ニュース

ドコモのベンチャーへの取り組みが10周年、今後の方針は

 NTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズは、ベンチャー支援の取り組みを紹介し、展示ブースで事例も披露する講演・展示イベント「NTTドコモ・ベンチャーズDAY 2018」を開催した。冒頭には代表者から挨拶や活動方針が解説されたほか、一般参加者向けとしてドコモの具体的な取り組みも解説された。またベンチャー展示ブースでは製品やサービスも披露された。

投資先探しは西欧・中東にも拡大へ

 NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長で、NTTドコモ 代表取締役副社長の中山俊樹氏は、イベントの冒頭にステージに登壇し挨拶を述べた。ドコモがベンチャー支援の取り組みを初めてから10週年を迎えることから、中山氏は最初の5年をファーストギア、次の5年をセカンドギアとして、徐々に取り組みを拡大・加速させてきた様子を振り返り、2018年は「フル・ギアチェンジをして、グッと前に進みたい」「フルのリソースを使って、さらに加速していきたい」と、意気込みを語る。

NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長で、NTTドコモ 代表取締役副社長の中山俊樹氏

 実際に2017年は体制強化のための準備をしてきたとし、ファンドは最大500億円規模に拡大しているほか、ソーシング(投資先探し)の拠点にはNTTグループ各社からエンジニアを含めた人員を投入、東京とシリコンバレーだけでなく、西欧、北欧、イスラエルなどに拠点を拡大して、グローバルで活動を活発化させている。

 また、国内のベンチャー支援拠点として六本木に用意しているイノベーションビレッジも5年目を迎え、週2~3回はなんらかのイベントが開催されるなど「かなり活発で、場作りとしていい感じになってきた」と手応えを語っている。

 さらにベンチャーとNTTドコモとの連携では、ドコモが推進しているオープンパートナーシップの取り組みも紹介する。このオープンパートナーシップではすでに、「AIエージェント」で400社以上、「5Gプログラム」で600社以上の企業と話し合いを始めているとのことで、こうした分野で重点的に、ベンチャーを含めてコラボレーションを拡大させていく方針とした。

 続いてステージに登壇したNTTドコモ・ベンチャーズ取締役副社長の稲川尚之氏からは、具体的な活動方針が解説された。稲川氏は「フォーカス」「連携」「拡大」の3つのキーワードを挙げ、「フォーカス」では、NTTドコモやグループの戦略に沿って、ベンチャー投資の領域を絞って質を高めていくことや、「拡大」として世界中に活動領域を広げて投資先を探していくこと、「連携」として、ベンチャー企業がNTTのグループ各社と連携することで事業を飛躍的に拡大できる可能性があることなどを紹介した。

NTTドコモ・ベンチャーズ取締役副社長の稲川尚之氏

 こうした取り組みはすでに実績でもある程度示されており、2017年の投資実績は前年比で3倍、協業の件数は2.4倍と、当初の予想を上回るペースで拡大したことを明らかにしている。

 さらにこの日も、コネクテッドカーのデータの売買プラットフォームを手がけるイスラエルの「otonomo」にファンドから投資したことや、日本の、教科書・参考書の電子化プラットフォームのforEst(フォレスト)にNTTドコモが投資したことなどを紹介、こうした具体的な取り組みが今後も拡大していくと語っている。

NTTドコモ・ベンチャーズは“シナジーファンド”、ソフトバンクとの違い

 ステージへの登壇を終えた後、中山氏と稲川氏は報道陣からの取材にも応じた。中山氏は、現在におけるベンチャー投資の取り組みは、ドコモをはじめとするNTTグループ各社の事業・サービスと、ベンチャーが手がけるものをマッチングさせる意味合いが強いとし、「投資はその鎹(かすがい、木材同士を固定する金具)」という位置付け。「コラボレーションやシナジーモデルにかなりシフトしている。場合によっては資本を入れなくてもアライアンスが成立する場合もある」という。

中山氏と稲川氏

 投資の3分の1は、将来ひょっとすると連携するかもしれないという先端的な分野で、残りの3分の2は、コラボレーションを前提とした投資になっているという。

 また投資先の、投資後の活動については、企業価値を拡大させ具体的にNTTグループ各社と提携するといった発展のほかにも、NTTグループ内のサービスやAPIのひとつとして取り込まれ活用されていく例もあるという。特に最近の若手起業家は、製品・サービス全体を手がけることよりも、たとえば決済の一部のシステムやレコメンドの一部のシステムといったように、特定領域に特化して企業に採用してもらう・活用してもらうという「ホームランよりヒットで確実に出塁を狙う」(稲川氏)傾向が強いという。

 ファンドの規模については、数千万円~5億円程度が主で、機動的に取り組んでいくことに主眼が置かれている。1件で100億円以上などの金額になる案件は、たとえばNTTドコモ本体が投資を検討するなど、ファンド外での取り扱いになるという。

 通信会社の名前を冠しているということから、10兆円規模を擁し世界トップクラスの“ユニコーン”に1件で数百~数千億円という破格の投資を行うソフトバンク・ビジョン・ファンドと比較されるが、NTTドコモ・ベンチャーズのファンドは、投資規模やフォーカスしている領域が異なることに加えて、NTTグループ各社の具体的な事業・サービスに対してどう組み込めるか・連携できるかという“シナジーファンド”の視点で運用されており、ソフトバンク・ビジョン・ファンドとは投資の目的そのものが異なっているとした。この点で、500億円という規模も「運用で1000億円にしようとしているわけではない。ベンチャーが大きくなるきっかけを一緒に作っていこうというもの。私達は数億円レベルの投資をするためのもの。足りなくなれば積み増すが、一度に1000億円が必要なわけではない」(中山氏)と、あくまでスタートアップやベンチャーの規模に沿ったものとしている。

 投資の成果の判定基準については、投資・連携したサービスそのもののパフォーマンスに加えて、投資・連携したことによるベンチャー企業側の価値の増加も判断基準にしているという。「財務的なシナジーは非常に順調。サービスを組み込んだことによる戦略的なシナジーは、中には見込み違いもあるが、7~8割はきちんと組み込まれている」(中山氏)と、投資結果もおおむね順調としている。

会場の展示(一部)

紛失防止タグのTrackR(トラッカール)。スマートフォンアプリとBluetoothで連携する。タグ側の紛失時、ほかのユーザーのTrackRのスマートフォンアプリを経由して持ち主に場所を知らせる機能を搭載している
視覚障害者向けの読み上げ装置「OTON GLASS」、メガネ型デバイスに搭載されたカメラで文字を撮影、クラウド経由で文字認識を行い、音声読み上げを行う。翻訳して読み上げることも可能
教科書・参考書の電子化プラットフォーム、forEstのATLS。写真の書籍をすべてタブレット1台で持ち運べる。数学、物理、英語に対応。ページ送りは極めてスムーズ。既存の教科書・参考書を電子化して使うのがポイントで、生徒はペンとノートで解いていくのも従来と同じ。答え合わせをした後の、解答の正否や進捗はクラウドで管理できる。すべての問題に属性タグが付与され、得意・苦手の傾向が分かる。苦手分野の問題を、書籍を横断して表示するといったことも可能