ソフトバンク、2009年度上期決算で最高益を更新


ソフトバンク 代表取締役社長の孫 正義氏

 ソフトバンクは、2009年度第2四半期(2009年4~9月)の連結決算を発表した。グループ全体の売上高は前年同期比2%増の1兆3492億円、営業利益は28%増の2306億円、経常利益は48%増の1735億円、当期純利益は72%増の707億円となった。また、EBITDAは前年同期比15%増の3871億円、営業キャッシュフローは前年同期比で1381億円増の3153億円、フリーキャッシュフローは1649億円増の1770億円となった。第1四半期に続いて好調な結果となり、主要な9つの項目で「過去最高」と説明された。

 代表取締役社長の孫 正義氏は、「モバイルインターネットの時代がいよいよ実感として出てきた。iPhoneを毎日使っているが便利でたまらない。モバイルの事業は、経営面でも大きく貢献する中核の事業になると感じてもらえると思う」と、携帯電話事業を中心に据え業績を伸ばした決算内容に自信を見せた。

連結業績の概要連結売上高と内訳

 

3000億円のフリーキャッシュフローを毎年創出

 連結決算で孫社長が言及するのは、フリーキャッシュフローの大幅な改善。同社では、2009年度から2011年度の3年の間に多額のフリーキャッシュフローを創出し、合計で1兆円前後を生み出してボーダフォン買収に伴う2兆円近い負債の返却にしっかりと道筋をつけるかまえ。今回の決算では当初2500億円としていた2009年度のフリーキャッシュフローの予想を上方修正し、2009年度通期で3000億円のフリーキャッシュフローと予想する。孫氏はこれを「一時的ではなく、永続的に稼げるフリーキャッシュフローとして考えたもの。2010年度も3000億円を下回るとは考えにくい」とし、3年で合計9000億円以上の創出が可能とした。加えて、保有する米Yahoo!株式が2011年には現金としてにカウントできる可能性が高いとして、合計で1兆円を超える見込みとした。このことから、「これまで“1兆円前後”としてきたが、今日からは3年で“1兆円以上”と表現を改めたい。3年で1兆円以上を稼ぐとコミットしたい」と自信をみせた。

 フリーキャッシュフローが大幅に増える要因としては、営業キャッシュフローの改善を挙げた。これまでは割賦販売の増加で負債も増える構造だったところが、割賦販売の債券を直接売却できるようになったことから資金調達が効率化し、フリーキャッシュフローの拡大に有効な選択肢となったと説明した。2009年度は3000億円と予想するフリーキャッシュフローのうち、100億円程度が割賦債権の売却によるものとなる見込み。

 孫氏はフリーキャッシュフローの増加を可能にするポイントとして「総現金収入」を示す。これは、「契約数」と「1契約あたりの現金収入」を掛け合わせた単純な式で求められるとし、「1契約あたりの現金収入」はARPUと端末割賦請求分、あんしん保証パックなどの利用料を合計したもの。同氏は過去2年半で現金収入が堅調に推移しているというデータを示し、ARPUが増加に転じたことから「2009年度は1.5兆円の現金収入があり、着実に増えている」と説明。現金収入の増加によって有利子負債の削減が進むとした。

フリーキャッシュフローの見通し携帯電話1契約あたりの現金収入の推移とその内訳。データARPUの向上も見て取れる

 

設備投資は微増に転じ、1.5GHz帯の展開も

設備投資の予定。2GHz帯のトラフィック増大に対処する

 設備投資に関しては、直近では2006年度の3898億円をピークに2007年度は2937億円、2008年度は2590億円と減少が続いていたが、2009年度は2200億円の予想に400億円を増額して2600億円とすることが明らかにされた。これには、新たに認可を受けた1.5GHz帯への設備投資が一部を占めるもの、大半は増大するトラフィックへの対処に投資される予定。また、今後も2600億円前後の設備投資を続けるとしたが、将来的には全国での1.5GHz帯への投資が一段落した段階で、設備投資が減少するだろうとの見方も示した。1.5GHz帯についても基本的にはトラフィック分散の手段として利用される見込み。

