インタビュー

サムスン電子ジャパンCOO堤氏、ラウンドテーブル

サムスン電子ジャパンCOO堤氏、ラウンドテーブル

グローバル市場と日本市場の狭間で揺れる戦略

 Galaxy S6/S6 edgeをはじめとするGalaxyシリーズを中心としたスマートフォン端末事業を展開するサムスン電子ジャパン。同社 代表取締役 最高執行責任者(COO)の堤浩幸氏を囲むラウンドテーブルが開催されたので、その模様をお伝えする。

ハイエンドだけでなくミッドレンジの製品も

サムスン電子ジャパン 代表取締役 最高執行責任者(COO)の堤浩幸氏

――直近の市場動向、端末のラインナップの方向性をどう捉えていらっしゃいますか。

堤氏
 サムスン電子ジャパンに入社してちょうど4カ月が経過しました。この4カ月間、マーケットを見て、現場もかなり訪問させていただきました。まさに今、マーケットが変わろうとしている時だという感覚を持っています。

 Galaxyという形でスマートフォンの事業を展開してきたのですが、Galaxyのイメージは、どうしてもハイエンド、わりと高級志向というブランドイメージをお持ちの方が多いのでないかと思います。何年か前にはハイエンドのところにお客様の期待値があったと認識しています。ところが、昨今マーケットが変化してきています。いろんな事業者さん、いろんなニーズ、いろんなマニュファクチャラーがこうしたマーケットに参画してきて、マーケットのセグメンテーション自体が変わってきていると認識しています。我々がこのままハイエンドのマーケットを中心に事業展開していくことが良いのか悪いのか、この辺のところを考えているところです。

 例えば、一番マーケットが大きいミッドレンジにGalaxyのブランドイメージをそのまま持って来て、マーケットセグメントとしてはハイエンドからミッドのところに持って来る、という施策を考えながら事業展開していこうと思っています。これは、ハイエンドをやめるというわけではありません。ここはGalaxyのブランドのイメージです。プラスでミッドをやったらどうなるのか、ということを考えながら、皆さんのご期待に応えられるように、マーケットのニーズに沿った形でスマートフォンの事業を展開していくことを考えています。

 BtoBについても、ハイエンドというよりもミッド、あるいはミッドよりちょっと下の部分が有効だと認識しています。実際に今、私どもが法人さん向けにやらせていただいている事業に関しても、どちらかというとフラッグシップモデルよりもGalaxy Activeのような、セグメントを変えたものの方が数多くの要求をいただいているのが実態です。したがって、今後のマーケット、マーケタビリティを考えると、そういう製品ラインナップを考えていきたいなと思っています。

――マーケットが変わっているという認識の前提を教えてください。

堤氏
 まず、携帯の需要は飽和しているということではないと考えています。ただし、購入サイクルは今まで2年間ということがベースになっていました。その買い替えサイクルがちょっと延びています。4年くらいまでに延びる可能性があります。サイクルが長くなることによって、初期の段階ではどうしても販売総量が下がるケースも考えられます。これが実際にマーケットで起きているのかどうかというのは、事業者さんの数字を見ているとはっきり分かるのですが、やはりサイクルが長くなっているのは間違いないと認識しています。

 2つ目は、従来の大手3キャリアに加えてMVNOやそれに付随する新しいサービスやアプリケーションが登場してきています。今、MVNOのシェアはまだ6~8%ぐらいでしょうか。ただ、事業者としては100を超え200に近い形で存在していると認識しています。したがって、サービスプロバイダーと呼ばれる皆様が数多くなってきている。そういった中でユーザーのニーズも明確に分かれてきています。例えば、値段の安い端末を欲しがる、ただ単に話せてメールやチャットができればいいというお客様、あるいは写真に特化する、高級感のあるサービスに特化するというお客様も増えてきています。一つのニーズではなく、複数のニーズが複雑に入り混じっているマーケットになりつつあるということが言えると思います。従来のスマートフォンのマーケットからビジネスサイクルもビジネスモデルもニーズも、これからさらに変わって来ると認識しています。

