スマートフォンの普及拡大でIT市場に変化、IDC国内IT市場予測


IDCの和田氏

 IDC Japanは、2011年~2015年の国内製品別IT市場予測を発表した。急速に普及するスマートフォンなどが成長を後押しした結果、今年8月の予測値からやや改善した。

 IDCでは3カ月毎にIT市場の成長予測を発表している。2011年10月の予測では、2011年の国内IT市場は12兆4797億円、前年比成長率は1.6%のマイナスとなった。8月の前回予測は12兆3863億円の2.4%マイナスだったため、成長率は若干改善したことになる。

 リーマンショックや世界的な経済危機から好転の兆しが見えた2010年だったが、2011年は東日本大震災やそれに伴う原発事故、電力不足などを背景に再び国内経済は低迷する。国内IT市場でも多くの製品は前年比マイナス成長とされている。

ITサービスとパッケージはマイナス成長、ハードウェアはプラスに

 IT市場を構成するITサービス、パッケージソフト、ハードウェアのうち、ITサービス市場は市場規模4兆8368億円で、前年比成長率はマイナス2.1%、パッケージソフト市場は2兆1493億円で、マイナス6.5%となった。

 2市場がマイナス成長と予測される中、8月の予測から大きく好転する予測が示されたのはハードウェア市場だ。8月の予測は、2011年にマイナス1.1%の成長率とされたハードウェア市場だったが、スマートフォンやタブレット端末の普及拡大や、理化学研究所のスーパーコンピューター「京」(けい)の出荷によって1%ながらプラス成長に予測が修正された。

 IDCの説明によると、震災当初の想定よりサプライチェーンの復旧が早く、一部の産業の回復も早かったことが手伝い、結果的にIT投資が増えたという。個人需要を中心にスマートフォンやタブレット端末が急速に普及しており、これが市場を牽引した。



スマートフォンが規模、成長率ともに急速に普及

 とくに、スマートフォンは、2011年に市場規模1兆1400万円、前年比成長率34.5%プラス、2700万台市場と、スケールも成長率も大きいという。また、タブレット端末は市場規模が非常に小さく、全体に与えるインパクトこそわずかなものだが、2011年の前年比成長率が110%プラスと大幅に伸びている。

 IDCによれば、2012年のスマートフォン市場は、1.4兆円規模にさらに拡大し、前年比成長率も17%プラスと二桁成長を維持する見込みで、ハードウェア市場全体としては3%台になると予測している。

 なお、IDCでは、iOSやAndroid OSだけでなく、Linux OSやSymbian OSを採用した端末もスマートフォンに分類しているため、一部のiモード端末などもスマートフォンとしている。ただし、成長を牽引しているのは、AndroidとiOSであり、とくにAndroidが大きく成長しており、Linux/Symbian端末は減少傾向にある。また、スマートフォンは個人需要が市場を支えており、ビジネス利用は現時点で1割に満たないものの、2015年頃には、ビジネス向けの出荷が1割を超えると予測している。



2012年はITサービスが4年ぶりにプラス成長

 また、ITサービスやソフト市場についても2012年はプラス成長に転じるとしている。とくにITサービス部門のプラス成長は4年ぶりとなる見込みで、震災などを背景としたBCP/DR(事業継続計画/災害復旧)関連の投資が拡大するものと見られている。

ICTの国内市場規模は23~24兆円

 このほか、国内通信サービス市場(固定と移動体)の予測も明らかにされた。音声サービスは引き続きマイナスが続くものの、データ通信サービスの拡大によって音声の下落を穴埋めし、2010年で市場の底を打ち、以降は緩やかながらプラスに転じるという。

 2011年の通信サービス市場は11兆250億円、前年比0.5%プラス、2012年は11兆1816億円の前年比1.4%プラスと予測されている。IT市場全体の市場規模は12~13兆円で、通信サービス市場とIT市場を合わせたICTの国内市場全体は23~24兆円と、国内においては非常に大きな市場となっている。



海外IT市場が拡大、日本市場の割合は縮小

 なお、海外のIT市場は、中国や新興国向けの投資が加速しており、2011年の世界の市場規模は1兆7190億米ドルで、日本はこの中の8%超を担っている。国内は今後も緩やかな成長曲線を描いていくと予測され、2015年までの平均成長率は0.3%となる。その一方、海外は平均6.8%と成長著しく、2015年の世界のIT市場規模は2兆2210億米ドルにまで拡大する見込み。日本のIT市場は2015年に1475億米ドルと、ワールドワイドに占める日本市場の割合は小さくなるとしている。

 IDC JapanのITスペンディング/ソフトウェア&セキュリティ部門のディレクターである和田英穂氏は、「国内は少子高齢化が進み、製造業や流通業も世界に市場を求めていく。それに伴ってIT市場も海外比率を高めていくことになるだろう。国内市場の成長率を上げるためには、政府が成長戦略とするいくつかの施策や、日本経済そのものの成長が必要。高い成長を遂げる海外市場を日本に取り込む一方で、国内経済の活発化によってITは今後も伸びていく」と話した。



 

(津田 啓夢)

2011/10/25 14:47