 1.5GHz帯の利用内容については、当面はiPhone以外の携帯電話で対応していく。対応端末は2010年に登場し、順次拡大していくという。この周波数帯ではHSDPAを拡張したDC-HSPA方式でのサービスも検討しており、下り最大7.2Mbpsで開始し、将来的には下り最大42Mbpsを目指すとした。孫氏からは、DC-HSPAのサービス開始時期が2011年1月という見通しも明らかにされた。

 将来的にはLTEなどへも投資していくことになるが、孫氏は「積極的に取り組んでいく」と語り、700~900MHz帯と2GHz帯で提供を検討しているとした。一方、「端末とネットワークのタイミングを合わせながら、ベストタイミングで提供する」と語り、端末の開発・提供と歩調を合わせる形でネットワークを整備していく方針を明らかにした。

携帯電話事業

ARPUはデータARPUの向上で反転基調に

 事業の中核という携帯電話事業については、詳細なオペレーションデータを翌日の10月30日に発表するとして詳細には触れられなかったが、携帯電話事業単体で前年同期比7%増の増収、49%増の増益であるという。

 孫氏は連結決算の成績以上に携帯電話事業が好調であったとし、「原動力のひとつがテレビCM」と述べて好感度調査の結果などを紹介。SMAPを起用した新しいCMシリーズについても、「撮影はすべてアドリブ。それぞれが感じるままにしゃべってもらった」とエピソードを披露するとともに、新作を含めた一連の映像を会場で流した。

 決算説明の中ではARPUの改善にも触れられ、「ARPU反転」として2009年度第1四半期からARPUが増加に転じていることをアピールした。内訳として音声ARPUは減少傾向が続いており、ARPU上昇の要因はデータARPUの向上によるもの。1契約あたりのデータ通信料収入は増加基調が継続しているとし、例として通信販売サイトなどeコマースの利用の増加、ブログ、SNSなどのサービスも携帯電話で利用する傾向が強まっていることをなどを挙げた。また、単純にデータARPUが向上する要因として、これまでパケット通信をあまり利用していなかったユーザーが積極的に利用するようになったことや、パケット通信をより積極的に利用するユーザーが増えることで、2段階の定額制の中でも上限方向にユーザーがシフトしていることなどを挙げた。

 一方、オペレーションデータにおける直近の課題では、解約率が1.24%と比較的大きくなっていることを挙げた。要因は2Gユーザーの3Gへの移行に伴う解約が発生している点と、割賦販売方式の開始から2年が経過し、割賦明けのユーザーによる解約が解約率に表れていると分析した。しかし一方で、「見かけ上の解約率は若干上がっているが、ARPUの高いユーザーに代わっている。経営的にはいい結果につながっている」と述べ、解約率の上昇が一時的なものであるとした。

 孫氏が事あるごとに絶賛している米Apple開発の「iPhone」については、データARPU向上に寄与したとしたほか、8万5000本以上のアプリがアップルが運営する「AppStore」に登場し、アプリが20億ダウンロードを突破するなど、話題に事欠かない様子を紹介。「会社四季報」「マガストア」「セカイカメラ」を革新的iPhoneアプリとして紹介し、法人需要を喚起するセキュリティ機能の強化にも触れた。

 コスト削減については、質問に答える形で方針が示された。同氏は「iPhone以外、端末調達の平均コストは下がっている。平均利用月数も長くなっているので、経営コストとしては有効に機能している」と説明。「グループのシナジー効果で固定費は減っており、ユーザーが増えても固定費が減っていることからコスト効率は上がっている」とした。

 孫氏は「モバイルインターネットはこれから本格的に始まる。アジアのインターネット企業ナンバーワンを目指す」と語り、モバイルとインターネットを中心に継続的に取り組んでいく方針を示した。

 



(太田 亮三)

2009/10/29 21:35