インタビュー

これから来そうなメーカー探訪

スマホの「アルカテル」ってどんな会社?

TCL Communication TechnologyのJapan Country Directorのラッキー・ツァオ氏

 「アルカテル」(ALCATEL)というブランドをご存じだろうか。2014年発売のイオンスマホ「ALCATEL ONETOUCH IDOL 2 S」や昨夏発売の「ALCATEL ONETOUCH IDOL 3」などのメーカーだ。

 一般の方にはあまり馴染みのない名前かも知れないが、古くからのケータイ業界の人間にとっては、知らなければモグリと言えるくらい、よく知られた名前である。

 現在のアルカテルブランドのケータイは、中国企業のTCLが製造・販売をしているなど、やや複雑かつ面白い経緯を持つブランドでもある。今回はアルカテルブランドのスマホを展開しているTCL Communication TechnologyのJapan Country Directorのラッキー・ツァオ氏にお話を伺う機会を得たので、全2回のインタビュー記事として、前編ではアルカテルとTCLについて、後編では端末や日本での事業展開についてお届けする。

フランスの老舗通信機器メーカー「アルカテル」

「ALCATEL Onetouch Easy Phone」シリーズ

 アルカテルは元々、1898年にフランスで創業した通信機器メーカーの老舗中の老舗だ。固定通信網時代からケータイの時代に移っても、GSM規格のキー・パテントを持つ数少ない企業の1社として、インフラ機器・移動機(ケータイ)の両方で事業を行っていた。

 移動機分野では、1997年頃から「ALCATEL Onetouch Easy Phone」という端末シリーズがヒットした。1997年というと、本誌創刊前で、インターネットが普及し始めたくらいの時期。このため、Web上に端末情報はあまり残っていないが、「Alcatel OT Easy」で画像検索をすれば、当時の端末の写真を見ることができる。欧州テイストデザインの丸みを帯びたカラフルなケータイだ。

 その後、2004年にアルカテルは移動機事業でTCLと合弁で新会社「TCL & Alcatel Mobile Phone Limited」を設立。この新会社がアルカテルの移動機事業を引き継ぐ形となり、やがてTCLの100%出資となって、現在に至っている。

 欧州のライバルを見ると、エリクソンの移動機事業はソニーとの合弁の設立の後にソニーの100%子会社になり、ノキアの移動機事業はマイクロソフトに買収された。欧州の老舗ケータイメーカーともにケータイ事業を他社に委譲しているのが時代の流れを感じるところだ。

 余談だが、アルカテルのネットワークインフラ部門はアルカテル自身が継続していたが、2006年にルーセント・テクノロジーと合弁し、アルカテル・ルーセントとなっている。そして昨年、ノキアがアルカテル・ルーセントの買収・統合を発表している。ノキアはシーメンスと合弁を設立した後、ノキアの100%子会社になった経緯があるので、ネットワークインフラの業界では、ノキア、シーメンス、アルカテル、ルーセントが統合し、エリクソンや中国勢と勢力争いをしている構図となっている。

TCLが作った最初の電話機
ALCATEL Onetouch Easy Phone

中国の大手総合家電メーカー「TCL」

TCLグループ本社

 アルカテルブランドのケータイ・スマホ事業を受け継いだ「TCL」は、日本ではあまり知られていないが、中国本土では誰もが知る総合家電メーカーだ。

 そのTCLは1981年当初、磁気テープを作っていた会社から始まっている。1985年からは固定回線の電話機の製造販売を開始し、「TCL」という社名は、「Telephone Company Limited」という電話機事業に由来している。それだけに通信機器へのこだわりは強い(ツァオ氏)とのこと。

 ちなみに社名が漢字ではない会社は、中国本土では非常に珍しいという。たとえばファーウェイは華為技術、ZTEは中興通訊だ。しかし、漢字表記をもたないTCLはシンプルで覚えやすく、またグローバル企業であることの表れにもなっている。

 その後、TCLは事業拡大を続け、今ではスマートフォンはもちろん、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの白物も含めた家電全般を扱うようになり、2000年代からは液晶パネルの自社生産すら行っている。ファーウェイやZTEなどは通信機器専業だが、それらとは異なり、TCLは総合家電メーカーという違いがあるわけだ。2007年には企業イメージを一新しTCL=The Creative Lifeと云うブランド・ステートメントを掲げて人々の「生活を想像する」企業を目指しているとのことだ。

 TCLグループ傘下にはさまざまな企業があるが、そのうち5社が上場している。ケータイ事業を展開するTCL Communicationもそのうちの1社だ。TCLグループは、グローバルベースで7万5000人の従業員、23カ所の研究開発センター、21カ所の製造拠点があり、世界170カ国以上で製品を販売しているという。

 TCLは元々、中国国内で大きなシェアを持つ総合家電企業だったが、中国国外にはあまり展開していなかった。しかし、2004年に中国政府の方針で税制度が変わり、競争力を強めるために海外進出の必要性が強まり、海外メーカーとの提携や合弁を進めたという。アルカテルとの合弁もその流れの一環で、たとえば同じく2004年にはフランスのTVメーカー、トムソンとも合弁会社を設立している。

 TCLは2004年のアルカテルとの合弁設立前から、中国国内でケータイ事業を展開しており、2003年には中国でのシェアはナンバーワンで高い純利益を上げていたという。そして、合弁設立後の現在でも、中国国内ではTCLブランドでのケータイ事業を継続している。

TCL Communication
工場

アルカテルや海外の文化を取り込んだTCL

世界各地に拠点を設け、積極的に現地採用を行っているという

 アルカテルと合弁会社を設立したことで、TCLはアルカテルのブランド認知度、海外での販売チャネル、研究開発能力、パテントなど、グローバルでのケータイビジネスの大きな基礎を得ることになった。また、それらを支える品質管理とサプライマネジメントについても、TCL/アルカテルは自信を持っているという。

 中国国内中心でビジネス展開をしていたTCLとフランス発祥のグローバルメーカーのアルカテルとでは、企業文化が違いそうなところだ。しかし、ツァオ氏によると、合弁時に雇用した現CEOは中国系アメリカ人など、トップレベルの経営陣には海外で長年生活していた人物が多く、製品開発の幹部も元アルカテルの社員が多いという。

 また、中国外での展開において、TCL/アルカテルは現地採用を積極的に行うポリシーを持っているという。国によって文化が異なるので、現地採用により、現地の文化と市場ニーズを理解することができるというわけだ。

 2004年の合弁直後は、「Alcatel Mobile Phone」というブランドで展開していたが、2011年にラインナップを拡大し、そのときに「ALCATEL ONETOUCH」というブランドになり“My world in One Touch”という意味が込められているという。

 端末の開発体制もグローバルで、フランスのパリとイタリアのミラノにデザインスタジオを持っている。このほかにもアメリカのシリコンバレーや中国の5大都市に研究開発拠点を設置している。デザインスタジオが欧州にあることが、アルカテル端末に欧州のエッセンスをもたらしており、世界中でデザインが評価されていることにも繋がっているのだろう。

 このような由来を持つアルカテルブランドがどのような端末を販売しているか、日本での展開戦略などについては、インタビュー後編でお伝えする。

白根 雅彦