NTTが最新復旧状況を紹介、原発周辺の取り組みも


 NTT(持株)、NTT東日本、NTTドコモは、東日本大震災で被災したエリアに関する最新の復旧状況を紹介する記者説明会を開催した。

 前回(3月30日)行われた会見では「復旧の見通し」が示され、今回は、それから約1カ月で実行された取り組みの具体的な模様が明らかにされたほか、被災による影響額、今後の方針などが紹介された。また原子力災害が発生している福島原発周辺の復旧についてもあらためて説明が行われた。

 

ドコモの新サービス開発表明、スマートフォン版らくらくホンも

ドコモの山田社長
ドコモが行う新たな災害対策の考え方

 NTTドコモによる今後の取り組みでは、同社代表取締役社長の山田隆持氏が今後開発する新サービスとして、ユーザーが音声を録音して、パケット通信で届けるという仕組みを導入する考えが示された。

 同社が4月22日より提供する「声の宅配便」とは異なる、新たなサービスとのことで幅広いユーザーにとって利用しやすい、安否確認ツールと位置付けられる。同氏は「今回の震災では災害用伝言板サービスが数多く利用された。しかし年齢別に見ると、60代以上の利用率は、他の年齢層と比べ、大変低かった」と指摘。ブラウザからアクセスする災害用伝言板は、一定のリテラシーが求められるため、通話中心のユーザーでも利用しやすいよう、通話規制が行われているときに電話をかけると、端末側で音声を録音してデータ通信で送信する。受信側には、まずメッセージが送られた旨だけ通知され、好みのタイミングでダウンロードして再生する、という流れになるという。

 2011年度中の開発を目指すとのことで、まずはNTTドコモのスマートフォン向けにアプリとして提供する方針だ。将来的には、他社と協議してキャリアの垣根を超えて利用できるサービスにすることも目指す。より詳細な使い勝手や提供開始時期は、別途案内される見込み。スマートフォンでのサービス提供が実現した後、従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)などでの展開も検討される。

 メールを使えば、パケット通信で音声を送信することはできるが、そうしたサービスも不得手なユーザーに向けたものとなる。若年層からの普及が見込まれるスマートフォンからスタート、という方針は、年配のユーザーが利用する端末と食い違う可能性もあるが、この点について山田氏は質疑応答において「らくらくホンでもスマートフォン(版の提供を)ぜひやっていきたいと思っている」と述べ、シニア向け製品に位置付けられるらくらくホンシリーズでも、スマートフォンモデルを投入する考えを明らかにした。

 このほか、囲み取材において、2011年夏モデルの発表会を開催する方針も明らかにされた。競合であるソフトバンクモバイルでは、東日本大震災を受けて、華美な発表会を自粛する方針を示している。今回、山田社長は発表会開催に加え、ラインナップを減らさない方針であること、そして震災で部品調達などに影響があるため、発売時期は例年より遅れるとの見込みも示した。

 スマートフォンにおける緊急地震速報対応については、3月30日の会見で、今冬にも対応する方針とされた。その後、ソフトバンクモバイルが既存機種を含めて対応する方針とした。この点についてあらためて問われた山田氏は、「緊急地震速報を伝える仕組みである“エリアメール”は、厳密に品質をチェックしている。アプリで類似のサービスは存在するが、一斉同報ではないため、遅れて届く人もいる」と述べ、パケット通信での通知よりも、一斉同報の仕組みを重視することで、品質を担保する方針を示し、前回同様、緊急地震速報のスマートフォン対応は今冬とした。

 

原発周辺の復旧状況

福島原発周辺エリアの状況

 NTTドコモでは、被災したエリアにおいて「伝送路の復旧」のほか、山頂にある基地局で従来より広大なエリアをカバーする“大ゾーン方式”などを用いている。津波などで被災したエリアでも、こうした手法で復旧してきたが、立ち入りが制限されてきた福島原発周辺についても同様の取り組みが行われ、多くの部分でエリアを復旧させた。

 福島第一原発から約25km離れた山頂の基地局は、山頂からさらに40m高い場所に高性能アンテナを設置し、電波の向きを絞って、福島第一原発までの国道6号線周辺で携帯電話を使えるようにした。この設備工事は4月13日に行われたが、その日の午前には大きな余震(福島県浜通りで震度5弱)が発生し、山頂の基地局も揺れたが、怪我人や事故などはなく、無事工事を終えて、エリア復旧を成し遂げた。その後、東京電力のスタッフの協力を得て、実際に携帯電話が利用できることも確認した。

 原発事故の対策拠点として活用されている「Jヴィレッジ」(福島第一原発の南、国道6号線で約23km)は、500人~600人が滞在し、原子力災害に立ち向かっている。3月中は、屋内まで電波が届かなかったため、衛星回線利用の基地局を設置して、屋内でも使えるようにした。こうした取り組みにより、原発周辺で人が居住するエリア、移動するエリアのほとんどで通信できるようになった。

 原発周辺には、NTT東日本の局舎も9カ所存在するが、東北電力からの電力供給を得て、そのうち6カ所のビルではサービスが復旧できた。

原発周辺にある基地局の復旧状況Jヴィレッジなどで通信できるようにした
現地の写真NTT東日本の原発周辺エリアの復旧状況

 