 それからもう一つ。IoTという言葉を使いましたが、単体のスマートフォンだけでできる時代から、やはり繋ぐというということで、IoTを目指したスマートフォン、具体的にはEコマースを含めたソリューションオリエンテッドなスマートフォン、あるいはウェアラブルに代表されるような新しい形のスマートフォンが出てくるでしょう。そういったIoTを付随したマーケットがますます増えます。ここに向けての戦略、実際のスマートフォンの新しい形を作っていかないといけないと考えています。

――オープンマーケットについてはどう見ていますか。

堤氏
 マーケットが動いているのは確かです。(国内において)私どもは唯一MVNO、SIMフリーといったところに今日現在、端末を出していないマニュファクチャラーです。これをこのまま続けるのかどうか、新しいものを作り、そういったマーケットに対応していくか、状況に応じて対応していこうと考えています。やるやらないということではなく、お客様のニーズ、マーケットにきちんとマッチングした形でやっていきたいというのが私どもの考えです。

――Galaxyというブランドがユーザーからどういう風に見られているとお考えでしょうか。

堤氏
 元々Galaxyブランドというのは、どちらかというとビジネスマン、中高年層を主体として広がっているブランドだと認識しています。Galaxy S6/S6 edgeを出すにあたって、若い層の開拓、とくに女性層を含めた形でいろんなプロモーション活動を実施しました。その結果、Galaxyというブランドの認知率はかなり上がりました。80%の人がGalaxyとはこういうものと理解している。大事なのはGalaxyのブランドイメージがまだまだ浸透していない、ご体感いただけない方々もいるということです。これをどうしていくかを考えていくことが一つ。それが若い女性層なのか、あるいはもっと若い男性層なのか。どちらかというとGalaxy Activeといった製品は丈夫で防水も防塵も対応していますので、そういった方には非常に重宝いただいているモデルです。今後、全方位で行くのか、シニア層も含めてやっていくのか、検討していかなければならないと認識しています。

 Galaxy S6 edgeの何が優れているか、使っていただくとわかる方は非常に多いのです。見ただけだと「なんかいいデザインだね」「ちょっとエッジの部分が変わったデザインだね」という方が多いのですが、機能もいいんです。0.7秒でカメラが起動するとか、ジェスチャーで自分撮りが簡単にできるとか、ボタンを押したらパフォーマンスの速さを体感できます。有機ELですからディスプレイもきれいです。そういった見た感じや実際にご体感いただく感じも非常に重要だと思っているのです。

 私どもは非常にまじめな会社なんです。まじめな会社というのは、本当に携帯事業に真剣に全てのものに対処していきます。例えば、Androidのバージョンアップです。私どもは今までGoogleのバージョンアップにきちんと対応しているベンダーです。バージョンアップするにはお金がかかりますが、今まで我々は25回、全てのバージョンアップに対応しています。ですから、最先端のAndroidをお客様にご提供できるという自負も持っていますし、それを実際にやっています。

 今、私は指紋認証で端末のセキュリティロックをかけているのですが、我々はFIDOに準拠して指紋認証、生体認証に取り組んでいます。日本のメーカーさんで入られているのは富士通さんぐらいでしょうか。アップルさんも入られていますが、iOSの場合は独自仕様でやっているケースがほとんどです。国際的な標準、スタンダードモデルという意味ではGalaxyです。私どもはグローバルな端末、グローバルでナンバーワンな端末を皆さんに提供する。私どもにとっては反省点でもありますが、これがグローバルモデルだ、これがみんなグローバルで使っているんですよ、というのをもう少し言いたいわけです。

 例えば、主婦やパパ・ママ層に向けた優しい端末を作っていくというような、新しいコンセプトを考えていく、そういったようなものを今後のスマホの事業体の中の一つとして、アプリなのか、アクセサリーなのか、あるいはまた違った形の持ちやすさなのか、体感なのか、いろんなものが考えられると思うんですが、そういったことも含めて考えていこうと思っています。ですから、機能面ではないところですね。

サムスン目線でのグローバルと日本の市場の違い

――海外では販売されていたGalaxy Note 4が日本では販売されなかったなど、通信事業者のラインナップ戦略に振り回されているようにも見えますが、サムスンとしてはいかがでしょう?

