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ソフトバンクと東大、「Beyond AI 研究所」設立へ向けて協定締結

 ソフトバンクと東京大学は、AIに関する研究所「Beyond AI 研究所」の解説、研究成果の事業化に向けた取り組みに関する協定を締結した。

左=宮川潤一氏 左=藤井輝夫氏

 「Beyond AI 研究所」は、東京大学と海外の有力大学の世界最高レベルの研究者を有する最先端のAI研究所になることを目的とする。主にAIの基盤技術研究やそのほかの学術領域との融合を目指す基礎研究領域などさまざまな社会課題・産業課題へのAI活用を目的とする応用研究領域の2つの領域で研究を行う。

 そのほか、具体的な取り組みとしては、大学と企業の迅速なジョイントベンチャー設立を可能にする「CIP制度」を利用した研究成果の事業化がある。事業に寄って得た利益をさらなる研究活動に充てたり次世代のAI人財を育成するための教育活動に活用したりすることで、エコシステムを構築する。

 また、研究所は東京大学本郷キャンパスに2020年春頃、2020年度に移転が予定されているソフトバンクの竹芝新オフィスに2020年冬頃をめどに2拠点に設置する予定としている。

大学との連携がカギ

 ソフトバンク 代表取締役副社長 兼 CTOの宮川潤一氏は「米国のGAFAや中国のIT企業群BATHがとても有力だが、残念ながらそこにソフトバンクの名前はないし、日本企業はいない」と語り、今回の東京大学との取り組みは日本を再び元気にするためのものと位置づける。

 世界は現在、AIとともに大きな変化にあり、歩いている人間をカウントするところから始まり、画像認識では人間を超えるレベルまで進化した。その一例として宮川氏は、米国シカゴでの事例を挙げた。シカゴ市では、過去の犯罪データや気象情報、時間、経済などをAIで解析、犯罪発生率のヒートマップを作成し、パトカーの巡回を強化したところ犯罪発生率が3割減になったという。

 現在、AIの特許数の伸び率が大きいのは中国。日本や欧州各国などは横ばいが続く。中国のAI産業を支えているのは大学の存在が大きいと宮川氏。こうした中で、日本が再び元気になるためには、大学との連携が重要だという。

 日本のAIの技術力は決して諸外国に比べ、遅れているものではないという宮川氏は、日本のAI研究は基礎研究で終わることが多いと指摘。事業につなげられるようにという想いが今回の協定に込められている。

 今回の連携による、具体的な取り組み候補として、ゲノム解析によるがん予防などの研究を挙げた。

Guadant Health AMEA シムラン・シン氏
Karius ミッキー・カーデス氏

 ソフトバンクは10年間で200億円の投資を決めており、研究を事業化することで収益を生み、新たな研究や事業にリターンするエコシステムの構築を目指す。

目的別に2拠点を整備

 東京大学 理事・副学長の藤井輝夫氏は「価値の主体はモノからコトに急速に移り変わっている。そうした中でデジタル技術を上手く活用し、格差を最小化。誰もが主体的に社会に関わる世界を作らなければならない」と語る。

 大学も社会に合わせて変わる必要があり、今回のような企業との連携はまさにそのひとつだという。

 今回の協定では、東京大学本郷キャンパスとソフトバンク竹芝新オフィスの2つに拠点がおかれる。本郷キャンパスはAIの基礎研究の拠点となる。将来、大量のデータを解析する時、どのようなAIが考えられるかなど、AI自体の進化を研究する。また、AIと数学やロボティクスなどそのほかの領域と組み合わせ、融合を図る研究が行われる。これらはそれぞれ「Super AI」と「Hybrid AI」と呼ばれ、海外から研究者を迎え入れることも検討しているという。

 竹芝の拠点は、本郷での研究結果をもとに事業化するジョイントベンチャーの「発射台」となるという。これまでは、大学が出資することができず、基礎研究で終わっていたが、大学と企業が連携するための制度「CIP制度」を利用することにより、研究成果の円滑な事業化を図る。