グリーがDeNAに10.5億円の損害賠償請求、違法行為の継続を非難


グリーの田中氏

 グリーは11月21日、東京地方裁判所にDeNAを相手取って損害賠償訴訟を起こした。同日、同社の代表取締役社長である田中良和氏らが都内で会見を行った。

 損害賠償請求額は10億5000万円で、請求額が今後増額される可能性もあるという。今回の原告にはグリーのほかにKDDIも加わっており、賠償請求の内訳はグリーが9億円に対して、KDDIは1億5000万円。訴訟自体はグリーを中心としたもので、KDDIとしては訴訟に関する発表などは行っておらず、「au one GREEのサービスに関するものであり、(KDDIとしては)環境整備と損害回復を求めるのみ。プレス発表の予定はない」としている。会見では、KDDIの損害額は、「入る可能性があったキャリア手数料」とされた。

公取委の排除措置命令までの流れ

 2011年6月、公正取引委員会(公取委)は、DeNAに対して取引妨害行為および独占禁止法違反として排除措置命令を行った。排除措置命令は、違反行為を行ったと公取委が認めた事業者に対して、違反行為をなくすための必要な措置を執るよう命じるもの。

 公取委では、DeNAが有力なゲーム提供事業者に対し、競合となるSNS「GREE」にゲームを提供しないよう要請し、従わない場合にはDeNAのモバゲータウン(当時、現Mobage)上でリンクせず、新着ゲームを紹介しないという措置をとったと公表した。

 一般に、ポータルからリンクされず、新着ゲームとして紹介されない場合には、新規ユーザーがゲームにたどり着きにくくなるため、ゲーム提供会社はDeNAの要請に従わざるを得ない状況になる。排除命令を受けたDeNAは、「真摯に受け止め、あらためて全社を挙げてコンプライアンス体制の充実・強化と一層の意識向上に努める」とコメントし、公取委に異議申し立てすることなく、8月に排除命令が確定した。DeNAの取締役会では、排除命令に従って違反行為を行わない旨を決議し、決議したことは今回の原告であるグリー側にも通知されたという。

 なお、グリーやDeNAをはじめとしたSNS事業者は、昨年より相次いでSNSのゲームプラットフォームのAPIを公開し、プラットフォームのオープン化を図っている。これにより、ゲーム開発会社などのSAP(ソーシャルアプリケーションプロバイダー)は、自社のゲームタイトルをさまざまなSNSに提供できる環境が構築されていた。



訴訟の理由

 8月の排除命令確定以降、グリーでは、DeNAの違反行為への対応を検討。グリーとして法的措置を講じないことが、株主に対する経営陣の責任遂行という点で問題があるとして、今回の損害賠償請求訴訟に至ったとする。

 また、DeNAの違反行為がソーシャルゲームを提供するコンテンツプロバイダーやキャリア、ネット業界に対して大きなマイナスの影響を与えており、現在もその影響が続いているとする。グリーでは、公取委の排除措置命令以降もDeNAが継続して違反行為をしているとする。

DeNAの報復を恐れる企業の存在

 グリーの田中氏は、公取委の排除措置命令が確定しており、DeNAの違法行為が国の機関により認定されていることを説明し、訴訟を通じて損害を回復していくとした。同氏はまた「損害を受けた会社は我々だけではない」と話し、SAPやサーバー提供会社、広告販売会社、決済事業者など、複数が損害を受けているにも関わらず、それらの企業がDeNAの報復行為を恐れて提訴に至っていないとの見方を示した。

 さらに田中氏は、あるグループ会社の一部がDeNAの要請を受け入れなかった場合に、「DeNAはグループ全体と取引しないと言われたと聞いている」と話したほか、「一部のメディアには行為をやめると言っているが、いまだに続いている。DeNAという会社は違法と知りながら続けている。訴訟を通じて違法な商取引の是正を求める」と述べた。

 このほか、訴訟と併行して、SNS事業者同士で解決をはかる場を設けるか訪ねたところ、田中氏は「我々は被害者で、被害者の立場としてそれは違うと思う」とし、続けて「違法な行為が認定された時期に、主要なゲーム会社やネット会社のしかるべき方に考えを聞くと、業界を挙げて行為をやめるべきだと多くの方に言われた。しかし皆さん、DeNAさんの報復が怖いので言えませんと言う。『話を聞くわけないじゃないですか、話をするだけ無駄なので話しません』と断られる。それがあって今日の訴訟を迎えている。たぶん今話しても、ゲーム会社さんは(DeNAが)何をする会社かわからないのでお話することはできないと言う。日本を代表するSNS事業者と話しても、そういう状況。直接話すことでは解決しない。我々は(公取委から)認定されても、違法な行為が続いているのではないかと思っており、業界を代表する人に話してもダメ、公的機関を通じてもダメとなれば、さらに別の公的機関を通じて訴えたり、マスコミを通じて訴えていくことしかできない」と語気を強めた。

DeNAの見解

 なお、提訴を受けたDeNAでは、「訴状が届いていないためコメントはできない」としている。また、グリーの田中氏が、公取委の排除措置命令以降も是正されていないと話した件については、「訴状の内容と関係してくる可能性もあるため、現時点ではコメントを控える」としている。

 グリーでは訴訟を通じて情報を開示していく方針を示している。公取委の排除措置命令以降に違反行為が継続されていると訴えているグリーだが、命令後の事実関係についてはその中で自らで明らかにしていく必要がある。田中氏の発言の通り、報復行為を恐れる企業がいるとすれば、事実の裏付ける証言をするのか注目される。

【追記 2011/11/21 22時55分】
 グリーの報道を受けてDeNAは、「グリーとKDDIよりこれまでに請求や打診がないまま報道に至った。訴状が届いていないためその内容も確認できていない。DeNAが独占禁止法に違反する行為を行っているかのようなリリースがなされたが、そのような事実はない」とコメントを発表した。

 




(津田 啓夢)

2011/11/21 18:45