インタビュー

海外でも“格安SIM”を実現する「トラベルSIM」

海外でも“格安SIM”を実現する「トラベルSIM」

国際ローミングに頼らないSIMフリースマホ時代の新たな選択肢とは

 MVNO各社から提供される“格安SIM”や、SIMロックフリーのスマートフォンの販売、SIMロック解除の話題が注目を集める中、SIMロックフリーという仕様を最大限に活用するサービスが登場している。なかでも、日本のユーザー向けに本格的に展開し存在感を増しているのが、100カ国以上で音声通話、150カ国以上で格安の3Gデータ通信が可能という、海外渡航者向けのSIMカード「トラベルSIM」だ。

 今回は、「トラベルSIM」を提供するアイツー トラベルSIM事業部 事業部長のJag 山本氏に、提供の背景やサービスの特徴を伺った。

「トラベルSIM」のWebサイト

海外旅行・出張向けの“格安SIM”

――まず、アイツーという会社について伺ってもいいでしょうか。

 社長の柳沼(吉永氏)の経歴や人脈を元にして、現在は3つの事業部があります。スマートフォンゲームの事業部と、声優や関連イベントなどの映像制作の事業部、それにIT関連の事業部があって、このIT関連の事業部がトラベルSIM事業部の前身になった事業部です。

 IT関連の事業部では、商社のように輸入・企画販売を手がける中で、これからは格安SIMの時代がくると考え、その中でもブルーオーシャン(過当競争が起きていない市場)を狙って、海外に行く人をターゲットにした商品を考えました。


アイツー トラベルSIM事業部 事業部長のJag 山本氏

――「トラベルSIM」では音声通話、データ通信、スマートフォンとのセット販売などラインナップが拡大していますが、どれが人気なのでしょうか?

 法人向け、個人向けで違いますね。音声通話は法人ユーザーで、データはどちらも問わず人気ですが、個人ユーザーが多い傾向にあります。

 法人ユーザーで音声通話の需要が高いのは、海外に行く際のレンタル携帯電話の代替サービスとして利用されているからですね。また、レンタルサービスでモバイルWi-Fiルーターを借りた場合、現地キャリアの通信規制に引っかかると、解除するためにはレンタル事業者と現地キャリアとの間で交渉が必要な場合もあります。「トラベルSIM」にはこうしたブラックボックス的な部分はなく、我々が管理できるのも、法人ユーザーに好評な部分です。

 個人ユーザーは、格安SIMを利用しはじめてから、海外で使えないというケースに遭遇することも多いようで、こうしたケースでの需要が高まっていると思います。

――ユーザーの男女比や年齢層はいかがですか。

 Amazon.co.jpで販売している分もあるので、厳密に言うのは難しいですが、弊社Webサイトの情報を解析する限りでは、主に30代~60代で、男性が圧倒的に多いですね。

――個人ユーザー、法人ユーザーの比率はどうでしょうか。

 「トラベルSIM」の販売枚数という意味では、データ通信用SIMカードが多く、つまり個人ユーザーの比率が高いことになります。一方、売上という意味では、コンスタントに使われる法人ユーザーの割合も高くなり、五分五分になります。最近では法人ユーザーでもデータ通信のみでいいという需要もあり、レンタルのモバイルWi-Fiルーターから切り替える動きも出ています。


「トラベルSIMトーク」
「トラベルSIMデータ」

――人気のプランなどはありますか?

 パケットのパックと従量課金のプランは、人気を二分しています。

 従量課金のユーザーがいるのか? と思うかもしれませんが、結構います。もちろん、そちらがお得になるケースがあると案内していることもあります。

 例えば、アジアやヨーロッパなど渡航地域に関わらず、10日間~2週間渡航するようなユーザーであっても、1日10MB以下、渡航期間の合計で200MBにいかないユーザーというのは、非常に多いのです。

 国内と違って海外では移動中の風景を楽しみますし、スマホに集中しているとスリの被害に合う危険性も高い。ホテルはWi-Fiの整備が進んでいますから、スマートフォンを使うのは、食事中や、待ち合わせの連絡がメインといったケースが多いのです。写真や動画をバンバン送受信するといったユーザーにはデータパックを推奨しますが、LINEのテキストとメールだけなら従量課金でもよい、ということです。

