インタビュー

「アップルの人ものけぞった」、KDDI田中プロが語る新プランの舞台裏

政府の値下げ意向、冬春モデルはどうなる

 9月11日、auが新料金プラン「スーパーカケホ」を発表した。1回あたり5分以内となるものの、発信回数には制限がなく、月額1700円(税抜)で利用できる通話定額サービスだ。これまでの通話定額よりも1000円安くしたことで、他社をリードしたと見えたのもつかの間、翌12日にはソフトバンク、そして16日にはNTTドコモが内容をコピーしたプランを投入し、対抗してきた。

KDDI田中社長

 通話定額ではまたも横並びになった――だが、新プランとの組み合わせで利用できるデータ通信プランは、auだけ他社より安いプランを選べる。ネットユーザーなどから“田中プロ”と呼ばれるKDDI代表取締役社長の田中孝司氏は、「他社も追いかけてくるかなと思っていたが、データはついて来れなかった。してやったり」とほくそ笑む。

「同質化って言われるけど」

――昨年はNTTドコモが「カケ・ホーダイ」で、通話定額に先鞭をつけましたが、今回は久々にauから仕掛けた印象です。

田中氏
 まず「同質化」って言葉。僕が最初に決算発表か何かで言って、確かにその方向には向かっているけど、みんな同じになったと言われると、それはちょっと腹立たしく思う。実際は、うちは固定回線とのバンドル(セット割)は2012年3月から開始していた。NTTさんの卸(光コラボ)で追いつかれたと言われているけれども、これだけで1時間喋れるからちょっと置いといて……。でも、たとえばプリペイドカードの「au WALLET」は2014年5月にはじめました。ソフトバンクさんは遅れて提供し、ドコモさんにはプリペイドはない(クレジットのDCMXは2006年開始)。

 そんななか、去年の音声定額は、うちもずっと検討していたけれども先を越された。こういうことじゃイカンと思って、もう一度、新しいサービスのリーダーになろうと、前々から準備していた「スーパーカケホ」をやることにしたのです。

 これまでの「2700円」という通話定額の料金に対しては、「そんなに電話をしない」「かけない」という声があり、自社調査でも評判があまりよろしくない。

 僕が社長へ就任したとき、auのロゴを変えたのですが、あわせて社内では「革新性」「お客さま視点」というポジションで高い位置に行かねば、(資料を示しながら)ここにポジショニングしないといけないと思っているのです。かつては、革新的な部分ではソフトバンクさん、お客さま寄りな部分はドコモさんと言われていて、auは特徴がないと言われていた。(革新性とユーザー視点を踏まえて)ここに行くんだということで、サービスなどを提供してきた。でも、ちょっと抜かりがあったのが音声定額。準備自体はしていたんですが……。

――スーパーカケホは1回あたり5分まで、そして発信回数に制限なしという形ですが、発信回数を制限するというアイデアも検討されたと思います。

田中氏
 はい。1000円の値下げはあまりにインパクトがある。だから「5分まで」にしました。通話のうち、ほぼ9割はそれで済んじゃう。長い通話は家族宛が多い。だから5分という制限の対象外です。これでカバーできるのが1700円という値付け。

 ニーズとしては発信回数のほうだと思っているのです。ちなみに電話の利用が多いのは西日本のほう。だから通話定額を導入すると、西の方は減収するんです(笑)。通話時間で一番長いのは沖縄だったかな。MoU(Minutes of Use)って言う指標があるんです。

――地域によってそういう差があるんですね。

田中氏
 そうなんです。で、(1700円でも)大丈夫だと思った。1000円の値下げはインパクトがある。夏季休暇中にも考えて、新しいカケホをやろうと決めました。8月下旬だったかな。

 でもデータはどうするんだと。3〜4GB程度はどうだろうと思い、社内で検討したところ、当初は「5GB」からの契約、という検討結果だった。確かに「5GB」であれば(業績面では)安全なんです。でもそれではいけない。受け入れられないし、(トータルで料金が上がると)むしろ批判的に受け止められる可能性もある。新たに「4GBプラン」を設定するには、システム改修のコストがある。そうした点を踏まえて、やはり「3GBプラン」でいくしかないと。今日(9月18日)からCMが放送されますが、このCMも短期間で制作しました。

データを3GB〜にした理由

田中氏
 6月末時点で、auのLTEユーザー全体での月間平均データ量は、3.7GBなのです。この数値はWi-Fiによるオフロード(負荷分散)は含まれていません。現在、オフロード率は59%だったかな。3GBで設定したら、お得感を感じていただけるのではないかと。

――現在のauの利用傾向として、一番多い通信量のプランはどのあたりなのでしょう?