NTT全体の被害額は約300億円、予定より早い進捗

NTT(持株)の三浦社長

 NTT(持株)代表取締役社長の三浦 惺氏は、被災地の現況について「記者会見(3月30日)の次の日から調査に入ったが固定・移動ともに復旧がほぼ完了している。海岸寄りの道路沿いも通信が可能になった。人が住むところ、動くところでは通信が可能になった。NTTコミュニケーションズの企業向けサービスでは、100回線ほど復旧していないところはあるが、その他はほぼ復旧した」と述べた。

 被害額は、NTT東日本で約200億円、NTTドコモで約60億円で、グループ全体では約300億円と見込まれている。来年度以降、復旧に必要な建設投資などは複数年にわたる見込みで、NTT東日本では、設備投資が約400億円、損失計上額が約200億円、ドコモでは、設備投資が約100億円、損失計上額が約100億円と推計されている。

 今後の災害対策に向け、三浦社長は「通信は社会的に重要なインフラ。重要性を痛感した」と前回会見と同様にコメントし、災害に強いネットワーク作りや早期復旧手段の整備、衛星などの活用になる早期通信手段の確保、被災後における避難所の情報流通手段の確保、自治体や医療支援など災害時・復興時に活用できるソリューションの提供を図るとした。

NTTグループの復旧状況NTTグループでの被害影響額NTT東日本での被害・影響額内訳NTTドコモでの被害・影響額内訳
NTT東日本の江部社長

 NTT東日本代表取締役社長の江部 努氏は、がれきがまだ残っているエリアでは固定通信が回復していないエリアはあるものの、そうしたエリアでも5月中の回復を目指すとした。これまでの取り組みとしては、仙台空港、あるいは東北新幹線用にJR東日本が設置した沿岸部の地震計には、それぞれ専用線が必要で、優先的に復旧させたという。津波で大きな被害を受けたエリアのうち、石巻のビルでは、通信設備が建物の上階にあったため、津波により浸水を免れ、受電設備を新たに建物の3Fに設置したりして復旧した。岩手県釜石市鵜住居町のビルは設備そのものは浸水で故障したが、建物が残っていたため、新たな設備を導入して復旧させたという。4月26日時点では4つのビルがまだ復旧していないが4月末までには全て普及する見通し。ただし、島嶼部で住民が避難しているエリアや原発周辺など、残り5つのビルは今後の復旧となる。

NTTグループ全体での今後の方針NTT東日本の石巻ビルにおける復旧事例同じくNTT東日本の鵜住居ビルの復旧事例NTT東日本では、復旧に約6500名を投入

 NTTドコモは、先月の会見で「4月末までに248局が復旧予定」としていたが、このうち242局が4月末までに復旧する見通しとなった。4月末までの復旧予定と5月復旧予定分としていた基地局はあわせて307局だが、26日までに280局が復旧し、4月末までには289局が復旧する。残りは18局だが、これらは道路の寸断で工事が難しいエリアとのこと。このほか、原発周辺エリアなどで復旧していない基地局は17局となる。

ドコモのサービスエリア復旧状況回復手法の1つとして、基地局に繋がる光回線、応急光回線での復旧大ゾーン方式の基地局も光ファイバーが寸断したアンテナと基地局をマイクロ波で結ぶ

 ドコモでは、4月26日時点でユーザーから9億4400万円の募金を受け付けた。このうち、チャリティコンテンツの販売は6万4048件で1249万9410円、ケータイ送金は19万534件で5億5865万7877円、ドコモポイントが18万1663件で3億7041万7700円、iモード版ドコモマーケットのチャリティアプリ販売が7168件で191万5450円などとなっている。

 被災したドコモショップでは、19店が大きな被害を受けた。1店舗の復旧には6000万円ほどかかる見通しだが、半分程度はドコモや同社代理店などによる支援金でまかなわれる。残りはドコモが無利子で融資する予定だ。

 ドコモでは、現在の応急処置を終えた後、9月末までに震災前と同等レベルの品質になるよう本格復旧する方針だ。ただし、NTT東日本もドコモも、津波で壊滅的な被害を受けたエリアは、沿岸近くの居住を避ける可能性もあることから、国の復興構想会議、あるいは自治体の復興計画に沿って復旧を図る。

ドコモでは約4000人を復旧作業に投入避難所には端末などを貸出団体や企業も支援料金面での支援措置
募金の状況グループでの支援。日本サムスンからはGALAXY Tabが2400台、無償提供されたドコモショップへの支援9月末までに本格復旧する方針

 さらにドコモでは、今後の天災に対応すべく、全国100カ所に大ゾーン方式の基地局を設置し、いざというときに利用できるようにするほか、基地局にエンジンを置いたり、バッテリーによる24時間稼働を推進して、都道府県庁や市区町村役場の通信を少なくとも24時間、できるようにする。また被災地への対応として衛星携帯電話をすぐ提供できるようにするほか、衛星通信対応基地局を車載型は19台に倍増させ、可搬型は新たに24台導入する。復旧エリアマップについても、大きな災害が起こった際には、すぐ提供できるようにする。これら今後の対策は、復旧に要する100億円とは別の投資として行われる。

 



(関口 聖)

2011/4/27 19:20