auが通知バーでの宣伝自粛、スマホ時代の情報配信の形


au one Market

 auのスマートフォンの通知バーに広告が表示される――1月中旬、ブログやネットコミュニティを中心にそんな話題が熱を帯び始めた。ユーザーの投稿を確認する限り、情報や憶測が錯綜しつつある状況のようだ。本誌では、KDDIの担当者らに確認するとともに、事の顛末を整理していく。

“炎上”までの経緯

 KDDIでは、Androidアプリを配信するプラットフォームとして「au one Market」を展開している。この「au one Market」のAndroidアプリでは、auが提供する各種サービスのアプリやおすすめアプリが配信され、有料アプリの場合はフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)のコンテンツ購入と同様、毎月のauの利用料とともに支払いが可能だ。ちなみに、「au one Market」のアプリは、auのスマートフォンにプリセットされている。

 1月6日より、「au one Market」アプリの最新バージョンが提供された。バージョンアップの際には、有益な広告配信を行うため待受画面上部の通知枠、つまり通知バーやステータスバーなどと呼ばれる部分に情報が出る旨、許諾を求める案内が表示された。タッチ操作が必要なものの初期状態で許諾している設定となっており、必要ない場合に拒否するというものだった。

 1月15日、「au one Market」アプリをバージョンアップし、情報配信を許諾した利用者に対して、auサービスへの利用を促す通知がなされた。これに一部のユーザーが反応し、通知バーへの広告配信への是非を問う声や、ターゲティング広告への懸念など含め、ネットのコミュニティではネガティブなコメントが踊るようになる。いわゆる「炎上」と呼ばれる状態だ。

 情報配信は23日までに計4回行われた。ネット上でのユーザーの反応を受けて、事態を重く見たKDDIでは、それまで「au one Market」の下部にあった広告配信に関する案内を上部に掲載し、利用者への周知を図るとともに今後、販促的な意味合いのある情報を通知バーに掲載しないことを決めた。広告枠ではないため、これまでも広告情報は提供していない。

 なお、アプリのバージョンアップ時、広告配信に関する案内では、通知バーへの情報配信と、ターゲティング広告について掲載された。通知バーに関しては15日より広告配信を実施すること、ターゲティング広告に関する案内は、行動ターゲティングと属性ターゲティングの2種類が案内された。

有益な情報を配信しようとした

写真手前から村上氏、鴨志田氏、鰐部氏

 KDDIの新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部長の鴨志田博礼氏は、通知バーへの情報配信の意図について、「我々としては、通知バーを使ってユーザーに対して有益な情報を配信しようという試みから、アプリのバージョンアップを実施した」と語る。

 しかし、通知バーでauサービスの案内を行ったところ、ネットでこうした情報配信に対して、適切な使い方ではないといった指摘を受けることになった。鴨志田氏は「当初、ユーザーに利便性のあるサービスをお知らせするのは有益なのではないか、ユーザーに有益なサービスを知ってもらえるのではないかと考えた」と語り、「今回の配信の仕方が利用者に対して適切だったのか、さまざまなご指摘を受け止め、今後、販促的な要素の強い情報の配信を行わないようにしようと決めた」と話した。

 配信されていた情報は、広告情報というよりもKDDIの提供するサービスの販促情報といった方が適切だろう。ユーザー側から見ればどちらも宣伝であることに違いはないが、実際、au oneなどの広告商材を展開するインターネット広告の一次代理店mediba(メディーバ)がこの通知枠を広告販売したことはない。配信の是非はともかくとして、この通知バーへの情報配信は、通常のau oneのポータルなどで販促情報を掲載するよりも反応は良かったという(新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部 課長 鰐部直生氏)。

 KDDIでは、バージョンアップの通知といった販促情報ではない情報については、引き続き通知バーなどで案内を行っていく方針だ。前述の通り、広告枠としてはこれまでもこれからも提供される予定はないという。

通知バーへの情報配信は初めてではない

 最近のコンテンツサービスでは、まずサービスを提供し、トライ&エラーを繰り返していきながらサービスの質を高めていく手法が取られる場合もある。

 今回の通知バーへの情報配信について、新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部 担当課長の村上文彦氏は、これを明確に否定し、「トライして反応を見ようという意図はなく、今後広告として解放していくつもりもなかった」と話す。

 KDDIとしては、通知バーへの情報配信は初めてではなかった。「au oneショッピングモール」のアプリでは、ポイントが倍増する販促時期などに案内を出したが、今回のようなユーザーの大きな反応は見られなかったという。

ターゲティング広告はガイドライン後

 今回のバージョンアップでは、通知バーへの販促情報の配信とともに、ターゲティング広告に関する許諾もユーザーに求められていた。一部のブログやネットコミュニティでのユーザーの投稿などでは、通知バーに配信された情報がターゲティング広告であるとするコメントも見られた。

 しかし、KDDIではこれを否定している。属性ターゲット情報は性別や年齢、居住地の情報を使った広告の許諾を求めたもので、行動ターゲット情報は有料アプリの購入状況を広告に反映させる許諾を求めたものだが、スマートフォンではいずれも提供はされていないという。

 「ターゲティング広告については、日本スマートフォンセキュリティフォーラム(JSSEC)において、ガイドラインを策定しているところ。ガイドラインを踏まえた上で展開するつもりだった」と鴨志田氏は話す。



指摘を受け止め、最適な情報配信を模索

 フィーチャーフォンには「au one(EZweb)」という強力な導線があり、広告での収益を見込みやすい。反面、スマートフォンはオープンな環境が1つのウリになっており、KDDIも新たなキャッチコピーにする「自由」の占める割合が大きい。KDDIでは、アドネットワークなどを利用してスマートフォンでの広告面での収益を上げていきたい考えで、鴨志田氏は「きちんと広告とわかるような配慮をする」と話した。

 またスマートフォンでは、ユーザーがよりインターネットに密に接する機会が増える。こうした中で、携帯電話会社は顧客の契約情報を持つため、ターゲットに合わせた広告も打ちやすい。広告自体が悪であるかのような短絡的なとらえ方もある一方で、利用者からコンセンサスを得やすく、違和感の少ない利便性の高い情報としての広告配信にも期待されるところではある。KDDIのプライバシーポリシーでは、ユーザーの同意が得られたサービスやアプリについては、契約情報を広告などに反映できるとされている。

 KDDIでは、アプリやサービスをパッケージ化して提供する月額制のコンテンツサービス「auスマートパス」を発表しており、今後同社のコンテンツサービスの軸足は、「au one Market」から「auスマートパス」に移していく方針だ。「au one Market」では、徐々に「auスマートパス」への移行を促し、売り切り型のアプリなどの配信はAndroidマーケットに任せていくという。

 鴨志田氏は「今回の指摘を真摯に受け止めて、どういう形で最適な情報を届けるのがよいか継続的に考えていきたい」と話した。

 




(津田 啓夢)

2012/1/31 17:00