インタビュー

ドコモ加藤社長インタビュー

ドコモ加藤社長インタビュー

光コラボ、MVNO、Androidフィーチャーフォンを聞いてみた

 「ドコモ光」を発表し、モバイルのみならず、固定通信もあわせて提供することになったNTTドコモ。今回は加藤薫社長に、「ドコモ光」の話題を中心にインタビュー。それ以外の話題にも触れ、たとえば他キャリアで登場している、Androidベースのフィーチャーフォンも「そんなに遅くない時期に出す」と明言した。また一部報道で取り沙汰された、ドコモのサブブランドとしてのMVNOについては、「何も決まっていない」とコメントした。

ドコモ加藤社長

ドコモ光、初動は「上々の滑り出し」

――16日から「ドコモ光」の受付から開始されました。まだ1日ちょっとですが、いかがですか?

加藤氏
 上々の滑り出しだと思っています。公開できませんが、ある程度、数が入ってきています。ただ、問い合わせの全てに対応できず、完了率は50%程度と、お客さまにご迷惑をおかけしております。全国で1000人規模の体制で電話窓口も設けました。

――本誌の記事に対しては、「ドコモ光はわかりにくい」という声が多く寄せられました。

加藤氏
 1つ、反省している点があります。いま、お使いのISPさんは全て対応する、担保しますよ、というところから(説明に)入ったのですね。だからタイプAのISP、タイプBのISPがあり、アンバンドルもあります、という説明だったので、ややこしかったのだと思います。「タイプAのISPの場合、戸建てでは5200円になります。モバイルのパケットパックをセットすると割引が〇〇円になります」と申し上げればよかったと。タイプAだけではなくBもある、という形もありますよと。

――発表時点では割引額を強く打ち出したかったのでしょうか?

加藤氏
 そのあたりはちょっと変えたところもあるんです。いくらで光回線が使える、とお伝えできればわかりやすいと思っていたのですが、(総務省が示す)ガイドラインを遵守するためああなった、という形です。もちろん、たとえば1人〇円安くなる、という言い方もあるでしょうが、どこからの割引なのか。固定からなのかモバイルからなのか、ということで訴求しにくい。そして25歳以下に向けた割引もありますが、これも一般的なものとしてお伝えするのは難しい。今後、工夫していきます。

 ただ、お店での手続きは難しくありません。特に(フレッツから工事なしで乗り換えられる)転用はそうです。ISPは今、どちらをお使いですか? とうかがって、ではこちらを、と案内できます。

――今までは、ドコモ内だけでパッケージを作り上げていたところ、光となるとISPという存在があり、NTT東西から卸で光回線を調達する形になりました。

加藤氏
 私たちはいろんなISPとコラボしたいと思っていました。特定のところだけはダメという形にはしたくなかった。だから、いろいろと交渉があって、変遷した部分もあるのですよ。

――1000人規模の体制とのことでしたが、これはどういう組織なのですか。

加藤氏
 「ドコモ光サービスセンター」という名称で、東京、大阪、福岡に拠点を構える、いわゆるコールセンターです。

――そこのスタッフの方々は、NTT東西から移られてくるのですか?

加藤氏
 そういう方もいるでしょうが、それだけではないですね。

――その規模は今後も維持、あるいは拡大ということになるのですか?

加藤氏
 最初は本当にわからないんです(笑)。ここだと思った時期もちょっとずつズレましたし、(加入数が)バッと上がって下がるかもしれませんし、すーっと(横ばいで)いくかもしれないです。1~2カ月くらいは様子を見ないとわからないでしょう。

――この春商戦で一気に獲得するというよりも徐々に、という形でしょうか。

加藤氏
 ある程度、時間を要しますね。1つの処理をするのに、という面もあります。料金の申し込みほど簡単ではないでしょうね。いったん転用をするにしても、転用の申し込みをして、転用の番号はもらって工事日を確保する、という流れですから一定の時間がかかりそうです。

――1年前、こういうサービスが実現するとは思っていませんでしたが、ちょうど1年前には、一部報道でセット割が報じられていました。

加藤氏
 そうでしたね。新料金プランを出すとも思ってなかったでしょう?(笑)。お客さまからも数多く「セット割がないのか」「なぜできないのか」とずっといただいていましたから、我々としては辛い思いをしていました。

――提供開始時期についてですが、さきほど「ズレが」というお話がありました。

加藤氏
 予定がちょっと、ですね。(NTT東西の光コラボやドコモ光の)影響が大きかったのでしょうね。NTTさんのパラダイムシフトという側面もありますが、いろんな方が利用できるので、我々だけではなく、他の通信事業者、ISP、MVNOなどに影響する。一定の議論が必要だったのでしょう。

――転用という仕組みについては、いったん利用すると再転用できないという形です。今になってみると、もう少し仕組み作りの時間が必要だったのかなと思うところもあります。たとえば2015年度の早い時期に、転用の仕組みについて何らかの要望をNTT東西に、ということはあるのでしょうか。