田中氏
 2GBと5GBが多いかな。3GBは中途半端と言えば中途半端ですね。利用傾向は2パターンあります。1つは利用している通信量の上限に達するともう使わない、節約するというもの。もう1つは気にせず利用し上限に達したら追加する、というものです。(前者のほうは)月の最初にデータを使って、その後スローダウンさせる感じになっています。だいたい3GBのほうに行くんじゃないかなと思っています。

――なるほど。

「アップルものけぞった」

田中氏
 音声通話とデータの料金を合算して比較すると、1700円の新音声定額プランでは、当社のプランが6200円(1700円+3GB/4200円+ISP料300円)で他社より700円安い。これまでは確かに6500円で横並びでしたが、ここで勇気を出して値下げしたのです。だけど、(追随した)ソフトバンクさんは頭が良くて5GB以上にされた、ということです。

――3GBという落としどころは、結構ギリギリのところだったと。

田中氏
 社内は反対でしたよ(笑)。でも、いいんだよ3GBでって。「電話を使わない」という意見は多いんですよね。だから1700円という料金設定はインパクトがあると思っていた。
 iPhone発表時、僕は出席するため、米国にいました。アップルと打ち合わせしたとき、「まだ発表前だからナイショだが、実はこんなプランを出すんだ」と。そしたら、向こうはのけぞった。よくそんな大胆なことをすると。

 結構インパクト、あったでしょ? データ使わない人にもおトクになるし、今回すごく良かったと思っている。発表したら、ソフトバンクさんは追いかけてくるだろう、ドコモさんもひょっとしたら来るかもしれないと思っていました。うちにとっては減収になりますが、勇気を出した。するとデータ通信の(3GBのほうは)ついてこれなかったのでしてやったりですよ。

――これで、音声定額(をドコモに出し抜かれた件)の借りを返した、というところでしょうか。

田中氏
 少し…………良かったな、と(笑)個人的には思ってるんです。

 これでも一緒だと言われると、ちょっとそれは違うと言いたくなりますよね。最も安い料金の組み合わせを見ると、うちは値下げになりますが、他社さんは1700円のプランを選ぶと値上げになる。家族で使うと世帯全体での支払い額でも違いが出る。それから機種変更を支援する、うちで言うアップグレードプログラムの取り組みも各社違います。

「競争しなければ」

――安倍総理が高市総務大臣に携帯電話の料金引き下げを検討するよう指示を出しました。ちょっと筋が違うようにも思えますが、どう受け止めていますか。

田中氏
 国民の声がどれくらいかわからないが、通信料が高い、という声があると。僕らはお客さま寄りでありたいけれども、事業なので0円では提供できない。そこで頭を使ったのが今回のプラン。やはり“お上”から言われてやることではいかんだろうなと思う。自分たちが競争していかなかればいけないと。

――その話の直前で「スーパーカケホ」が発表されましたが、政府側の動きと申し合わせをしたかのような(笑)。

田中氏
 申し合わせしてませんて(笑)。タイミングが悪かったとは思ってますけど、国は国(の考えがある)と思っていますよ。社内のみんなもよく付いてきてくれました。

――「スーパーカケホ」は、いつ最終的なGOサインを出したのですか。

田中氏
 いつだったか、8月末くらいかな。当社のCMについて検討する会議のなかで、まだ「スーパーカケホ」が最終決定していなかったので、CMのストーリーを変えることになるかもしれない、なんて場面もありましたね。

 良し悪しは別にして、通話もデータもいろいろとバリエーションがある形となった。お客さまにとっては良いことだと思う。電話も高いと言われていたので、わりといいかな、と思ってるんですけど……。

――そのあたりをユーザーに伝えていかないといけませんね。

田中氏
 料金プランが複雑かどうか、という点では、通話は(定額で)複雑ではないけれど、たとえばデータ通信の「ギガバイト(GB)」って何だ、ということがある。でも、その一方で、若年層ではデータ通信し過ぎると「ジービーがそろそろない」なんて言い方をするようになってきた、という話もあるそうです。だからGBという表現もだんだん浸透してくるのではないかなと思う。これはグローバルでもそうですね。

――毎月支払う料金が、どこまで端末代で、何にいくら払っているのか把握しづらい、という声もあります。

田中氏
 確かに複雑なところはあります。米国では、アップグレード競争になっていて、年に3回機種変更できるとか、時々刻々と変化しています。ベースは端末で、データ通信、通話定額がある。端末代は割賦代で、キャンペーンもあるけれど、わかっていただけるのではないかなと。

――今回のiPhoneでは、一括価格が10万円を越えてくるものもでてきました。端末がもっと安くなれば、というところもあるのでは。

田中氏
 でも、日本人がiPhone、好きなんだよね。世界にはそういう地域がいくつかある。僕らが(iPhoneの)値段を決めているわけではない。SIMロックフリーの価格もありますし。そこで安く感じてもらえるために、割賦がありますが、そこにコミッションを入れるか入れないかという点だが、割賦へのコミッションが仮になければ、端末代金が上がって、通信料金が上がったり下がったりする。全体では変わらない。もし一括でしか買えないようになると、みんな不満に思うんじゃないかな。

どうなるUQ

――UQコミュニケーションズとKDDIバリューイネーブラーが合併します。一緒になることで何が起こるのでしょうか。

田中氏
 いわゆるLCCですよね。MVNOを使う人のなかには、やたらとデータ通信を利用する方がいます。本当もうとんでもなく。そしてガジェッターとして常に新しい端末が欲しい方もいる。新しい機種はMNOで取り扱われることが多くて、MNOで購入して、MVNOのSIMカードに入れ替えるというのが1つのパターン。もう1つは、モバイルルーターがメイン回線になっているという場合で、意外と多い。そのルーターにMVNOのSIMカードを挿入している。それぞれターゲティングがあるんじゃないかなと思っている。

