累計4億台出荷まもなく達成~Symbianの現状と将来展望


 Symbian Foundation Japanは12日、開発者向け講演会「第2回Symbian Japan Forum」を都内で開催した。あわせて実施された記者懇談会には、Symbian Foundation リーダーシップ・チーム グローバル・アライアンスのラリー・バーキン氏が登壇。スマートフォン・携帯電話向けOS「Symbian OS」の将来展望などを解説した。また、Symbian Foundation Japan代表の三宅良昌氏が同席したインタビューの模様もお伝えする。

前年四半期比で出荷台数41.5%増、Symbianの現状は?

プレゼンテーションを行ったSymbian Foundationのラリー・バーキン氏

 Symbian OSは当初、エリクソン、モトローラ、ノキア、サイオンの4社が1998年6月に共同設立した企業「Symbian Software」によって開発が進められていた。その後、対応端末の累計出荷台数が2億台を突破するなど、順調に規模を拡大していったが、2008年6月には非営利団体「Symbian Foundation」に開発業務を移管。2010年2月にはオープンソース化された。

 Symbian Foundationには世界30カ国の携帯電話関連企業が参加し、合議の上で開発が進められている。バーキン氏は「現在167のメンバーが開発に参加しているが、その18%は日本に拠点を持つ企業。Foundationにとって日本は非常に重要な地域だ」と説明。ヨーロッパ発祥の技術ながら、日本との関わりが非常に深いことを強調する。

 Symbian OS搭載スマートフォンの累計出荷台数は、2010年8月段階で3億8500万台。2010年第2四半期単独では2700万台が出荷された。前年同期(2009年第2四半期)と比較して41.5%の成長を達成している。

 海外ではおもにノキア製スマートフォンのOSとして知られるSymbianだが、日本市場においてはNTTドコモのFOMAのプラットフォームとして採用される例が多い。中でも富士通はSymbian OSを積極的に導入しているメーカーの1つで、最新バージョン「Symbian^3(シンビアン スリー)」実装端末の試作品を会場で公開していた。このほか、Symbian OSそのものの機能強化のために、管理工学研究所、アクロディア、オムロンソフトウェアなど日本国内企業も開発者コミュニティへの“コントリビューション(貢献)”という形で技術提供を行っている。

 「Symbian^3」搭載端末はノキアがすでに4機種を発表済みで、9月30日発売の「N8」を皮切りに実際の出荷も始まっている。グラフィックアーキテクチャーの変更により、動作の快適性が向上。マルチタッチ、ホームスクリーンのカスタマイズなどにも対応した。

 また、Symbianはアプリケーション開発環境の整備にも力を入れている。C/C++での開発に加え、ノキアの「Qt」にも対応。よりスムーズな開発体制の構築を支援したいという。しかし、日本国内市場ではノキアがSymbian端末の新規投入を中断している。日本のエンドユーザーがSymbian専用アプリを自由にダウンロードして楽しむには、時間がかかりそうだ。

 バーキン氏は「日本に向けての重要なメッセージは2つある。まずはFOMA端末へのサポートを引き続き充実させ、もう1つはそれらの端末が海外へ進出するための機会を広げることだ」と発言。日本国内外問わず、Symbianの普及に尽力するとしている。


2010年第2四半期のSymbian端末出荷統計最新OS「Symbian^3」のおもな特徴

Symbian FoundationにSymbianとAndroidの違いを聞く

バーキン氏(右)とSymbian Foundation Japan代表の三宅良昌氏

 記者懇談会終了後には、バーキン氏とSymbian Foundation Japan代表の三宅良昌氏がインタビューに応じた。まず、エンドユーザーから見たSymbianプラットフォームのメリットについて聞いたところ、バーキン氏は「バッテリー寿命の長さ」とともに、「さまざまな価格帯の端末を提供できること」を挙げた。Symbianではもともと、安価なチップセット上での動作も想定したアーキテクチャーとなっているため、低価格なスマートフォンの開発も十分可能という。

 スマートフォン用OSとして4億台近い出荷実績を誇るSymbianだが、日本国内ではFOMA端末のOSとしての認識が一般的。スマートフォンOSがなぜ携帯電話で使われているかという疑問もある。これに対し、三宅氏は「海外から見た場合、実はFOMA端末は(超高機能な)スマートフォンそのもの。Symbianのネイティブなアプリが動かないというだけで、機能面や動作速度はハイエンド中のハイエンド」と説明。国内端末は形状こそ携帯電話そのものだが、求められる機能はスマートフォンと同等レベルである現状に触れ、海外との市場環境の差による現象だと解説した。

