起業支援プログラム「KDDI ∞ Labo」の第2期終了、次は学生枠も


KDDIの田中氏とConnehitoの大湯氏
第2期参加チームの面々

 KDDIは、スタートアップ企業やエンジニアを対象としたプログラム「KDDI ∞ Labo」(KDDIムゲンラボ)の第3期を9月より開始する。これにあわせ、7月9日より第3期参加チームの募集を開始する。今回より学生を対象とした枠を設けて、学生支援にも取り組んで行く。

 7月9日、「KDDI ∞ Labo」の第2期プログラムの3カ月に渡るプログラムが終了し、4チームのプレゼンテーションが終了、最優秀チームにConnehitoが選ばれた。KDDIでは、プログラムに参加した4チームとKDDI社内選考チーム2チームのアプリをスマートフォン向けポータルサービス「auスマートパス」内で8月1日より提供する。

各チームのコンテンツ

 Connehitoは、クリエイター向けのオンラインギャラリーサービス「Creatty」(クリエッティ)を開発した。アート作品やハンドクラフトなどのクリエイター向けのオンライン作品集をスマートフォンやパソコンから60秒で作成できるというもの。iPhoneアプリ版とパソコン版が提供されており、8月にAndroid版が登場する。

 簡単・きれい・便利をキーワードに、マルチプラットフォーム対応のポートフォリオやギャラリーといったものが持てる。また、アプリの利用者はシャッフル機能でランダムにクリエイターの作品画像が閲覧でき、ストアで実際に作品を購入できるようになる。KDDIデザイニングスタジオで展覧会が開催されたほか、海外でも展示を計画しているという。

 今回のプログラムでConnehitoは、最優秀チームに選ばれたほか、スマートデバイス賞にも輝いた。KDDIではCreattyについて、「いち早くマルチデバイス、マルチOSに対応するほど開発力が高く、経営者の積極的な経営姿勢も決め手になった」としている。ConnehitoのCEOである大湯俊介氏は24歳、また社内の多くのスタッフが20代前半という。



 このほか、ソーシャルアプリマッチサービス「Pickie」(ピッキー)を手がけるエウレカは開発力を評価されてベストエンジニア賞に、リアルタイムで授業や講義のノートを共有するサービス「U-NOTE」(ユーノート)を開発する学生ベンチャーU-NOTEはクリエイティブ賞に、Web上に自分だけのコレクションを作成できる「スキコレ!」を作った22はCoolデザイン賞に輝いた。



第3期の募集開始

「KDDI ∞ Labo」新ラボ長の増田氏

 「KDDI ∞ Labo」第2期プログラム終了に伴い、KDDIは7月9日~8月10日にかけて、第3期のプログラム参加チームを募集する。これまで同様に世界で通用する革新的なネットサービスや各種プロダクト、技術、アプリを広く求める。既に公表されているサービスでも参加可能。プログラム参加費用は無料、開発費用は各チームの自己負担。

 プログラム期間は9月上旬~12月上旬までの3カ月間で、この期間中にβ版を提供できる技術力が必要となる。個人・法人は問われないが、法人の場合は従業員10名以下で、設立3年未満の法人企業に限られる。

 KDDIのコンテンツチームが拠点をそれまでの六本木から渋谷のヒカリエに移すため、プログラム参加者の集まる場所も第3期からヒカリエになる。参加者はサービスの事業化や経営のアドバイス、開発スペース、auスマートフォン、サーバーサービスなどが貸与される。従来のスペースよりも広さが2倍となり、個室もこれまでの1部屋から3部屋に拡充される。

 なお、第3期からはマルチデバイス対応のサービスが歓迎され、スマートフォンやパソコンのほか、タブレットやセットトップボックスも対象となる。また、第3期より新たに学生枠(大学・短大生、専門学校生など)も新設され、1~2チーム程度が学生枠となる見込み。



「KDDI ∞ Labo」は金儲けか?

