ソフトバンク株主総会、孫氏が今後の成長を約束


2009年夏モデル発表時の孫氏

 ソフトバンクは、6月24日10時より、第29回定時株主総会を開催した。

 株主総会は代表取締役社長の孫正義氏を議長に始まった。議決権のある株主数は36万6252名で、議決権数は1080万3352個、このうち、今回の定時株主総会で議決権を行使した株主は8万6476名で、議決権数は728万3147個となる。

 総会での決議事項は、剰余金の処分、定款の一部変更、取締役9名の選任、監査役4名の選任の4件。総会の最後に拍手をもって全ての決議が承認された。剰余金の配当は1株あたり2円50銭と前回から据え置きとなった。定款の変更は、株式の電子化に伴うもので、取締役および監査役の選任は任期満了に伴う再任決議となった。

事業戦略、4つの約束

 なお、ソフトバンクの2008年度(2008年4月1日~2009年3月31日)の連結業績は、売上高が前年比3.7%減の2兆6730億3500万円、営業利益は前年比10.7%増の3591億2100万円、経常利益は12.7%減の2256億6100万円で、純利益は前年比60.3%の431億7200万円。2009年度見通しとして、営業利益4200億円、2500億円のフリーキャッシュフローと予測を公表している。

 孫氏は、事業戦略説明の冒頭、「ボーダフォンの買収から3年、創業以来最大の大きな賭けをした。一歩間違えればソフトバンクの経営状態が危うくなるため、当時、無謀な賭けであると言われた。しかし我々は買収を決意し、4つのコミットメント(約束)を発表した。一生懸命取り組んだ結果、携帯電話事業では2年連続の純増No.1を記録し、当初の想定以上の成果をあげた」と語った。

 4つの約束とは、携帯電話、ネットワークインフラ、ブランディング、コンテンツの4本の柱を改善するというもの。端末に関して孫氏は、「ボーダフォン時代は万年最下位。顧客が少ないため日本の消費者にマッチした端末が出せない状態だった。これを一気に改善し、これまでに127端末553色を出した。これは他社をしのぐ最大の機種数と色数だ」と述べた。さらに、基地局も拡充・増局し2.6倍にしたことや、テレビCMの好感度調査において、通信業界のみならず全ての産業の中でNo.1のポジションを築いたこと、そして、コンテンツを無料化して利用者数を増やしたことなどを説明した。また、ユーザーの満足度向上を牽引している施策として1600万契約を突破した「ホワイトプラン」についても紹介した。

 さらに、ソフトバンクが取り入れた携帯電話の割賦販売に言及し、「これまでは3~6カ月で携帯電話を乗り換えていく不健全な状態で、長く使うユーザーは高い料金を払わされてアンフェア(不公平)だった。ハードウェアと通信料を明確に分離したことで、結果的に他の事業者もこれを見習う形になった。努力の結果、解約率も改善している。割賦方式は最初、営業キャッシュフローに働くが、24カ月を経過して反転するため、今年以降、さらに改善されることが構造的に見込まれている」とした。

ソフトバンクは国内トップ5の企業へ

 2008年度の業績について孫氏は、営業利益が4期連続で最高益(2008年度通期で約3591億円)を達成したことに触れ、日本経済界全体で12位のポジションだと語った。2009年の業績予想では4200億円との見通しを立てている。孫氏は、他社が2008年水準となれば、2009年度は経済界全体でトップ5になると語った。

 「一部では、ソフトバンクがつぶれると報道されたが、実際のところはトップ5に入る勢い、我々は自信を持って経営している」(孫氏)と一部のメディアやアナリストの報道を一蹴した。さらに、ソフトバンクの経営体制について不安視するメディアに対しては、過去のイメージが影響しているとの見方を示し、「日本のトップ5、トップ3の位置にいる」と語った。

1.9兆円の有利子負債について

 さらに、孫氏は株主が抱くであろう代表的な質問に回答するとして、5つの質問を自身に投げかけた。

1;純有利子負債(約1.9兆円)をゼロに本当にできるのか?
2:3年間で1兆円のフリーキャッシュフローをどう稼ぐのか?
3:設備投資を効率化して競争力が保てるのか?
4:株主還元の方針
5:足下の経営体制は改善、これからの成長戦略

