PHS事業は伸ばせる、ウィルコム宮内氏の戦略


ウィルコムの宮内氏
だれとでも定額

 11月30日、会社更生計画が債権者に認可されたウィルコムは、翌12月1日、“新生ウィルコム”を印象づける記者説明会を開催した。発表会には、ウィルコムの代表取締役社長の宮内謙氏のほか、新CMキャラクターである佐々木希が登場、会見に華を添えた。

 ウィルコムの宮内氏は、30日に更生計画が認可されたことに触れて、「ユーザーに大変な心配をかけた。今回の認可によって本格的な動きがとれる」と述べた。なお、ウィルコムがソフトバンクの支援を受けて傘下となったことで、ソフトバンクグループとしては4つめの通信事業者ができたことになる。宮内氏は、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクモバイルのそれぞれのポジションを説明した。なお、同氏はこの通信3社で代表取締役副社長に就いている。

 ピーク時には約460万ユーザーがいたウィルコムだったが、ここ数年の不調で純減が続き、10月末には約370万ユーザーにまで落ち込んでいる。足下の状況がふるわないウィルコムだが、こうした中で宮内氏が掲げた目標は「3カ月以内の純増を目指す」というものだった。

 「常識を1度ひっくり返さなくてはならない」――宮内氏はそう語り、企業経営にとって、顧客を増やして売上げを伸ばし、同時にコストを下げていくことが重要とした。非常にシンプルなポイントだが、同氏はソフトバンクにおいて「ホワイトプラン」を投入し、ソフトバンクが純増する礎を築いたことを説明、「ウィルコムでもこのサクセスストーリーをぶつける。「だれとでも定額」は常識を打ち破る提案、明日から本格的にコマーシャル展開をかけていく」とアピールした。

 「だれとでも定額」は、ウィルコム同士はもちろん、他社携帯電話や固定電話、IP電話宛の通話が月額980円となる通話向けのオプションサービスとなる。1回10分、月に500回までと条件は付くものの、アクセスチャージのかかる他社宛通話を定額内に収めるサービスは現時点でウィルコムしか提供していない。宮内氏は、「月に500回、1回10分以内だが、ほとんどの人がそれで収まるはず」と語った。

 ウィルコムでは今年4月、ウィルコム沖縄において「だれとでも定額」を実施している。会社更生法を申請し、法的整理に向けて進み出したウィルコムは、子会社ではあるが資本体制の異なるウィルコム沖縄で状況の打開策を打ち出すことになった。

 その結果、ウィルコム沖縄は2009年5月以来、約1年ぶりに純増を記録。「だれとでも定額」が訴求力のあるサービスであることが示された。その後、ウィルコムは、北海道、宮城、広島の各エリアでサービス内容や料金を変更して、より本格的なテストマーケティングを展開、「だれとでも定額」は本サービスとして全国展開されることになった。テストマーケティングのエリアでは、従来の若い世代だけでなくより幅広い世代に受け入れられているという。

 宮内氏は、「だれとでも定額」がソフトバンクが関与する以前から検討されていたサービスであると説明し、「非常に素晴らしいサービス、ソフトバンクなどの既存の携帯会社からはなかなか出てこないアイデアだ。経営的にもそこそこの数字が出せる」と述べ、現在は部下となったウィルコムの担当者らを賞賛した。発表会後の囲み取材では、10分以内に通話を終えるユーザーが多くても収益が確保できるラインだと話していた。

 また宮内氏は、こうした良いサービスであっても普通に発表したのでは絶対にだめだと言い切る。同氏は「思い切った広告をどーんと打ち出すことで初めて成功する」と語った。



新CMは佐々木希

CMキャラクターの佐々木希

 ウィルコムの思い切った広告戦略は、12月2日以降、テレビCMなどで披露されることになるという。今回、ウィルコムでは、モデルや女優として幅広いメディアで活躍する佐々木希をCMキャラクターに起用する。

