シャープ、複数書店の電子書籍を一括で扱えるソリューション


 シャープは、電子書店事業者向けに、電子書籍配信ソリューション「book-in-the-box(ブック イン ザ ボックス)」を7月より提供する。同ソリューションを採用する書店の電子書籍を1つのアプリで楽しめるようになる。エンドユーザー向けのアプリは、7月4日よりAndroid向けに無料で提供される。

 「book-in-the-box」は、電子書籍を取り扱う電子書店事業者向けのソリューション。.book形式やXMDF形式、EPUB形式(Open Manga Format)といった電子書籍の形式に対応したビューワーアプリと、シャープ提供のDRM(著作権保護機能)が主な機能となる。これにより、電子書店事業者、あるいは電子書店事業へ参入する事業者にとっては、独自でビューワーアプリの開発、DRMの導入が必要なくなり、書籍を紹介するサイトと決済機能を用意するだけで、スマートフォン向け電子書籍サービスを展開できるようになる。一般のユーザーにとっては、利用しても、「book-in-the-box」を導入している複数の電子書店を利用すると、電子書籍コンテンツを「book-in-the-box」のビューワーアプリ1つにまとめて管理、閲覧できるようになる。

電子書籍情報からファイル形式を確認横長にして見開きで見ることもできる

 ビューワーアプリは、シャープの「GALAPAGOS」のアプリの操作性、機能を踏襲したもの。最大3台まで同時に利用でき、機種変更時には、旧機種の利用登録を削除し、機種変更後の機種で新たに登録する。コミック、文芸書、雑誌などのコンテンツを本棚のように一覧でき、ユーザーはどのコンテンツがXMDFか、EPUBか、気にせず利用できる。コンテンツからは購入した書店へアクセスできるショートカットが用意される。アプリはあくまでビューワーで、電子書店はWebサイトとして提供されることになる。ある書店でコミックの1巻~3巻まで購入し、続きを別の書店サイトで購入しても、そのまま利用できる。なお購入した電子書籍を、購入後、再びダウンロードできるかどうかは、出版社によって条件が異なるとのことで、一概には言えないという。

書籍のフォントサイズを変更することもサイズを大きくしたところ

 「book-in-the-box」には、電子書籍の取次業務を行うモバイルブック・ジェーピー、.bookビューワー機能を開発するインフォシティが協力する。また7月上旬に白泉社の「白泉社e-コミックス」がオープンする予定。その後は、7月下旬にはもう1社が「book-in-the-box」対応の電子書店をオープン。8月~9月にかけて計4店も続き、年内には計10書店が揃う見込み。この中には、紀伊國屋書店のような大手書店は現在含まれていないとのことだが、シャープではそうした事業者とも今後協議を進める。また「book-in-the-box」には、集英社、出版デジタル機構、小学館、新潮社、ボイジャーが賛同している。

 7月4日より提供されるビューワーアプリは、Android 2.2以上の端末で利用でき、今後iOS、Windows Phoneなど他のプラットフォームにも対応していく。当初から「GALAPAGOS STORE」で購入したコンテンツが利用できるようになる。

モバイルブック・ジェーピー、インフォシティが協力book-in-the-boxはGALAPAGOSアプリをベースにしたもの
複数書店に対応書店への導線を複数設ける
マルチフォーマットも特徴

スマホになって“分裂した”電子書籍アプリ

シャープの辰巳氏
フィーチャーフォン向けが大半を占めるという電子書籍

 29日に開催された報道関係者向け説明会では、シャープ通信システム事業本部 ネットワークサービス事業推進センター所長の辰巳剛司氏から「book-in-the-box」を提供する意義、そして多くの事業者の参入を期待することが語られた。

 シャープにとっては、今回のソリューションを提供することで、導入企業からシステム利用料を得て収益化する形となる。「book-in-the-box」が果たす役割を理解する前提として、辰巳氏は、スマートフォン向けの電子書籍の現状を紹介する。

 同氏は調査機関のデータとして、「2011年度の国内の電子書籍市場は数百億円規模ながら、その大半はフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)向けで、数百の書店が存在する」と解説する。このうちシャープ開発の電子書籍規格であるXMDF形式を採用する電子書店だけでも約250店、対応コンテンツは約10万点になる。一方、国内の携帯電話はフィーチャーフォンからスマートフォンへ急速に移行。これまでのフィーチャーフォン向け電子書籍は各書店で共通するビューワーアプリで利用できたところ、スマートフォン向け電子書籍は書店ごとにアプリが用意される形になっている、と同氏は指摘。スマートフォンで閲覧環境がバラバラになってしまった電子書籍アプリに対して、「book-in-the-box」を導入すれば1つにまとめられ、エンドユーザーにとっては使いやすくなり、書店事業者にとってはDRMやビューワーに労力を取られないというメリットが生まれる。

 「スマートフォンになって独自にアプリ、DRMを導入することは、大手事業者はともかく中小規模の事業者にとっては、参入障壁になっている」と辰巳氏は語る。同氏によれば、ある書店事業者へ「book-in-the-box」の導入について話をしたところ、「1カ月~2カ月で書店サイトを開始できる」との感想を得たとのことで、既にフィーチャーフォン向けに電子書店を展開してきた事業者にとっては、「一番(スマートフォンへの対応が)早いと思う」との見方も示され、当面はフィーチャーフォン向け電子書店のスマートフォン対応において「book-in-the-box」の導入が期待されると見られる。

 シャープでは今後、参入企業の拡大を図り、活動していく方針。

書店ごとにアプリが必要なスマートフォン書店にとってもアプリ開発などが参入障壁に

(関口 聖)

2012/6/29 16:27