KDDIの2010年度決算は減収増益、戦略はスマートフォンにシフト


KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏

 KDDIは、2010年度(2010年4月~2011年3月)の決算を発表した。連結業績の営業収益は3兆4345億円(前期比0.2%減)、営業利益は4719億円(6.3%増)、経常利益は4407億円(4.2%増)、当期純利益は2551億円(19.9%増)の減収増益となった。

 25日に開催された決算発表会で、KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏は、固定通信事業が期初見通しを大幅に上回って通期の黒字を達成したことなどから、「期待以上の結果」と振り返り、「増収増益を目指す」とグループとしての今後の中期的な事業の方向性も語った。

 

東日本大震災の影響

震災の影響

 決算発表会では冒頭、東日本大震災の影響と対応状況が説明された。携帯電話サービスへの影響では、4月22日時点で93%の基地局が復旧し、124局が停止している。停止している基地局のうち、48局は復旧の対象で、53局は新設して対応される見込み。残りの23局は福島原発の制限区域にある基地局で、規制などを考慮しながら順次復旧対応が実施される予定となっている。田中氏は「4月末までに、震災前のレベルに回復する見込み」とし、その後は復旧フェーズから復興フェーズに移行して、避難所のカバーやエリア・品質の向上といった恒常的な品質の確保に移行する予定。復興フェーズの終了は9月末をめどにしている。

 連結業績への影響額は、営業利益の減少が21億円、特別損失が176億円。このうち移動体通信では営業利益の減少が12億円、特別損失が123億円となっている。なお、特別損失176億円の内訳は、基地局関連が109億円、固定通信のケーブル関連が41億円、営業関連の支援・補償関連が16億円、その他が9億円となっている。

 

連結業績のハイライトと2011年度の見通し

2010年度決算 連結業績

 2010年度決算のハイライトとして、営業利益が10期連続の増益となったことや、固定通信事業が7期ぶりに黒字に転換したことが挙げられた。当期純利益は2551億円となったが、東日本大震災の特別損失に加え、現行の800MHz帯設備や固定系のレガシーサービス設備の減損等で858億円、合計で1033億円が特別損失として計上された。

 2011年度の連結業績は増収・増益を目指すとし、営業収益は3兆4600億円(前期比0.7%増)、営業利益は4750億円(0.7%増)、経常利益は4500億円(2.1%増)、当期純利益は2500億円(2.0%減)を見込む。

 2011年度のフリーキャッシュフローは3300億円を計画し、設備投資は163億円増の4600億円を予定する。このうち、東日本大震災やBCP(事業継続計画)対応による追加投資としては約200億円を見込んでいる。

2010年度のハイライト2011年度の見通し

 

移動体通信事業の業績と見通し

移動体通信事業の業績

 移動体通信事業の2010年度の業績は、営業収益が2兆5907億円(前期比2.2%減)、
営業利益が4389億円(9.3%減)、経常利益が4229億円(12.4%減)、当期純利益が2140億円(27%減)の減収減益となった。田中氏は、今後についても「シンプルコースへの移行に伴う音声ARPUの減少を見込み、800MHz帯移行関連経費の増加もあり、この2年間は厳しい状況にある」との認識を示した。

 2010年度の端末販売台数は1157万台、うちスマートフォンは109万台となった。販売手数料の平均単価は2万6000円。2011年度は1210万台、販売手数料の単価は2万2000円を見込む。

 スマートフォンの販売台数、109万台は、端末販売台数に占める割合で9%。2011年度のスマートフォン販売台数は400万台を目標とし、端末販売台数に占める割合は33%になるとした。なお、2010年度にスマートフォンに機種変更したユーザーのデータARPUは、約1600円分上昇したという。

 2010年度のARPUは4940円。内訳は、データARPUが2320円、音声ARPUが2620円となっている。2011年度はデータARPUが音声ARPUを上回ると予測されており、データARPUは220円(9.5%)増の2540円と大幅な増加を見込む。一方、音声ARPUの減少により、トータルARPUは400円(8.1%)減の4540円になる見通し。

 auの累計の契約数は3299万9000件、2010年度の純増数は112万7000件となった。2011年度は150万1000件の純増を目指す。なお、UQコミュニケーションズは累計契約数が80万7000件、2010年度の純増数は65万6000件となった。2011年度は累計契約数で200万件、純増数は119万3000件の増加を見込む。

