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IoTにSnapdragonが求められる理由、クアルコムがIoT戦略を解説

 クアルコムジャパンは、米クアルコムでIoT部門を担当する、Qualcomm Technologies Senior Vice President, Product Management, IoTのRaj Talluri(ラジ・タルーリ)氏の来日にあわせて、記者向けに同社のIoT戦略を解説する説明会を開催した。

Qualcomm Technologies Senior Vice President, Product Management, IoTのRaj Talluri(ラジ・タルーリ)氏

 タルーリ氏は、クアルコムのIoTへの取り組みについて、マシンラーニングとエッジコンピューティングの動向と合わせて解説を行った。IoTを実現するための機器やそこに搭載されるチップには、すでに多種多様なものが存在しており、クアルコムでもNXPセミコンダクターズの買収(協議中)やアセロス・コミュニケーションズの買収で、より簡易なチップセットのポートフォリオも強化している。

 一方で、IoTの進化は今後、エッジコンピューティングの発展により、端末側で負荷の高い処理が必要・重要になると予測をしており、Snapdragonをはじめとした高性能なIoT向けチップセットの需要が高まると見込む。

 こうしたことからラルーリ氏は「モバイル端末で培った技術が、IoTを推進していく」と自信を込めて語る。

 クアルコムが取り組んでいるスマートフォンなどのモバイル端末向けチップセットは、年間15億台以上という端末の市場規模を背景に技術革新が続いており、カメラ、オーディオ、ナビゲーションといった他業種の機能も、最新の技術がモバイル端末向けとして投入されている。そしてそれら最先端の機能が、小さな端末向けとして高度に実装されており、こうした進化の背景が、IoTの進化を後押しするという。

 5GもまたIoTにとっての追い風で、5Gで語られる低遅延や大規模な接続、信頼性などの要素は、IoTにとっても重要な要素になる。

 ラルーリ氏は、IoTデバイスにおいてもすでに、機器側のインテリジェンスが増していることを、現在のロボット掃除機やドローンなどを例に紹介。今後はさらにこの傾向が強まるとする。

 一方で、すべてをクラウドにアップロードして処理・判断するのではなく、端末側(エッジ)でアップロードすべきデータをふるいにかけ、通信やデータ管理のコストを抑えられる「ハイブリッドアーキテクチャー」(エッジコンピューティング)が広まることで、低遅延といったリアルタイム性の向上や、帯域の有効活用も進むとしている。

 また、ある程度の処理や判断を端末側で行えることは、常にネットワークに接続できるとは限らない自動車の自動運転技術や、信頼性が求められる機器でも重要な要素としている。ただし、どこまで端末側での処理が求められるのか、その境界線は時代により「常に変化している」ともしており、一番効率的な部分を狙って開発していく方針。

 IoTは非常に幅広い分野に広がっているが、通信技術だけでなくインテリジェンスも必要とされる機器や、比較的高い処理能力が求められる機器には、クアルコムのソリューション(Snapdragon)が採用されているという。

 ラルーリ氏はこのほか、社会インフラや工場などの産業インフラでもIoTの発展は有望とし、とくに機器メンテナンスではメンテナンスの時期の予測と故障の予防が重要であることなどから、成長の余地が高く、また効果が経営の数字にも現れやすいとし、「高い成長が期待できる」と語っている。

 現在はまだ課題も多く、機器側でのインテリジェントな処理は、並列処理や大きな消費電力、より容量の多い電池、より大きなメモリーやストレージも必要になるという。

 ただしこれらは、「クアルコムが携帯電話で取り組んできた課題そのもの」とも指摘する。現在のSnapdragonでも実現されているヘテロジニアス(異種混合)コンピューティングの概念はIoT向けにも適用でき、実際にSnapdragonがソニーの新型「aibo」をはじめとした機器に採用されていることを紹介した。

 すでに25種類以上もあるというIoT機器向けのリファレンスデザインは、今後も拡充していく。2017年に入って日本でも販売が本格化したスマートスピーカーも、クアルコムでは2年前のCESでリファレンスデザインを提示していたという。ラジール氏は、IoTの取り組みで日本企業と連携して取り組んでいく方針も示し、「IoTにおける技術革新は日本から生まれるのではないかと思っている」と期待も語った。

 質疑応答の時間には、インテルやエヌビディアといった競合他社が発表しているチップのAI処理性能に対する、Snapdragonの優位性が問われた。ラルーリ氏は、現在のチップセットが、さまざまな機能のユニットを混在させたヘテロジニアスコンピューティングになっているとした上で、「パワー、パフォーマンス、コスト、サイズ、すべてを実現しなければ、総合的なパフォーマンスは実現できない。ニューラルプロセッシングエンジンの議論のポイントは、処理能力だけではなく、mWあたりの性能、あるいは1ドルあたりなどのコストの評価が、重要になる。これらは、電池で駆動するモバイル機器でずっと取り組んできたことで、IoTの世界でも重要になる」とし、基本的に電池駆動で、小型化が求められるモバイル機器やIoT機器において、単純な処理能力だけの比較には意味がないとした。