 「グローバルで通用するインターネットサービスを作り出していこう。日本は最近いまいちだと言われるが、頑張るエンジニアの力になりたい」――KDDIの代表取締役社長の田中孝司氏は冒頭そう語り、「KDDI ∞ Labo」への思いを口にした。

 「通信キャリアのKDDIが何のためにこんなことをやるのか? お金儲けか? とよく聞かれるが全くそんなことはない。……“全く”というと嘘にはなるが、今日、人間ドックに行ってきたが腹の中に黒いところはなくピンク色だった(笑)。私が登壇した若い方たちの年代だったころ、スタンフォード大学に留学し、日夜プログラムを作っていた。2011年にFacebookに行った帰りに当時の学生寮に立ち寄った。そして、あの頃考えていたこと、やりたかった思い、勇気がなくてできなかったこと、今、社長になって少しは自由になる金がある。そういう思いで始めた」。

 田中氏は時折冗談を交えながら、「KDDI ∞ Labo」について語った。KDDIでは、「KDDI ∞ Labo」を含め、ベンチャー企業支援の枠組みとして、50億円規模の初のベンチャーファンド「KDDI Open Innovation Fund」を立ち上げている。この取り組み自体は「KDDI ∞ Labo」に限ったものではないが、第1期プログラムに参加したギフティと「ソーシャルランチ」のシンクランチへ出資している。

「KDDI ∞ Labo」のビジネス効果は「何もない」

 田中氏のこうした考えは、報道関係者向けの質疑応答の席でも語られた。同氏はKDDIのビジネスとして「KDDI ∞ Labo」の効果を問われると、「限りなくまだ何もない」と言い切る。「期間内にうまくできずに倒れるところが出てくると思っていたが、みんな本当によく頑張っており、開発能力も高い。もっと荒削りな人が出てきてもいいと思っている。ビジネスを迅速に立ち上げようとすれば、どうしてもビジネスモデル中心にできてしまうが、それでは僕自身あまり面白くない。ビジネスには寄与していないのも事実だが、時間はかかるけど続けていけるといいな、というのが本音」と話した。

 携帯電話事業者がベンチャー投資を行うことはあれど、スタートアップ企業向けの起業プログラムを主催しているのは国内ではKDDIだけだろう。出資だけでなく、同社スマートフォン向けポータル「auスマートパス」への展開や、3000万ユーザーを抱えるauプラットフォームを使ったプロモーションなど、起業プログラムの規模としても非常に大きなものとなっている。田中氏は他キャリアのベンチャー支援との違いについて、「きっと信じないと思うが、このプログラムに関しては他社は関係ないと思っている。支援したところが大きくなったら、ほら、僕たちいいことやってるよね、と言えれば。(人間ドックの話にかけて)腹の中はきれいです(笑)」などと語った。



Firefox OS版「GALAXY SII WiMAX」披露

KDDI高橋氏とNHN Japanの森川氏

 田中氏は講演の最後、「GALAXY SII WiMAX ISW11SC」を取り出して、HTML5ベースのWebOS「Firefox OS」で動作していることを紹介した。田中氏は、「目先の起業のことだけでなく、テクノロジーを追いかけて支援していきたい」などとした。

 このほか、第3期プログラムより「KDDI ∞ Labo」のラボ長を務めるKDDIの増田和彦氏(新規事業統括本部新規ビジネス推進本部副本部長)は、第2期プログラム参加チームへの出資の可能性について、「やらないわけではなく、まだ決まっていない。検討中」とした。第3期では「タブレットやセットトップボックスへのアイデアも募集したい。第2期のU-NOTEの活動から見えてくることもあり、新しい発想を感じた」などと話し、学生枠について言及した。

 「KDDI ∞ Labo」の今回のイベントでは、KDDIの代表取締役執行役員専務で新規事業統括本部長の高橋誠氏と、「LINE」がブレイク中のNHN Japan代表取締役社長の森川亮氏が、「auスマートパス×LINE 大ヒットサービスの裏側」として対談する企画なども行われた。


 




(津田 啓夢)

2012/7/9 21:19