KDDIと技評のアプリコンテスト、グランプリは「ARレントゲン」


受賞者と審査員ら
ARレントゲン

 KDDIと技術評論社は、ARアプリの開発者コンテスト「第1回 察知人間コンテスト」を開催し、25日、最終選考を経てグランプリが決定した。

 「第1回 察知人間コンテスト」は、モバイル向けARアプリ開発環境「SATCH SDK
」を利用したコンテンツを募集するアプリ開発コンテスト。KDDIでは、ARアプリの拡充を目指し、昨年12月に「SATCH」ブランドを立ち上げ、同時に、仏Total Immersionの画像認識エンジン「D'fusion」を用いたARアプリ開発環境「SATCH SDK」を発表している。

 今回のコンテストは、このSDKを用いた最初のイベントとなる。25日、東京・原宿のKDDIデザイニングスタジオにおいて、コンテストの最終選考と表彰式が行われた。コンテストの前半は、最終選考に残った4組の開発者によるプレゼンテーションが行われた。

プレゼンテーション

 ICD-クリエイティブチームによる「とびでる★ぬりえ」は、紙で楽しんだ塗り絵をスマートフォンのカメラに写すと、塗り絵の中のキャラクターが切り抜かれて動きだし、さらに食べ物を食べたりするというもの。デモストレーションでは、塗り絵から飛び出してきた象が歩き出し、別のマーカー上のリンゴを食べて「パオーン」と鳴いていた。


塗り絵のキャラが動き出す「とびでる★ぬりえ」。25日よりGoogle Playでアプリの配信が開始されたという

 5starsが企画開発した同名アプリ「5stars」は、書店などの本にアプリをかざすと、Amazon.co.jpの書籍の評価(★数)が表示されるというもの。SATCH SDKはマルチトラッキングをサポートしており、アプリ企画当初は背表紙での認識を目指したという。しかし現状ではうまくいかず、書籍やCDの表紙を認識させることで、Amazon.co.jpの評価が表示される。タッチすると該当する書籍のAmazonレビューが表示される。


書店でAmazonレビューがチェックできる「5stars」。KDDI研究所では、Amazon.co.jpのような大きなデータベースとの連携について検討しているという

 雑魚雑魚による「顔'NS」(ガンズアンドソーシャル)は、SATCHの顔認識機能を利用したもので、顔を動かした方向で楽器を擬似的に演奏し、演奏データをクラウド上に記録し、ソーシャルバンドとして仲間と遊んでみようというもの。名称からアプリを発想したという雑魚雑魚の2人は、星条旗を掲げながらGuns N' Roses(GN'R)の楽曲をラジカセで鳴らしながらステージに登場、会場を盛り上げた。アプリで顔を認識すると、GN'Rのメンバーのカツラが装着される。顔を上下左右に動かすとリフや印象的なフレーズが演奏される、というわけだ。


「顔'NS」は顔認識を使ったAR拡張。登場からプレゼンテーション中も含め、もっとも会場を笑わせた

 ARレントゲン制作チームによるアプリ「ARレントゲン」は、会場からもっとも大きな反応で受け止められたアプリだった。スマートフォンのカメラでマーカーを写すと画面上に3D描画の動物や飛行機、建物などのオブジェクトが表示される。そこへ、別のマーカーを写すと、画面上ではルーペのように表示され、ルーペの部分に映し出された部分だけ、3Dオブジェクトの内部の構造が表示される。

 動物の場合は、ルーペに骨格模型が表示され、飛行機は骨組みが、昆虫は循環器が表示される。さらにこれらは動画対応しており、動いている3Dオブジェクトをルーペで写すと、骨格模型も動いて表示される。風車のオブジェクトにいたっては、ルーペの方向によって風向きをコントロールし、風車が回転方向が変更できる。ルーペで内部の構造を表示させると、風車の中を歩く人まで現れるという非常に凝ったアプリとなっていた。


会場から終始「おお~」と感嘆の声があがった「ARレントゲン」。走る馬にルーペをかざすと馬の骨格が走る
はばたくフクロウもルーペをかざしたところだけ骨格になる
こちらはクモ。循環器系が表示される。こだわったのはクモの毛の質感という
審査委員長の川田氏の顔を認識して女性の顔画像をかぶせ、そこにルーペをかざすと骨格が表示される。川田氏は「なんだか恥ずかしい」と語っていた2次審査の際に審査員が気軽に口にした要望を形して最終選考に挑んだ点も評価されていた

グランプリ決定

 最終選考を経て、グランプリを獲得したのは、審査員や来場者がもっとも敏感に反応していた「ARレントゲン」だった。グランプリの100万円の賞金のほか、開発者サイトなどを通じてKDDIが積極的に支援していくという。準グランプリは「とびでる★ぬりえ」、「5star」と「顔'NS」は特別賞だった。

 コンテストでは、審査委員長として“AR三兄弟”の川田十夢氏が、審査委員としてKDDIの小林亜令氏、ワンパクの阿部淳也氏、アドビ システムズの太田禎一氏、バスキュール号の西村真里子氏、面白法人カヤックの野崎錬太郎氏、ミクシィの鈴木理恵子氏、技術評論社の馮富久氏らが審査を行った。

 グランプリの「ARレントゲン」について、審査委員からは「クリエイティブに関する追求がハンパじゃない」「1つ目のマーカーは足し算、2つ目のマーカーは引き算で現実を拡張している。コンセプトがすばらしい。今のスマートフォンでもここまでできる」などと絶賛された。

 KDDIの新規事業統括本部で新規ビジネス推進本部長の雨宮俊武氏は、プレゼンテーションについて「本当に見ていて楽しかった。Ustreamでもトータル3000人以上が見ていた」などと語った。さらに、「KDDIではARをしっかり推進していく。もっともっと楽しければいいと思っている。たぶん第2回のコンテストも近々案内できるのではないか。一緒にARを盛り上げていければと思う」などと今後の抱負を口にしていた。


審査委員長の川田氏審査委員の面々

KDDIがARコンテンツ拡充、SDKはプライバシーリスク軽減で改修

 このほかコンテストでは、新規ビジネス推進本部オープンプラットフォームビジネス部の伊藤盛氏より、SATCHの今後や開発環境関連の説明がなされた。昨年12月のSDK公開以降、KDDIの予想を1.4倍上回る開発者が登録しており状況という。

 KDDIは8月下旬にも汎用ARブラウザ「SATCH VIEWER」の本格版を提供する予定。ARコンテンツの拡充を図っていく。Webクリエイター向けのLite版オーサリングツールなども提供していく計画だ。

 さらに伊藤氏は、SATCH SDKの取り扱う情報について、ユーザーから強い批判があった述べ、Wi-Fi MACアドレスのハッシュ値の取得を停止することを決めたと話した。KDDIではハッシュ値を使って利用者状況を得ようとしたが、プライバシーに問題があるとして開発者の不満が募ったとし、これをプライバシーリスクの少ないUUIDの取得に変更するとした。改修されたSDKは夏頃までには提供される予定という。


KDDI雨宮氏KDDI伊藤氏


 




(津田 啓夢)

2012/5/25 22:47