 孫氏は、ボーダフォン買収に伴う約1.9兆円の純有利子負債の完済は「達成できる」と強く語った。ソフトバンクは、2007年度にマイナスだったフリーキャッシュフローを2008年度、対前年比で3475億円改善、1815億円を稼いだ。2009年度はさらに約700億円を改善し、フリーキャッシュフローとして2500億円を得る見通しを立てている。同氏は、「フリーキャッシュフローは着実に増加している。業務を精査した結果、我々経営陣は3年で1兆円のフリーキャッシュフローを出せると自信を持っている」と話しており、この1兆円を負債に充て、2011年度に有利子負債を半減に、2014年には完済する予定とした。なお、この返済計画について孫氏は「公約する」と語った。

 キャッシュフローの説明の中で孫氏は、携帯電話のビジネスモデルについて言及うした。「契約数×1契約あたりの現金収入」がキャッシュフローの増加に繋がると説明し、契約数増加によって2000万契約を突破したことなどを話した。同氏によれば、1契約あたりの現金収入の平均はほぼ横ばいの状態のため、契約数の拡大が現金収入の増加に繋がっているとした。

 「割賦販売やオプションサービスなどもあるため、売上げは会計の迷路に入ってわかりにくくなる。端末代金だろうが、通信代金だろうがお金はお金であり、1顧客あたりの収入が変わっていないため、本質的には着実に増えている」(孫氏)

設備投資

 設備投資については、基地局を2.6倍に増やしたと語り、「auの倍ぐらいの基地局がある」と説明した。当初、鉄塔建設などに大量の資金を投入したため、コスト高となったが、設備投資はすでにピークを過ぎたため今後は低水準に推移するという。

 また、孫氏はブロードバンド事業を展開する際に構築したIPのインフラを固定通話やモバイルにも活用する方針を明らかにした。「他社が筋肉労働のところ、我々は頭脳労働、詳細は言えないが3社(ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクモバイル)のシナジーを出して競争力を保っていく」と述べた。

 このほか株主への配当については、昨年から据え置きとなったことに触れ、「来年度からは倍額の5円に増やしたい」と語った。2011年度には有利子負債を半減するとともにさらに増配し、2014年も増配する予定だとした。

今後のビジョンは来年に持ち越し

 「アジアNo.1、モバイルインターネットNo.1となるよう進めていきたい。来年は創業から30周年、次の30年間のビジョンを発表させていただきたい」と話した孫氏。今回の総会では、将来に渡るビジョンについて同氏から積極的なコメントはなかったが、「来年、次の30年分の、30年に1回の大風呂敷をひろげさせていただきたい。今日の株主総会では、未来よりも足元についての説明をした。将来は来年の総会でしっかり説明する」などと述べた。

 孫氏は最後に、「ソフトバンクは、21世紀の人々のライフスタイルを提供する会社に成長していきたい」と語った。

質疑応答ではiPhone 3GSやAndroidに言及

 質疑応答では、株主からさまざまな質問が寄せられ、福岡ソフトバンクホークスの打線について、オーナーとして意見を問われる場面なども見られた。

 26日に発売される「iPhone 3GS」について問われた孫氏は、既に入手したというiPhone 3G Sを胸元から取り出し、「すばらしい」「これはたまらない」「こんないいものがあるのか」などと褒めちぎった。同氏によれば、iPhoneの販売数はこの1年間で尻上がりに伸びており、ほぼ毎月販売数で1位を記録しているという。同氏は、使いこなすために3週間ほどかかるとした上で「どんどん愛着がわいて、二度と普通のケータイには戻れない」と語った。

 「iPhone 3GS」では、モバイルルーター機能をサポートしており、パソコンなどのモデム代わりに利用できる。しかし、この機能は国内では非対応となっている。質疑応答では株主が、同機能を非対応としたことについて意見した。

 孫氏は、iPhoneユーザーは通常の携帯ユーザーの10倍ネットワークを使うと語り、さらにパソコンのモデムとなれば、100~200倍の使用率になるとした。「1ユーザーが100倍のネットワークを占拠しても収入は上がらない。通信料金が青天井なら我々も提供できる。ほかの機能で楽しんで欲しい。イー・モバイルのように100数十万ユーザーならば、客が少ない間はかなり余裕があるが、我々は2000万ユーザーなので他のユーザーに影響が出てしまう」と説明した。

 このほか、Android端末を投入する方針を示した。さらに、WiMAXと同等かそれ以上の性能を出す技術を来年後半にも1.5GHz帯で提供することを語った。



(津田 啓夢)

2009/6/24 15:52