KDDI小野寺社長が退く、新社長に田中氏


左から、KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺正氏と、代表取締役執行役員専務の田中孝司氏。12月1日より小野寺氏が会長に、田中氏が社長に就任する

 KDDIは、代表取締役社長兼会長の小野寺正氏が現職を退き、12月1日付で田中孝司氏が代表取締役社長に、小野寺正氏が代表取締役会長に就任すると発表した。

 今回発表された人事異動は、9月10日に開催されたKDDIの取締役会で承認されたもの。代表取締役社長兼会長の小野寺氏は社長職を離れ、会長として取締役会の議長のほか、対外的な業務で社長をサポートしていく。田中氏は代表取締役執行役員専務からの昇格となる。どちらも12月1日までは現職を維持する。

 10日には記者会見が開催され、小野寺氏、田中氏からそれぞれ説明が行われた。小野寺氏は、「これまでトラフィックで売上の大部分を得てきたが、今後の成長にはトラフィック以外の売上が重要。田中はソリューションビジネスの経験が長く、これからのKDDIをリードしていく豊富な経験を持っている」と田中氏について説明。田中氏は、「これまでは通信事業者と競争してきたが、競争の形が大きく変化している。新しいKDDIを作っていきたい」と抱負を語った。なお、新体制での経営戦略などは12月以降に改めて明らかにされる見込みで、10日の記者会見の内容は社長交代の理由が中心となった。

田中氏「我々には力がある。ベクトルを合わせ、新たな戦略で」

12月1日よりKDDI 代表取締役社長となる田中孝司氏

 質疑応答の中で、田中氏は、「過去10年は通信事業者同士で純増を競う時代だった。しかしスマートフォン関連などを含めた新たなプレイヤーの参入により、いろんな方とアライアンスを組んで仕組みを作っていなければならない」と語り、競争環境の変化を指摘する。現在のKDDIは計16社の合併を経て構成されているが、「これまでのKDDIは、決断が遅かったところがある。スマートフォンに対するアクションも遅れた」と振り返り、「固定・モバイルの両方のネットワークや、CATVなど、複数のネットワークを持っているという優勢を活かしきれていない。多様な人物のベクトルを合わせて、新たな体制・戦略でいく。我々には力があると確信している。スピードを上げてやっていかなければならない」と意気込みを述べた。また、通信事業以外の企業と連携していく方針も明確にしており、「幅広い事業をやっていきたいと思っているが、我々だけではできない。思いを同じくするところと一緒にやっていきたい」と他企業との連携を強化していく方針を示した。

 田中氏は1981年に国際電信電話(KDD)に入社。エンジニアとして実務に携わり、直近の10年間では法人向けソリューション事業や、UQコミュニケーションズの設立で活躍した。これまでの「思い出深い」業務を聞かれた田中氏は、KDDIに合併する際に携わった、メインフレームをUNIXに置換するプロジェクトを挙げ、「今必要となっている、オープン系のシステムやデバイスを理解する上で勉強になった」とした。また、UQコミュニケーションズに免許獲得前から関わり、「自分が経験していなかった分野も担当し、資産になった」と振り返ったほか、「KDDIに合併した頃、法人向けは通話が中心だったが、法人向けのモバイルソリューション事業を立ち上げたのが印象に残っている」とした。

 長所と短所を聞かれると、「明るい性格と言われるが、自分自身では、暗いのではと思っている。いつも笑っていると言われるが、自分では悩んでいることが多い。長所は粘り強いところ」と分析した。

「IT技術者のようなノウハウが、これからの時代に役に立つ」

12月1日より代表取締役会長となる小野寺正氏

 小野寺氏は、社長の交代を発表した時期について、2001年の社長就任から10年目の節目であると説明したが、後継者に目処が立ったことが最大の理由とした。小野寺氏は、田中氏を選んだ理由について、「彼が歴任してきたことは、今後のKDDIに必要不可欠なものと思っている。やはり(市場の)プレイヤーが変わってきている。多くのパートナーとの関係を構築し、UQの立ち上げで発揮した株主を取りまとめる力が、(社長に選んだ)最大の理由」と語る。また、やや冗談めかして「私は東北育ちで暗い子だが、彼は関西育ちで明るい。会社を引っ張っていくなら彼のような性格のほうがいいのでは」と語り、顧問からも「明るい性格や事業展開の実績、ソリューション事業での経験を評価してもらっている」とした。

 これまでの社長時代を振り返った小野寺氏は、「10年間では浮き沈みもあるが、まずは合併後の会社をきちっとやっていくことだった。最近では出身がどうとかいうことも少なくなり、一体化はできたのではないか」とKDDI合併後の体制を評価。一方で、「当時掲げていたモバイル&IPでは、ある程度のことはできた。しかし対応してきれていなかったことも事実。田中にやってもらわなければいけない部分は残っている。携帯電話でいうと、スマートフォンで出遅れたのは事実で、フィーチャーフォンに固執してしまった。田中はオープン系の技術に携わり、私のようなトラディッショナルな人間ではなく、IT技術者のようなノウハウを持っている。そういうところがこれからの時代には役立つ」と、課題の存在を認めながら田中氏への期待を語った。

「携帯マルチメディア放送という概念がどこにあったのか、あやふや」

 なお質疑応答では、8日に結果が明らかになった携帯マルチメディア放送にも質問が及んだ。記者会見の内容からは外れた話題となったが、小野寺氏は「残念な結果になった」と穏やかに切り出し、「我々が考えていたマルチメディア放送とはまさしく、モバイル上でのマルチメディアということ。放送だけでなくデータのダウンロードなども展開しようと開発してきた。そういった仕組みの観点から、MediaFLOはよくできていた」とメディアフロージャパンの取り組みを説明。結果として競合のmmbiが採用された点には、「私から見ると、携帯マルチメディア放送という概念がどこにあったか、ちょっとあやふやだった。安ければいい、と、どうもそこだけが最後のポイントで、それならそれで安くするために開発することもできた。我々は使い勝手などを考慮して基地局の配置を考えていたが、安ければいいというのは、いかがなものかと思う」と語り、電波監理審議会で料金設定が最終的な焦点となったことに疑問を呈した。

 一方、小野寺氏は会見後に「電波監理審議会の先生も、とつぜんすべての判断を任されることになり、ある意味で気の毒」と語っており、混乱気味だった選定過程そのものに疑問を投げかけた。しかし、その混乱する審議過程で再三にわたって開催された公開説明会を通じ、「内容については、皆様に理解いただけたのではないか」として、「残念ではあるが、致し方ない」と語った。

 受託事業者(インフラ)がmmbiに決定したことで、KDDI側が委託事業者(コンテンツプロバイダー)として参入する可能性については、小野寺氏は「我々が目指すものをできるシステムなのか。仕組みが公開されておらず、公開説明会でもリアルタイム放送部分以外の、一切の説明がない。我々は“放送”をやろうとは思っていない。リアルタイムの放送ならワンセグと大きな差はない。今のままで、何の説明もないままに委託で参入することは考えていない」とmmbiの対応に不満を述べるとともに、現状では、参入の可能性を検討する情報が揃っていないとした。

 



(太田 亮三)

2010/9/10 15:24