KDDI小野寺氏、「通信自由化の成果・問題を改めて見直す時」


KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺正氏

 KDDIは、2009年6月の定例社長会見を開催した。KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺正氏が登壇し、安全・安心への取り組みについて解説した後、記者からの質問に応じた。

 小野寺社長はまず、同社のフィルタイリングサービスなど、安心・安全への取り組みについてプレゼンテーションを行った。同社は、安心・安全に特化した携帯電話の販売に加え、フィルタリングサービス、安全教室の大きく3つの施策を実施しており、関連する協議会への参加や、販売店で親権者に対する説明を拡充するとった指導も行っている。フィルタリングサービスについては、使用者が小学生の場合は初期設定でホワイトリストを適用するなど、同社のポリシーを反映させた施策となっており、フィルタリングルールのカスタマイズが可能なサービスも提供している。また、小学生など、使用者が契約者と異なる場合に個別に氏名や年齢などを登録できるようにしており、回線の使用者がより実態に近い形で把握できるようになっている。

 一部の自治体では子供の携帯電話の所持を禁止する条例を提案するといった動きも見られるが、小野寺氏はこれに対し、「ITリテラシーの観点からは、より使ってから考えるのがいい。危ないから使わせないというのでは、なにも改善できない」と述べ、利用禁止という考え方に異を唱えた。

カスタマイズ可能なフィルタリングサービス教育的利用を促進するため、体験型学習なども支援する

 

電気通信自由化から25年、その成果と課題

 質疑応答の時間では、NTTに対する組織論、規制論、アクセス網の考え方といった点に質問が集まった。

 小野寺氏は、2010年は電気通信の自由化から25周年であることを指摘した上で、「組織論、規制論を議論する前に、自由化から25年たち、どういう成果があったのか、何が足りないのか、まずきっちりと議論すべき。足りないものが何で、それを実現するためにどうすればいいのか。そういう議論をしなければ、方向を間違ってしまう」と語り、現状の成果と課題を改めて整理することが重要であるとした。

 その上で現在の環境について小野寺氏は、「私は、自由化から今まで(通信業界の)すべてを見てきたつもりだ。自由化と競争の導入により、成果が出ていること、逆行していることが明らかになってきている」と成果と課題について言及する。

 携帯電話については、「ドコモの分社ということ以上に、技術革新と規制緩和でここまで伸びてきた。競争の中で、お互いが音声だけでは行き詰まると考え、EZwebやiモードを開発し、一段と飛躍することができた。昨今ではFeliCa、ワンセグでまた一段と伸びた。こういった施策の中で、規制当局からやれと言われたものは何もない。すべて事業者間の競争で生まれてきたもの。3Gの免許付与時には、普及促進のために人口カバー率の拡大時期が条件とされたが、サービスの開拓は、事業者間の競争で生まれた」と述べて、競争により携帯電話が大きく発展した経緯を説明した。

 一方で、「携帯電話と固定の状況は、全く違う」と固定網の経緯に触れ、「上位レイヤーでは価格が下がったが、新しいサービスが出ただろうか? 出たのはインターネットサービスだけで、アメリカでは当たり前だった市内通話定額が無かったので、ダイヤルアップで時間に課金となった。なぜこうなったかというと、市内通話での競争がなかったからだ。NTTは定額の要求に応えようとはせず、独占であったために基本料金の値上げまで行った。後になって夜間の定額を実施したが、ADSLが登場するまで新しいサービスは出なかった」とダイヤルアップ時代以前からのNTTの施策を批判した。

 小野寺氏の話題はNGNやアクセス網といった現在の固定通信網が抱える課題にも及ぶ。NGNについては「クローズネットワークだ」と指摘した上で、「オープン、クローズの二つがあるのはいいこと。しかしNGNだけが日本のネットワークと言われたのでは、オープンなものが無くなってしまう」「NGNも、ISDNの時と同じで、インフラの上のサービスは何も考えられていない。アクセス系まで閉じたバカなネットワークだ」と、NGNに関連するNTTの施策を批判した。

 家庭により近いアクセス網についても、「アクセス系はオープンやクローズ関係無く、みんなで共有して使われるべき。そこから先はいろいろなものがあっていい。アクセス系は基本的にオープンにしないと、技術的にもおかしくなる」とアクセス網開放の必要性を訴え、「技術論や規制論の前に、結果として何が必要かという議論であるべき」と指摘。「国民が競争を必要だと思っているのか、マスコミがそう訴えてきたのか、そちらのほうが問題だ。25年なり10年なりの競争で、何が起こり、何が問題として残っているのか、この事実関係を理解してもらうための活動も、きっちりとしていきたい」と語り、同社が考える成果や課題、競争環境の必要性を改めて訴えていく姿勢を明らかにした。

 「競争のないところでは、需要の創造も、新しいサービスも提供されず、国民生活が豊かになることもない」と競争環境の重要性を語ると共に、「今のままでなにか不便があるの? 今のNTTでいいよ、となったらもう無理。競争が必要だと国民に分かってもらわない限り、(組織論や規制論などで)何を言っても無駄」と国民の理解や世論が重要であるとし、競争の無い状況が潜在的・将来的な利便を逸すると訴えた。

 

iPhoneは垂直統合を世界で拡大している

 携帯電話関連の具体的な質問では、ソフトバンクモバイルが26日に発売する「iPhone 3GS」に話題が及んだ。小野寺氏は、「直接触っていないので」と具体的な端末に対するコメントは避けたが、「ただひとつはっきりしているのは、誰かが日本の携帯をガラパゴスと呼んだが、iPhoneはその垂直統合モデルを全世界で広めている。ガラパゴスと言っている人たちはこの点に何も触れていない。ぜひこれまでの流れを総括していただきたいものだ」と皮肉を込めたコメントも聞かれた。一方で、「競争が起きるのはいいことで、勉強するところも多い」と、ライバルとして争っていく姿勢を見せた。

biblioを手にする小野寺氏

 携帯電話の夏モデルについては、「端末そのものは、いい製品に仕上がっている。biblioは電子辞書がたくさん入っており、FeliCaやワンセグに続くトレンドになるかもしれない」と電子辞書を注目機能として紹介した。一方で、スマートフォンとして期待されるAndroid端末については、「開発はしているが、2010年以降ということで、明確な時期を言える段階ではない」とこれまでと同様の説明にとどまった。

 LTEについては、「我々は(音声端末としての)携帯電話を目指してLTEを導入する。これに対応するチップの登場は、現在は2011年以降になると聞いており、2010年には(携帯電話型のLTE対応端末は)出ない。2010年時点では、パソコン向けのデータ通信カードになるだろう。携帯電話としては2012年以降が、本当のLTEの競争ということになるだろう。エリア拡充は早めに行うが、単純に早い時期にサービスを開始するだけでは意味がない」と語り、あくまで携帯電話サービスとしてLTEを導入するとし、サービスインの時期よりもエリア拡充などを重視していく姿勢を示した。

 LTE世代での無線通信の発展・高速化を受け、固定網の必要性に疑問が投げかけられたが、小野寺氏は「UQのようなWiMAXでも、携帯電話も、光回線が無いと何もできない。現在も基地局から先は光。ここ(固定網)で競争が無くなったら、WiMAXも携帯電話も値上げせざるを得ない状況になるかもしれない。固定網は基盤で、無くなることはない。その上に携帯電話も成り立っている」と解説し、両者が切っても切れない関係にあることを示した。

 



(太田 亮三)

2009/6/24 17:26