加藤氏
 これはなかなか難しいところ。転用が簡単すぎるとどうなるか、MNPみたいに(過剰なキャッシュバックを招く下地に)なるかもしれませんし、何がいいのか、勉強しないといけませんね。一度これでやってみてどうなるのか。NTT東西さんが考えられる部分と……というよりも、事業者間で考えることが多いかもしれませんね。

――これまで携帯電話は2年間お使いください、という形態の割引、料金の施策といった形でした。一方、これまで固定通信はいったん契約するとなかなか乗り換えにくいですね。

加藤氏
 昨年発表した新料金プランでは、「長く使ってくださいね、長期で使うとおトク、長くお客さまとお付き合いしたい」というスタンスを打ち出しました。新料金は、今回のドコモ光に向けたものではありません。当時、長く使っている方から「ころころ変えるほうが得なのか」とお叱りをいただいていました。そうじゃないよな、ということで、当たり前のところに立ち戻ったのです。一方で、これ(ドコモ光と光コラボ)があったと。で、ちょうどマッチするということで設計したわけです。

――ドコモ光の発表後、競合他社からさまざまな発表がありました。手強そうなところは?

加藤氏
 まだわかりません。でも意外というと失礼かもしれませんが、小回りの効く事業者さんがあったりしますからね。

――ドコモ光の発表翌日、KDDIの決算会見があり、田中孝司社長が大きな影響がすぐ出ない、とコメントしていました。

加藤氏
 そのようですね。でも何がどうなるかわかりませんよね。もちろん固定とモバイルが1つのパッケージとして扱われることで、わかりにくくなる一方で、シームレスに使えるようになりますよね。

オフロード分が割引

――シームレスに使えるということで、今回のドコモ光でトラフィックが固定網に分散され、通信量の改定などがあるのでは、と期待したくなりますが……。

加藤氏
 それが割引額ということですよね。だから、より大きなパックはより安くなるということなんです。一方で、今、もうフレッツ回線を利用されて、宅内にWi-Fiを導入している方でも、パケット通信量はどんどん伸びているんです。

――パケットパックは安いものを選ぶ方が多いのかと思っていました。

加藤氏
 そうですよね。でも、すでに光回線とWi-Fi、そしてスマホという方でもパケット通信量が伸びています。今回のドコモ光では、シームレスに使えることで、より楽しい、より便利なサービスを提供したいなと思っています。

キーワードは「生活」

――では、どういうサービスが提供されるのでしょう。たとえば電話サービスについては、ドコモ光の発表時にはきちんと触れられませんでした。ということは何か仕込んでいるのかなと思ったのですが……。

加藤氏
 ああ……(と頷きつつも、何も言わず)今、dマーケットというデジタルコンテンツがあり、一方でリアルでの取り込むがある。これまでは光回線がなかったので、LTEで、という形でしたが、これからはWi-Fiでビシっとできるようになるのか。そこでキーワードは「生活」です。ドコモでは、スマートライフのパートナーを目指す、としていますが、そのライフの部分ですよね。どう寄り添いながら、便利で役立てるのか。

 たとえば、何か問いかければ応えてくれる、覚えていてくれるiコンシェルの進化型があってもいいじゃないですか。これが人間型になったらロボットになるのかもしれません。また、外からエアコンをリモート操作することはあんまり必要ないと思われるかもしれませんが、「消し忘れてきた!」という場合にも対応できます。

 dビデオを大きなテレビでも見ようというときに、簡単なアダプタを安く付けようと思ってますが、そうなってきたときにいろいろあるよね、4Kや8Kはどうするの、と。これらは先般のドコモ光の発表時に案内したものですが……。

――それらは2015年早々に、ですか。

加藤氏
 いやいやそんなすぐじゃないですよ。ただ、生活のサポートというところでは、他社とコラボして、たとえば水道のトラブル対応とか、お掃除とかの駆けつけ系を、意外に安く使えるという形ですとか、何らか検討していきたい。これらがICTで効率化、高度化していくと、もう少し考えられますよね。以前からHEMSというジャンルが取り沙汰されていますが、普及はしていない。そこも何か考えていけると思うんです。

――IoT(モノのインターネット)という分野はいかがですか。

加藤氏
 IoTは、たとえばセンサー系などはあまり通信速度を必要としませんよね。モジュールもバッテリーが10年持つ、というところに注力している企業に出資したりしています。このあたりは面白いと思いますが、僕らだけでは智恵が足りない。いろんな方とコラボしていきたいですね。

Androidベースのフィーチャーフォン

――最近では、他キャリアからAndroidベースのフィーチャーフォンが登場しましたね。

加藤氏
 もちろん考えてます。個人投資家説明会などに行くと、必ず言われるんです。(折りたたみケータイを手に)「これを出し続けてくれよ!」と。もちろんですと。でも、OSのSymbianはもうサポートされなくなってきて、部品も古いタイプのものはなくなっていく。そこでAndroidを使うという選択肢はあるでしょう。

 折りたたみ型でテンキー付きのスマホではなく、フィーチャーフォンを実現するための部品、OSがAndroidになっていくんだろうと我々は思っています。タッチパネルで操作したい、アプリをあれこれたくさん使いたいという場合はスマホがあります。

――いつ頃になるんでしょう?