 移動体通信事業の解約率は2010年度通期で0.73%、直近の2010年度第4四半期で0.75%となっている。田中氏は「IS03発売から低下傾向にある。競争力を測る指標として、重視していく」と語り、2011年度は0.7%と、さらに低下させる方針を示している。

 MNPは、2010年度で36万2000件の転出超過。また、純増シェアは、auとUQ WiMAXを合計した数字で22.3%(3位)としている。田中氏は、これらも重要な指標と位置付け、「MNPの改善、純増シェアのアップを図っていく」としている。

契約数解約率
MNPと純増シェアARPU
販売台数と販売手数料

 

2011年度はauの競争力回復の年、スマートフォンに注力

2011年度の位置付け。競争力の回復を掲げる

 田中氏は、「2011年度は次なる取り組みのスタートの年」と位置付けており、基盤事業の立て直しとして、移動体通信事業では「auのモメンタム(勢い)回復」、固定通信事業では「増収増益の確立」を掲げる。また、「新しい時代に向けての準備」との位置付けも加え、この本格展開は2012年度になるとしている。

 同氏は「auのモメンタム回復」において、「スマートフォンへの取り組みを明確にする」という方針を改めて示し、機種変更したユーザーのデータARPUが上昇している例を示しながら、「積極的に拡販する」と販売台数を大幅に増やしてARPUの上昇を狙っていく方針を示した。

 端末ラインナップでは、2011年度に発売される機種の約半分がスマートフォンになるとすでに予告されているが、WiMAX対応モデルやグローバルモデルに加えて、日本定番機能を搭載したモデルといった、ハイエンドユーザー向け以外のラインナップも拡充していく。

 ネットワークの全体戦略では、さまざまなコンテンツやサービスを利用できる「マルチユース」、いつでもどこでも最適なネットワークを利用できる「マルチネットワーク」、好きなデバイスで利用できる「マルチデバイス」という、「3M戦略」を全体構想として掲げた。

 特に、マルチネットワークについては「競争力の源泉になる。急増するトラフィックを収容し、コストの低減も図る。KDDIにしか実現できないこと」と、重要なものと位置づける。例えばLTEの展開では、トラフィックの高いエリアではWi-Fiにオフロードしたり、Wi-FiのバックホールにWiMAXを活用したりといった展開により、これまでネットワーク単価の高い方式でカバーしていた内容を置き換え、全体の設備投資額を抑えるという。これにより、2015年までのLTE関連の設備投資の総額は、当初予想の5150億円から3000億円レベルに抑えられるとしている。なお、これらはトラフィックの集中に対する施策が中心で、LTEのエリア展開は計画通り進められる予定。

 同氏からはこのほか、アジアを中心として海外展開を加速させ、インターネットやコンテンツビジネスの売上を、現在の1600億円から2015年度までに倍増させたいという事業方針も示されている。

2011年度はスマートフォンへのシフトを明確にスマートフォンの拡販でARPU拡大を目指す
スマートフォン・タブレット市場の拡大をチャンスと捉えるというスマートフォンラインナップを多様化(※グラフエリアの幅と機種数は無関係)
全体構想となる「3M戦略」マルチネットワークを競争力の源泉とする
マルチネットワークの推進では社内の縦割りの事業部構造にも改革を実施する20億人のアジア市場にも積極的に進出する

 

新商品発表会は5月に開催へ

 質疑応答の時間には、今夏の電力需給を見越した対策が聞かれた。田中氏は、「政府からガイドラインが月末に出る予定で、それに従い、どうしていくかを決めていく」と今後の対応方針を示した。なお、同社の電力消費はそのほとんどが基地局とネットワークセンターによるもので、オフィスは8%に留まるという。「電力消費のほとんどがライフラインを支える通信そのもので、一概に削減すると影響が出る」と慎重に検討していく方針を明らかにしている。

 東京電力が保有するKDDI株の売却が検討されているとする一部報道に対しては、田中氏は「東電から直接コンタクトがあったわけではない」としたほか、売却した場合の対応についても「仮定の話には答えられない」とし、同社として具体的な検討も行っていないとした。また、KDDIの社外取締役を務めている、東京電力 代表取締役会長の勝俣恒久氏が、6月16日付の役員異動で退任予定となっていることについては、「復旧活動に専念されるため、取締役を外れた」と説明された。

 一方、震災による端末ラインナップへの影響については、「細かなレベルで見ると影響を受けているが、夏の商戦期に影響が出ない形で進められると判断している」と語り、新商品発表会についても、「予定通り5月に開催する」とした。

 




(太田 亮三)

2011/4/25 19:10