クアルコム、MediaFLOに向けて米国の状況を説明


ビル・ストーン氏
山田純氏

 クアルコムジャパンは、米FLO TVと米クアルコム FLOテクノロジーズ部門のプレジデントであるビル・ストーン氏の来日に伴い、米国で商用サービスが開始されているMediaFLOに関する説明会を開催した。

 日本でもいよいよ、MediaFLOの議論が高まってきている――冒頭の挨拶でそう語ったのは、クアルコムジャパンの代表取締役会長兼社長の山田純氏。今年10月、総務省より「携帯端末向けマルチメディア放送」に関する技術方式や置局条件などの詳細が公表され、いよいよ本格的な議論が開始されることになるためだ。

 「携帯端末向けマルチメディア放送」は、地上アナログテレビ放送終了後の跡地(VHF帯)を利用して提供が検討されている携帯向け放送のこと。技術方式としては、VHF-High帯でMediaFLOやISDB-Tmm、VHF-Low帯でISDB-T SBの3方式が提案されており、総務省ではいずれの方式も要求条件を満たすとしている。

 こうした状況の中、KDDIとクアルコムが出資するメディアフロージャパン企画は、沖縄のユビキタス特区において、MediaFLOを利用したサービスの実証実験を開始。MediaFLOに対応した携帯電話型試作機はKDDIが提供し、MediaFLO用のチップセットをクアルコムが提供している。

FLO TVのサービス状況

 MediaFLOは、米国においてはFLO TVを通して提供されている。ストーン氏はMediaFLOについて、「技術の上にサービスレイヤーを組み合わせてパッケージ化したサービス」と紹介した。2007年にVerizon Wirelessがサービスを開始し、翌年にはAT&Tでも提供が開始されており、両社のユーザーを合計すると1億7000万ユーザーに達する。

 ストーン氏によれば、当初はカバーエリアが小さかったこともあり、サービスの出だしはゆっくりしたものだったが、6月に米国でアナログテレビ放送が終了、これまでよりもより広範囲をカバーできるようになったという。

 また、単にカバーエリアを広げるだけでなく、都市部ではカバーエリアの密度を濃くし、通勤時や屋内利用できるエリアも拡充しているとのこと。

 米国のFLO TVには、NBCやFOX、MTVといった有料テレビ放送事業者がコンテンツを提供している。日本と異なり米国は有料番組が一般ユーザーに普及しており、そもそも有料コンテンツの需要は高い状況にある。またFLO TVでは、テレビ放送もサイマル放送(テレビなどの放送を同じ時間に別の媒体に放送するもの)として提供、放送時間をずらして番組配信も行われているという。ユーザーが見たい番組だけ提供するといったことも可能だ。

 ストーン氏によれば、FLO TVは現在のところ、1ユーザーあたり平均で1日30分、1カ月で900分程度視聴されているという。利用を促進しているのはライブ中継で、マイケル・ジャクソンが亡くなった時などは非常にたくさんのユーザーに視聴されたという。

 たとえば、3G網を使った映像のストリーミング配信では、こうした皆が注目する映像の場合にネットワークに大きな負荷がかかってしまうが、放送波を使ったMediaFLOではこうした負荷の心配はない。なお、利用のピークタイムは午後1時のランチタイム後で、22時にかけてゆるやかに利用者数が減っていくという。

 サービスは現在、月額15ドル程度で提供されているが、FLO TVでは1ユーザーあたり月額10ドル程度が適当だと考えているという。


携帯電話以外の端末にも拡大、認知度向上へ

FLO TV専用端末(右)と、MediaFLO対応の「HTC Imagio」

 対応する携帯電話は現在、Verizonで6モデル、AT&Tで4モデルが投入されている。ストーン氏は来年以降は対応端末が倍程度に拡大する予定と語った。さらにFLO TVでは、FLO TVの専用端末も開発、11月中にも投入される予定だという。

 FLO TVでは、米国での認知度向上や製品チャネルの拡大を目指し、車載用端末なども第4四半期に投入する予定。当初は既存の車に後付けする形になるが、将来的には新車への標準搭載を検討しているとのこと。

 さらにメモリカードやUSBドングル、無線LANレシーバーなども来年に計画しており、たとえば対応アクセサリーを取り付けることで、iPhoneでMediaFLOが利用できるような形も予定しているという。

 また、Twitterなどのソーシャルメディアとの連携や、MediaFLOの技術による番組投票機能などインタラクティブな要素も取り入れていく計画だ。

 このほかストーン氏は、MediaFLOのチップとして「MBP2600」や「MBP2700」を紹介した。「MBP2700」は、メディアフロージャパン企画の実証実験で採用されているチップで、VHF帯に対応するほか、ISDB-T(ワンセグ)やDVB-H/Tといった動画方式もサポートしたチップとなっている。


 



(津田 啓夢)

2009/11/5 17:07