クアルコム、クアッドコアや非同期デュアルコアSnapdragon披露


クアルコムの山田氏

 クアルコムジャパンは、スペイン・バルセロナで2月に開催された展示会「Mobile World Congress」において、クアッドコアおよびデュアルコアプロセッサを含むSnapdragon製品を発表した。3月1日、国内において同社の最新製品群の説明会が開催された。

 「クアルコムが首を長くして待っていた時代がついにやってきた」――説明会冒頭、クアルコムジャパンの代表取締役社長兼会長である山田純氏は、2011年にもスマートフォンの出荷数がパソコンの出荷数を抜くとの予測を示してそう語った。携帯電話向けの技術開発からスタートしたクアルコムにとって、モバイルがパソコンを凌駕できるかは創業以来の大きなテーマだという。

通信モデムは生命線

 クアルコムは、CDMA系の各通信方式について市場を牽引する立場にあり、モバイル向けの半導体市場でも他者をリードしている状況にある。山田氏は、競合他社に対してこの優位な立場を譲り渡すつもりがないことをアピールし、一部で立場が弱くなるのではないかと懸念されたLTE方式についても、「フタを開けてみれば我々が最初だ」と話した。

 なお、米Verizon Wirelessが展開しているLTEサービスや、国内でドコモが「Xi」(クロッシィ)の名称で展開するLTEサービスでは、いずれもクアルコム製の3G/LTEのマルチモード対応チップセットが採用されている。

 山田氏は、無線通信モデムがクアルコムの生命線であるとし、2月14日に発表された、下り最大42MbpsのDC-HSPA+方式対応の「MDM8215」、さらに、DC-HSPA+に複数のアンテナを使って送受信するMIMO(マイモ)の技術を加えた、HSPA+ Releace 9方式対応チップセット「MDM8225」を紹介した。こうしたCDMA技術の進化について山田氏は「CDMAの延命策ではない」と述べ、新しい周波数でLTEサービスを開始できない事業者が数多く存在しており、引き続きCDMAの通信技術にニーズがあると説明した。

 このほか2月14日には、LTEのほかマルチモード対応の「MDM9615」、「MDM9625」、「MDM9225」なども発表されている。



Snapdragon

 山田氏は、携帯電話やスマートフォンの市場について、「マクロで見ると水平分業が進んでいる」と述べ、水平分業の組み合わせ型であると説明した。CPUやGPUと呼ばれる画像処理のプロセッサーだけでなく、さまざまな機能が必要に応じて使えることが重要とし、それをうまく省電力で動作できるようすりあわせが必要だという。同氏は「日本が得意なすりあわせを半導体の中で提供している」と説明した。

 クアルコムでは、Scorpionと呼ばれる独自開発のCPUを採用したチップセットをSnapdragonシリーズとして展開している。Snapdragonには5つの要素があり、独自開発CPU、非同期のマルチコアによる効率的な動作、グラフィックスコア(Adreno)やマルチメディア機能、無線通信機能の統合、アプリ用プロセッサーとしても活用できることなどで構成されている。

 当初はシングルコア製品のみでスタートしたSnapdragonだったが、現在はデュアルコア製品も提供されている。非同期型のコアを採用するで効率化が図られており、クアルコムでは、非同期型マルチコアを採用しているのはクアルコムだけであるとしてい
る。

 2月14日には、「Krait」と呼ばれる新たな独自CPUを採用した製品群も発表された。シングルコア「MSM8930」、デュアルコア「MSM8960」、クアッドコア「APQ8064」の3製品がラインナップされ、クロック周波数は最大2.5GHzにおよぶ。山田氏は、競合他社の多くがARM製コアを採用していると説明し、現行のARM製コアと比較した場合、発表されたばかりの「Krait」は1.5倍の性能があり、消費電力も1/3程度にまで抑えているという。また、クアッドコアの「APQ8064」は現状ではアプリケーションプロセッサだが、将来的には通信機能も実装していくことも検討しているという。

 クアルコムでは数年前からAndroid OSに注力してきたとし、現在、Android端末の3/4がクアルコム製のチップセットを採用しているという。また、Windows Phoneや、HPのwebOSについては全てのモデルがクアルコム製チップセットとなっている。iPhoneを除く各スマートフォン系プラットフォームで優位な立場にあるクアルコムだが、山田氏は、「競合他社は新しいプロダクトをアピールしており、デュアルコアで戦おうとがんばっている競合も出てきている。そこに我々は非同期のデュアルコアで対抗する。かつてパソコンで起こったようなCPUの能力向上がものすごい勢いで起こるだろう。我々は現在いいポジションにいるが、危機感をもって取り組んでいる」と述べた。



 説明会では、1.2GHz、非同期のデュアルコアプロセッサーを採用した「MSM8660」を搭載した開発用検証機「MDP」(Android端末)を利用して、バックグラウンドで負荷のかかる処理をするデモなどが行われた。

 クアルコムでは今後、Windowsパソコン向けにCPUを提供していくほか、テレビやセットトップボックスなどへもチップセットの提供を検討していく方針だ。


MDP代理店を通じて開発者向けに一般販売される
デモデモ

 



(津田 啓夢)

2011/3/1 14:34