KDDIの第27期定時株主総会、震災後の対応と今後の戦略を説明


 KDDIは、6月16日、第27期定時株主総会を都内で開催した。同社の株主数6万5859人、議決権個数424万5842個に対し、都内の会場には355名、インターネット経由を合わせて1万7868人の株主が参加し、株主総会における議決権個数は358万9004個となった。KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏は、社長就任後初めて議長を務めた。

 株主総会の前半は田中社長から経営状況などが説明され、後半は書面による質問への回答および会場からの質問に対する回答が行われた。株主総会の最後には議案の決議が行われた。経営状況や今後の戦略は、4月25日に開催された2010年度決算説明会で明らかにされた内容を中心にしたもので、参加した株主に直接説明された。

KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏

 田中氏はまず、東日本大震災の影響や同社の対策を解説し、「今後も必要な策を講じていく」と説明。震災直後は、携帯電話基地局の停波が1993局、固定回線の断線が39万回線だったが、現在停波している基地局が29局、個人向けの固定回線の断線が425回線にまで復旧しているという。同社では4月末までを「復旧フェーズ」とし、“エリア”については、「予定通り完了した」と震災前の水準に戻している。現在は「復興フェーズ」と位置づけており、6月末までに「“品質”を震災前と同等レベルにする」とした。

 経営状況では、2010年度決算の内容として、固定電話事業の増収と移動体通信事業の減収、営業利益の増加といった概要が説明された。移動体通信事業については、「課題のスマートフォンは日本定番機能を搭載したIS03や防水のIS04などラインナップを拡充した。従来型の携帯電話に加えて、電子書籍端末やデジタルフォトフレームなど多様な端末を発売した」とラインナップの拡充に務めている様子を紹介した。

 また、サービス面でも、スマートフォン向けを中心にISフラット」などのパケット定額や「毎月割」などの割引施策、「Skype au」といったさまざまな展開を説明した。関連会社の状況についても、「UQコミュニケーションズは契約数、基地局数ともに順調に推移している」としたほか、「じぶん銀行も口座数、預金残高ともに堅実に伸びている」と説明された。

 今後の戦略として、今期の課題と中期的な取り組みについては、こちらも2010年度決算説明会で示された内容だが、「基盤事業の立て直しとauのモメンタム(勢い)の回復」「来期からの本格展開を目指した、新しい時代の準備」の2つの柱で説明された。取り組むべき課題としては、解約率の低下、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)、純増シェア、データARPUの向上という4つのキーワードを設定し、2010年度は増収に転じた固定通信網についてもネットワークコストの削減をさらに進めるとした。

 田中氏は中期的な事業の方向性として、「内需が低迷し、グローバル化が進み、スマートフォンやタブレットが普及してトラフィックが急増するなど、大きな変化が訪れている。これを新たな事業機会の到来、チャンスと捉え、新しいビジネスモデルへの移行を進めていく」と意気込みを語る。その中心となる、マルチユース、マルチネットワーク、マルチデバイスを掲げた「3M戦略」は、「一言でいうと、個人から世帯をベースとした売上の最大化」と狙いを語り、「マルチネットワークが競争力の源泉となる。急増するトラフィックを複数の我々のネットワークで吸収する」と、固定網も抱える同社の特徴を打ち出す戦略になるとした。

 田中氏からは海外戦略についても解説され、アジアなど新興国において、コンテンツ展開のノウハウを活用してコンシューマ事業を手がけていく方針も示された。

スマートフォンの出遅れ、震災後の対策

株主総会 会場の模様

 株主からの質問では、会場から「スマートフォンでの出遅れ」について、責任の所在を求める質問がなされた。取締役執行役員常務の石川雄三氏は、「マーケティングが十分でなかった。世界のトレンドの認識が十分でなく、直接の責任ということであればこの部署になるだろうが、経営陣も真摯に受け止めている」と回答し、「マーケティングはより事業に近い部門として組織変更を行い、グローバル端末の導入やAndroidに対する組織も強化した。今後のスマートフォン市場で先行できるような体制を組んでいる」と対策を講じた旨が説明された。

 Skype(スカイプ)がマイクロソフトに買収されたことで、サービスの継続に問題は生じないのかという質問も寄せられた。代表取締役執行役員専務の高橋誠氏は、「買収は寝耳に水だったが、契約はすでに済んでいるので、引き続き戦略的なアプリとして使え、オープンな環境の中での戦略とスカイプからも説明を受けている」と回答し、今後の提供に問題はないとの認識を示した。

 このほか、シニア向け端末やサービスに拡充にも質問が及んだ。田中氏は、シニア向けスマートフォンとして「URBANOブランドで引き続き出していく」としたほか、取締役執行役員常務の石川氏は、「シニア・高齢者向けは大きな経営の課題。簡単ケータイはシニア層では高いシェアで販売しているが、スマートフォンに関しても、シニア層向けモデルを考えている。扱いを簡単にするという意味では、画面が大きく扱いやすいと考えている。また、さらに簡単にしたものも考えている」とラインアップを拡充していく方針を明らかにした。

 新社長として改めて決意を聞かれた田中氏は、「KDDIは持続的に成長しなければならない。国内は3M戦略で、グローバル戦略と合わせて、KDDIの中期的な成長を成し遂げていきたい」と回答。加えて、「最も重要なのは、社内にチャレンジ精神をもう一度取り戻すこと。社員のマインドセットを前向きにするのが重要」と語り、社内改革を進めているとした。

 東日本大震災の発生を受けて、KDDI本体に対する災害対策についても質問が及んだ。取締役執行役員常務の嶋谷吉治氏は、「BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)として、重要拠点の二重化、ルートの冗長化は従来からやってきた。今回の震災では広範囲で対策を講じなければならず、対策を強化している。基幹伝送路の冗長化に着手し、可搬型基地局も増強に動いている。新宿のネットワークセンターは全国を一括して管理しているが、これを西日本に一部機能を移管する暫定措置は終わっている。恒久化するかどうかは検討中で、監視運用系を関西で運用するか検討している。また、社員の自宅待機、自宅勤務に備え、リモートアクセス手段も充実させた」と震災後のKDDI本体の災害対策が説明された。

 ほかの株主からは、海底ケーブルの陸揚げ局に対する災害対策が聞かれた。取締役執行役員常務の嶋谷氏は、「現行でサービスを提供しているので、高台に移すといったことはサービスの中断が発生するので難しい。次の世代の海底ケーブルで検討したい」としたほか、「では、実際に被害が発生するとどうなるか。日米間は数十本あるが、直江津(新潟県)からロシア向けにもあるので、迂回をかける形で復旧させるプランを作っている」と海底ケーブルのネットワークについても対策を進めている様子を説明した。

 なお株主総会では、第1号議案「剰余金の処分の件」、第2号議案「取締役12名選任の件」、第3号議案「取締役への役員賞与支給の件」、第4号議案「取締役の役員賞与に対する業績連動制度導入の件」の議案はすべて、賛成多数により原案どおり承認・可決された。

 




(太田 亮三)

2011/6/16 16:27