 大手キャリアの国際ローミング時の料金設定からも想像できますが、国内でもデータ通信量が1日30MB以下というユーザーが、相当数いることがわかります。これは1カ月にすると1GB以下です。調査機関のデータでも、月間1GB以下のユーザーが7割という調査がありました。そういうユーザーは、海外にいくと1日10MBとかになる。このケースに、何GBといったパックは多すぎますよね。

 「トラベルSIM」は、このように、何GBといったデータパックと、従量課金の2つを選べるというのも特徴になっています。

 残ったチャージの利用も、「トラベルSIM」なら日本国内から管理できますし、有効期限を延長するための利用は100KB単位(0.1ドル相当)からで可能なんですよ。

移動中の航空機のWi-Fiが利用できるチケットをキャンペーンで添付

――9月からはキャンペーンも始められるそうですが。

 2000機以上の航空機の機内公衆無線LANサービスに対応する「KINAI WIFI」の接続料1500円分をクーポン券でプレゼントするキャンペーンを行います。これで対応する多くの機内でも通信が利用できるようになります。ビジネスマンからは「飛行機の中ぐらいは繋がらなくても……」という声は多いのですが(笑)。

IT先進国エストニアのサービスを採用、今後はLTE対応も視野

――さまざまな選択肢がある中で、「トラベルSIM」(Travel SIM)を選ばれた理由はどこにあるのでしょうか。

リセラーとして販売した「Travel SIM」

 ベースになっている「Travel SIM」はエストニアのTop Connectの製品で、10年の歴史がある会社です。まずは2014年8月からリセラーという形で日本で取り扱い、好評でニーズがあったため、2015年6月からディストリビューター(販売代理店)として取り扱うことになりました。

 オランダの企業が同じような内容のSIMカードを提供していますが、オランダでは最近、バックボーンのケーブルが切れて街中の通信ができなくなり、無線で構築されていたクレジットカードの決済端末も一帯で麻痺したため、現金を下ろす人がATMに行列を作るといったことも起きました。

 エストニアはご存知の「Skype」を生み出した国で、通信基盤やバックボーンがしっかりしている国です。IPで繋がるという意味では、日本や米国に並ぶ先端を行く国で、安心感と実績もあります。

――料金の安さより安心感を重視したということでしょうか。

 両方のバランスが良いということですね。

 今後はLTEへの対応も視野に入れていますが、まだ海外では、LTEでどこでもつながるかというと、そうでもなく、仮につながっても速度が十分に出るかというと、それも別の問題です。

 「トラベルSIM」はほぼ確実につながることを重視し、その中で料金も優れていることを重視しました。

レンタルのモバイルWi-Fiルーターに対するメリットとは

――レンタルのモバイルWi-Fiルーターから切り替える動きというのは、移動日など使わない日も料金がかかるといった、負担が大きいイメージからでしょうか。

 長距離の移動だと往復だけで合計1日分の時間を使いますし、法人ユーザーなら、ミーティングの無い日は使わないこともあります。

 レンタルでは受け渡しが発生することや、返し忘れるケース、返却手続きも実際には面倒ですね。急な出張では手続きが間に合わなかったり、空港のカウンターでも法人決済だと煩雑になったりします。

 また、こうしたレンタルで渡航日当日の受け渡しの場合では、事前に機器の動作を確認できないため、万が一故障していた場合には渡航先の国の窓口を頼ることになりますが、窓口の多くは大都市に限られるのも課題です。

 「トラベルSIM」なら、ユーザーが持っている実機で、日本にいる間に動作を確認できますし、現地で端末がうまく動作しなくても、例えば最終手段として現地でスマートフォンを調達することで、SIMカードの利用を試みることが可能です。サバイバル的にどうにもできないのが、SIMカードと端末がセットになっているモバイルWi-Fiルーターの難しいところです。商談が伸びて、利用期間を延長したいといったケースでも、レンタルでは対応できない場合がありますし。

