イー・アクセス決算、千本氏がソフトバンク孫氏に「遺憾」


エリック・ガン氏

 イー・モバイル(イー・アクセス)は、2012年3月期第2四半期まで(2011年4月1日~9月30日)の業績を発表した。

業績

 売上高は965億9200万円、営業利益は134億2100万円、経常利益は71億6200万円で、四半期純利益は70億7000万円となった。イー・アクセスは、2011年3月31日付けでイー・モバイルを吸収合併し、イー・モバイルはサービスブランド名称となった。このため連結子会社がなくなり、2012年3月期の決算から非連結の決算となっている。当期の財務諸表の上では前年同期比について記載されていない。

 比較のために公開したイー・アクセスの試算によると、2011年上期の業績は、売上高で966億円(前年同期比±0%)で、EBITDAが前年同期比6%増の321億円となり、このうちEBTDAマージンは33%となった。営業利益は前年同期比6%増の134億円、経常利益は72億円(前年同期比±0%)、合併効果によって純利益は前年同期比97%増の71億円となった。

 なお、上期の設備投資額は、前年同期比4%減の143億円で、純フリーキャッシュフローは前年同期比212%増の138億円となった。フリーキャッシュフローの改善により、上期は純有利子負債が1925億円と2000億円を割るまでになった。



解約率、ARPU

 解約率は第1四半期の1.5%から1.44%に改善し、ネットブックのバンドルによる解約がピークを過ぎたという。

 イー・モバイルが直接販売しているコンシューマー向け商品は、全体の契約の52%を占めている。一契約者あたりの1カ月の通信収入を示すARPUは3700円だが、プロモーション費用や販売奨励金などを含めた1人あたりの獲得費用は4万3000円で、回収までに11.6カ月かかることになる。その一方で、契約全体の48%を占める法人とMVNO向けのARPUは1700円と低く、獲得費用は6000円に抑えられる。回収期間も3.5カ月間と短期間で利益につながる。これら2つのARPUを平均すると、契約全体のARPUは2730円で、獲得費用は2万3000円、回収期間は8.4カ月間となる。

 このほか、イー・アクセスの代表取締役社長であるエリック・ガン氏は、2011年度におけるモバイルブロードバンドの人口普及率は6.4%であるとし、データ通信にはまだまだ市場性があるとした。下期以降、イー・モバイルの専門ショップを拡大し、ISPとの連携を強化、さらに下期はプロモーションを強化する方針という。



LTE

 イー・モバイルは、11月4日、2012年3月よりLTEサービスを展開することを発表し、11月1日から商用ネットワークによる試験運用をスタートさせたことを発表している。決算説明ではさらに、2013年3月期(2012年度)中にLTEの人口カバー率を70%に拡大するとした。

 さらにガン氏は、「早期に112Mbpsを実現していく」と話しており、モバイルデータ通信サービスの分野で引き続き他社をリードしていく方針を示した。イー・モバイルは、来年3月のサービス開始時に当初から、下り最大75Mbps、上り最大25MbpsでLTEサービスを展開するとしている。

LTEのエリア展開

 説明会終了後、囲み取材においてガン氏にLTEサービスの詳細を聞くと、まずサービス開始当初は1.7GHz帯とDC-HSPA方式に対応したデータ通信端末を投入する予定とした。その後、現在開発中のLTEに対応したスマートフォン(1.7GHz対応)を提供していく計画だ。

 イー・モバイルは現在、1.7GHz帯の15MHz幅×2の計30MHz幅を利用して通信サービスを展開している。下り最大42Mbpsの通信サービス「EMOBILE G4」は、DC-HSPA方式の通信サービスとなり、この15MHz幅×2のうち10MHz幅×2を使う必要がある。しかし、下り最大75MbpsのLTEサービスを実現するためには、10MHz幅×2が必要だ。

 このためイー・モバイルでは、DC-HSDPAを導入していないエリアから下り最大75MbpsのLTEサービスを広げていく方法をとる。都心部のエリアではすでにDC-HSDPAが展開されており、当初は5MHz幅でLTEを展開するので通信速度は最大でも下り37.5Mbpsとなる。ガン氏は、LTEとHSPAのサービスが同じ帯域で展開されることについて、「最初のうちは既存のユーザーにも影響があるかもしれない」と話していた。



900MHz帯獲得に向けて

 このほか、新たな携帯電話向け周波数帯となる900MHz帯の割り当てに向けて、積極的にアピールしていくとした。ガン氏は新規に携帯電話事業に参入した事業者にとって、周波数の割り当てが不均衡であると説明した。

 説明では名前こそアルファベット表記としたが、NTTドコモが800M/2G/1.5G/1.7GHz帯で合計140MHz幅を、KDDIが800M/2G/1.5GHzにUQコミュニケーションズの2.5GHz帯(WiMAX)を合わせて120MHz幅を、ソフトバンクが2G/1.5GHz帯に加えて、2.5GHz帯でA-XGP、さらに1.9GHz帯でPHSを合わせると104MHz幅を使っている現状が紹介された。

 こうした中で、イー・アクセスはプラチナバンドとなる700~900MHz帯も、IMTコアバンドである2GHz帯も持たず、1.7GHz帯の30MHz幅のみでサービス展開している。ガン氏は900MHz帯でLTEサービスを展開することがイー・モバイルにとって非常に重要であるとし、「もっとも周波数の割り当てが少ない事業者に優先して欲しい」と話した。

 なお、900MHz帯の割り当てについて総務省では、900MHz帯を利用する既存の帯域利用者に対して1200~2100億円の移行費用を負担すること、2018年末までの人口カバー率の大きさ、MVNO計画の充実度などを要件として示している。



千本氏、孫氏発言は「明らかな誤り」

千本倖生氏

 説明会の最後、イー・アクセスの代表取締役会長である千本倖生氏が、900MHz帯の獲得を争うソフトバンクにかみついた。千本氏の発言は、ソフトバンクの孫正義氏が決算説明会で話した内容に言及したもの。

 説明会の間、一度も発言することのなかった千本氏は、質疑応答が終了し、進行役が説明会の終わりを告げようとした瞬間、「ちょっと待って!」と場を止めて「900MHzについて我が社の態度を明確にしたい」と切り出した。

 「ソフトバンクの記者会見では、あたかもソフトバンクに割当先が決まったかのような発言があり、すでに工事に着手しているとされた。もし割り当てられなかった場合には国に対して損害賠償するとしている。それはまあいいとして、我が社にも言及されていて、イー・モバイルはデータ中心の会社だからいらないだろうと、全く余計な話だ。これは立場を明確にしたい」と話した。

 千本氏は続けて、「まず基地局工事について、900MHz帯の獲得が確実であるかのような認識である点について、おととい総務省の幹部に直接会ってソフトバンクに割り当てるようなことを言ったのか質問した。すると、そういう言質は一切なく全く白紙であり、割り当ての審査に対してソフトバンクの行為が何らアピールにはならないとの発言を受け取った。我々は全力で900MHz帯に立ち向かっていく」と述べる。

 損害賠償については、「これは国に対する脅しであり、とんでもない話」とコメント。さらに、「我が社について、データ中心なので必要ないというのは明らかな誤り。データ通信とスマートフォンに注力し、900MHz帯はスマートフォンに使っていくので全くの余計な話。iPhoneがつながらないからそこに使うというような反論をしたくなる。はなはだ遺憾である」と語った。

 



(津田 啓夢)

2011/11/4 22:21