 佐々木希が出演するウィルコムのテレビCMはすでに数パターンが撮影されており、12月2日からは「空中メッセージ」篇が放送される。CMでは「誰にかけても通話料が無料」という「だれとでも定額」のメッセージが訴求される。

 発表会には佐々木希が登場。12月3日より発売される「HONEY BEE 4」のラズベリーピンクを手にし、「普段からピンクの小物を使っているので、ファッションの一部として使える」などと話した。会見では「HONEY BEE 4」というところを誤って「iPhone」と発言し、「これからはiPhoneとの2台持ちになる」などとフォローする場面もあったが、「だれとでも定額」を活用して、家族や親友の木下優樹菜と電話したいと話していた。



PHSインフラはソフトバンクと共用へ

ウィルコムの寺尾氏

 ウィルコムのマーケティング本部長である寺尾洋幸氏は、PHSのインフラ戦略について説明した。同氏はソフトバンクグループの代表である孫正義氏の方針を、「品質維持と拡大、もっと攻めて拡大していこうというもの」と語った。

 PHSの基地局は、サービス開始当初よりも4倍に技術革新が進んでおり、1995年当初の基地局は、セル半径が500mだったのに対して現在は1km、チャネルは4chから14chに、周波数も72波から102波に拡大しているという。

 こうした技術革新によって当初、電信柱を中心に設置されてきたウィルコムの基地局は3Gの基地局などの鉄塔への設置が可能になっているという。さらに、PHSと3Gの共用アンテナも開発されている。ソフトバンクの基地局鉄塔で共用アンテナを利用し、PHSのマクロセル化が実現するというわけだ。寺尾氏は、PHSのマクロセル基地局が導入されることで、ユーザー数の少ない地域などは面でカバーできるようになるほか、基地局設備を共用できるためコストが下げられるとした。

 また、ウィルコムが進めているバックボーンのIP化についても言及。バックボーンがIP化されたことで、バックボーンもソフトバンクのネットワークと連携できるとした。寺尾氏は「ソフトバンクグループとして、大きなネットワークの中に入りコスト改善が図れる」と説明した。

ウィルコム店舗拡充

 このほか、ウィルコム取り扱い店舗も拡充される。11月現在専門店や併売店を含むウィルコム取り扱い店舗は2754店舗だが、年度末の2011年3月までには4000店舗に拡大される。発表会後の囲み取材の中で宮内氏は、ソフトバンクショップでの販売は考えて折らず、併売店や専門店の拡充によって店舗数を拡大すると話していた。

 宮内氏は、「だれとでも定額」の調査の結果を踏まえて、「PHS事業は伸ばすことはできる。iPhoneが好きなユーザーもいれば、話すことを中心に考えているユーザーもいる」と述べた。同氏は、通話のウィルコムを打ちべく、コンシューマー向けには「だれとでも定額」1本を徹底的に訴求するとした。

 法人向けには、iPhoneやiPad、またはデータ通信カードと通話専用のウィルコム端末といったような連携ソリューションでユーザーを拡大していく方針を示した。発表会後の囲み取材では、「早期にピーク時の460万契約にもっていきたい」などと語っていた。また、次世代通信サービス「XGP」については、ソフトバンクモバイルの取締役専務執行役員でCTO技術統括の宮川潤一氏が担当しているなどと説明した。

 このほか寺尾氏は、PHSモジュールである「W-SIM」について、「今後の端末戦略の中で展開する予定」と述べ、その詳細が語られることはなかった。今回の発表会では、ウィルコムの今後発売されるモデルや参考出品モデルなども展示された。端末にはW-SIM端末はなく、主に通話メインに開発されたモデルが並んでいた。W-SIM関連では、W-SIMの形状した3Gアダプタが展示されており、PHS通信機能のないW-SIMといったものも参考出品されていた。


 



(津田 啓夢)

2010/12/1 18:45