インタビュー

ソニーモバイル十時新社長に聞く

国内外の状況、これからのラインアップ、ウェアラブルへの考え

 端末の販売台数を、大幅に下方修正したソニーモバイル。主な理由は、ミッドレンジ以下のXperiaシリーズの販売が不調なことだ。日本で販売される「Xperia Z3」をはじめとするハイエンドは依然として好調だが、北米や中国などのボリュームを取れる市場で存在感を発揮できていないのも、同社の弱みと言えるだろう。今後は、ラインナップや販売地域にも見直しをかけ、集中と選択を行っていく。

十時氏

 こうした中、経営陣も刷新された。11月16日付で社長に就任したのが、十時裕樹氏だ。同氏は1987年にソニーに入社。ソニー本体で財務や経営企画の職に就いたあと、ソニー銀行をはじめとする金融系サービスを新規事業として手がけてきた。その後、ISPであるSo-netに移り、新規事業やコーポレートベンチャーキャピタルを担当している。ソニーの本流ともいえる製品には携わっていないが、「So-netでは通信サービスにかかわってきた」(十時氏)人物だ。

 社長就任後は、上で挙げたような経営の立て直しを行い、ソニーモバイルの方向転換を行う。ラインナップや展開国を絞り込み、より収益性を高くしていくのが、基本的な方針だ。その十時氏が、社長就任後初めて、報道陣からの質問に答えた。主な一問一答は、以下のとおり。

ソニーモバイルが直面する戦略の見直し

――商品のラインナップをどのように見直していくのでしょう。

十時氏
 商品はもう少し整理する必要があると思っています。高価格帯の市場がどこまで続くのかという疑問はあるかもしれませんが、付加価値があるものを世の中に出していくことが、何より重要です。ソニーモバイル(ソニー・エリクソン時代も含む)は、グローバルな目線で見ると、スマートフォンに打って出ることが自体が遅く、入っていないソニーのフィーチャー(機能)も多くありました。その中でローンチしたXperia Zシリーズは、最高の成功を収めたと言ってもいい商品です。

 ただ、持っていた技術の“ため”がそろそろなくなりつつあります。次のロードマップを引かなければいけない時期に差し掛かっているということで、ポートフォリオの整理はそういった観点でも必要になります。

 ローエンドについては、ボリュームが出るから、たとえば生産を外に出しまくって、リファレンスデザインを使って安く作り、マーケットにミートさせるというビジネスのやり方もあります。ただ、それはソニーが得意なやり方ではありません。技術オリエンティッドに、尖ったものを入れ、仕組んでいく、企んでいくことが重要だと思っています。

――パートナーとの体制を強化するという方針だが、各国でどういった構成になるのでしょう。また、ハイエンドモデルを短期間で刷新していく方法が、あまりうまくいっていなかったようにも思います。

十時氏
 パートナーについては、今手がけていることを大きく増やしたり、つけ加えたすることはおそらくないでしょう。12月上旬に1週間欧州に行き、パートナー(キャリアやディストリビューター)にお会いして、我々の目指すところをお話したり、ご要望を伺ってきました。昨今のソニーの業績にも興味を持たれているので、そちらについても説明してきました。いずれにしても、そこで分かったのは、我々の持っているモノを作る力や販売する力があったうえで、今のパートナーときちんとやっていけばビジネスは回りまるということです。どちらかと言えば新たなパートナーを開拓するというより、そこに時間と投資をかけ、今あるところときちんとお付き合いしていきます。

 サイクルについては、確かに議論があります。今までは、半年に1回フラッグシップモデルを回してきました。ただ、ここはパートナーによって考え方の違いもあるため、その考えをよく聞き、反映させたうえでやっていこうと思っています。

――ソニーモバイルとして、どのように収益性を上げ、差別化していくのでしょう。

十時氏
 ポートフォリオを見直し、1モデルあたりの販売数を上げ、効率も上げていきます。ハードとソフトの両方で、開発の効率性を上げることで、プロフィットレベルも上げていきます。また、全体的に構造改革の余地もあります。

 差異化については、もう1回ソニーのR&Dと深く連携し、新しい技術を入れることを丁寧にやっていきたいと思います。スマートフォンに求められるフィーチャーは、たとえばバッテリーであったり、キレイなスクリーンであったりします。今は音やカメラの性能も求められていますが、ほかの会社より、少しでも早くそれらの新しいものを提案していきたいと思っています。

タブレットについて

――タブレットの位置づけはいかがでしょうか。

十時氏
 タブレットは、今の状況で、ビジネスとして大きな意味のあるボリュームになっていません。日本ではドコモさんに扱っていただいているので、販売自体はそれほど悪くありませんが、日本を除くと競争力やプレゼンスがあるという状況ではありません。特徴を出せていないというのもありますし、だからと言って、価格競争の面で優位性があるわけでもありません。また、タブレットのマーケット自体、グローバルで見るとあまり伸びていないこともあります。ですから、今の延長線上で大きくしていくことは、あまり考えていません。時間をかけ、商品企画をやり直して新しい提案ができるようにしたいと考えています。

