのでしょうか。現在は最高でレベル16ですよね。

ハンケ氏
 それは(ゲーム中の組織である)NIAが決めることです。噂では、さらに上のレベルが出てくるという話はありますが……。

これからのIngress

――Ingressには、チャット機能がありますが、そのチャット上ではさまざまなログが流れて、たとえば東京ではコミュニケーションに役立っているとはなかなか言えない状況です。

ハンケ氏
 もう少しノイズを排除して、より見やすくするというアイデアはあります。

――石巻で第三勢力の登場で質問しましたが、「Maybe」というお答えでした。その後、いかがですか?

ハンケ氏
 その答えはまだ「Maybe」ですね。この半年間は、ユーザーが訪れるルートを設定できる「MISSION」機能の実装に取り組んでいました。

【追記 2014/12/17】

――MISSIONそのものは、新たな遊び方をもたらした一方で、ユーザーが作るものですからストーリーと関連のないものがほとんどですよね。

ハンケ氏
 たとえば世界中で、ADA(エイダ、ゲーム中に登場する人工知能)とKlue(クルー、ADAと一体化した女性)に関するミッションが登場してきています。よりストーリーに関連するMISSIONが出てきていますし、これから登場する予定です。それらをクリアすることで、ストーリー上のパズルが解ける、今まで得られなかった情報を取得できる、という流れになります。
【ここまで追記 2014/12/17】

――Android Wearとの連携について教えてください。海外誌のインタビューで、Wearで通知を受信できる、という話がありましたが……。

ハンケ氏
 既にAndroid Wearで、通知を受信できるようになっています(といって見せようとするが)。ああ、でも東京都内の僕のレゾネーター(ポータルを占拠するためのアイテム、攻撃されると通知が届く)は全部、破壊されたようですね(笑)。

 Android Wearとの連携は今後も進めます。ハック(アイテムを入手できる行動)、アタック(敵ポータルへの攻撃)など基本的な行動はできるようにします。

――(一筆書きをすることで、より多くのアイテムを得る)グリフハックは難しそうですね。

ハンケ氏
 たぶんね(笑)。でも、「ぐりふはっく練習帳」(※日本のエージェント有志が作ったオリジナルグッズ)があるじゃないですか(笑)。

APIで新たなゲーム

――APIを開示して、他のゲームがIngressのポータルなどの情報を利用できるようにする、という方針が先日明らかにされました。今後のスケジュールは?

ハンケ氏
 現在、ゲームプラットフォームとしての構築を進めています。来年の前半には、「エンドゲーム」という作品のゲームがそのプラットフォームを利用します。Ingressのようなロケーション要素を含むゲームであると同時に、プレイヤー間のコンバット(戦い)の要素も含まれます。「エンドゲーム」のストーリーは、「Ancient Societies.com」というサイトでご覧いただけます。

――Ingressやエンドゲームは、子供でも楽しめるようにするのでしょうか。

ハンケ氏
 そこは課題だと認識し、改善しようとしていますが、現時点で明らかにできることはありません。

 エンドゲームに加えて、他のプロジェクトも立ち上がっています。これもNianticのプラットフォームを利用するもので、来年前半発表される見通しです。

――Ingressと一緒に楽しめるようになるのでしょうか。

ハンケ氏
 楽しめると思います。あるときはこちらを楽しむ、別の場所に行って、違うゲームを楽しむ、といった形ですね。

――なるほど、ありがとうございました。

大規模なアフターパーティも

 いよいよ明日に迫った「Darsana」は、相当な参加者が見込まれている。普段、レジスタンス(青)とエンライテンド(緑)に分かれたエージェントたちが特定の場所(ポータル)を奪い合う、リアルを舞台にした陣取りゲームのIngressだが、公式イベントはそのバトルを場所、時間ともにギュッと濃縮する格好。

 場所によっては、もしかしたら何らかの工事などで立ち入りできない可能性があり、そうした場所でのプレイは避けて、と川島氏はソーシャルメディア(※関連)で呼び掛けている。参加する方は、あらためて、そうした注意事項に目を通しておこう。

Darsanaのワッペンなども

 また、イベントの詳しいルールは既に案内され、有志によるわかりやすいまとめも数多くあるので、そちらもお忘れ無く。東京では、既に4700人以上が参加意向を示し、未定の人数をあわせると5500人弱が参加する可能性がある。これはIngress史上、最大規模とのことで、東京では3つのエリアに分散してバトルが実施される。

 そして戦いのあと、17時からは渋谷でアフターパーティが開催される。両陣営のエージェントが入り交じる、いわゆるクロスファクションミーティング(CFM)で、DJ/VJには、メディアアーティストの眞鍋大度氏らによる演出も楽しめる。なお、アフターパーティ会場は、日比谷公園野外音楽堂での受付時に押される、スタンプが入場チケットの代わりになり、入場には必須とされている。ご注意願いたい。本誌では、明日のイベントの様子もあわせて取材する予定だ。また今回はお伝えしきれなかった情報もあるので、「Darsana」のレポート記事でお伝えしたい。まずは両陣営の素晴らしい戦いに期待しよう。

(関口 聖)