KDDIが海外で送金・決済事業へ参入、MFICと提携


MFICの枋迫氏(左)とKDDIの石川氏(右)

 KDDIは、米国ワシントンDCに拠点を置く金融機関向けソリューション提供事業者のMicrofinance International Corporation(マイクロファイナンス インターナショナル、MFIC)と、世界の通信キャリアに向けたグローバルな送金・決済プラットフォーム事業を推進すると発表した。発表に先立ち、MFICの第三者割当増資を12月8日付けで引き受けている。

 今回、KDDIが提携するMFICは、元銀行員の枋迫篤正氏が米国で起業した企業。13日の発表会で登壇した枋迫氏は、世界各国の金融機関を繋ぐ送金システムは、送金手順が全て手作業で行われ、遵守すべきコンプライアンスも同じく手作業になっていると指摘する。このため、国をまたがる送金は時間がかかったり、手数料が高かったりするなど、利便性に欠けている部分があった。そこで同社では、世界共通で利用できる決済システムを立ち上げ、今年6月には米国連邦準備銀行(FRB)と提携するなど、世界90カ国の金融ネットワークを作り上げている。通信事業者との提携は、今回で5社目という。

 一方、KDDIでは、開発途上国でのビジネスとして、昨年11月にバングラデシュのISP、今年2月に米国の移民向けMVNOへ出資している。今回は、MFICの第三者割当増資を引き受ける形で、MFICの優先株22.9%(20%議決権特約付き)を22.05万ドル(約18.4億円)で取得、MFICの筆頭株主となる。

 第一弾サービスは、KDDIの米国におけるMVNOであるLocus Telecommunicationsから、移民向けにプリペイド型送金カードの販売/サービスが2011年1月から提供される。最大200ドルまでのプリペイドカードが用意される予定で、手数料は数%(200ドルで4~5ドル程度)になる見込みとのこと。

MFICの提供するシステム両社のノウハウをあわせて提供する

「日本の旗を立てたグローバルスタンダードに」

枋迫氏は、従来の金融機関のシステムは、時代の要請に応えていないと説明

 プレゼンを行った枋迫氏は、「(送金ビジネスには)テロリストへの資金幇助、マネーロンダリング(といった悪用)があるなかで、決済に関係する人がそれらを手作業でチェックしている」と説明する。

 今回の送金サービスは、主に移民向けと位置付けられている。中南米やアフリカ、アジアから欧米などへ出稼ぎに行った移民が、母国にいる家族へ稼いだお金を送る手段として利用されるものだが、そうした人々は口座を持つこともできず、実際には携帯電話を使った送金サービスが利用されている。枋迫氏は、米州開発銀行が示したデータとして、2009年時点の中南米宛送金額が530億ドルに達すると紹介。MFICのサービスは、現金で支払いできるサービスとしては、業界3位の取扱高になるという。

 KDDIによれば、フランステレコムがアフリカ6カ国でモバイルマネーサービスを、インドではノキアが現地銀行と提携してモバイルマネーサービスを開始しているほか、ケニアではボーダフォンのサービスが1300万口座を突破し、その他5カ国でも展開されている。銀行口座を持たない世界の人々25億人のうち、携帯電話を持つ人は17億人に達し、世界を行き来する送金額は、2014年で5兆5000億円規模に達するとの推測もある。

 しかし栃迫氏は、「いろんな報道はあって、フィリピンやアフリカでモバイルの送金サービスはあるが、実態はうまく機能していない。方法としては『普及している』と言われているが、違法行為が横行している」と述べる。手作業の影響として、そうしたコンプライアンス面のほか、送金完了まで時間がかかる。しかしMFICのシステムを導入した金融機関間の送受金は自動化され、手数料も安価にできる。

KDDIではバングラデシュのIPSなどに続く海外事業への進出海外では通信と金融の融合が進む

 金融システムの刷新、そしてあらゆる層に金融サービスを届けることを目標とする枋迫氏は、KDDIとの提携について「新時代のモバイルペイメントネットワークとして、そしてオープンネットワークとして、日本の旗を立てて、デファクトスタンダードを目指す。世界中でありとあらゆる層が安く、手軽に決済取引ができるようになる。参加したいキャリアがいれば、すぐ接続できる」と述べ、日本発のインフラとしての自負をアピールすると同時に、他事業者の参画も可能と説明した。

他社も参入可能とした石川氏

 KDDI取締役執行役員常務の石川 雄三氏は、「日本にいるとピンとこないが、世界には口座を持てる人が少ない」と語り、MFICのサービスを拡げることで、小口送金というサービスが改善できるとする。将来的には、さらに進化させてEコマースとの連携の可能性も検討する考えを示した。またケニアでは、金融インフラが整っていないため、事実上、通信事業者がその役割を果たしており、モバイルマネーサービスの店舗は、銀行の店舗の10倍存在するとのこと。ケニアで1300万口座はあるものの、海外送金が事実上できない状況にあるとのことで、KDDIでは、今回米国で行う仕組みを紹介したり、モバイルマネーサービス自体が存在しないところにはソリューションとして紹介したりすることも検討する。

 「今後1~2年で形を作っていきたい」とする石川氏は、今回の事業はオープンなもので、出資したKDDIだけ参入できるのではなく、意欲があれば他社も参入できるとする。インフラができていない、発展途上国ではノウハウを一緒に提供する、というビジネスモデルを構築したいとした。

送金・決済プラットフォームの概念図KDDIの第一弾サービス

 



(関口 聖)

2010/12/13 13:41