 画面が大きくて安い、イオンさんで売ってる端末を買う、という方とはまったく違う。UQはルーターやっているので、シナジーを出していけると思う。詳しくは、(UQ側の)担当者が今考えていますよ。

 僕からも聞いていい? どうなんすかね。

――本音を言うと、みんながみんな、スマホを売っているというのは面白みに欠けますよね。

田中氏
 僕はね、カシオを辞めた人がいたじゃない。

――(UPQの)中澤さんですか。

田中氏
 ああいうの、面白いよね。本当に素晴らしいと思う……昔、ウィルコムが「W-SIM」という通信モジュールをやっていたじゃないですか。ああいうことをどんどんやるべきだろうと思う。ニッチだけどやる。今はプラモデルのようにスマホを開発できる。マスマーケットは無理かもしれないけれど、ああいうのが出てこないだとダメだと思う。

IoTもこれから

――MVNOのなかには、通信帯域を絞って安くする、といった手法が出てきました。かつてのEZwebのコンテンツ料金に少し上乗せする程度のプランでなければ、たとえばこれからのIoTの世界は拡がらないのでは?

田中氏
 そうそうそう。IoTの世界は小さなものの組み合わせ、固まりみたいなものだから、大事に育て上げるようにしないと、(多くが淘汰されて)「3つの製品から選んでください」になってしまう。

――これまでの通信キャリアは速度の向上を追求してきた面もありますが、通信速度が遅くて、コンパクトなプランといったものはMVNOに任せるのですか。

田中氏
 IoTでいえば、LTEの新しいカテゴリーで、カテゴリー0、カテゴリー1に対応したものが今後登場します。これは低消費電力を追求したIoT向けのもの。そうなると、料金やイメージはこれまでと全く異なってくると思います。

 もう1つ、競争をしなきゃいけないと思っています。通信業界は寡占だと言われているが、今の3グループもそのままで居られるかどうかわからない。米国だと2強で、あとは小さなところしかない。

――3社がiPhoneのように同じ機種を取り扱いつつ、それ以外のところで競争でしょうか。

田中氏
 ちょっとした差分もきちんとアピールしていかないといけないし、IoTが出てくると、また見方が違ってくるかもしれない。

Winsows 10 Mobileについて

――新しいプラットフォームというところで、Windows 10 Mobileが出てきます。かつてWindows Phone 7の端末も投入されましたが、今の動きはどう見ておられますか。

田中氏
 (深々と頭を下げてから)いや、いいんじゃないですか。

――(Windows Phone 7搭載スマホの発売時に)プロとアピールされて、今に続いているわけで……。

田中氏
 いや、プロダクトオリエンテッドな使い方ができないですよ、なかなか。アプリのボタンを押してメニューを選ぶ、といったWindowsのコンセプトはちょっと早すぎた。一回ハマるといいよねと思うんですが……ね、そうですね……なに言ってるんですかね(笑)。

――ユーザーからすると、Windows 10 Mobile製品が出ないのかなと。3キャリア全て及び腰のように見えます。

田中氏
 そうだよね……(ふたたび深々と頭を下げてから)全てわたくしのせいです……うちも相当、損をしたから……。

――去年は、面白い物、尖った物として「Fx0」を仕込んでいたわけですが、今年は?

田中氏
 そのあたりをやるのは、やっぱりうちの使命だと思いますよ。

――さきほどIoTの話がありましたが、面白い物、尖った物をやるのはそういう周辺機器なのかハンドセットなのか……。

田中氏
 面白いことを、したいですね。

――「やります」とはまだ言葉にされませんか。

田中氏
 そういうと「それって何ですか」と外堀埋まって、ろくなことがないですから(笑)。

春モデル、サービスも仕込み中

――iPhone以外の機種はどうなりますか。

田中氏
 秋はそんなに大量の機種は出さないです。iPhoneが相当、マーケットを占める。春商戦に向けて(ラインアップを)増やすという感じです。

――Androidは年を越えたら本気を出すと。

田中氏
 いわゆる春モデルですね。

――サービス面での取り組みはどうなりますか。

田中氏
 スマートフォンでもこういうやり方があるのかな、というのをトライしている。いつか発表するときには冷たくしないでくださいね(笑)。au WALLETのときも「何やこれ」という反応でしたから……あれは奥深いんですよ。

 ほんと、ここまで(のどに手を当てて)言いたいんですよ。今、いろいろやってますので……。

 さきに「革新」「お客さま視線」を重視する方針をお伝えしましたが、単なる土管屋になってもいけない、というのも(社内で)宣言しています。お客さまとのタッチポイントを失うと堕落だと思っています。キャリアはキャリアで良いことがあると思っています。

――下期に向けてそのあたりで……。

田中氏
 失敗するかもしれないけれど(笑)、よろしくお願いします。

――ありがとうございました。

(湯野 康隆/関口 聖)