インタビュー

Windows 10 Mobileで何が変わる? マイクロソフト高橋氏に聞く

Windows 10 Mobileで何が変わる? マイクロソフト高橋氏に聞く

iPhone、Androidからもアプリ移行を促すMSの本気

 スマートフォン向けの新たなOSとして、まもなく登場すると思われる「Windows 10 Mobile」。日本では「MADOSMA」のマウスコンピューター、「FREETEL KATANA」のプラスワン・マーケティングや、サードウェーブデジノスなどの数社が、すでに対応スマートフォンの開発を表明している。その「Windows 10 Mobile」を含めた新たなプラットフォーム「Universal Windows Platform」(UWP)について、日本マイクロソフトのプラットフォームエバンジェリスト 高橋忍氏にお話をうかがった。

日本マイクロソフト プラットフォームエバンジェリスト 高橋忍氏

「Universal Windows Platform」とは

――今回新たに提供が予定されている「Windows 10 Mobile」は、今までスマートフォン向けに提供されていた「Windows Phone 8.1」とは、どういった違いがありますか。

高橋氏
 マイクロソフトが提供しているスマートフォン向けのOSという意味で、基本的には一緒です。今回大きいのは、スマートフォン、タブレット、そしてPCが共通の「Windows 10」で動くようになったことです。デバイスの種類ごとにいくつかのデバイスファミリーとして区分されていて、PC版が「Windows 10 Desktop」、スマートフォン版のバリエーションが「Windows 10 Mobile」です。

 さまざまなデバイスが共通のプラットフォーム上で動作するメリットとしては、今後、スマートフォンとPCで共通のアプリが開発しやすくなります。「Windows 10」用のアプリは対応するすべてのデバイス上で動作します。このアプリ基盤が「Universal Windows Platform」(UWP)です。アプリだけでなくハードウェアの開発者の方にとっては、ユニバーサルドライバーとして、新しいハードウェア用のドライバーをひとつ作れば、それがPCでもスマートフォンでも動く、というところもポイントです。

 その結果、アプリの開発者にとっては、スマートフォン向けのアプリをそのままPC上でも使えるということになります。それもただ両方で動くというだけでなく、OneDriveによるデータ同期機能を使うことにより、例えば電車の中で読んでいたニュースアプリを、職場のデスクで続きから読むことができるといったシームレスな使い方ができます。デバイスを超えて、アプリを使い続けることができるようになるわけです。

 開発者がこのOneDrive のデータ同期を実装する場合は、情報を保存するAPIをOneDriveに保存するためのAPIに変更するだけで利用できるようになります。アプリのデータ領域をOneDriveに保存するだけなので、同期に使う容量は微々たるものです。

―― 今までiOSやAndroidにあった「スマートフォンアプリとパソコン用ソフトウェアの壁」をWindowsではなくしました、というスタンスでしょうか。

Windows 10 Mobileのプレビュー版を搭載した「MADOSMA」の試作機(de:code 2015の展示より)

高橋氏
 どちらかというと、「Windows Phone 7」の頃から別系統だったWindowsが「10」でひとつのプラットフォームとして提供されるようになったという意味合いが大きいです。iOSやAndroidは元々スマートフォン向けのOSとして開発されてきたものなので、前提が違います。

 PCの話になりますが、ひとつのプラットフォームで提供される上でのメリットは、今までストアアプリを使っていなかった、PCのユーザーにとってもあります。Windows 10のストアアプリは、スマートフォンやタブレットでは従来通り全画面で動作しますが、デスクトップ上ではウインドウの中に表示できます。多分見た目や使い勝手は今までのデスクトップアプリと違いがわからないでしょう。

 今までのデスクトップ用のアプリケーションと同じようにストアのアプリを使うことができるようになって、ユーザーからすれば、アプリを入手する場が増えたということになります。今ではFacebookやTwitterのアプリなど、魅力的なアプリがストアにも増えてきています。

iOS、AndroidアプリをWindows 10アプリにしてしまう「Windows Bridge」

――増えてきたとはいえ、現状では、ストアアプリの品揃えがまだまだ厳しいように思えますが、Windows 10 Mobileがリリースされるタイミングで状況は変わりそうですか。

高橋氏
 難しいですよね。ユーザーさんからすると品揃えが多いほうがいいけれど、開発者の方は、使われているプラットフォームで出したい、というところに行きついちゃうんですよね。

 Windows 10向けの移行のハードルを少しでも下げるための方法の1つとして「Windows Bridge」を準備しています。iOSやAndroidのアプリをWindowsで実行できるようにするための技術や、従来のWin32アプリケーション、WebアプリなどをWindows 10のアプリとしてパッケージ化する技術です。

 これらの移行技術は現在開発を進めていますが、もちろん無料で利用できるようになるので、公開されたらまずは試しに触れてもらえればと思います。スマートフォン向けに作ったアプリがそのままPCのデスクトップ上で動くというのは、スマートフォンで動かすのとはまた違った感動がありますから、お伝えしていきたいですね。