Galaxy S6 edgeを手に語る堤氏

堤氏
 グローバルのマーケットと日本のマーケットは良くも悪くも共通点と相違点があります。日本の良さをもっとアピールしていかなければならないというもの私たちのミッションだと思っていますが、グローバルの良さももう少し取り入れた方がいいのかな、というところもあります。とくに私どもは2020年のオリンピックスポンサーでもあります。それに向けてモバイルの市場、これはGalaxyが奏でるところなのですが、これをどういう風にやっていったらいいのか。その時にスマホだけとかタブレットだけということでは、そういったソリューションだと海外から来られるお客様にとっては利便性が全く無いわけです。ですから、海外の良いところをもっと取り入れていく努力をしていかなくてはいけないし、もっとマーケットに対してシンプルにやさしくやっていかなければいけないという印象を持っています。

 例えば、私たちの端末は全て入ってます、全て良いです、というのは高級なメッセージですが、マーケットから見ると一つのポイント、シンプル性が無ければ分かりづらいじゃないですか。カメラが良いとか、何々が良いとか、非常にシンプルにお客様に訴えるメッセージ性、マーケティングというのが非常に重要だと思っていて、これからはGalaxyのイメージづくり、ここの部分が一つのポイントになると考えています。

 それから、これからはIoTの時代です。IoTというのは非常に難しいのですが、いろんなものに繋がるわけですから、Androidの良さというのはそういう繋がる良さ、利便性の高さにありますから、家電や社会インフラを含め、我々としてはGalaxyをトリガーにして大きなセグメントを作っていきたいと思っています。サムスンが全部やるということではなく、家電業界や通信事業者、アプリケーションプロバイダーの方々と一緒にやっていきたいと考えています。

――サムスンが考えるグローバルとはどういうものなのでしょうか。

堤氏
 ニーズが各国によってかなり違ってきています。グローバルのトレンドというと、スマートフォンの画面サイズがどんどん大きくなってきています。日本人は手が小さく、持ちやすさもあって、あまり大きなものを好みません。でも、外国の方は手が大きいので大きいのもいいですよ、と言われたのですが、アジアの国々でも大きい画面がすごく浸透してきているんです。コンパクトな方がいいという国が非常に少なくなってきているという中で、日本はどういうマーケットなのだろうと。ここのポイントが一つあります。

 ガラパゴスという言葉がありますが、決して悪いことが100%ではなく、ガラパゴスの良さをもっと出していく必要性があるのではないか思っています。日本からもうちょっと発信したらいいんじゃないか、我々受け身になりつつあるのかなという反省点も含めてですけども、こういったのもグローバルとの差異というのが出てきている一つだと思います。

 グローバルでは、ケータイ、スマホを何のために使うかと言うと、話すため、メールするため、チャットするためというのももちろんありますが、最近はイメージ(カメラ)です。日本では映るのを嫌がる人がいる、画像をシャットダウンしてしまう。ビデオカンファレンスでもそうです。化粧してないから嫌だとか、着ているものが映るのが嫌だとか(笑)、前に出られないカルチャーというのがまだある。そこのカルチャーの部分というのはなかなか治ることはないので、徐々にグローバル化していくのかもしれませんけども、そういったニーズの違いというのは非常にあると思います。