ノキアの新型スマートフォン「N8」。「Symbian^3」を採用している

 海外から日本市場を見つめるバーキン氏にとって、指紋による生体認証、防水など多種多様な機能を搭載した携帯電話は非常に魅力的な製品という。しかし携帯電話市場はどの国・地域にも一定の独自性があり、他国市場への進出はどんな企業であっても一定の困難が伴うとバーキン氏は分析する。技術の先進性だけに根ざして海外展開するのではなく、現地の事情にあわせた対処、例えばユーザーインターフェイスの変更などが同時に必要だと説明する。

 スマートフォンOSとして認知を高めているAndroidについて、Symbianはどのような考えを持っているのだろうか。バーキン氏は「オープンソースという前提は同じだが、Androidとは方向性が微妙に異なるように思う」と説明する。その論拠となるのがライセンス(使用条件)だ。

 Androidでは「Apache 2.0」というライセンス方式を採用。無償での使用、ソースコード改変を認めつつも、コミュニティ全体が共有するソースコードをより良いものに変更していくための“コントリビューション(貢献)”が参加者に対して求められていないのだという。

 加えて、ソースコードの管理に対してGoogleは大きな実権を保持。また、Androidで実際に行われたLinuxカーネル改変についても、その成果がLinux開発者コミュニティーに還元されていないとバーキン氏は指摘する。その一方でSymbianでは「Eclipse Public License(EPL)」を利用。こちらはコントリビューションを明確に求めている。

 なお、現状ではAndroidを直接の脅威としては考えていないという。「モバイル市場は急激に広がっており、(相手の顧客を侵食することなく)Win-Winの関係を維持できるのではないか」というのがバーキン氏の見解だ。Symbianはオープンソース化からの日も浅く、端末メーカー各社がSymbianの導入を検討するであろうこれからの時期が重要だとしている。

オープンなSymbian端末の国内発売を目指して

「Symbian Japan Forum」会場で富士通が展示していたデモ機。「Symbian^3」が実行されている

 近年は、スマートフォン用のOSがそれ以外の機器に応用される例が増加中だ。iPhoneに対するiPadはもちろん、Androidベースのデジタルフォトフレーム、ネットブックOSとしても使われるMeeGoなど続々と登場している。

 バーキン氏は、Symbianでも非スマートフォン機器へのサポート拡大は必要だとみている。技術的にもすでにさまざまな画面サイズの機器を開発可能だが、まずは市場の成熟を待つ必要性があるとバーキン氏は語った。

 一方、スマートフォンの大きな魅力となっているのがアプリだ。一般ユーザーによる開発も積極的に行われており、完成したアプリを配信するためのオンラインストアも、もはや欠かせない存在になっている。

 Symbian端末向けには、ノキアが「Ovi Store」を開設している。しかし、携帯電話キャリアの独自仕様に依存しない“オープン仕様”のSymbianスマートフォンのためのものであり、ノキア製端末がリリースされていない日本では、現状利用できない。また、NTTドコモのSymbian採用FOMA端末にはiアプリが別途用意されている。こういった現状をどう打破するかが今後の課題となりそうだ。

 Symbianは現在、携帯電話に欠かせない基幹技術であるにも関わらず、直接の製品上でその名称をアピールすることはほとんどない。取扱説明書などででわずかに言及されるだけで、端末起動時にロゴを表示するといった要求もメーカーに対して行っていないという。

 バーキン氏はこの理由について「製品にはすでにもうさまざまなブランド名が付加されている。これに抵抗感を感じるユーザーもいるだろう。ここにSymbianの名前を加えても、ブランド価値が希釈してしまう懸念もある」と話す。個人的意見としては、ブランド浸透策の必要性はあると語ったが、その方向性は開発者コミュニティー全体で検討していきたいと補足している。

 バーキン氏はインタビューの最後に「Symbian Foundationでは東京を活動拠点として、開発者サポートを積極的に行っていきたい。いつか、日本で開発された(ワールドワイドで使える)オープンなSymbian端末を、今度は海外へ展開することができれば、それはエンドユーザーにとっても大きな楽しみになるはず」と発言。三宅氏も「まずは、将来登場予定のSymbian^4に対応したFOMA端末をしっかり作る。その上でオープン仕様のSymbian端末を日本でも何とかリリースして、世界共通の土俵を実現できれば」とその決意を示している。



(森田 秀一)

2010/10/12 21:18