KDDI、2010年度上期連結決算は減収減益

「スマートフォン投入遅れは戦略的なミス」と小野寺社長


KDDIの代表取締役会長兼社長の小野寺正氏

 KDDIは、2010年度上期(2009年4~9月)連結決算を発表した。営業収益は前年同期比0.3%減の1兆7184億円、営業利益は1.2%減の2479億円、経常利益は3.1%減の2340億円、当期純利益は5.7%減の1370億円の減収減益となった。

 移動体通信事業に関しては、営業収益が前年同期比2.4%減の1兆3052億円、営業利益は9.0%減の2477億円、経常利益は11.6%減の2436億円、当期純利益が15.6%減の1409億円となった。

 移動体通信事業における営業利益の通期見通しに対する進捗率は57.6%となり、「概ね計画通りに進んでいる」(代表取締役会長兼社長の小野寺正氏)としたが、「販売手数料などの営業費用の減少があったものの、シンプルコースの浸透に伴う音声ARPUの減少、端末販売単価の減少に伴う端末販売収入の減少が影響した」としている。

 なお、9月末時点でのauの契約数は3229万契約。累計シェアは28.0%。非トライバンド端末数は658万台とした。

 「シンプルコースへの移行はまだ56%であり、他社に比べて遅れている。音声ARPUはこれから下がることになり、減収の要因はまだ持っている」としたが、「データARPUは、スマートフォンの遅れもあり、他社よりも伸びてはいないが、新たなスマートフォンの投入やデータARPUを上げるための施策を用意しており、上昇していくことになる」などとした。


連結決算移動体事業

スマートフォン投入の戦略的なミス

 質疑応答では、スマートフォンに関する質問が多く、小野寺社長もその回答に時間を割くことになった。

 小野寺氏は、「スマートフォン投入の遅れは戦略的なミスであるのは間違いない」とし、「投入時期を検討してきたが、力の入れ方がフィーチャーフォンに偏っていた。スマートフォンは、最初から第1電話として使われるだろうと捉え、フィーチャーフォンからの乗り換えが中心とみていた。そのため、FeliCa、ワンセグ、赤外線の機能を搭載したものを考えたが、これが遅れた理由となった。グローバルフォンを出すことにこだわればもう少し早く出すことができただろう。ただ、これがよかったかどうかは別問題」とした。

 さらに、「純増シェアが悪い状況になっているのは、スマートフォンがなかったことが影響している。それはソフトバンクが純増していることでも明らかだ。また、スマートフォンがなかったことで、他社への流出があったのも事実。第2四半期はMNPでマイナスになっている」などと述べた。

スマートフォンも1台持ち、IS03に手応え

 小野寺氏は、「グローバルフォンが、日本の顧客に受けるかどうかが今後のキーポイントになる。いまはフィーチャーフォンに比べて、スマートフォンのほうが高いという位置づけになっているが、グローバルフォンがフィーチャーフォンよりも安くなる可能性もある。当社のスマートフォンには、LISMOが聴けるなど、フィーチャーフォンの機能をスマートフォンに入れている。Android端末であればこうしたことが容易にできる。スマートフォンは2台目として利用しているユーザーも、1台持てば済むという選択ができるようになる」と話した。

 これに続けて、「当社としてもグローバルフォンを出していく可能性はある。今はハイエンドがスマートフォン、ミドルおよびローエンドはフィーチャーフォンとしているが、今後は必ずしもそうはならない」としたほか、「スマートフォンがグローバルフォンで登場した場合、他社でも同じ端末が発売されることになる。端末の競争が、魅力あるアプリケーションを提供できるかどうかということになる。どこかの事業者と組んで、半年間、1年間先行し、その後他社に提供するという仕組みも考えられなくはない。魅力あるアプリケーションを探し出してくることが大切になる」と語った。

 また、「IS03に対する反応をみると、首都圏のユーザーでは、通勤定期にFeliCaを使用したいなどの要望があり、これがないとスマートフォン普及の障害になると見ている。そのあたりをどうバランスをとっていくかもキーになる。IS03に関しては、一部店舗では予約を開始しているところもあるようだが、それは店舗独自のものであり、当社で正式な予約を行っていない。そのため、予約数が明らかではないが、手応えではかなりいくだろうと見ている。まずは自社ユーザー内での買い換えが中心となるが、他社からの乗り換えも期待している」などとした。