 我々としてはグローバル標準というのは大事だと思っているのですが、その中のローカリゼーションをどう対応していくのかという意味では、日本は価値観の高いマーケットなんだけども、難しそうなマーケットでもあるんですね。日本の人口も減少傾向にあり、今やアジアの国々、中国の方が人口が多いですからマーケットの大きさというのもあるわけです。そうなってくると日本の位置づけというのはますます難しくなってくるのではないかという懸念を私自身持っています。

 ですから、ボリュームの世界から価値観の世界へ日本のマーケットは変わらなくてはいけない。その価値観のマーケットというのは何かというと、IoTとかスマートホームに代表されるソリューションなのか、あるいはEコマースとか新しいセグメントを巻き込んだようなスマホの新しい時代を作るのか、そういったものを我々はもちろんですが、関連する方々が真剣に考える時期に来ているのかなと。その集大成を2020年のオリンピックの時に見せられると最高だと思っているんです。これが日本発のこれからのスタンダードモデルです、その中心にGalaxyがあれば、私はこんなハッピーなことはないと思っています。

――先日発表されたGalaxy Note 5とGalaxy S6 edge+は日本で発売される予定はあるのでしょうか?

堤氏
 私どもとしては、やるとかやらないとかは公式には何も言っていません。私としても状況を見て、きちんとやっていくものはやってきたいと思っています。今日現在で明日から売りますというのはありませんが、状況を見てきちんと判断していきたいと考えています。

――Galaxy S6/S6 edgeの成績はいかがですか?

堤氏
 私は企画も何もしていないのですが、入社の次の日にGalaxy S6/S6 edgeが発表されました(笑)。率直な感想を申し上げると、見た目はいい。見た目が良くて価値観も高いものだと思いますが、全てのものが逆にできすぎちゃっている、よい子すぎるというイメージが個人的にはあります。そのよい子の部分をどういう風に出していくのかが課題だと思っています。フラットとedgeがあって、なんでedgeなのかをもう少し皆さんにお分かりいただくということも必要かなと思っています。

 サムスンという会社は、日本、アジア、西洋のカルチャーがごちゃごちゃになっています。それぞれ着飾ってプレートの上に乗っているのであればいいんですが、ごちゃごちゃにあると見栄えが悪いので皆さん食べない。でも、勇気をもって食べてみると結構いけるんですね。そこに塩、コショウ、醤油だとかエッセンスを加えたらもっとおいしい。私はそのエッセンスの役目だと思っているのですが、皆さんにこの見た目の悪いものを食べていただく、そこのプロセスがイマイチ私は足りないと思っています。体感していただくと、なるほどなと思っていただける方がいらっしゃると思うんですが、体感まで行かない。価値観、ポジショニング、ラインナップ、セグメント、いろんなものをきちんと明確にして、それをストーリーとして皆さんにお分かりいただけるように見せないといけないということです。

――Galaxy S6/S6 edgeの時に発表を通してサムスンという企業名を外したのは良かったのでしょうか。

堤氏
 これからのマーケットは、何も無くていいんじゃないかと思っています。他社さんの端末でも、事業者さんのブランドも出ていません。皆さん2年、3年とお使いになって、違うキャリアさんにSIMを入れ替えて乗り換えるとかした際にキャリアのロゴが入っていたら逆に嫌じゃないですか。そういった意味ではマーケットの流れというのが、もうデザインも含めてここに出さなくていいじゃないですか、と。サムスンとかGalaxyをあえて消したというより、皆さんのことを考えて無い方がいいんじゃないか、無い方がシンプルでいい。1ユーザーとしてそう思います。

――サムスンにとって日本市場のプライオリティは?

堤氏
 日本市場のことは大事に思っています。ただ、数の世界では日本の市場性というのは、高くなっているというより、数の世界でいくとグローバルでの比率は下がって来ています。ですから、数の世界ではない価値観の世界や新しいマーケット作り、新しいニーズに対応するという市場性は非常に高いものだと認識しています。したがって、日本から発想が出てくる、日本から新しいビジネスモデルが出てくるという観点では日本市場を非常に大事に思っています。

――ありがとうございました。

湯野 康隆