「周波数オークション懇談会」最終回、報告書まとまる


 携帯電話などのサービスに必要な電波帯域(周波数)の取得をオークション形式で行うかどうか、有識者や業界関係者による議論が行われてきた会合「周波数オークションに関する懇談会」の第15回会合が開催された。

 11月に示された報告書案への意見募集(パブリックコメント)の締切後の開催で、いくつかの修正を行った上で、報告書がとりまとめられた。今年3月から開催されてきた同懇談会は、今回で終了となる。

周波数オークションは4Gから、放送向け帯域は今後検討

松崎総務副大臣(右)と森田政務官(左)

 今回とりまとめられる報告書は、有識者による提言という位置付けで、細かな部分を含めた制度設計の検討は今後進められる。会合終盤に挨拶した松崎公昭 総務副大臣は「(行政刷新会議の)提言型政策仕分けが途中で入ったりしたが、透明性を確保しながら進めることが確認された。次期通常国会に法案が提出される予定だ」と述べ、来年に法整備を進める方針が示された。

 11月に示された報告書案では、2012年に国際的に標準化され、2015年後の実用化が見込まれる第4世代(4G)の移動通信システムの導入時に、4G向け周波数とされる3.4GHz帯~3.6GHz帯の割当(最大200MHz幅)で周波数オークションを実施し、そのための法整備を図るべき、とされている。パブリックコメントでの意見を踏まえ、いくつか修正は行われるものの、提言の大筋はそのままとなった。

 修正点の1つは、今後の進め方についてで、「制度整備後は、4G以外の周波数帯を含め、オークションに適した周波数帯については速やかに実施することが適当」という文章が追記された。これは、近日割当予定の700/900MHz帯での周波数オークションはあくまで行わず、4G導入前に適当な周波数があれば実施することが適当、と幅を持たせた表現にしたもの。また放送など、通信以外の帯域については、今後の通信・放送の融合の進み具合を踏まえて、対象に追加するかどうか、その可能性を検討することが望ましいと修正された。

700/900MHz帯について

 報告書のとりまとめの前に、11月下旬に行われた行政刷新会議の提言型政策仕分けで、3.9G用(700/900MHz帯)でも周波数オークションを導入すべき、との意見が挙がった。仕分けの結果を受けて、12月に入ると、川崎達夫総務大臣が衆議院総務委員会で、3.9Gでのオークション実施は行わない方針を示した。

 そして今回、周波数オークションの報告書案の修正点の1つに、700/900MHz帯について、「周波数再編などにより、新たな周波数の割当が可能となる場合、オークション適用可能性を検討することが望ましい」と追記が行われた。

 この点について構成員の1人で、“仕分け人”の1人でもあった鬼木 甫氏(大阪大学名誉教授)は、「個人的に、700/900MHz帯も周波数オークションの対象にすべきと考えているが報告書案は若干の修正で、玉虫色・中間的と見えるが、実質的に700/900MHz帯でオークションは実施しないと読み取れる。やらなければやらないときちっと否定してもらったほうがいい」と指摘した。

 これに対し、事務局(総務省側)は「今回の懇談会は当初から4Gでの議論を行ってきた。この文章は、今回の割当による有効期限を迎えた後など、将来的に700/900MHz帯でのオークションの可能性に触れたもの」と説明した。

 近日実施される700/900MHz帯の割当では、現在その周波数を使っている、携帯電話以外の事業者らへ引っ越し費用を支払う形となっている。その移行費用は電波を取得する携帯電話事業者が負担することになり、オークションのように他社と競い合うことになると見られるが、2100億円という上限が設けられている。

 仕分けでの提言、それを否定する総務大臣、という流れはありつつも、こうした900MHz帯の制度設計は、今年5月の電波法改正で整えられており構成員からは「国会で国民の意見が示された。周波数オークションの有識者会合はそれ以前に行われており、国会の決議は軽んじられない」(名古屋大学准教授の林 秀弥氏)、「経緯からすれば、700/900MHz帯は先に議論され、その成果を周波数オークションに活かすのは正しい。後から議論しているため玉虫色は仕方ないが、将来の可能性が残せたと解釈している」と、700/900MHz帯での周波数オークションを行わない方針に賛成する意見も挙がった。