固定網、Skypeについて

 さらに、「KDDIは、FTTHやCATVなどのアクセス系をかなり自前で持っており、その点がNTTドコモやソフトバンクとは異なる。ここにトラフィックが増加するスマートフォンの利用でも、KDDIの優位性を発揮できる」などとしたほか、「WiMAXは速さが大きな特徴であり、エリアをauの通信網がカバーすることになる。どこでも速い、どこでも使えるを実現していく」などとした。

 また、Skypeとの提携については、「スマートフォンでSkypeを使えるようにするもの。スマートフォンでは、データ系通信が利用されているが、今回の提携では回線系を使うことになる。音質は従来通りの品質が確保でき、スマートフォンにおける大きなひとつの競争要素になる」と発言。加えて、「それぞれのサービスにマッチした端末がこれから各種登場してくることになるだろう」などとし、サービスの拡大に伴って端末のラインアップが強化されていくとの姿勢を示した。

 一方、固定通信事業は、営業収益は前年同期比5.7%増の4385億円、営業損失は186億円改善したものの37億円の赤字、経常損失は107億円の赤字、当期純損失は43億円の赤字となった。

 だが、「第2四半期では、営業黒字化を達成しており、KDDI単体の営業費用の改善、グループ会社の損益改善が影響している。KDDI単体の営業収益は第1四半期同様にマイナスだが、通期の固定通信事業の黒字化に向けて着実に進展している」とした。固定通信事業の四半期ベースでの黒字化は、2004年度第3四半期以来となる。



下期の課題

 また小野寺氏は、下期の課題としては、「市場や収益構造化が変化するなかで、持続的成長に向けた事業構造改革の推進」を挙げるとともに、移動体通信事業においては、「スマートフォンの強化と電子ブックリーダー、Wi-Fiルーター、タブレット端末などの新たなデバイスの投入、データ利用促進、データARPU向上に向けた取り組みのさらなる推進、800MHz帯の周波数再編に向けたトライバンド対応端末への移行の着実な遂行、モバイルブロードバンド時代に向けたインフラ強化」を掲げた。

 そのほか、「固定通信事業では営業利益ベースでの黒字化の実現、FTTHのさらなる顧客基盤の拡大、J:COMとの事業シナジー実現に向けた取り組みの推進」を掲げ、持続的成長として「コンテンツ・メディア事業および海外事業の拡大、本格的なFMBCサービスの実現に向けた基盤構築」を掲げた。ただし、「KDDIがコンテンツプロバイダーになる予定はない。課金の基盤などを提供していくことになる」とした。



通期の見通しに修正なし

 なお、2010年度の通期見通しは、「下期の状況を見極める必要がある」として、修正はしなかった。

 また、今日付けの取締役会で総額1000億円、または23万株を上限とする自己株式の取得を決定。「KDDIは方向性が見えなくなったなどといわれるが、我々はまだまだ成長するという姿勢の表れ」などとした。10月22日時点での同社自己株式を除く発行済み株式総数の5.16%に当たる大きなものになる。

最後の会見、小野寺氏「田中新社長に託したい」

 今回の決算発表は、小野寺社長にとって最後の会見となり、「この10年は、いい意味でも、悪い意味でもここまで変わるとは思っていなかった。就任当初の課題は3社の合併をいかにうまく進めるかであり、その点については比較的うまくいったのではないか。新しいKDDIとして、それなりの形ができた。固定通信の黒字化も着実に進捗している。ただ、ネットワークの統合の遅れといった課題や、やり残したこともいっぱいある。中期経営計画についても、シンプルコースをやらざるを得なくなったことまでは予想できなかった。見通しが甘かったのかといわれれば、そういわざるを得ない。環境が変化したなかでの経営を、田中新社長に託したい」などとした。



 



(大河原 克行)

2010/10/22 18:52