――(売上高の)5%を占めていた比率は下がることになるのでしょうか。

十時氏
 元々が5%しかないので、それが3%ぐらいになるのか4%ぐらいになるのかは分かりませんが、そこまで変化のあるボリュームではないということです。

――商品企画をやり直すとおっしゃいましたが、時期を教えてください。

十時氏
 まだ定めていませんが、商品企画の部隊には、そういうコンセプトで考えなさいという指示を出しています。ただ、そんなにすぐには出せません。

――タブレットそのものを止めるということはないでしょうか。

十時氏
 それは考えていません。あえて止めると言うほど、今はやっていませんから。止めなくてはいけないという状況でもありません。

川西氏がソニーモバイルで取り組むこと

――1月1日付で、川西泉氏がソニーモバイルの取締役に就任します(※関連記事)。ここには、どういうメッセージがあるのでしょうか。

十時氏
 ご存知かもしれませんが、川西はSCEでソフトウェア開発のスペシャリストでした。彼に来てほしいと思ったのには、いくつかの理由があります。1つは、彼が非常に優れた、ソニーで指折りのソフトウェアエンジニアであること。もう1つは、SCEという新たなプロダクトを生み出した現場にいた人間であること。そして、ものすごいハードワーカーであることです。この3つでは、彼をリスペクトしていますし、非常に期待もしています。

 (今のソニーモバイルには)新しいモノを作るだけではなく、効率を上げることにも知見が必要です。たとえば、Androidも初期の段階では、さまざまなカスタマイズが必要でしたが、最近のバージョンでは完成度も上がっています。そこに対して、どこまでカスタマイズを続ければユーザーに喜ばれるのかは、もう一度考え直す必要があります。ユーザー目線で見て、ソフトの開発戦略を見直してほしいというのが、彼に求めていることです。

 また、ディベロップメントのヘッドには、手代木(英彦)という人間に来てもらうことになりました。彼は短焦点プロジェクターやLife Space-UXを手掛けた人物で、元々のバックグラウンドとして、NEXなどのミラーレスをやってきています。商品企画の知見を持った設計のエンジニアで、そういうマインドセットと過去の経験に期待しています。

欧州、米国の状況

――現状を見ると、日本だけが利益を稼いでいる状況です。かつては端末を1億台以上販売し、欧州にもきちんとネットワークを持っていました。この欧州で収益性が低い状況を、どのようにしていくのでしょうか。

十時氏
 欧州は、シンプルに言うとOPEX(事業の運営にかかる費用)が高い。それを、日本並みに下げるのが重要です。欧州については、売り上げのボリュームがあり、オペレーターとのエンゲージメントも強い。エリクソン時代の財産もあり、そこは強みだと思っていますし、実際、2桁とそれなりのシェアもあります。そのくらいのシェアとエンゲージメントがあれば、収益化はできると思っています。

 今まではまずシェアを拡大し、規模を大きくすることに重きを置いていました。そのため、収益が上がらない形になっていますが、ここまでパイが大きくなれば、収益を上げる方向に舵を切るだけで、(収益は)上げられると思っています。

――アメリカ市場は、規模が大きいですが、存在感を発揮できていません。こちらについてはいかがでしょう。

十時氏
 アメリカにどうアクセスするのかは、非常に難しいですね。ソニーが携帯を手がけ始めたのは1984年ぐらいで、自動車用のハンズフリーフォンができますという時代が最初でした。私もいい機会なので過去の歴史をひも解いて学習してきましたが、そのころから(アメリカには)出たり入ったりの繰り返しです。ちょっとうまくいって、つまづいて、再参入して、その間、クアルコムとジョイントベンチャーを組んだりもしました。エリクソン、シーメンス、モトローラなどとも、いろいろなことをやってきています。

 アメリカは、常に大きな市場ですが、厳しい市場でもあります。アップル、サムスンの2強がいて、違う選択肢はいつでもウェルカムというスタンスですが、最終的にはエンドユーザーに受け入れられるモノがないと続きません。百貨店の棚に置いていたけても、売れなければ次は撤去されてしまいます。最終的には、プロダクトのパワーがどのくらいあるのかに依拠するのではないでしょうか。

 そうでなければ、莫大な予算をかけてマーケティング投資をして、市場シェアとマインドシェアを上げるパワーゲームもあります。ただ、今の我々のリソースと、コンペティターのリソースを比べると、それは難しいと思います。

SIMロックフリー端末は?