政府の財源か、通信産業の振興に用いるべきか

 懇談会も今回で終了ということで、各構成員からこれまでを振り返り、今後注意すべき点として、周波数オークションによる収入の位置付け、透明性の確保などが指摘された。

 大谷和子氏(日本総合研究所法務部長)は、「海外の事例などから避けるべきオークションがどういったものか、共通認識ができたのではないか。海外の例では必ずしもユーザー視点に立っていない制度、政府の財源として見る向きが多かったのではないか」と指摘。ただし、周波数オークションには透明性という「他の制度では代替できない」(大谷氏)メリットがあるとして、今後の情報開示が熱心に行われることを求めた。

 野村総合研究所未来創発センター長の山田 澤明氏は、「当時の平岡副大臣から財政目的ではない、という話があってスタートし、(周波数オークションの収入は)ICTの振興を目的としたものと思っている。しかし提言型政策仕分けでは、財政的な位置付け(財源)に感じられる。財政も重要だが、急がば回れという言葉もあるように、ICTの振興は他の分野にも繋がる」と指摘した。また同氏は「ヒアリングすると、新規参入事業者もお金がかかって嫌だ、とオークションをやりたがる人がいない。これは今もひっかかっているが、ぶれないよう実施して欲しい」も述べていた。

 鬼木氏は、過去の会合で既に免許を持っている事業者に対し、利用中の帯域の費用を求めたものの、「過去に遡って徴収するものと誤解された」として、あらためて説明。今後、オークションが導入され、電波に代金を支払うことを当然と見なす時代となった場合、「(無料で割り当てられた既存事業者へ)タダでもらって、タダで使うつもりか、と圧力が出てくるのではないか」(鬼木氏)と説明。無線産業はさらなる成長が見込める状況で、産業の発展に伴い、電波の価値の高騰が予想されるため、いずれ既存の電波も代金を支払うべきと圧力が高まるのであれば、「払うものは払って、国民の財産に支払っているという立場になればいいのではないか」と語り、早い時期に支払ったほうが安上がりになる、との考えとした。なお、鬼木氏は、本会合を振り返る際、構成員と仕分け人の双方の立場となったことについて「自分でも矛盾した立場かと思ったが、行政刷新会議と、懇談会の座長・事務局に確認し、個人的な意見を述べるということであれば問題ないと確認した」と語っていた。

 A.T.カーニー プリンシパルの吉川 尚宏氏は、「通信は成長産業で、財源よりも産業成長目的のほうがいいのではと思っている。3.9Gの割当では、引っ越し費用というやり方が出てきた。これも民間同士でお金をやり取りするケースと、国を中継するケースが考えられる。民間同士では行政コストが下がる一方、透明性が課題。国経由では行政コストがかかる」と述べ、周波数オークションの制度設計でも、既存利用者の引っ越し費用の扱いを検討すべきとした。

 座長を務めた三友仁志氏(早稲田大学教授)は、「大きな制度変更で、利害をいかに調整するか難しい問題だが、1つの方向性が示されたことは大きな成果。座長をしながら、この先の制度設計では複雑な要件が絡まない部分から導入するほうがいいのではないかと考えた。これは韓国の事例を踏まえてのことで、要件が複雑になりオークションがうまくいかない、ということになってもいけない。4Gからの導入というのはこれでいいだろうと思っている」と評価した。

 森田高政務官は、「140年間あまりの通信行政のなかで、歴史に残る成果。政治状況などが不透明で、来年の今頃を展望できるものではないが、一刻も早くやるのは政府の責務で、その気持ちに間違いない」と政治家側も周波数オークション導入に向けて努力するとした。




(関口 聖)

2011/12/19 13:35