 まずはWindows 10のPC向けに出してみて、Windows 10 Mobile搭載のスマートフォンが出そろった段階で改めて操作性や表示などのUX(ユーザーエクスペリエンス)を最適化させるというのもありだと思います。

――「Windows Bridge」のiOSやAndroidのアプリをWindows 10アプリとして動かす技術について、反響はありますか。

高橋氏
 エヴァンジェリストとして開発者の方にWindows 10の新機能を説明させていただくときに、移植機能について質問を受けることが予想以上に多く、実感になるのですが、「これは来るかもな」とも感じています。もちろん開発者の方にとっても、実際に動かしていただくまでは半信半疑だと思いますが、まずは興味をもっていただけているようです。

 「Windows Bridge for Android」は、Windows 10 MobileのOSの上でARMのバイナリをサブシステムを通じて動かすものですので、Androidはアプリケーションをそのまま利用できます。今市場ではWindowsとAndroidでデュアルブートできるタブレットが出回っているくらい、2つのOSが使っているハードウェアが同じものになってきているのですよね。

Androidアプリの実行ファイルをWindows Phone向けに変換する「Windows Bridge for Android」。マップやストアなどのサービスはWindowsのサービスに置き換えられる(画像は公式サイトの紹介動画より)

 一方 iOSでは「Windows Bridge for iOS」として、ライブラリをオープンソースで提供しています。現在はベータ版での提供なので、まだ実用的な範囲になってませんが。GitHubにソースコードを付けて公開するというのが、今のマイクロソフトらしいやり方ですよね。改良できる人はご自由に改良してくださいという(笑)。

「興味をもったところから入っていただければ」

――「モバイルファースト」の方針を掲げているマイクロソフトですが、Windows 10のアプリストアでもやはりメインターゲットはモバイルになりますか。

「KATANA 01」の試作機。Windows 10 Mobile搭載で発売される(6月に開催されたフリーテルの発表会の展示)

高橋氏
 スマートフォンとタブレットとPC、どれを狙ってもよいと思います。例えば写真加工系のアプリを提供するとして、撮ったその瞬間に加工してシェアするのがメインのアプリなら、モバイル向けをメインに開発するのが順当でしょう。ただ、同じ写真加工系でも、凝った加工をするところに重点を置いているアプリなら、PCをターゲットに開発するのもいいと思います。スマートフォンで撮った写真をOneDriveで共有して、PCで加工をする、という使い方もシームレスにできます。

 Windows 10用のアプリである UWP アプリならば、最終的には PCメイン、モバイルメインのどちらでも使えますし、1つのアプリを「PCで使うとより多いメニューがでてくる」とか、「スマートフォンならではの操作感覚で使える」といったように、付加価値をつけるのもありだと思います。

――従来のWin32アプリケーションの開発者向けに、ストアアプリを開発するハードルを下げるような仕掛けはありますか。

高橋氏
 現状、すんなりと移行できるというやり方はないのですが、移行しやすいようにする方法はいくつかあります。

 Windows 10の魅力として、アプリを販売できるストアをぜひおすすめしたいのですが、先ほど紹介した 「Windows Bridge」を使っていただくのが一つの方法です。今までのWin32アプリケーションはそのままではストアで配布することができませんが、これをストアに上げるための「Windows Bridge for Classic Windows apps」も現在開発を進めています。

 Windows Bridge を利用しながら一度ストアで販売していただき、少し手も手ごたえを感じるところがあれば、改めてユニバーサルアプリとして移植していただければと。もちろんWindowsプラットフォームの開発ですから、ユニバーサルアプリでも、C#やC++などの使い慣れた言語で開発できます。

――ゲーム向けの開発ツール「Unity」では、ビルドする際にWindowsストア向けのアプリとして生成できる機能がありますが、国内ではあまり使われていないのでようですね。

高橋氏
 ゲーム開発だけ事情が違って、ミドルウェアでユニバーサルアプリに対応していますね。ただ、無料でWindows向けに移植できることに、みなさん気付いてないというところもあるかもしれません。もしかしたら、XPと7の印象が強くて、Windowsにもストアがあるというイメージがないのかも。

 今まで日本ではWindows Phone搭載のスマートフォンはほぼ提供されていなかったので、なかなかメリットを感じていただけないのですが、グローバルでみるとWindows Phoneはそれなりの数が普及していて、現在140カ国で利用できるようになっています。

 チェックボックスをひとつ押すだけで、未開の大市場に提供できますので、特にゲーム開発者の方には、ぜひ一度試してみていただきたいですね。

 マイクロソフトとしては、多く入り口を提供しますので、どこからでもいいので興味をもったところから入っていただいて、ご自身のアプリをストアに並べていただければと。ユニバーサルアプリを開発する上で、なにかわからないところがあれば、エヴァンジェリストに声をかけてください。そのために僕らエヴァンジェリストがいますので(笑)。

――本日はどうもありがとうございました。

石井 徹