加藤氏
 いつでしょうね(笑)。そんなに遅くないですよ。

第3のOS、パナソニックの新型LUMIXは

――Firefox OSのスマートフォンも登場してきました。

加藤氏
 うちはTizenと言ってましたね。そのタイミングが違うよねと言ったまま、そのままです。だけど、どうでしょう……そのエコシステムを作るのにはかなりの労力、お金がかかります。そこのバランスですよね。

――火は消えてしまった……?

加藤氏
 んー、いや、消えてはいないです。消えては。

――そういえばパナソニックがSIMロックフリーのAndroidスマートフォンとしても使えるデジタルカメラが発表されましたが……。

加藤氏
 ああ、ドコモとしてカメラを扱うことは、なりにくいですよね。

――法人からの要望として、いま最新バージョンのプレビュー版も登場した、Windows Phoneを手がけてくれ、という話はありますか?

加藤氏
 いえ、それはないですね。ただ、タブレットマシンなどでWindowsは一定の資産がありますから。企業さんはそうしたところがすぐ切り替えられないでしょう。

ドコモのサブブランドMVNOは「何も決まっていない」

――一部報道で幹部の方が「ドコモのサブブランド」としてMVNOを展開する、という話が出ていました。

加藤氏
 あれは何も決まってません。もちろん意見として、社内外で「サブブランドを作ったら」というのはあります。いろんな検討をしている、ということです。

――昨年4月のインタビューでは、MVNOについては競合であり補完関係でもあるというお話でした。一方で、ユーザーは増えて、これからの市場競争の中心として総務省もMVNOを後押しする方針を示しています。

加藤氏
 確かに市場は拡がってきているように見えますね。格安スマホなどどういう動きになるか、よく見ていかないといけないと思っています。ある種、高く見えるフルサポートのサービスと、安く見えるサービスと、その違いの背景にはそれなりに理由があるはずです。そこをお客さまがどう受け止められるか見てみたいですね。

――先日、KDDIがUQ mobileというMVNOを立ち上げましたが、脅威とは受け止めていないのでしょうか。

加藤氏
 あまり思ってないですね。ドコモばかりがMVNO回線を占めているのはおかしいと指摘されていたようですが、卸価格がありましたし……もともと積極的ではなかったと思います。かく言う我々も積極的だったかというと、そこまでではなかったですが。

SIMロック解除の義務化、通信サービスのクーリング・オフ

――2015年度には、SIMロック解除の義務化、通信サービスのクーリング・オフ制度が導入されるという話ですね。

加藤氏
 まずクーリング・オフについては、一生懸命説明していますし、端末のお貸し出しもしていますから、要らないんだろうなと思っています。説明が長いと言われるほど、きちんと説明して、お客さま満足度ナンバーワンと言っていただける店があり、おもてなしも評価いただいています。もちろん足りない部分もあるとは思いますが、(クーリング・オフ制度の)初期契約解除ルールは要らないと思っていますが、実際に(制度の導入・運用が)どうなるのか、見ていきます。

 SIMロック解除については、これまでもガイドラインに則って対応してきました。すでに年間10万件を超える解除に対応してきました。そのままドコモから他社へ乗り換える方がいないわけではないですが、ほとんどの方が海外渡航時に、現地のSIMカードを利用するためのようです。義務化されたときに大きな影響があるのか、よく見ていこうと思います。

――SIMロック解除の義務化にiPhoneが含まれるのかどうか。あるいは義務化の影響がどうなるのか、想像を巡らすと、2~3年後に中古端末が増えるのかと思いますがどういうメリットがあると思われますか。

加藤氏
 そこまでは確かに予想できますよね。その次が想像つかない。何のメリットがあるのかよくわからなくて。お客さまによっていろんなケースがあるでしょうから、そこはよく見ていきます。グローバル端末についても、これまで経験がないので……。

――iPhoneはどうなるのでしょうね。

加藤氏
 ……どうなるのでしょうね、よくわかりません。

――SIMロック解除までの一定の期間はどうなりそうでしょう。

加藤氏
 本質的にどうなんだろう、ということでよく見てみないと、ですね。まだ検討中です。

東京五輪に向けて

――2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、NTTグループがゴールドパートナーになりますね。ユーザーに一番近いレベルでは、ドコモが手がけるものが一番身近なものになりそうです。

加藤氏
 2020年をそんな先だと言っていられません。Wi-Fiを中心にどういうブロードバンド環境を提供できるか。また未来翻訳という会社を作りましたが、そちらも準備している。また大会運営の下支えとしてのICT、セキュリティに対する責務もあります。

――日本を訪れる方々に向けて、たとえば諸外国では空港でSIMカードパッケージが販売されていたりします。

加藤氏
 そういうものも考えていかなければいけませんね。観戦でも、スタジアムに居ながらにして、自分の居る場所とは反対から見たアングルとか、あるいは選手や競技に関する情報をスマートデバイスで見られるとか。グループをあげてやっていかなければいけませんね。

――ありがとうございました。

関口 聖