――日本では、オープンマーケット(メーカー独自の流通、SIMフリー端末などの意味)が徐々に立ち上がっています。ここに端末を投入してパイを広げるということはありますか。

十時氏
 どこでオープンマーケットが出てくるのかは、考えどころです。オペレーターさんと話をしていても、オープンマーケットが伸びることを好ましいと思っていないのは事実です。どこで、どういう形で出ていくのかは、タイミングを考えなければなりません。こういったことは早すぎると市場がないまま終わってしまいますし、遅すぎてもダメです。その見極めは慎重にやっていきたいと思います。

――今は、まだその時期ではないということですか。

十時氏
 今のリソースを考えると難しいですね。オープンマーケットに踏み込むと、バリアント(派生の数)も増えて大変になります。2015年については、(オペレーターモデルに)フォーカスしていきたいと思っています。

戦略を見直すタイミング

――今回の戦略を見直すタイミングについて、決断が遅いという指摘もありますが、十時さん自身はどう思っているのかをお聞かせください。

十時氏
 なかなか難しいですが、too late(遅すぎる)というわけではないと思っています。何しろ変化の激しい業界で、あのサムスンですら、春先にGALAXY S5の不振がちょっとだけ見えて、サードクォーター(第3四半期)に利益率が8%にドロップしました。変化が3Qに一気に起こったということですね。あれだけスピード感がある会社でも、アジャストできませんでした。もちろん、そこからのスピードは素晴らしいものがありますが、そういう業界だと思って、予兆を察知し、それをいち早く戦略に反映させていくことが必要になります。

――モデル数を絞り込むというお話ですが、多様なニーズに応えた、きめ細やかさがなくなる懸念もあります。

十時氏
 今までモデル数が多かったのは、拡大を志向していたからです。より多くの市場、より多くのオペレーター、より多くのユーザーにアドレスした方が、台数自体は増えます。そうすると、弾を多く持ちたいと考えるのは、普通の行動です。

 一方で、収益性に目を向けると、多品種少量になればマージンを上げるのが厳しくなります。そのバランスをどこに置くかという話だと思っています。

ソフトウェア開発、そしてFirefox OSは

――先ほどAndroidのカスタマイズについてのお話がありましたが、スマートフォンではソフトウェアの戦いも重要という認識です。その点はいかがでしょう。

十時氏
 ソフトウェアやアプリそのものを否定するわけではありませんが、これで当てるのはものすごく大変で、予見が難しい。So-netのときも、投資を含めて散々やってきていますが、100やったら95はダメになる世界で、事業計画のメインストリームに置くのは難しいと思います。参入障壁がほぼないですから、それを際立たせて差異化するのは非常に難しい。また、基本的にAndroidはオープンプラットフォームで、固有のデバイスに紐づくものではありません。テクノロジーやハードウェアにエンベッド(組み込まれた)もので差異化する方が、続けられると思います。

――Firefox OSの技術検討をされていましたが、そちらについてはどうされるのでしょう。

十時氏
 まったく考えていないわけではありませんが、具体的に、何か予定されていることはありません。Firefox OSベースで何かを作ってほしいというオペレーターもいますし、AndoridやiOS以外の選択肢があった方が望ましいとおっしゃる方もいますが……。

――先日のIRデーでは、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)というキーワードも出されていましたが、ここについての詳細を教えてください。

十時氏
 ソニー(本体)に戻ってから、新規事業創出部を任されていました。先日、WiLと一緒に、スマートロック「Qrio」のローンチを発表しましたが、あれにも最初から関わっていました。あのときは、新規事業創出部だったので、WiLとのアライメント(提携)を強化していち早く立ち上げましたが、今度はソニーモバイルをローンチパッド(発射台)として使えると考えています。スマートフォンをターミナルにしてコントロールできるアクセサリやガジェットを出し、Xperiaの世界観をもう一度作っていけたらおもしろいと思っています。

――十時さん自身が、ウェアラブルやIoTであったらいいと思うものは何かありますか。

十時氏
 これはなかなか難しい質問ですね。今は時計タイプのものが多いのですが、出ているもので「いいな」と思えるものがありません。

――(一同笑い)

十時氏
 もうちょっと、時計は時計として大事にしたい。これは新入社員がアイディアとして出してくれたものですが、もうちょっとバンド部分を工夫しようというものがあります。これ以上言うと怒られてしまうのでやめておきますが、そういうものは非常にいいと思っています。

 また、インキュベーションをやっていたとき、クラウドファンディングを使った電子ペーパーの時計がありました。あれも、入社5年目ぐらいのチームがやっています。市場に近い感性を持った人たちが企画を推し進めると、おもしろい商品が出てきます。組織も大きくなり、商品企画も担当役員が「うん」と言わないと出せないところもあるので、もっと冒険的なモノが出てくる仕組みも整えないといけないと感じています。

――当面はスマートフォンが続くのか、その次のものが来るのかはどう見ていますか。

十時氏
 オペレーター相手のビジネスなので、2015年ぐらいまではほぼ固まっています。新しいものを作っていくとなると、その先の2017年ぐらいからになるでしょう。今の時点で次がどうなるのかは申し上げられませんが、スマートフォンのホームファクターを大きく変えていくのはなかなか難しい。使い勝手やフィーチャーにフォーカスして、IoTの流れの中で、周辺機器やサービスも含めて提案していく方がいいと思っています。

(石野 純也)