 もちろん、「トラベルSIM」は運用が楽で、料金も安いという両方がユーザーに響いていると思います。

 我々や通信業界の人は、現地でSIMカードを調達することも視野に入れますが、これをするのは、一般的にはマニアだけです。例えば夫婦で旅行に行って、現地でSIMカードを購入するか(そのための時間や手間を割くか)というと、なかなかそうした理解は得られない。ユーザーの中には、海外に出発する1カ月前に購入して準備している人もいるくらいです。普通のユーザーにとって、海外に出かけるのは人生で何度もあることではなく、大きなイベントですから。

 ビジネスでも、例えば商社マンなら、現地の空港に迎えが来ていて、そのまま会食や打ち合わせに向かうことも多いでしょう。現地に着いてまず、通信手段確保のためにSIMカードを購入しに行くという時間がありません。「トラベルSIM」なら出発前に端末で確認ができて、着いたらすぐに使えます。



――キャリアの国際ローミングでは、音声通話の着信側にも料金がかかります。「トラベルSIM」ではこうした負担は少ないですね。

 法人ユーザーには、そこにも魅力を感じてもらっているようです。「トラベルSIM」の法人ユーザーには、教育市場のユーザーも多く、学会への出席や、現地との交流事業でも使われています。学会で発表ともなれば、現地が夜中であっても、また辺ぴな場所でも、急な連絡がとれる必要があるわけです。

――かける側はエストニアにかけるということを分かっていないといけませんが。

 そこはそうですね。ただ法人ユーザーは多くの場合、通話の割引サービスを契約していますし、家族とやりとりする場合も、最終的には安く済むケースが多いですね。国内の電話番号から「トラベルSIM」の電話番号に転送していた場合なら、一旦は取らずに、「トラベルSIM」からの発信で折り返すと、安く抑えられるという方法もあります。運送業者の在宅確認のような、法人でも家族でもない第三者が「トラベルSIM」にかけた場合が、最も通話料が高いケースでしょう。

「トランジットでも使いたい」「旅行者のライフラインに」

――具体的に、「トラベルSIM」の優位性はどこにあるのでしょうか。

 私はこれまでの経歴の中で、年間100日以上も海外を渡り歩いているという仕事を10年続けていたことがあります。「トラベルSIM」は、そうした旅行者向けに作られた商品であるということです。それに沿っていないサービスを作って運用すると、現地キャリアとの食い違いが起こることになります。

――レンタルのモバイルWi-Fiルーターのケースでは、現地に行ってみたらつながらず、調べてもらうと、搭載のSIMカードが月初に大量に利用され、レンタルした時には規制の対象となっていたケースもありました。

 「トラベルSIM」は1ユーザー1IDで運用していますから、SIMカードを使いまわすような形にはなりません。1GBを契約したら、1GBまで使えます。

 「トラベルSIM」では、契約した通信容量を、地域をまたがって利用できる点も人気ですね。

 例えばイタリアですが、イタリア専用としてモバイルWi-Fiルーターをレンタルすると、バチカンが対象外になるため、バチカンを訪れて通信をするとパケット通信料が高額になってしまうケースがあります。ベルギー周辺など国土の小さな国もしっかりと分かれています。これら地域をまたがって訪れる場合、レンタルサービスではヨーロッパ周遊対応のプランでないといけないわけです。

 もうひとつ重要なのは、トランジット(乗り継ぎ)中でも使いたいという要望が多いことです。フランスやオランダの空港はトランジットで利用することも多いですが、渡航の目的地ではなくても、これらの国の空港で、乗り継ぎの待ち時間にスマートフォンを使いたいというケースです。

 「トラベルSIM」なら、1枚のSIMカードで150カ国上でのデータ通信をサポートしていますし、ヨーロッパ向けのデータパックを購入すれば、ヨーロッパ各国や東欧、ロシアに対応します。

 「トラベルSIM」はライフラインを目指しています。これからSIMロックフリー端末が全盛を迎えていく中で、海外渡航者向けのソリューションも増えてくると思いますが、現在はほぼない状況ですから、我々の強みになっていると思います。

――本日はどうもありがとうございました。

太田 亮三